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シロアリ――近くて遠すぎる関係性(むしたちの日曜日82)  2020-03-12

●プチ生物研究家、ときどき児童文学者 谷本雄治  

 
 倒木やら伐採した木を見ると、とりあえず、けとばしたくなる。生きて動くものが出てくればうれしいし、何も現れなくてもストレスの解消にはなる。
 だが、立場を変えてみれば、なんとも困ったものである。冗談じゃないよと叫びたくもなる。
 自分が倒木だとすると、脳しんとうでも起こしかねない。何やってんだ、おたんこなす、このすっとこどっこい、おととい来やがれ、などと悪態のひとつもつきたくなる。
 このとき、おたんこなすがどんなナスだとか、すっとこどっこいを漢字で書くとどうなるのだろうなどと思わぬことだ。そうなるとアリ地獄にはまったアリの気分になり、ますます収拾がつかなくなる。
 
 そう。アリだった。
 ぼくはアリが欲しくて、この林にやってきたのだ。ふだんは計画性なく暮らし、行動するのだが、どうしたことか今年はアリを飼ってみようと思い立った。最近はやりの見えるアリの巣、スケルトン方式とでも呼びたくなる飼育法を試してみたくなったのである。
 透明の容器に石こうを流し、たたきのようにする。
 といっても、わかりにくい。要は容器の中に石こうの床をこしらえ、常にいくらか湿気を保った状態にするのだ。そうすれば、アリさんが快適に過ごしてくださるという。
 そのためにはアリが要る。だったら近くの林で探してみようとやってきたのだ。
 しかし、まだ寒いせいか、なかなか見つからない。天気はいいのに、掘り出した砂つぶを富士山のようなコニーデ型に積み上げるアリがいない。
 で、木をけとばす。もともと腐っていた木が崩れ、その中から姿を現したのはアリならぬ、シロアリだった。
 
 シロアリの巣は、かなり快適らしい。オーストラリアで見たシロアリ塚には圧倒されたものだ。立派な建造物が、乾燥した大地にいくつも突っ立っていた。
 そして、ガイドに促されるまま1匹つまんで口に入れたのだが、特別な感動はなかった。セロリだとかパセリの味がするという人もいるが、味覚の鈍いぼくには感じとれなかったのが残念だ。
 その塚には巨大な女王と王、働きシロアリ、兵隊シロアリがすんでいて、それぞれの役割を果たしている。シロアリ女王は世界的な長寿生物として有名で、数十年は平気で生きるとか。その結果、塚はどんどん大きくなり、その高さからおよその年数も推測できるという。
 巨大なタワーが維持できるということは、快適な生活が保てるということだろう。だから地球の温暖化がすすんでも、彼らはしぶとく生き延びるかもしれない。少なくともそう思わせるだけの迫力があった。
 
 アリという名前がついたものの、彼らはゴキブリに近い昆虫だとされる。
 ということはゴキブリが長い時代を生き抜いてきたように、シロアリにも環境の変化を乗り切るだけの知恵と技術があっても不思議はない。
 ゴキブリは誤解されることが多い虫だ。本当はゴキカブリと表記されるべきだったのが〝誤記〟されてゴキブリになったという名前の由来説からして、勘違いされる素質十分である。「G」という隠語で呼ばれるのは、そんな歴史をひきずっているのかもしれない。
 
 だったらアリはなんだということになるが、アリはハチ目の昆虫だ。それでハチと同じように社会性がある。
 アリとシロアリのちがいを理解するには、その変態ぶりをみるのがいい。アリは卵から幼虫、さなぎ、成虫と変身する完全変態をみせるが、シロアリにはさなぎの時代がない。そういえばゴキブリのさなぎも見たことがないなあ、とうなずけるはずである。
「うそだあ。ゴキブリが、さなぎをおしりにくっつけているところをこの目でちゃんと見たぞ!」
 などと主張する人がいたら、無視しよう。
 それは、さなぎにあらず。卵鞘(らんしょう)と呼ばれる、ゴキブリの卵のかたまりだ。
 
 そんな話はそこいらに捨て置くとして、オーストラリアのシロアリ塚を見て以来、ぼくの頭には「シロアリは、城アリだ」というフレーズが住みついてしまった。城をイメージしたのはその塚のせいだが、巨大な塚の中で生活するシロアリたちをみれば、あながち間違った感覚でもないように思う。
 シロアリの社会には女王シロアリと王シロアリがいて、帝国を築いている。そしてその下に兵隊シロアリだとか働きシロアリが存在し、戦国時代さながらの階級や序列を保って生きているのだ。
 さらに見方を変えると、シロアリは「超個体」の存在なのだという。同じ塚で暮らすシロアリたちがそれぞれの務めを果たすことで、ひとつの集合体となっている。
 巨大な塚は、それ自体が呼吸している。だから、シロアリたちも快適な日常が維持できるのだと説く学者もいる。そんなにすごいものをつくる力があるなら、ニンゲンも見習うべきではないか。
 ところがそんなシロアリ社会には、さらに別の階級がある。いわく、きのこを育てる種類は高等であり、そうでないものは下等なのだそうだ。高等な種は沖縄にもいるようだが、ぼくはまだ見たことがない。
 身近で見るシロアリはたいてい、白い。いや、半ば透き通っている。
 そういうスケルトンの体を持つため、腹の中が丸見えだ。腹の探り合いということばはこのシロアリの体から生まれた、などというダラケた学説はまったく存在しない。
 
 それにしても何かに似ている。
 そう思った瞬間、ハナアブの幼虫が頭に浮かんだ。
 俗に「オナガウジ」と呼ばれるしっぽの長いアイツだ。シロアリのスケルトンボディーは、あれにそっくりだと思った。
 はっきりいって、気色悪い。あしがないのがイカン。
 そう言うと花粉を運んでくれるハナアブ成虫には申し訳ないのだが、幼虫はあしがないだけで損をしている。
 
 
 
 そのオナガウジにも似た、というかそれを連想させたシロアリは、くち移しでえさをやりとりする。それによって腸内微生物を共有し、フェロモンが集団内にゆきわたるようにする。
 たまにはウンチのくち移しもあるようだが、下等シロアリはそうすることで、セルロース分解能力の低さを補っているのだという。
 高等シロアリは、セルロース分解酵素を持つ。したがって、そうした面倒なやりとりは必要ない。だからといって、そんなことで高等・下等と差別するのはいかがなものか。
 
 それはともかく、後から地球に現れたアリが、先住民であるシロアリをねたむこともあるようだ。
 シロアリを襲うアリは意外に多く、熱帯地方にはシロアリを主な獲物とするアリがいる。日本でもオオハリアリなどはシロアリを襲って食べる。
 そんなのアリか、とアリが叫ぶならともかく、泣かされるのはシロアリの方である。
写真 上から順番に
・雑木林で見つけたヤマトシロアリ。家屋には頼らないはずだけど、ホントにそうかい?
・オーストラリアで見たシロアリの巨大な巣。シロアリにとっては、なかなか快適な建造物らしい
・いやーな目で見られるゴキブリが、シロアリの仲間だという。だからなんだということはないのだが……
・群れるヤマトシロアリ。階級はあっても、大勢で暮らすのは楽しそうだね
・透き通るだけでなく、キャラメルのような色合いもあわせ持つなんて。うーん、なかなか魅力的なデザインだね
・左:ハナアブの幼虫は「オナガウジ」の名で呼ばれる。これが地球の生きものだと思うとぞっとするが、成長したあかつきにはちゃんと人間の役に立つ
・右:もしかして、口移しでえさをやりとりしようとしている?……ってことはきみたち、下等さん?

 
 
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