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11月の東京で初の積雪(あぜみち気象散歩59)  2016-12-28

●気候問題研究所 副所長 清水輝和子  

 
11月24日都心で初の積雪
 2016年も異常気象の年だった。1~2月は暖冬だったが首都圏では大雪が降った。5月は北日本の太平洋側と東日本で少雨となり、水源地は冬の少雪もあって水不足に悩まされた。
 台風は1号の発生が遅かったが、8~9月には次々と発生し、接近・上陸して北海道や岩手県で大きな被害が出た。秋は長雨で、東・西日本は多雨となり、全国的に日照不足だった。北日本には10月から寒気が入り、旭川では23日に初雪が降った。29日からは雪が積もり初め、その後30日以上積雪が続いて、1961年の統計開始以来最も早い根雪の記録となった。
 11月は北日本中心に寒気が南下した。24日には低気圧が太平洋岸を通ったため、関東甲信地方では季節はずれの雪が降り、東京都心は平年より40日も早く、11月として1962年以来54年ぶりの初雪となった。また、東京は観測開始以来初の11月の積雪を観測した。
 
各地で11月の積雪
 温暖化や都市気候で都会の晩秋は冷えにくくなっているのに、東京都心で11月に雪が積もるとは、異常気象が多かった今年の中でも、驚いた現象のひとつだった。
 
 同日は熊谷でも6cm、宇都宮・前橋・茨城県館野で4cm、千葉で2cm、日光で21cm、河口湖で22cm、長野県では飯田で14cm、諏訪で13cm、軽井沢で23cmと、11月とは思えないほど雪が積もり、このうち7地点で11月としての日最深積雪の記録を更新した(図1)
 

11月24日14時の積雪
図1 アメダス積雪の深さ(2016年11月24日14時)気象庁
 
上空に寒気南下
 雪が降る4日前の20日は、図2のように日本の上空は暖かい空気に覆われていて、東京の最高気温は20.4℃と10月下旬頃の気温で、4日後に雪が降るとはとても思えない陽気だった。
 

図2 上空5000m付近(2016年11月20日)
500hpa北半球平均天気図高度と平年偏差(気象庁の図を基に作成)

:平年より高度が低く、気温が低い
:平年より高度が高く、気温が高い
 
 ところが、23日に強い寒気が北日本中心に入り、24日には日本の南まで南下した。24日の上空5000m付近の北半球の天気図(図3)を見ると、北極付近の寒気は放出されて、寒気団は6つに分裂し中緯度に南下した。そのうえ、日本の東海上では高気圧が強まったので、偏西風は大きく蛇行して、日本に寒気が入りやすくなった。また、偏西風の流れは日本付近では南西風で、南から湿った空気が入り、雨や雪が降りやすい状況だった。
 

上空寒気が南下、南西の湿った風入る
図3 上空5000m付近(2016年11月24日)   
500hpa北半球平均天気図 高度と平年偏差(気象庁の図を基に作成)
:平年より高度が低く、気温が低い  偏西風の流れ
:平年より高度が高く、気温が高い
 
北高型で地上付近にも寒気入る
 地上付近の24日の天気図(図4)では、大陸の高気圧が北日本に張り出している。この形は関東地方からみると、北に高気圧があるので「北高型」と呼ばれ、関東地方には東海上から湿った冷たい北東風が入る。そこへ、低気圧が関東の沖合を東進した。上空に寒気が南下したところへ、下層にも北東からの冷たい風が入ったため雪になった。
 

関東地方に北東風入る
図4 地上天気図(2016年11月24日6時)(気象庁の図を基に作成)
 
 図5の24日の東京都心の気温の経過を見ると、午前1時頃は気温が8.0℃もあり雨が降っていたが、その後急激に下がり、6時頃から2℃を下回って、ミゾレになった。日中は気温が上がらず1~2℃で、同日の最低気温は午前9時すぎに0.9℃を記録した。日中はミゾレや雪が降り続いて、午前11時には、11月としては1875年(明治8年)の観測開始以来初の積雪が確認された。
 

午前6時以降気温2℃以下に下がる
図5 東京の気温と降雪の経過(2016年11月24日)(気象庁の資料を基に作成)
 
 降雪となるには上空の気温も重要だ。上空1500m付近の気温が-3℃以下に下がり、地上の気温が3℃以下になると、雪は溶けずに上空から落ちてくる。茨城県館野の上空1500m付近の気温は、23日の21時は-2.3℃だったが、24日の9時には-4.5℃と急に下がったため、日中になっても雨に変わらず降雪が続いた。
 
 首都圏周辺で雪になるか雨になるかは、高い上空での寒気の動向や1500m付近の気温、地上付近の気温、低気圧の位置など気象条件の微妙な違いによって決まる。今回の東京の晩秋の積雪は、これらの気温やタイミングが絶妙にマッチングしたことによって観測された。
 
年末の大嵐で大火災発生
 今年の異常気象は、11月の初雪では終わらなかった。12月22日には日本海を低気圧が発達しながら通り、全国的に強風が吹き荒れた(図6)
 

日本海低気圧で強い南風吹く
図6 地上天気図(2016年12月22日12時)(気象庁の図を基に作成)
 
 新潟県糸魚川市では低気圧に向かう南風で大火災が発生した。
 北アルプスを越えて吹いてくる風は、フェーン現象によって乾燥し、姫川の谷沿いを吹き下り、12時9分には最大瞬間風速24.2m/sを記録した。火は強風にあおられて火の粉を巻き上げ、飛び火によって燃え広がり、出火から30時間後の23日16時30分にようやく鎮火した。
 
 総務省によると、焼損棟数は144棟、焼損面積は約4万㎡にも上った。幸い死者や大ケガをした人はいなかった。市は付近の約270世帯に避難勧告を出し、市内の半数以上の家が設置している屋内の防災無線で通報された。住民は隣近所に呼びかけ、助け合って避難するなど、市民の防災意識の高さが人的被害を最小限に食い止めた。
 
北海道は大雪
 大火をもたらした低気圧は23日には北海道を通り、年末の大嵐は北海道を襲った。札幌市では96cmの積雪を観測し、12月としては50年ぶりの大雪となった。湿った雪で除雪作業が追いつかず、鉄道や空の便が乱れ、千歳空港では24日まで3日連続で、利用客が空港内で一夜を過ごしたという。
 
 2016年の世界の年平均気温は、今春に終わったエルニーニョ現象の影響が長引き、温暖化も加わって、統計開始以来最も高くなると見込まれている。
 低気圧は例年冬になると太平洋岸を進むが、今冬は南海上の高気圧が強いため、日本海を北東進することが多くなっている。日本を含む北半球の中緯度や熱帯の気温も平年より高いので、寒気が南下してくると暖気と衝突して低気圧が発達し、例年よりも北上したコースを進む傾向にある。このあとも、気温の変動や冬の嵐、局地的な大雪など、まだ異常気象が続きそうなので、気の抜けない冬となりそうだ。
 

 
 
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