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サンショウウオ―ヘビになりそこねたカエル? (むしたちの日曜日3)  2010-02-10

●プチ生物研究家、ときどき児童文学者 谷本雄治  

 
 ハタケドジョウ、ウナウ――。
 のっけから、「なんじゃこりゃ?」と思った人は、きわめてフツーの人である。これはどちらも、サンショウウオの俗称だ。
研究用に採集したトウキョウサンショウウオの成体

 そういうと、「ああ、あれね。しゃもじの化け物みたいで、からだ全体にイボイボがある、けったいなやつ」と応じる人がいる。オオサンショウウオはたしかにサンショウウオの代表格だが、ここで紹介したいのはもっと小さな、体長十数センチの小型サンショウウオである。
 
 国内で生息が確認されているのは約20種。関東地方ではトウキョウサンショウウオが一般的だろう。
 冬のさなか、水がたまった田んぼ付近の雑木林から、産卵のためにごそごそと這いだしてくる。ふつうは2月に入ってからだが、温暖化のせいか、1月に姿を現す年も多くなった。
 ヒキガエルのにぎやかな集団産卵シーンは「かわず合戦」として親しまれているが、サンショウウオは鳴き騒いだりしない。夜のしじまの中、おそろしく冷たい水の中で、おごそかに子孫繁栄の営みをいたすのである。
 
 多いところでは数十匹が抱き合い、絡み合って、気がつくと卵の塊を産んでいる。バナナのような、という人がいれば、クロワッサンにたとえる人もいる、寒天質の「卵のう」だ。
 
研究用に採集したトウキョウサンショウウオの卵のう 
 しばらくすると、そのいのちの袋から、幼生が誕生する。
 これが、実にかわいい。ちょっと見たところカエルの幼生、つまりオタマジャクシにそっくりだが、よくよく見るとどこかがちがう。尾がほっそりしているような、泳ぎ方に差があるような……。
 疑問が解けるのは、それから数日後だ。
 学校でも習うことだが、オタマジャクシの場合には後あしが出てから前あしが出る。しかし、サンショウウオはその逆で、前あしが先だ。
 
 トウキョウサンショウウオを何度か育てた。何気なしにすくったオタマジャクシの群れの中にまじっていたときには、「うひうひ、いい拾い物をした」とほくそ笑んだものである。カエルをばかにするつもりはないが、同じ両生類でもサンショウウオの方が、格が上のように思えてならない。
 たとえてみれば、サンショウウオはヘビになりそこねたカエルだ。成体、つまり親の顔を正面から見ると、なるほどカエルの仲間だわいと思わせる。ところが飼ってみると、見かけとちがって、どう猛な一面をのぞかせる。共食いが激しいのである。
 
トウキョウサンショウウオの幼体
 かなりの頻度で、自分の近くにいるきょうだいをパクッとやってしまう。あれで口がきけたら、「あらら、ごめんね」と謝るかもしれないが、実際にはそんな言葉を発する余裕もなく、むぐぐうぐうぐうんぐ……と呑み込んでしまう。
 
 あるとき、わが家の子どもが叫んだ。「大きなベロが口から出てる!」。慌てて水槽をのぞくと、なんてことはない、まさに共食いの真っ最中。巨大な舌と間違えられたのは、大半が腹におさまった同胞のしっぽであった。
 あしの指をかじりとられる事故も、しょっちゅう起きた。
 すごいと思うのはそんなときだ。数日すると、失くしたはずの指先が再生するのである。
 
 オオサンショウウオは、からだを半分に裂かれても死なないほど生命力が強いというので、「ハンザキ」という別名をもらった。小型サンショウウオにそこまでの力があるのか疑問だが、ちょっとした欠損なら、何事もなかったように元通りになる。それを見るだけでも飼う価値はある。
 
トウキョウサンショウウオの幼体
 ところで、冒頭のあだ名の由来だが、水中の生き物だと思われがちなサンショウウオが、畑に積もった落ち葉の間から姿を見せたり、畝をつくる際に出くわしたりすることから付けられたものだという。
 さもありなん。幼生から幼体、成体と育ったあとは、湿り気のある水辺周辺の、落ち葉の下などに潜むからである。その容姿は、あしの生えたドジョウに見えなくもない。しかも実際に水槽に入れて泳がせると、ドジョウのようにくねくねと、からだを揺らして進んでいく。
 これはずっとずっと大昔、ドジョウから進化したためである。
 ――というのは、冗談。まっかなウソである。(了)
 
 
写真 上から
研究用に採集したトウキョウサンショウウオの成体/卵のう/幼生/幼体

 
 
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