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4年ぶりの寒い冬(あぜみち気象散歩90)    2022-02-22

●気候問題研究所 副所長 清水輝和子  

 
周期的に寒波、2月五輪寒波
 今年の冬は寒い。12月前半は北日本中心に暖かな師走だったが、後半から気温が下がり、年末年始は全国的にきびしい寒さに見舞われた(図1)。1月中旬は北日本で寒さは和らいだものの、東・西日本から沖縄・奄美に寒気が南下し「北暖西冷型」の気温分布になった。下旬は東日本以西で寒さは一時緩んだが、1月末には北日本から寒気が南下し2月7日頃にかけて「立春寒波」に見舞われ、日本海側は大雪となった。
 

年末年始寒波、1月中旬北暖西冷型、2月立春寒波、五輪寒波
図1 地域平均気温平年偏差5日移動平均時系列(2021年12月~2022年2月)(気象庁)
 
 立春寒波が終わり、日本海側の大雪もおさまった2月10日、今度は太平洋岸で雪が降った。都心で2㎝、河口湖で35㎝など関東甲信地方を中心に積雪となった。2月は太平洋側に降雪をもたらす南岸低気圧が周期的に通り、太平洋側に雨や雪を降らせた。2月半ば頃からは、中央アジアから中国に南下した寒気が日本までのびてきた。強い寒気の中心が冬季五輪の会場の北京周辺を通り、日本に東進してきたので“五輪寒波”といえばいいのだろうか。北陸から東北を中心に日本海側は大雪に見舞われた。青森県では除排雪にかかる費用が増加し、過去最大規模の271.1億円になると推計されている。札幌市では例年にない大雪で、雪捨て場が満杯だという。
 今冬は2018年以来4年ぶりの寒い冬になっている。4年前の冬は今冬と同様にラニーニャ現象が発生した。
 
2年続けてラニーニャ現象の冬
 昨年秋から、太平洋赤道付近の海面水温は東部で平年より低くなり、ラニーニャ現象が発生した(図2)。じつは、昨冬もラニーニャ現象だった。2020年夏に発生し、昨年春に終息した。通常はラニーニャ現象が終わると、次はエルニーニョ現象が発生し、交互に繰り返すことが多い。エルニーニョは同海域が平年より高くなる現象だ(図3)。稀にそれぞれの現象が続けて発生することもある。過去には1975年春と2007年春にラニーニャ現象が終わった後、翌年春にラニーニャ現象が発生した。今回のラニーニャ現象では春にラニーニャが終わり、半年も経たない秋に再びラニーニャ現象が発生した。終息した年に発生したのは、統計のある1949年以降では初めてのことだ。
 

昨秋からラニーニャ現象発生
図2 海面水温平年差(2021年12月上旬) 気象庁
 

エルニーニョ現象
図3 海面水温平年差(2015年12月) 気象庁
 
 ラニーニャ現象が発生すると太平洋赤道付近の中部から東部の広い範囲で低水温になるため、大気を冷やすような働きをし、数か月遅れて地球全体の気温が下がる。
 反対にエルニーニョ現象が発生すると数か月遅れて気温が上昇する。エルニーニョ現象やラニーニャ現象は熱帯の海洋の変動なので、地球大気の気温は低緯度から変わることが多い。昨年の夏の熱帯太平洋東部の海面水温は平年並の範囲だったが、海面水温の分布はラニーニャライクだった。熱帯太平洋は低い傾向が続いたので、今冬は上空の天気図にも影響が現れた。1月は低緯度で低気圧のエリアが広がり、低緯度の気温が低くなってきた(図4)
 

東シベリア東部にブロッキング高気圧
図4 500hPa北半球平均天気図 高度と平年偏差(上空約5000m付近)
2022年1月(平年値は1991年~2020年の平均値)
(気象庁の図をもとに作成)

:平年より高度が低く、気温が低い
:平年より高度が高く、気温が高い
 
寒波をもたらしたブロッキング高気圧
 ラニーニャ現象の冬は寒いといわれるが、寒さの原因はその年によってさまざまだ。今年1月から2月の上空の天気図で特徴的なことは、東シベリアに高気圧が停滞したことがあげられる(図4)。この高気圧が発生した発端は、12月中旬に北米西沖にあった気圧の尾根で、12月下旬から発達した。月末にはさらに強まって、正月頃には東シベリア東部に高気圧が発生した(図5、6)。このような高気圧は偏西風の流れを止めるので「ブロッキング高気圧」と呼ばれる。また、大陸ではバイカル湖の西にも気圧の尾根ができたので偏西風は大きく蛇行し、年末から寒気が日本付近に南下して、年始にかけて寒波をもたらした。
 

北米西沖とバイカル湖に西で気圧の尾根発達
図5 500hPa北半球平均天気図 高度と平年偏差(上空約5000m付近)
2021年12月25日~2022年1月3日(平年値は1991年~2020年の平均値)
(気象庁の図をもとに作成)

 

東シベリアの東部にブロッキング高気圧発生
図6 500hPa北半球平均天気図 高度と平年偏差(上空約5000m付近)
2022年1月1~5日(平年値は1991年~2020年の平均値)
(気象庁の図をもとに作成)

:平年より高度が低く、気温が低い
:平年より高度が高く、気温が高い
 
 ブロッキング高気圧は東シベリアに停滞して範囲を広げたので、1月中旬は東・西日本中心に寒気が南下し「北暖西冷型」の気温分布になった(図1、7)。1月下旬には高気圧が弱まって東シベリア東部は一時低気圧になり、寒波も収まって寒さは和らいだが、月末頃には再びブロッキング高気圧が現れ、2月上旬にかけて立春寒波となった(図8)
 

東シベリア東部にブロッキング高気圧
図7 500hPa北半球平均天気図 高度と平年偏差(上空約5000m付近)
2022年1月中旬(平年値は1991年~2020年の平均値)
(気象庁の図をもとに作成)

:平年より高度が低く、気温が低い
:平年より高度が高く、気温が高い
 

立春寒波、北京五輪にも寒波
図8 500hPa北半球平均天気図 高度と平年偏差(上空約5000m付近)
2022年1月31日~2月6日(平年値は1991年~2020年の平均値)
(気象庁の図をもとに作成)

:平年より高度が低く、気温が低い
:平年より高度が高く、気温が高い
 
 寒気は中国にも南下したので、2月2日から開催された北京冬季五輪を寒波が襲った。冬の北京は大陸高気圧に覆われて冷え込むが、例年以上に冷え込みがきびしくなった。また、12~13日には寒気の中心が通ったので、地上付近では低気圧が通り大雪が降った。競技は吹雪の中で行われ、一部の競技が延期になるなど、日程や競技者に影響を与えた。強い寒気の中心は東進して中旬後半から日本海側に大雪を降らせ、日本にも“五輪寒波”をもたらした(図9)
 
 

北京から寒気の中心が東進、五輪寒波
図9 500hPa北半球平均天気図 高度と平年偏差(上空約5000m付近)
2022年2月14~18日(平年値は1991年~2020年の平均値)
(気象庁の図をもとに作成)

:平年より高度が低く、気温が低い
:平年より高度が高く、気温が高い
 
北極寒気は2波数型
 もう1つ、上空の天気図の特徴として、北極寒気団が1月から2つに分裂し「2波数型」になったことがあげられる(図8、9、10)。北米西沖からシベリア東部、中央アジアにかけて広く高気圧になったため、北極寒気団は2つに分かれた。1つは北米東部から北欧、ロシア西部、中東付近に。もう1つは、日本の東海上を中心に日本、中国南部からインド方面へと大きく分かれた。2波数型が続くと異常気象が発生する。
 

大西洋からの偏西風の蛇行により寒波
図10 500hPa北半球平均天気図 高度と平年偏差(上空約5000m付近)
2022年1月(平年値は1991年~2020年の平均値)
(気象庁の図をもとに作成)

:平年より高度が低く、気温が低い
:平年より高度が高く、気温が高い
 
 通常は長くても1か月ほどだが、今冬は1月から2月にかけて長期にわたり続き、世界各地で異常気象が発生している。日本から中国は寒波に見舞われ、寒気はインド方面にも南下したので、インドの首都ニューデリーでは異例のきびしい寒さに見舞われた。また、米国の東部から中部にかけては暴風雪や寒波が何度も襲った。ロシア西部の寒気は地中海東部から中東方面に南下し、トルコやギリシャの首都アテネでは大雪に見舞われ、サウジアラビアの砂漠に雪やヒョウが降ったと報じられた。再発生したラニーニャ現象の影響もあり、低緯度に近い地域まで寒気が押し寄せ、中東に降雪をもたらした。
 一方、高気圧に覆われ、乾いた北西風が入ったイタリアやスペインは少雨となっている。スペインでは昨年10月から干ばつが続いたためダムが干上がり、水没していた村が姿を現したという。
 
 寒波の原因としては、偏西風の流れの影響も見逃せない。日本の冬は、大西洋からユーラシア大陸の偏西風の流れの影響をうけることが多い(図10)。偏西風の強い風の流れは2本あって、北半球の北側を流れる寒帯前線ジェット気流は、1月以降は大西洋北部に停滞した高気圧により、大西洋で北上しロシア西部で南下、バイカル湖の西で北上して日本で南下した。南側を流れる亜熱帯ジェット気流は、大西洋からの波が中東からインドでゆるやかに蛇行し日本付近で寒帯ジェット気流と合流して寒波を長引かせた。
 今冬の1月以降の寒波は、ブロッキング高気圧の持続と北極寒気の2波数型、大西洋からユーラシア大陸の偏西風の蛇行、さらにラニーニャ現象の影響など、複数の要因が重なって長く続いたと考えられる。
 
ラニーニャ現象は春に終息
 ラニーニャ現象は当初は冬には終わる予報だったが、気象庁の2月10日発表では春まで続く予報に変わった(図11)。ラニーニャ現象の連続の発生、または大規模なラニーニャ現象が発生すると、赤道太平洋の低水温の影響が大きくなり、地球の気温は低下する。世界の平均気温はここ数年、毎年のように過去最高を更新しているが、2021年は1891年の統計開始以来6番目の高さだった。図12のグラフを見ると、2014年春に発生した期間が長く大規模なエルニーニョ現象の影響で、世界の気温は2015年に急上昇した。その後2017年秋から翌年春にかけてラニーニャ現象が発生したので2018年はやや下がったが、2018年秋から2019年春にかけてエルニーニョ現象が発生し、再び気温が上昇した。2020年は1991年から2020年の30年平均値より0.35℃も高くなり、過去最高記録を更新した。昨年はラニーニャ現象が再発生してやや下がったものの、平均値より0.22℃も高かった。
 

図11 海面水温の経過と予測 (2022年2月10日発表)気象庁
上の図は、エルニーニョ監視海域の海面水温の基準値との差の5か月移動平均値(指数)の推移を示す。11月までの経過(観測値)を折れ線グラフで、エルニーニョ予測モデルによる予測結果(70%の確率で入ると予想される範囲)をボックスで示している。指数が赤/青の範囲に入っている期間がエルニーニョ/ラニーニャ現象の発生期間。基準値はその年の前年までの30年間の各月の平均値。

 

昨年の世界の年平均気温はやや下がったが第6番目に高い
図12 世界の年平均気温偏差の経年変化(1891~2021年)(気象庁)
(平年値は1991年~2020年の平均値)

 
 世界の平均気温は、短期的には主にラニーニャ現象とエルニーニョ現象の影響と思われる変動を繰り返している。2021年はラニーニャ現象が連続して発生したことによってやや下がったとはいえ、温暖化が停滞したといわれた2000年代の水準にも戻っていない。今冬は世界各地から寒波のニュースが伝えられているが、長期的には地球温暖化で世界の気温は上昇傾向が続いているため、安心することはできない。

 
 
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