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長梅雨のち猛暑(あぜみち気象散歩81)   2020-08-31

●気候問題研究所 副所長 清水輝和子  

 
豪雨と長雨、のち猛暑
 今年の梅雨は長かった。6月は梅雨の晴れ間が多かったが、7月は曇雨天が続き、「令和2年7月豪雨」が発生した。梅雨明けは奄美地方で平年より21日遅い7月20日と、これまでの遅い記録を更新するなど各地で大幅に遅れ、西日本では7月末、東日本と東北南部は8月1~2日だった。梅雨が明けるときびしい暑さが続き、8月17日には静岡県浜松市で国内観測史上最高記録に並ぶ41.1℃を観測した(図1)
 

7月西日本中心に梅雨寒、8月猛暑
図1 地域平均気温平年偏差5日移動平均時系列(2020年6月~8月)(気象庁)
 
 野菜や果物は、7月の長雨と日照不足により生育が遅れ、8月は一転して猛暑と少雨が続いたため、レタスやキャベツなどの夏野菜は天候の影響をうけて価格が高騰している。
 
7月は記録的日照不足と多雨
 梅雨前線の活動は6月末から活発となり、7月は曇雨天が続いて長梅雨となった。
 月降水量は全国的に平年より多かった。東・西日本ではかなり多く1946年の統計開始以来7月として第1位を記録した。また、日照時間も北日本の日本海側を除いて少なく、東・西日本では7月として統計開始以来最も少なかった。気温は沖縄を除いて西日本中心に低かった。西日本では2003年以来17年ぶりに7月としてかなり低くなった(図2)
 

7月本州は西日本中心の低温、記録的多雨・日照不足
図2 気温平年差℃、降水量・日照時間平年比%(2020年7月) 気象庁
 
 7月の上空の天気図を見ると、太平洋高気圧が西にのび、中国南東部に張り出している(図3)。南西諸島は太平洋高気圧におおわれたので気温が高かったが、本州付近への張り出しは弱く、中国からの寒気が西日本に南下した。太平洋高気圧の北側には梅雨前線が停滞し、同じような気圧配置が続いたため梅雨空が続いた。中旬にはオホーツク海高気圧も現れ、北日本の太平洋側から関東では13日~18日頃に梅雨寒となった。
 

太平洋高気圧は西へ張り出し、梅雨前線停滞
図3 500hPa北半球平均天気図 高度と平年偏差(上空5000m付近 2020年7月(平年値は1981年~2010年の平均値)
(気象庁の図をもとに作成)

:平年より高度が低く、気温が低い
:平年より高度が高く、気温が高い
 
 例年ならば、7月の下旬には太平洋高気圧が日本付近に張り出して梅雨が明けるが、今夏は張り出しが遅れて梅雨明けが遅かった。その主な原因はインド洋にあった。インド洋では海面水温が春から高い状態が続き、6月以降は対流活動が活発になった(図4、5)。例年の夏の熱帯の対流活動はフィリピン付近で活発で、海面を吹く風はフィリピン付近に集まり上昇気流が強まって台風が発生するのだが、今年7月は太平洋から上昇気流の強いインド洋に向かって吹き、フィリピン付近は下降気流となって太平洋高気圧に覆われた。台風は6月12日に2号が発生して以降は1個も発生せず、7月はゼロだった。7月に台風が発生しなかったのは1951年の統計開始以来、初めてのことだった。
 

インド洋で高水温
図4 海面水温平年差(2020年7月) 気象庁
 

寒色領域は積雲対流活動が平年より活発
暖色領域は積雲対流活動が平年より不活発
  は下層の風
対流活動はインド洋西部で活発、フィリピン沖で不活発
インドからアジアのモンスーンも不活発

図5 月平均外向き長波放射量の平年差(2020年7月)
(気象庁の図をもとに作成)

 
令和2年7月豪雨発生
 7月は太平洋高気圧の北縁が本州の太平洋沖に東西にのび、同じような気圧配置が続いたことによって、各地で豪雨がたびたび発生した(図3)。7月3~8日は九州から中部地方で、13~14日は中国地方で、27~28日は東北地方を中心に大雨となった。気象庁は熊本県、鹿児島県、福岡県、佐賀県、長崎県、岐阜県、長野県に大雨特別警報を発表した。
 7月3~31日までの総降水量は、長野県王滝村御嶽山で2135.5㎜、高知県馬路村魚梁瀬で2032.5㎜など2000㎜を超えた所があり、多い所では年間降水量の半分を超える大雨が降り、岐阜県下呂市萩原では76%にもなった(図6)。また、7月上旬の全国のアメダス964地点の降水量の総和は208,308.0㎜に達し、平成30年7月豪雨の記録を超えて、1982年以降では最も多かった。
 

各地で豪雨発生
図6 期間降水量分布図(2020年7月3日0時~31日24時)
 
 この豪雨によって球磨川、筑後川、飛騨川、江の川、最上川などの大河川が氾濫し、土砂災害や洪水により甚大な被害が発生した。内閣府非常災害対策本部の8月24日までのまとめによると、全国の死者行方不明者は86人、住家の全半壊や浸水などによる被害は18,492棟で広範囲に広がった。農林水産省の発表では農作物等の被害額は約54億円、農業用ハウスや農地・農業用施設は約920億円にのぼった。
 
豪雨の原因
 顕著な大雨に見舞われた九州では発達した積乱雲が次々と発生し、線状に並ぶ線状降水帯が複数形成されて、猛烈な雨が断続的に降った。気象庁の調査によると、7月4日の未明から朝にかけては長さ約280㎞、幅約70㎞と規模の大きな線状降水帯が発生し、熊本県天草・芦北地方や球磨地方を中心に、猛烈な雨が降った(図7)
 

東シナ海と太平洋高気圧の縁辺から大量の水蒸気が入り、線状降水帯が発生
図7 豪雨発生時のレーダー図とメソ解析図(2020年7月4日)気象庁
左図 レーダー 7月4日5時55分
右図 気象庁メソ客観解析による950hPa面(高度500m付近)の水蒸気流入量(カラー、g/㎡/s)、風(黒矢印、m/s)と海面気圧(黒実線、2hPa毎)の分布 7月6日12時

 
 右図を見ると、4日は梅雨前線が停滞し、前線上を低気圧が進んだ。水蒸気量の解析では、この低気圧や前線に向かって東シナ海から非常に湿った空気と太平洋高気圧の縁に沿った湿った風の流れ込みが強まり、大量の水蒸気が流入したため、大規模な線状降水帯が発生した。京都大学防災研究所の中北英一教授の解析では、球磨川流域付近では長さ200~300㎞、幅50㎞に広がった。2017年の九州北部豪雨では長さ50㎞、幅10キロだったのと比べても大規模だったことが分かった。温暖化の進行と共に線状降水帯の大きさも、豪雨の期間も変わっていくようだ。
 

東海上で高気圧強まり、南西風強まる
図8 500hPa平均天気図 高度と平年偏差(上空約5000m付近)
2020年7月上旬(平年値は1981年~2010年の平均値)
(気象庁の図をもとに作成)

:平年より高度が低く、気温が低い
:平年より高度が高く、気温が高い
 
 長期間にわたり大雨をもたらした要因は、上空の風の流れにもあり、図8のように寒気が東シベリアから朝鮮半島、東シナ海に南下した。また、日本の東海上では高気圧が強まって偏西風は日本付近で大きく蛇行し、南西風が吹いて南から水蒸気が入りやすい流れになった。この上空の風の流れは、ユーラシア大陸を流れるシルクロードパターンといわれる亜熱帯ジェット気流が顕在化し、偏西風の蛇行が強化されたためと考えられている。
 今夏の北半球の天候の特徴は、インド洋の高水温によって降水の分布が変わり、東アジア一帯が大雨に見舞われたことがあげられる。太平洋高気圧の西への張り出しが強かったことから、中国の華中では梅雨前線が6月から7月にかけての長期間にわたり停滞し、前線の活動も活発で長江流域では記録的大雨となった(図3)。江西省南昌では、7月の降水量は693㎜と平年の約5倍にもなり、1998年の457㎜を上回って最も多くなった。朝鮮半島も同様に、7月下旬から8月上旬頃にかけて梅雨前線の活動が活発となり豪雨に見舞われた。台風の接近も多く、台風5号は韓国南部に、台風4号と8号は北朝鮮に上陸し、洪水や土砂災害などの被害をもたらした。
 
8月は猛暑、日本上空に背の高い高気圧
 インド洋で活発だった熱帯の対流活動は7月末には弱まり、南シナ海からフィリピン周辺で台風が次々と発生した。対流活動がインド洋から西太平洋に移ったので、太平洋高気圧が強まり日本に張り出した(図9)
 

強い太平洋高気圧が西日本中心におおう
図9 500hPa北半球平均天気図 高度と平年偏差(上空約5000m付近)
2020年8月17日(平年値は1981年~2010年の平均値)
(気象庁の図をもとに作成)

:平年より高度が低く、気温が低い
:平年より高度が高く、気温が高い
 
 梅雨が明けると東・西日本を中心に連日きびしい暑さが続き、熱中症で救急搬送される人が急増した。長梅雨で低温だった7月から一転して8月は猛暑が続き、体が暑さに順応できなかったためか、東京23区の8月24日までに熱中症による死亡者数は170人にのぼり、統計が残る2007年以降では8月として過去最多を記録し、昨年1年間の135人を超えた。極端な天候から極端な天候へ急激に変化することは、温暖化による現象の1つとして今後も現れやすくなり、熱中症のリスクがより高まるかもしれない
 東京都心では、最高気温が35℃を超える猛暑日が8月としては29日で11日となり、2019年、1995年の10日を上回って1875年の観測開始以来最多を記録した。また全国921地点の8月の猛暑日は、1日200以上観測された日が30日までに9日もあり、統計のある2013年以降で最も多かった。
 
 8月の猛暑をもたらした太平洋高気圧は、500hPaの高度では例年ならば上空5880mの範囲だが、今年は5940mの高さにまで発達して日本をおおうことが多かった(図9)。さらに上空の100hPaの天気図では、夏季にヒマラヤ上空に現れるチベット高気圧が強まり、日本付近に張り出した。日本の上空は強くて背の高い高気圧におおわれ、下降気流が強まって、猛暑と少雨の原因となった。8月前半はチベット高気圧が張り出して日本をおおったが、後半はチベット高気圧と分離して16800mの高度に独立した強い高気圧が日本上空に現れた(図10)。この独立型のチベット高気圧は、近年はしばしば日本付近に現れて猛暑をもたらしている。
 

チベット高気圧並の強い高気圧が日本上空をおおう
図10 100hPa北半球平均天気図 高度と平年偏差(上空約16000m付近)
2020年8月27日(平年値は1981年~2010年の平均値)
(気象庁の図をもとに作成)

:平年より高度が低く、気温が低い
:平年より高度が高く、気温が高い
 
 また、台風の経路によって太平洋高気圧が強められ、残暑がきびしくなっている。台風5号と8号は九州の西海上を北上し、朝鮮半島から中国北部に上陸した。台風が九州の西海上から日本海や朝鮮半島、中国北部、沿海州を北上すると、上昇した気流が東側の日本付近で下降気流となって太平洋高気圧を強める。31日現在沖縄の南にある台風9号も、九州の西を北上する予想となっている。今後、太平洋高気圧を強め、北日本中心に異常な残暑となりそうだ。日本の南海上は30℃以上の高水温となっているので、強い台風の来襲にも警戒が必要だ。

 
 
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