ブロッキング高気圧で寒波(あぜみち気象散歩60) | 2017-02-23 |
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●気候問題研究所 副所長 清水輝和子 |
大雪による農業被害は約28.5億円 | この冬は寒暖の変動が大きく、平均すると暖冬だが、年が明けてからは何度か寒波に見舞われ、日本海側を中心に大雪が降った。農業被害は東北から九州の日本海側と近畿、中国、鹿児島など西日本の太平洋側にも広がった。2月20日現在の農水省のまとめによると、農作物等の被害額は3億円、農業用ハウスは25億5千万円で、合わせると28億5千万円に上った。  
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3回の寒波 | 今冬の寒波は1月中旬までは北日本中心に寒気が入り、1月下旬から2月中旬は西日本中心に寒気が南下した(図1)。  
前半は北日本中心に、後半は西日本中心に寒気入る 図1 地域平均気温平年偏差の5日移動平均時系列 気象庁 (2016年12月~2017年2月20日)   1月以降の寒波は3回あった。1月10~17日頃は北日本中心に全国的にきびしい寒さとなり、23~25日と2月6~14日頃は山陰など西日本中心に大雪が降った。 そのうち、1月10~17日と2月6~14日の2つの寒波の原因は共通している。日本の北で高気圧が居座る“ブロッキング現象”が起きたからだ。ブロッキング高気圧は偏西風の流れをさえぎり、高気圧や低気圧が停滞するので、異常気象が発生する。  
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ブロッキング高気圧2回発生 | 1月中旬の寒波のもとは、年末のアラスカにあった。図2の上空の天気図を見ると、年末から正月頃にアラスカ付近で暖気が北上して気圧の尾根が発達した。暖気はさらに強まって、2日には高気圧が発生しその後アラスカ付近に居座った。(図3)。  
アラスカで気圧の尾根発達 図2 上空5000m付近(2017年1月1日21時) 500hpa北半球平均天気図 高度と平年偏差(気象庁の図を基に作成) 青:平年より高度が低く、気温が低い 赤:平年より高度が高く、気温が高い  
アラスカでブロッキング高気圧が停滞 図3 上空5000m付近(2017年1月8日21時) 500hpa北半球平均天気図 高度と平年偏差(気象庁の図を基に作成) 青:平年より高度が低く、気温が低い 赤:平年より高度が高く、気温が高い   上空の高気圧や低気圧は通常は偏西風に流されて、西から東へ移動するのだが、反対に東から西へ移動することがある。図3のアラスカの高気圧も11日に西進を始めた。そして、北極海から南下してきた寒気は、高気圧にブロックされてシベリアを東へ進むことができず、大きな寒気の塊となって大陸東岸から日本へ南下してきた(図4)。通常の上空の天気図では北が低気圧、南が高気圧になるのが正常な流れのパターンなのだが、ブロッキング高気圧が発生すると、“北が高気圧、南が低気圧“と逆パターンになり、異常気象が発生する(図5)。  
アラスカからブロッキング高気圧が西進 図4 上空5000m付近(2017年1月12日21時) 500hpa北半球平均天気図 高度と平年偏差(気象庁の図を基に作成) 青:平年より高度が低く、気温が低い 赤:平年より高度が高く、気温が高い  
東シベリアにブロッキング高気圧、日本に寒気南下 図5 上空5000m付近(2017年1月14日21時) 500hpa北半球平均天気図 高度と平年偏差(気象庁の図を基に作成) 青:平年より高度が低く、気温が低い 赤:平年より高度が高く、気温が高い   寒気は日本の真上に南下してきたので全国的にきびしい寒さとなり、日本海側では大雪に見舞われた。折あしく大学入試センター試験は14~15日の大雪のピークと重なり、交通機関の乱れなどで試験開始を繰り下げる会場が12もあり、過去10年では最多だったという。また、15日の京都女子駅伝は吹雪の中で行われ、主催者は朝から除雪作業に追われた。京都・福知山市の農地では、雪の重みで農業用ハウスが倒壊し、下敷きになり大雪の犠牲になった人もいた。その後、このブロッキン高気圧はシベリア東部をゆっくり西進し日本の北で弱まり、18日頃にやっと寒波はおさまった。
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2月に入りブロッキング高気圧は再びアラスカ付近に現れた(図6)。そして、7日頃からゆっくりと東シベリアを西進した(図7)。ロシア西部にある低気圧から流れてきた寒気はシベリアを東進できず、ちぎれて寒気の塊(寒冷渦)となって次々と日本付近に南下し、14日頃にかけてきびしい寒さとなった。ブロッキング高気圧は弱まりながら北海道付近に南下したので、北海道は平年より気温が高くなったが、寒気は西日本中心に南下して、中国、近畿地方で大雪の被害が広がり、鳥取県内では車の立ち往生が頻発した。鳥取市の11日の積雪は91cmと32年ぶりに90cmを超え、平年の10倍以上にもなった。  
図6 上空5000m付近(2017年2月3日21時) 500hpa北半球平均天気図 高度と平年偏差(気象庁の図を基に作成) 青:平年より高度が低く、気温が低い 赤:平年より高度が高く、気温が高い    
高気圧が東シベリアに西進、西日本中心に寒波 図7 上空5000m付近(2017年2月9日21時) 500hpa北半球平均天気図 高度と平年偏差(気象庁の図を基に作成) 青:平年より高度が低く、気温が低い 赤:平年より高度が高く、気温が高い   ブロッキング現象がおきると、寒気がちぎれて塊になりゆっくりと動く「寒冷渦」が発生しやすくなる。寒冷渦が南下してくると、前面の暖気とぶつかるので積乱雲が発達し、大雪や落雷、突風などの激しい現象が起きる。今回の2回の寒波も、寒冷渦が日本に南下してきたため、大雪となった。それでも、日本付近を通過するうちに暖気が弱まったので、寒冷渦は崩れて寒波も次第に和らいだことは幸いだった。 今回のブロッキング現象は1週間から9日程で終わったが、半月以上も続いて大災害を引き起こすことがある。なぜブロッキング現象が起こるのかは諸説あって、詳しいメカニズムは研究中だ。予報も難しいといわれてきたが、今年2回のブロッキング高気圧による寒波は、気象庁の週間予報や1か月予報の予想天気図で予報され、数値予報技術が進歩していることが示された。  
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偏西風の蛇行で寒波 | また、1月23~25日の寒波は期間こそ短かったが、偏西風が大きく蛇行したので西日本に寒気が南下し、近畿から山陰地方で大雪となった(図8)。  
偏西風の蛇行で東・西日本に寒波 図8 上空5000m付近(2017年1月23日21時) 500hpa北半球平均天気図 高度と平年偏差(気象庁の図を基に作成) 青:平年より高度が低く、気温が低い ⇒偏西風の流れ 赤:平年より高度が高く、気温が高い   鳥取県智頭町では111cm、岡山県新見市千屋で88cmと1月としては観測史上最も多い積雪を記録した。鳥取県内の幹線道路では23~24日にかけて車の立ち往生が相次ぎ、智頭町では2集落が孤立した。2月の寒波も西日本中心だったので、山陰地方は2度の大雪に見舞われて、被害が拡大した。  
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温暖化で海水温高く、大雪降りやすい | 寒波に見舞われると、季節風が日本海を吹き渡るときに海面から蒸発した水蒸気が上昇して、雪雲を発達させる。上空と海面の気温差が大きければ大きいほど積乱雲は発達し、雪雲は日本海側の平地や山に大雪を降らせる。冬も終わりに近づくと、例年は日本海の海水温は冷たい北西風に冷やされて低くなってくるのだが、今冬は2月に入っても高い。図9の海面水温を見ると、東北から九州にかけての日本海では平年より高く、特に北陸から山陰、九州にかけて1℃以上の高水温域が広がっている。  
図9 海面水温平年偏差(2017年2月6日)気象庁   温暖化で日本近海の海水温の上昇率は世界全体より大きい。温暖化すると日本の降雪量は減少すると予測されているが、海水温が今より高くなれば、今冬と同じ強さの寒波がやってきた際には、上空との気温差は大きくなり、さらに大雪が降りやすくなると思われる。 |
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