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虫の世界の不思議メンバー――ネズミ(むしたちの日曜日81)  2020-01-17

●プチ生物研究家、ときどき児童文学者 谷本雄治  

 
 またまたやってきた子年、子の年、ネズミの年。
 さあて、ネズミにちなんだ虫でも取り上げてみようと思って、まずはネズミを振り返ることにした。
 新年早々、振り返るというのもおかしな話だが、干支の最初がなぜネズミなのかについては有名な逸話がある。
 むかし昔のものがたり。
 神さまが動物たちに言ったものだ。
「元旦におらンちに来たものを、1年交代でその年の代表にしてやるべ」
 それで動物たちは張り切った。牛などは自分の歩みが遅いことを自覚していたので、ほかの動物に先んじて、神さまの家へ向かったものだ。
 その甲斐あって一番乗りに。ところが知らぬ間に、背中にネズミが乗っていた。そして朝が来て神さまンちの門が開くと、さっと飛び降り、ちゃっかりと「われこそが一番乗りなりー!」なんて宣言した。それでもって、ネズミが干支の最初になったというアノ話である。
 
 中国の『漢書』によると、ネズミを表す「子」は「孳」という字からきたらしい。それには植物が芽生えるといった意味がこめられ、十二支は植物のめぐりめぐるさまを表現したものだとか。それで「子」は、初めの一歩となるとされている。
 ははあ、そうだったのか。
 なんて感心したものの、ネズミにちなむ虫は思いつかない。それでもあれこれ探るうちに、ナマコがいたではないかと気がついた。
 
 漢字で「海鼠」と書く。ネズミの文字が入っている。
 ウサギの年には「海兎」と称されるアメフラシを取り上げたが、どちらも海のナメクジのような印象があり、あまり好かれない。
 それなのにナマコになぜ、ネズミの名を持ち込んだのか。悪食で知られるネズミだから、もしかしてナマコが大好物だったりして……というのはまったくの冗談だ。
 ナマコにネズミを充てたのは、夜になると活動する夜行性の生き物でネズミのようにはいまわること、その後ろ姿がネズミを連想させるからだという指摘がある。
 ほんまかいな、と思わぬでもないが、まあ、そういうことらしい。
 それでもナマコは、子どものときから食べてきた。生のナマコを「なまこ」と呼び、天日で乾かしたら「ほしこ」、火力で乾燥させたものは「いりこ」と呼び、生殖巣は「このこ」、腸の塩辛は「このわた」と称されることもよく知られる。だがしかし、ナマコの話はすでに書いてしまった。
 
 ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』には、三月ウサギにイジられる眠りネズミが登場する。乱暴に起こされたりティーポットに詰め込まれたりする役柄だ。
 その眠りネズミは英語でドーマウスといい、ヤマネを意味する。寒い土地では秋から春まで半年も眠るそうで、「生きた化石」とも称されるかわいい動物だ。野生のヤマネをいつか見たいと思っているが、その夢はまだかなわない。初夢にすら出てこなかった。
 
 さて、ほかになんぞ、おらんのかねえ。
 と考えてみると、ネコがいた。干支の動物を決める際、ネコは1日遅れのニセ情報をつかまされて13番目になったではないか。
 されば、ネコがらみの虫をば……。
 さっと頭に浮かんだのがネコノミだ。だが、ネコは飼っていないから、手に入れるのは難しい。
 俗に「ネコのサナダムシ」と呼ばれる「瓜実(うりざね)条虫」もある。しかしそんな寄生虫は、ネコノミ以上に願い下げだ。
 そうだそうだ、「ネコ虫」がいた。正面から見るとまるでネコの顔のように見えるイモムシのことである。
 じつはこの冬、あるシャクトリムシを飼っている。「ある」というのは、いまだに名前が分からないからだ。シマトネリコの若い苗に産みつけてあった卵が美しく見えたため、しばらく飼うことにしたものである。
 えさとしてシマトネリコの葉を与えると、もりもりむしゃむしゃと食べてくれる。
 面白いことに、たいていは飼育容器の天井部にとまっていて、えさを取り替えようとすると尺を取るようにして動きだす。
 そいつの顔がネコのようならいいのだが、そうは見えない。以前撮った写真を探すと、それっぽいものは見つかったが、はて、万人向きかどうかは自信がない。
 残念である。
 事は急を要する。
 「ネズミに関係のある虫さーん、名乗りを上げてくだされー!」
 などと大声を出したら、変人扱いされるのは目に見えている。それでなくても、なにやら得体のしれない生き物を飼っているヘンなオヤジとみられている。これ以上のアップグレードは望まない。
 
 そこでまた思い出したのが蚕だった。
 「お蚕さん」である。令和の時代に入っても相変わらず、「お」と「さん」というふたつの敬称をくっつけて呼ばれる奇特な虫だ。
 蚕はネズミに弱い。というか、ネズミが蚕をよく襲う。カイコガの卵も、幼虫である「お蚕さん」も、繭にこもる蛹さえも食べてしまう。蛹なら、食べたことがある。まあまあの味だったが、卵や幼虫もそんなにうまいのか。
 それはともかく、こりゃなんとかせねばと思った養蚕農家は、あの手この手でネズミよけに知恵を絞った。そのひとつが、ムカデから逃げていくネズミの絵馬として残っている。
 だがはたして、ほんとうにそういう現象がみられるのか。
 律儀にもリアルな状態で確かめた研究リポートがあった。ハツカネズミ、トビズムカデ、お蚕さんを一緒にして、その様子を観察したのだ。
 その結果、ネズミの種類や成長度合いにもよるようだが、被験者であるハツカネズミはたしかに、トビズムカデに加害されたのである。だから絵馬に描かれたことは、あながち間違いだといえないという証明になった。
 
 では現実問題として、ムカデを養蚕現場に投入するかとなると、それはそれでまた大変だろう。ネズミはよりつかなくても、ヒトに危害を加えられては元も子もない。
 そこで目をつけたのがネコであり、その結果としてネコを養蚕農家でよく見かけるようになった。
 そればかりか、神社でいただく蚕の病気やネズミよけのお札とともに、ネコ絵やネコ石なるものもちょうだいしたそうだ。そんなこともあって、ネコをかたどった狛犬ならぬ狛猫も存在する。まさにネコ神さまさまだ。
 と思ったら、さらにその先があった。衰退した養蚕に見切りをつけたわけでもあるまいに、イチゴ園で果実を食い荒らすネズミが増えたとかでネコに番をさせたところがある。その効果は抜群だったというニュースも流れた。
 
 あれあれ、気がつけばなんだか、ネコの話になっているではないの。
 いかん、いかん、干支にちなんで、ネズミにかかわる虫を探していたのだ。
 だからといって、ネズミ、ネズミと声高に叫ぶのも避けねばならぬ。古来、動物もヒトのことばを解するとされている。ヒトのたくらみが漏れることもあるからだ。
 ネズミ憎しでしかけるネズミ捕り器のこともネズミに聞かれぬように小声で話し、もし聞かれたと思ったら、「きょうはやめた」と大きな声で言って聞かせたという。
 
 
 知の巨人たる南方熊楠センセイの書によると、ヨーロッパの古い書物ではよく、ネズミは「爬虫」とされていたという。原語がどうなのかは知らないが、爬(は)虫類の「爬」の文字を当てるあたり、現代人からすると不思議な感じがする。
 いわく、腰を低くしてしっぽをひきずるようにして走るさまが犬やネコ、牛、馬よりもトカゲやヤモリに似ている、のだとか。
 そういわれれば、すぐに納得してしまうのがプチ生物研究家たるゆえんである。
 だからというわけでもないが、中国の古い書物には毛でおおわれていることから獣扱いしていたネズミだったが、本草学が盛んになるにつれて虫魚の部に入れられ、日本の室町時代中期の国語辞典『下学集』になると、ネズミは虫の総名として出ている。それらに基づき、中国の「虫焼き」は冬ごもりするすべての虫やその卵を焼くことであり、ネズミも当然のごとく焼くつもりだったとセンセイは説く。
 いやあ、勉強になる。
 
 
 
 年の初めということで、まずはめでたい干支であるネズミに関係する生きものにたどり着く予定だったのだが、ネズミには悪役のイメージしかわいてこない。
 ミッキーマウスが大活躍するディズニーランドはともかく、あるいは「ミッキーマウスの木」と呼称されるオクナ・セルラタもさておき、ここらでやめるのが賢明というものだろう。
 ネズミの「子」はまさに始まり。何かを始めるのに縁起が良さそうだ。
 ということで、まずはめでたく実のある一年にしましょうね。
写真 上から順番に
・ことしの主役のはずのネズミ。かわいい。だけど嫌われる。困った年だね
・ナマコは漢字で「海鼠」。生で食べられたり干されたり、腸を抜かれたりしてさんざんなのに、名前でまで悩ませたくないよね。それにしても、ネズミとはね
・「眠りネズミ」ことヤマネ。体長8cmほどでかわいいが、これははく製だ
・左:ネコ年がないのは、わたしの責任じゃないからね、といった風の箱入りネコさん
・右:ネコ虫って、こんな虫かな? 耳があるように見えるけど、もちろん、耳じゃない
・子年に関係する虫としては蚕も無視できない。でも、ネズミの被害者なんだよね
・ムカデはネズミに負けないそうだ。この面構え、たしかにタダモノではない
・左:ネズミの年なんて、わたしゃ知らないよ、とそっぽを向くネコ
・右:干支の年ぐらい見たくないのに、ネズミ捕り器のなくなる日はまだ先のようだ
・左:「おまえもネズミの仲間かって? そんなのネズミに聞いてくれよ」 。ってことは、あまく仲良くないみたいだね
・右:沖縄に生息するケナガネズミ。子年だからといって、安心できない。最近は交通事故もふえている


 
 
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