秋雨と台風の異変(あぜみち気象散歩58) | 2016-10-25 |
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●気候問題研究所 副所長 清水輝和子 |
長雨と日照不足の秋 | 9月は秋雨前線や台風の影響で、全国的に日照時間が少なく、東・西日本では雨が多かった(図1)。西日本の日本海側では、降水量が平年の2倍近くにもなり、日照時間も平年の64%と、1946年の統計開始以来最も少なかった。晴れ間が少ない割には全国的に気温は高く、初秋の風はむし暑く感じた。  
暖秋、東・西日本多雨、日照不足 図1 9月の気温・降水量・日照時間の平年差℃・平年比% (2016年9月)気象庁   10月に入っても太平洋岸には前線が停滞して秋雨の日が多く、中旬になってからようやく秋晴れが2日ほど続くようになった。 北・東日本では、8月半ば頃から曇りや雨の不順な天候が続き、週末や連休も台風や秋の長雨でレジャーに出かけることができず、長引く天候異変にうんざりさせられた。  
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天候不順長引き野菜高騰 | 夏からの不順な天候は野菜の高騰を招き、家計を直撃している。 日照不足の影響で野菜の発芽不良や生育遅れが発生し、出荷量が減っている。9月30日総務省発表の野菜の消費者物価指数(東京都区部)によると、ホウレンソウは昨年の1.5倍、ダイコンは1.3倍、タマネギは1.3倍、ニンジンは1.7倍近くに高騰した。 10月に入り、ピーマンは東北・関東産が不作のため、上旬の東京市場の入荷量は前年同期比の4割も減少。また、農水省のまとめでは、3~5日の小売価格は全国平均でキュウリが平年の1.2倍、レタスは2倍近くも高くなった。  
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台風10号東北の太平洋側に初上陸 | ニンジンやジャガイモなど、北海道が主産地の野菜は、台風が相次いで接近・上陸し、農地が冠水したため影響が長期化している。 北海道では8月17日から台風が1週間に3個も連続して上陸したうえ、8月30日にも台風10号が岩手県大船渡市付近に上陸して日本海へ進んだことにより、暴風や豪雨に見舞われ、タマネギ、ジャガイモの他、スイートコーン、テンサイなどにも大きな被害がでた。   台風の異変は北日本で顕著で、北海道に3個も上陸したこと、東北の太平洋側から上陸したことは、1951年の台風統計開始以来、初めてだった。とくに、北海道や岩手県で甚大な被害が出た。このおもな原因は、台風が例年より北上し、異例のコースを進んだためで、温暖化やエルニーニョ現象の影響が大きいと考えられる。今まで台風の接近・上陸が少なかった北日本でも、温暖化が進めば今後は台風災害が発生しやすくなることが予想される。  
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寒冷渦の南下で台風10号の被害拡大 | 8月30日に岩手県を直撃した台風10号は、暴風域を伴ったまま上陸した(図2)。  
図2 台風10号の経路(2016年8月29日~31日)気象庁   今夏は日本の北東海上で太平洋高気圧が強かったため、台風10号は東海上に進むことができず、東北地方を横断して日本海へ抜ける異例のコースとなった。 太平洋高気圧の異変の他に注目したいのは、日本海西部に南下した寒冷渦だ。25日の上空の天気図(図3)を見ると、シベリアには北極の寒気団があって、一部が大陸東岸に南下している。日本の北東海上で太平洋高気圧が強かったので、この寒気は東へ進むことができず、一部がちぎれて寒気の塊となって日本海西部から西日本まで南下してきた(図4)。 寒冷渦の東側や南東側では暖気とぶつかりあうので、積乱雲が発達して激しい雷雨や大雨となる。30日も台風10号が持ち込んだ湿った暖かな空気と寒気とがぶつかり、豪雨被害が拡大した。  
シベリアから寒気が南下 図3 上空5000m付近(2016年8月25日) 500hpa北半球平均天気図高度と平年偏差(気象庁の図を基に作成) 青:平年より高度が低く、気温が低い 赤:平年より高度が高く、気温が高い  
寒冷渦が西日本まで南下 図4 上空5000m付近(2016年8月29日) 500hpa北半球平均天気図高度と平年偏差(気象庁の図を基に作成)   寒冷渦が8月に本州付近に南下してくるのは珍しい。例年は太平洋高気圧が日本付近に張り出すため、南下することができないのだが、今年8月は日本の北東海上で太平洋高気圧が強かったので、寒気の東進をブロックされて西日本まで南下してきた。  
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9月は秋雨前線停滞型 | 日本の北東海上で強かった太平洋高気圧は、9月に入ると南東海上に中心を移し、日本の南に張り出して、通常の夏型気圧配置になった(図5)。  
太平洋高気圧の北側に秋雨前線停滞 図5 500hpa北半球平均天気図高度と平年偏差(2016年9月)と地上付近の秋雨前線(気象庁の図を基に作成)   とはいえ、太平洋高気圧が例年より強かったため、北縁に秋雨前線が伸び、日本の太平洋岸に停滞した。太平洋高気圧は9月下旬を中心に強まり、上空5000m付近では日本の南東海上に通常より強い5940mという中心が現れて停滞した。図6の線は上空の気圧500hpaの高さを結んだ等高度線で、高度が高くなればなるほど空気の層が厚く、気温が高い傾向にある。等高度線は60mごとに引かれ、太平洋高気圧は通常は5880mの線で示される。21世紀に入り、北半球の亜熱帯高気圧の中心が5940mという強い高気圧がしばしばみられるようになったが、今年の北半球ではひんぱんに現れ、しかも日本近海で停滞したことは過去になかったことで、夏から秋の異常気象の原因となった。  
太平洋高気圧は南東海上で強まる 図6 上空5000m付近(2016年9月下旬) 500hpa北半球平均天気図高度と平年偏差(気象庁の図を基に作成)   9月は南東海上で太平洋高気圧が強まる傾向があったので、高気圧の縁辺をまわって湿った南西風が入りやすく、停滞していた秋雨前線が活発になり、各地に大雨をもたらした。曇雨天が続いたので記録的な日照不足となり、晴れ間が少ない割には南西風が入り、気温は高く、むし暑かった。 太平洋高気圧の中心は、8月は日本の北東海上で、9月は日本の南東海上で強かった。これは、熱帯の対流活動が8月は小笠原諸島の東で活発だったため、上昇した気流がカムチャツカ半島の南で下降して太平洋高気圧が強まった(図7)。9月に入ると遅れていたラニーニャ現象の影響が出て、フィリピンの東海上で対流活動が活発になった。上昇した気流が日本の南東で下降気流となって太平洋高気圧を強めた(図8)。  
小笠原諸島の東海上で対流活動活発、上昇した気流は、カムチャツカ半島の南で下降し、太平洋高気圧を強めた 図7 外向き長波放射量平年偏差(2016年8月)(気象庁の図を基に作成) 青いエリア:活発な雲が多い 赤いエリア:活発な雲が少ない  
フィリピンの東から沖縄の南海上で対流活動活発、上昇した気流は日本の南東に下降し、太平洋高気圧を強めた 図8 外向き長波放射量平年偏差(2016年9月)(気象庁の図を基に作成)
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台風上陸数は2番目に多い6個 | 9月の台風は、太平洋高気圧の縁辺をまわって日本付近を通過する例年のコースになった。引き続き台風の発生数が多く、日本には2個上陸したうえ、3個も接近した。9月上旬は、台風12号が沖縄の東から九州の西の海上を北上し、5日長崎市付近に上陸した。台風13号は先島諸島から九州の南に進んだのち、8日温帯低気圧に変わり本州の太平洋岸沿いを北上したため、北日本の太平洋側で大雨が降り、浸水被害や土砂災害が発生した。 中旬は、台風16号が先島諸島から東シナ海を北上し、20日には鹿児島県大隅半島に上陸、のち高知県室戸岬付近を通過し、和歌山県田辺市付近に再上陸して、東海道沖で温帯低気圧に変わった。九州や四国では総降水量が400mmを超えた所があった。16号で台風の上陸数は6個目となり、1990年と1993年に並び2番目に多い記録となった。 10月に入っても太平洋高気圧は強く、暖秋が続き、秋雨前線が停滞したため曇雨天が多く、日照不足が続いた。中旬になってようやく秋晴れの日が現れるようになった。   夏から秋の天候異変は、規模の大きかったエルニーニョ現象が今年春まで続いたため、地球全体の気温が上昇し、その影響がまだ残っていることに加え、地球温暖化もあって、太平洋高気圧が例年よりかなり強かったことが影響している。 今年は初夏から干ばつや豪雨、長雨、日照不足、台風など、例年以上に災害が多く発生している。温暖化で異常気象のパターンが変わってきているので、変化に対応した備えが必要になってきた。10月3日に沖縄を通過した台風18号は中心気圧が905hpaまで下がり、特別警報が発表された。事前の予報で猛烈な強さの台風接近を知った沖縄の人々は、早めに備えや避難をしたので、人的被害はまったくなかった。温暖化によって災害が増加し、規模も大きくなる中で、沖縄の人々のこの行動には、多くの教訓が示されているように思う。
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