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世界で、食料の3分の1が失われている-FAO報告書 (松永和紀の「目」16)  2011-06-06

●科学ライター 松永和紀  

 
 昨年秋、本欄で国内での「食べ残し」の多さなどを取り上げ、「食品ロスを減らし、温暖化防止にも貢献する」として紹介しました。世界でも食料の損失は大きな問題となっており、5月中旬、FAO(国連食糧農業機関)が報告書を発表し、ドイツで会議も開催されました。報告書は大変ショッキングな内容で、開発途上国と先進国では課題が質的に大きく異なり、対策も違うことを明確にしています。
 ところが、飽食日本では残念ながら、このFAOの報告書はほとんど報道されていません。ぜひ知っていただきたいと思います。
 
FAOが発行した報告書
FAOが発行した報告書
「Global Food Losses
 and Food Waste」
 報告書は、スウェーデンの研究機関がFAOの委託を受けて、昨年8月から今年1月にかけて調査しまとめたものです。世界で生産されている食料の3分の1が失われており、その量は年間に13億tに上る、としています。先進国で6億7000万t、開発途上国でも6億3000万tが失われているのです。
 ただし、損失といっても、先進国と途上国では意味合いが違います。報告書は、「食品ロス」(loss)と「食品廃棄」(waste)に分けて論じています。
 
 食品ロスは、生産や収穫、加工などの過程で失われてしまうもので、主に開発途上国での大きな問題です。たとえば、収穫した穀物を天日干しして不十分な施設に保管しておくと、その間にネズミに食べられてしまったり、虫やカビなどに汚染されたりして、食べられる量が減ってしまいます。あるいは、暑い地域では、搾ったミルクを冷蔵ではなくそのまま加工工場へ運ぶことを余儀なくされ、一部は傷んで使えなくなってしまいます。また、古い遅れた機械を使うと、加工途中の食品をこぼしてしまったり、ということも起こりやすいのです。
 
 一方、食品廃棄は先進国の大きな問題です。生産者や小売店などは、サイズや形などが規格に合わない野菜を食品として取り扱おうとせず、そうした野菜は捨てられたり飼料になったりしています。また、食品企業が一人前には多すぎる量を提供したり、消費者が食べきれないのに皿に山盛りの食べ物をとって喜んでいたりして、それらは結局、食べきれないまま廃棄につながっています。
(日本の農水省が使っている「食品ロス」という言葉は、FAOの今回の定義とは異なっており、FAOの食品廃棄に相当しますので、ご注意ください)。
 
 EUや北米の一人当たりの年間廃棄は95〜115kgと見積もられています。一方、サハラ砂漠以南のアフリカや南アジアでは、6〜11kgに留まっています。先進国では年間に1人あたり900kg以上の食品が生産される一方、最貧国ではわずか460kg。そして、途上国では約40%が収穫後や加工の段階で失われ、先進国では40%以上が販売店や消費者の段階で捨てられているのです。
 
 報告書は、途上国の食品ロスについては、収穫機械や加工、包装技術などの向上、流通ルートの整備等が重要だと対策を提案しています。先進国の廃棄については、関係者が十分にコミュニケーションをとることなどを求めています。形やサイズという規格にこだわっている消費者は多くはないでしょう。たとえば、ファーマーズマーケットなどで、生産者が直接、消費者とつながることも、廃棄を減らす手段となるかもしれません。また、消費者が食料の貴重さを再認識し、「捨ててはいけない、食べ残しは許容されない」と意識することも重要です。学校での教育や政策による理解促進も求められます。
 
 食料は、限られた土地や水、エネルギーなどから作られるものです。報告書は、温室効果ガス削減という観点からも、食品の損失を減らすことの重要性を訴えています。
 日本では、食品ロスの問題は大きくありませんが、廃棄問題は深刻です。報告書は、デンマークやイギリスの市民団体による廃棄削減の取り組みにも触れています。消費者に計画的な買い物や消費を訴えたり、包装業者や大学、デザインコンサルタントなどが協力して、小売店での包装段階での廃棄を減らそうとしたりしています。日本でも、消費者自身による積極的な取り組みが求められているように思えてなりません。
 
 
参考文献
FAOプレスリリース
FAO報告書

 
 
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