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長かった秋(あぜみち気象散歩71)   2018-12-25

●気候問題研究所 副所長 清水輝和子  

 
暖かな秋
 この秋は北・東日本を中心に気温が高く、暖かな秋だった(図1)。紅葉も遅れ気味で、気象庁の生物季節観測では「かえでの紅葉日」が福井では12月12日、山形では12月5日とそれぞれ平年より13日と15日も遅くなった。11月は寒気や低気圧の影響が少なかったので、暖かな秋晴れが多く、紅葉狩りで観光地はにぎわった。昨年は11月半ばから寒波がやってきて短い秋に物足りなさを感じたが、今年は昨年の分も秋を満喫することができた。
 

11月~12月初めは全国高温、12月寒暖変動大
図1 地域平均気温平年偏差時系列(2018年10月~12月)(気象庁)
 
記録的に遅い初雪
 12月に入っても本格的な冬の到来は遅れ、東・西日本を中心にさらに気温が上昇した。4日には福岡市で26.4℃と各地で夏日も現れ、大分県国東市では12月として過去最高の27.0℃を記録した。暖かな初冬でハクサイやダイコンの生育が進み、鍋物需要も振るわず、農水省の12月10~12日価格動向調査によるとハクサイは平年の75%、ダイコンは73%と3割近くの安値となった。
 北国の初雪も遅かった。北海道最北の地稚内では平年ならば10月22日頃に初雪が観測されるが、今年は平年より23日も遅れ、11月14日だった。1990年11月10日の記録を更新して、1938年の統計開始以来最も遅い記録となった。札幌でも11月20日と平年より23日遅く、昨年より28日も遅い初雪だった。1877年の統計開始以降では128年前の1890年に並ぶ最も遅い記録となった。
 12月は8日頃から冬将軍が来襲し、日本海側はようやく本格的な降雪となった。新潟では平年より14日遅く、金沢では9日、福島では12日、長野市では17日遅い初雪だった。
 
暖秋の原因
 暖かかった秋の原因を上空5000m付近の偏西風の流れ(図2)で見ると、ユーラシア大陸から日本の東にかけて大きく蛇行している。中国大陸と日本の東海上では偏西風は南に下がり、その間の日本付近では北上して、暖かな空気におおわれた。また、南海上は太平洋高気圧が東西にわたり例年より強く、この傾向は12月も続いている。寒気は日本の南まで南下しにくかったため、初雪は遅れた。
 

暖かな空気におおわれ暖秋となった
図2 500hpa北半球平均天気図 高度と平年偏差(気象庁の図を基に作成)
2018年11月(平年値は1981年~2010年の平均値)

:平年より高度が低く、気温が低い
:平年より高度が高く、気温が高い
 
エルニーニョ現象発生
 気象庁は10月10日「エルニーニョ現象が発生していると見られる」と発表した。
 エルニーニョは太平洋の赤道付近の海面水温が東部で平年より高く、西部で低くなる現象で、図3のように監視海域の海面水温は高くなった。エルニーニョ現象が発生すると赤道付近の太平洋中部から東部にかけて広範囲に高くなり、地球大気を暖めるように作用するので、地球全体の平均気温も上昇を始めた。10月の世界の平均気温は平年より0.38℃高く、1891年の統計開始以来2番目の高温となった(図4)。11月も2番目に高い+0.31だった。
 

エルニーニョ現象発生、赤道付近の中部~東部は高水温
図3 海面水温平年差(2018年12月上旬) 気象庁
 

統計開始以降2番目に高い
図4 世界の10月平均気温偏差 気象庁
 
 ラニーニャ現象はエルニーニョ現象とは逆に、熱帯太平洋の東部が低くなる(図5)。昨秋から今春にかけてはラニーニャ現象が発生したので地球大気を冷すように働き、世界の平均気温は下がる傾向だったが、それも一時的で、今秋のエルニーニョ現象の発生で再び上昇に転じた。
 

昨冬はラニーニャ現象、赤道付近の中部~東部は低水温
図5 海面水温平年差(2017年12月上旬) 気象庁
 
 今春までのラニーニャ現象による気温の低下は期待されたほどではなく、気象庁の速報によると、2018年の世界の年平均気温は歴代4位の高温となる見通しだ。長い秋と遅れた初雪の原因は地球温暖化にもあるようだ。
 
エルニーニョ現象春にかけて続く
 12月10日発表の気象庁の予測によると、エルニーニョ現象は春にかけて続く可能性が高い(図6)
 

図6 海面水温の経過とエルニーニョ現象の予測 (2018年12月10日発表)気象庁
上の図は、エルニーニョ監視海域の海面水温の基準値との差の5か月移動平均値(指数)の推移を示す。9月までの経過(観測値)を折れ線グラフで、エルニーニョ予測モデルによる予測結果(70%の確率で入ると予想される範囲)をボックスで示している。指数が赤/青の範囲に入っている期間がエルニーニョ/ラニーニャ現象の発生期間。基準値はその年の前年までの30年間の各月の平均値。

 
 エルニーニョ現象の冬は、太平洋高気圧が例年より強くなり寒気の南下が弱まるので暖冬となる。気象庁の長期予報によると、東・西日本は気温が高く暖冬が予想されている。冬の訪れが遅れたのはエルニーニョ現象の影響が大きい。北日本はアリューシャン付近で低気圧が例年より強く、寒気が入り平年並に寒くなる予想だ。12月の気温の経過をみると(図1)、暖気が入ると記録的な高温になり、寒気が入ると北日本中心に急激に気温が低下している。気温の変動が大きいのが今冬の特徴で、年末には強い寒波がやってくる見込み。この冬は東・西日本では気温のベースは高く、全国的にも寒暖の変動が大きい傾向が続きそうだ。
 

 
 
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