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今夏はラニーニャ現象発生か(あぜみち気象散歩55)   2016-04-27

●気候問題研究所 副所長 清水輝和子  

 
エルニーニョ現象弱まる
 2014年夏に発生したエルニーニョ現象は昨年12月頃にピークを迎え、今年に入り次第に弱まっている(図1)。エルニーニョ監視海域の海面水温の基準値との差は、昨年12月は+3.0だったが、3月には+1.6に下がった。
 

エルニーニョ現象弱まる
図1 海面水温平年偏差(2016年4月中旬) 気象庁
(平年値は1981年~2010年の平均値)
 
今夏ラニーニャ現象発生の可能性
 気象庁は4月11日、「エルニーニョ現象は夏のはじめには終息している可能性が高い」と発表した。その後、平常の状態に戻るが、「夏の間にラニーニャ現象が発生する可能性が、平常の状態が続く可能性より高い」と予測した(図2)
 
 
夏にはラニーニャ現象発生か
図2 エルニーニョ現象の予測(4月11日発表) 気象庁
 上の図は、エルニーニョ監視海域の海面水温の基準値との差の5カ月移動平均値(指数)の推移を示す。1月までの経過(観測値)を折れ線グラフで、エルニーニョ予測モデルによる予測結果(70%の確率で入ると予想される範囲)をボックスで示している。指数が赤/青の範囲に入っている期間がエルニーニョ/ラ ニーニャ現象の発生期間。
(基準値は前年までの30年間の各月平均値)
 
 
 エルニーニョ現象は、太平洋の赤道付近の海面水温が、東部で平年より高く、西部では低くなる(図3)。反対に、ラニーニャは東部で低く、西部で高くなる現象だ(図4)図2の監視海域のグラフでは、+0.5℃以上がエルニーニョ現象で、基準値との差は冬から春にかけて急激に下がり、予測では8月頃にはラニーニャ現象を示す青色のゾーンに入り、-0.5℃以下の可能性が高くなる。
 ラニーニャ現象が発生すると夏は暑く、冬は寒くなる傾向がある。
 

太平洋赤道付近は、中部から東部で高く、フィリピン沖で低い
図3 エルニーニョ現象(海面水温平年偏差1998年1月) 気象庁
(平年値は1981年~2010年の平均値)
 

太平洋赤道付近は、中部から東部で低く、フィリピン沖で高い
図4 ラニーニャ現象(海面水温平年偏差1999年12月) 気象庁
(平年値は1981年~2010年の平均値)
 
春にエルニーニョ現象終息し、夏にラニーニャ現象が発生した年の天候
 過去に、エルニーニョ現象が春に終息して、夏にラニーニャ現象が発生した年の夏はどのような天候だったのだろうか。統計データのある1949年以降では、このパターンの経過の年は、1973年、1998年、2010年の3年しかない。
 1973年は空梅雨で、盛夏期は猛暑になり干ばつが発生しているが、沖縄・奄美は低温だった。1998年は、北日本が低温、西日本と沖縄・奄美は高温の「北冷西暑型」で、梅雨明けは遅く、8月は北・東日本で雨が多く、不順な天候だった。2010年は北・東日本を中心に高温で、記録的猛暑だったが、7月中旬に九州や中国地方で豪雨被害が発生した。
 このように、ラニーニャ現象が夏に発生しても、猛暑で安定した夏空が続くとは限らず、年によって夏の天候はさまざまだ。
 
インド洋の高水温が夏の天候を左右する
 エルニーニョ現象からラニーニャ現象に変わる夏の天候を決める重要な要素のひとつは、インド洋の海面水温だ。エルニーニョ現象が発生すると、熱帯の大気循環や海水の変化によって、インド洋の海面水温が高くなり、エルニーニョ現象が春に終息した後も、夏まで高水温が続くことが知られている。インド洋が高水温の夏は、図5の1998年8月のように熱帯インド洋東部で対流活動が活発になり、低気圧に向かってフィリピン沖から北東の風が吹く。フィリピン沖は下降気流となり、高気圧から吹き出した風がインド洋東部に向かう。
 

インド洋東部で対流活動が活発化し、フィリピン沖から北東の風が入る
図5 外向き長波放射量平年偏差(1998年8月) 気象庁
 青いエリア:雲が多い
 赤いエリア:雲が少ない
 
 フィリピン周辺では、例年の夏は対流活動が盛んで、上昇した気流が日本の南で下降して太平洋高気圧を強め、高気圧が日本に張り出す。ところが、インド洋の海水温が高いと、太平洋高気圧は日本の南海上に離れ、北への張り出しが弱まるので、北・東日本は雨が多く天候不順の夏となる。図5の1998年の8月は北日本から東日本にかけて東西にのびる前線の雲がかかり、雨の多い夏だった。
 

図6 海面水温平年偏差(2016年3月) 気象庁
(平年値は1981年~2010年の平均値)
 
 今春もインド洋の海面水温は高い(図6)。気象庁の暖候期予報では、沖縄・奄美から西日本は暑い晴天が多いが、北・東日本では太平洋高気圧の張り出しが弱く、晴れの日が例年より少ない。太平洋高気圧の縁辺から湿った風が入りやすいので、梅雨も夏も降水量が平年並から多い予想だ。九州の地震の被災地では大雨のリクスが高まることが心配される。
 
 今回の規模の大きなエルニーニョ現象では、熱帯の高水温が大気を温める働きをし、地球全体の気温が上昇している。これに地球温暖化も加わり、昨年5月から月平均気温は統計開始以来の最高記録を更新し続けている。この影響で日本を含む北半球の中緯度の気温は今夏も高いと予想され、北日本は1998年のような冷夏ではなく、気温は平年並で、東日本も平年並か高く、西日本と沖縄・奄美は高い予報となっている。
 
フィリピン沖の海水温に注目
 2010年はインド洋の海面水温が夏にかけて高かったにもかかわらず、記録的猛暑となった。1998年との違いは、フィリピン沖の海水温が2010年は早めに上昇して、夏にはフィリピン周辺で対流活動が活発になり、強い太平洋高気圧が日本付近をおおった。一方、1998年はフィリピン沖の海水温は5月まで低く、夏の対流活動はインド洋東部で活発だったので、日本の南の太平洋高気圧の勢力は弱かった。
 この春は、フィリピンの東海上の海面水温は図1のように4月に入って上昇している。インド洋で対流活動が活発になる前に、フィリピン沖で活発になれば、今夏は全国な猛暑になるかもしれない。今後もフィリピン沖とインド洋の海水温と対流活動から目が離せない。
 
(図はクリックで大きく表示されます)
 

 
 
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