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エルニーニョ現象発生か(あぜみち気象散歩61)   2017-04-25

●気候問題研究所 副所長 清水輝和子  

 
ボリビアとペルーで大雨被害
 南米北西部のコロンビアからペルーにかけて、昨年から大雨が断続的に続き、土砂崩れや洪水などの被害が広がっている。これらはエルニーニョ現象発生の兆しかもしれない。
 
コロンビアで大規模な土砂災害
 南米コロンビア南西部の町モコアでは、3月30日~4月1日にかけて大雨が降った。豪雨で川が氾濫、大規模な土石流が家屋などを破壊し、死者数は250人を超え、負傷者は数百人に及んでいるという。コロンビア国家災害危機管理局によると、被災地域では年間降水量の3分の1に相当する雨が一晩で降ったという。もともと雨の多い地域だが、堤防を破壊するほどの豪雨だった。同地域では数か月前から何度か土砂災害が発生していた。昨年11月にはモコアから140km離れたエルタンボという町で豪雨による土砂崩れのため9人が死亡し、その直前には500km北のメデジン近くで土砂災害が発生した(図1)
 

平年に比べて多いところで、コロンビアは2倍、ペルー西部の太平洋沿岸では5倍を超えた
図1 降水量平年比分布図%  気象庁
(2017年3月1日~4月3日の34日間)

 
ペルーも昨年から大雨
 コロンビアの南のペルーでも、昨年12月から断続的に大雨が降っている。各地で川の氾濫や土砂崩れなどが相次ぎ、ペルー政府は昨年12月から今年3月31日までに101人が死亡したと発表した。多くの住宅が倒壊して、被災者は12万人以上に達したとも報じられた。AP通信によると、アンデス山脈の麓の同国バルバラカンでは村が丸ごと泥水に飲み込まれたという。
 
ペルー沖は高水温
 ペルー沖では昨年12月頃から海面水温が平年より高くなり、今年に入り南米の西岸全体が上昇を続け、3月上旬には図2のように赤道付近を中心に高水温になった。暖かくなった海水から多量の水蒸気が蒸発し、雲が発生しやすくなり、発達した積乱雲がボリビアからペルーにかけて大雨を降らせた。
 

南米の西岸沖は高水温
図2 海面水温平年偏差(2017年3月上旬)気象庁 
 
 ペルーは、本来は雨の少ない国だ。なぜなら、ペルー沖は赤道直下でありながら、海水温の低い海域なので、雲もあまり発生しないからだ。ところが、3~4年に1度エルニーニョ現象が発生すると、海水温が平年より高くなり、対流活動が活発になってペルーで大雨が降る。
 
夏までにエルニーニョ現象発生か
 エルニーニョとは太平洋の赤道付近の海面水温が東部のペルー沖から中部にかけて平年より高くなり、西部で低くなる現象だ(図3)。通常は西太平洋のフィリピンからインドネシア周辺で海面水温が高いため対流活動が活発で、周辺では雨が多い。エルニーニョ現象が発生すると西部で低くなるのでインドネシアから豪州付近では雨が降らず、山火事が多発する。一方、東部のペルー沖では高くなり、周辺では大雨が降る(図4)
 

エルニーニョ現象発生時の海面水温
図3 海面水温平年偏差(1997年8月)気象庁  
 
 

高水温の海域が東へ移り、ペルーで大雨が降る
図4 エルニーニョ現象発生時の海面水温と対流活動の分布の模式図 (気候問題研究所作成)
 
 昨春にエルニーニョ現象が終わったばかりだというのに、ペルーでは断続的に大雨が降っていて、まるでエルニーニョ現象が再発生したかのようだ。米国海洋大気局や豪州気象局、欧州中期予報センターなどおもな外国の気象機関は、今年2月頃からエルニーニョ現象が春から夏頃に発生するとの予測をしていた。
 4月10日発表の気象庁のエルニーニョ監視速報によると、「夏までにエルニーニョ現象が発生する可能性は50%」との予想だ。
 
今後の天候
 エルニーニョ現象が発生すると、日本は冷夏になることが多い。今夏の天候が気になるところだ。日本の天候は西太平洋とインド洋の熱帯の海水温の影響が大きい。現在のところフィリピン沖からインドネシア周辺は平年より高く、インド洋では低い(図5)。昨夏は西太平洋で高めだったが、インド洋が高かったため天候不順の原因になった。対流活動はインド洋で活発になり、フィリピン沖は不活発だった。今夏はフィリピン沖からインドネシア周辺で対流活動が活発になり、上昇した気流は日本の南で下降して太平洋高気圧が強まり、日本に張り出す予想だ。
 

フィリピンからインドネシア周辺で高く、インド洋熱帯東部で低い
図5 海面水温平年偏差(2017年3月)気象庁  
 
 また、昨春まで続いた長く規模の大きなエルニーニョ現象の影響と地球温暖化で、地球全体の気温は過去最高レベルで推移している。3月の世界の月平均気温は、1891年の統計開始以来2番目に高い値となった。気温のベースは高いままだ。これらのことから、気象庁の暖候期予報では今夏の気温は全国的に高く、猛暑を予想している。
 とはいえ、エルニーニョ現象が今後急速に発達し、西太平洋の海水温が下がると、太平洋高気圧も強まらず、不順な天候の可能性もある。今後の海水温の動向に注目したい。
 

 
 
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