水源地の水不足と今年の台風(あぜみち気象散歩56) | 2016-06-28 |
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●気候問題研究所 副所長 清水輝和子 |
利根川水系ダムの10%取水制限 | 6月19日から梅雨前線の活動が活発になり、九州を中心に記録的な大雨が降った。その一方で、関東北部の水源地では27日までの降水量が、群馬県の藤原で6月の平年値の58%、片品では51%と少雨傾向が続いている。6月27日現在の8つのダムの貯水率は平年の39%と少ない。   利根川水系渇水対策連絡協議会は、6月16日、関東の1都5県に水を供給している利根川水系の8つのダムの貯水率が38%になり、10%の取水制限を始めた。さらに、渡良瀬川水利使用調整連絡協議会は25日から取水制限を20%に引き上げた。渇水が今後も続けば、農業用水や都市用水の需要期に入り、水不足が深刻化するのではないかと心配される。  
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少雨の原因 | 関東地方整備局によると、6月に利根川の取水制限が実施されたのは1987年以来29年ぶりのことになる。梅雨なのに、なぜ取水制限をするほど貯水率が下がったのだろうか。原因のひとつは暖冬による少雪で、利根川流域の山の雪解けが早まり、天然のダムの役割をしていた山の雪が例年より1カ月近く早く消えた。それに加えて、5月は利根川流域での降水量が少なく、前橋の降水量は41mmと平年の40%しか降らなかった(図1)。  
5月の関東北部は少雨で、日照時間は平年より多かった 図1 上図:降水量平年比(%)下図:日照時間平年比(%)(2016年5月)気象庁   5月の上空の天気図(図2)を見ると、日本付近は強い高気圧におおわれ、偏西風はロシア中部からシベリア東部へ北上して蛇行した。地上の天気図では移動性高気圧が北・東日本中心に通り、晴天が多く雨の日は少なかった(図1)。  
日本の上空は強い高気圧におおわれ、偏西風はシベリアに北上して蛇行した 図2 500hpa北半球平均天気図 高度と平年偏差(気象庁の図を基に作成) → 偏西風の流れ (平年値は1981年~2010年の平均値) 青:平年より高度が低く、気温が低い 赤:平年より高度が高く、気温が高い   6月は5日に関東甲信地方で平年より3日早く梅雨に入ったが、6月前半の梅雨前線は、関東沖では南海上に離れて停滞した。6月13日以降は低気圧が太平洋岸を通ったが、降雨は関東南部が中心で、北部の水源地にはダム貯水率が回復するほどの雨は降らなかった。  
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台風1号の発生遅れる | ダムの水位が一気に回復するには、台風に期待がかかるのだが、頼みの台風も今年は6月27日現在1個も発生していない。1951年の統計開始以来3番目に遅かった1983年の6月25日を超えた。過去に最も遅かった台風1号の発生は、1998年7月9日だった。2番目に遅かったのは1973年7月2日だ。両年に共通している点は、エルニーニョ現象が春に終わり、夏にラニーニャ現象が発生した年で、今年の海水温の経過と似ている。気象庁は6月10日「2014年夏に発生したエルニーニョ現象は、今年春に終息したとみられる」と発表した(図3)。  
太平洋赤道付近は、東部で低くなり、フィリピン沖は上昇傾向 図3 エルニーニョ現象終息(海面水温平年偏差2016年6月上旬) 気象庁 (平年値は1981年~2010年の平均値)   さらに、「夏の間にはラニーニャ現象が発生して、秋にかけて続く可能性が高い」と予想している。エルニーニョ現象は太平洋赤道海域の海面水温が東部で平年より高くなり、西部で低くなる。反対にラニーニャは東部で低く、西部で高くなる現象だ。(あぜみち気象散歩55参照)   エルニーニョ現象が発生すると、やや遅れてインド洋の海面水温が高くなる。エルニーニョ現象が終わる春から夏の初めにインド洋の海水温が高いと、例年は西太平洋で活発な対流活動がインド洋に移り、フィリピン周辺では対流活動が不活発になるため、台風の発生は少なくなると考えられる。   冬から春にエルニーニョ現象が終息し、終息後の春から夏にラニーニャ現象が発生した年は、台風の年間発生数が平年より少ない傾向があり、とくに4、5、6月に台風の発生数が少ない。過去に年間発生数が最も少なかったのは2010年の14個、2番目は1998年の16個で、両年とも春にエルニーニョ現象が終息し、夏にラニーニャ現象が発生した。  
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ラニーニャ現象発生年の台風 | 次に、エルニーニョ現象とは関係なく、ラニーニャ現象が発生した年で台風の年間発生数を調べてみると、春にラニーニャ現象が発生した年は平年並の発生数だが、夏にラニーニャが発生した年は平年より少ない(図4)。  
夏にラニーニャ現象が発生した年は、平年より少ない 図4 台風年間発生数(ラニーニャ現象が発生、または前年から発生した年) ―平年値(1981~2010年の平均) 気象庁の資料を基に作成   また、前年からラニーニャが継続している年は平年より多くなる。ラニーニャ現象の発生で西太平洋の水温上昇の時期が早いほど、台風の年間発生数は多くなるようだ。   なお、台風の接近数は前年からラニーニャが継続している年は平年より多く、春にラニーニャが始まった年はやや少なく、夏に始まった年は例年の半分程だ(図5)。上陸数も同様の傾向だが、春にラニーニャ現象開始年は平年並になる(図6)。  
夏にラニーニャ現象が発生した年は、平年の約半数 図5 台風の全国への接近数(ラニーニャ現象が発生、または前年から発生した年) ―平年値(1981~2010年の平均)気象庁の資料を基に作成 (接近:台風の中心が国内の気象官署などから300km以内に入った場合)  
夏にラニーニャ現象が発生した年は、平年より少ない 図6 台風年間上陸数(ラニーニャ現象が発生、または前年から発生した年) ―平年値(1981~2010年の平均)気象庁の資料を基に作成 (上陸:台風の中心が北海道、本州、四国、九州の海岸線の達した場合)  
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今年の台風は | 統計データや海水温から考えると、今年の台風も発生数、接近数、上陸数は少なくなる可能性がある。とはいっても、春にエルニーニョ現象が終息し、夏にラニーニャ現象が発生した年は、夏季の台風の発生位置が例年より北で多くなる傾向がある。日本の近海寄りで発生するので、発生後には早めに接近することが多い。また、台風までに発達しない熱帯低気圧が近海で多発し、日本本土へ影響を与える傾向があるので、油断はできない。   台風の発生位置が北上し、南シナ海北部やフィリピンの北東海上など例年より西よりだと、台風周辺の上昇気流が日本付近で下降して、太平洋高気圧が日本をおおい、猛暑となる可能性がある。太平洋高気圧が弱まる時期には台風や熱帯低気圧の影響をうける恐れもある。今夏は局地的な干ばつや局地的な大雨など、異常気象が心配される。   ラニーニャ現象は例年初冬にピークを迎える。西太平洋熱帯域の海面水温は次第に上昇し、晩秋の頃には高水温のため台風が発達して、猛烈に強いスーパー台風が発生する可能性がある。  
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