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梅雨寒のち猛暑(あぜみち気象散歩75)  2019-08-30

●気候問題研究所 副所長 清水輝和子  

 
今夏も梅雨に異変が
 今夏は、前半は梅雨寒だったが、後半に梅雨が明けると一転して猛暑となった(図1)。6月末から7月初めには九州南部で豪雨があり、お盆の頃には台風10号が直撃するなど、天候も気温も大きく変動した。
 

夏の前半は梅雨寒、後半は猛暑
図1 地域平均気温平年偏差時系列(2019年6~8月)(気象庁)
 
 近年、梅雨期の大気の流れが変わってきている。
 「梅雨」は、春から夏の移行期にユーラシア大陸を流れるジェット気流がヒマラヤ山脈の南から北へと北上する過程でおきる現象だ(あぜみち気象散歩63参照)。ジェット気流に沿ってインドからインドシナ半島、中国南部、日本へと雨雲の帯が連なる大規模な現象なのだが、今年も梅雨に異変がおきた。例年ならば7月下旬の梅雨明け頃にヒマラヤの北へ北上するジェット気流が、今夏は6月に入って間もない頃には北上してしまい、梅雨らしい偏西風の流れではなくなった。6月上旬には1か月以上も早くアフリカの亜熱帯高気圧が強まってインド半島まで張り出し、ジェット気流を北上させてしまった(図2)
 

6月上旬にはアフリカからインドにかけて亜熱帯高気圧強まる
図2 500hPa北半球平均天気図 高度と平年偏差(気象庁の図を基に作成)
2019年6月7日(平年値は1981年~2010年の平均値)

:平年より高度が低く、気温が低い
:平年より高度が高く、気温が高い
 
 例年の梅雨の雲は図3の衛星画像のようにインドからインドシナ半島、中国南部、日本へと雲の帯が連なっているが、今年は梅雨前線の雲の列はインドにはつながらず、ユーラシア大陸の偏西風の流れに沿うように雲の帯が伸びている(図4)
 

例年の梅雨前線の雲はインドシナ半島からインドへ連なる
図3 気象衛星画像(2012年6月20日12時)気象庁
 

梅雨前線の雲はインドシナ半島からインドにのびずユーラシア大陸の偏西風の流れのそってのびる
図4 気象衛星画像(2019年6月20日12時)気象庁
 
 偏西風の流れの中で特に強い流れがジェット気流と呼ばれ、亜熱帯ジェット気流と寒帯ジェット気流がある(図2)。この2つのジェット気流の変動と太平洋高気圧の張り出しの強弱によって、6~7月の日本の天候が変動した。
 
 
九州南部で豪雨
 日本付近では太平洋高気圧の張り出しが弱く、6月中旬頃から寒気が南下した(図5)。6月下旬頃からは西日本から東日本に梅雨前線が停滞し、太平洋高気圧の縁辺を湿った南西風が入り、九州南部を中心に大雨となった。図6では梅雨前線が九州付近に停滞し、フィリピンの北東には熱帯低気圧があって、太平洋高気圧の縁辺から多量の湿った風が送り込まれた。典型的な集中豪雨型の気圧配置が続いて豪雨が発生した。
 

太平洋高気圧の張り出し弱く、寒気南下
図5 500hPa北半球平均天気図 高度と平年偏差(気象庁の図を基に作成)
2019年6月(平年値は1981年~2010年の平均値)

:平年より高度が低く、気温が低い
:平年より高度が高く、気温が高い
 

九州南部豪雨
図6 地上付近の天気図(気象庁の図を基に作成)2019年7月1日15時
 
 6月28日から7月5日までの総降水量は宮崎県えびの市えびので1089.5mmなど、九州北部や南部で400mmを超えたところもあった(図7)。大雨により河川の氾濫や浸水害、土砂災害など大きな被害が発生した。
 

九州南部を中心に豪雨
図7 降水量合計値(2019年6月28日~7月5日)
 
梅雨寒と日照不足、のち猛暑
 一方、北・東日本の太平洋側では6月28日頃から曇りや雨の日が続き、気温も平年より低く、梅雨寒と日照不足が続いた(図8)。上空には寒気が南下し、地上付近ではオホーツク海に高気圧が停滞して、太平洋側には三陸沖から「ヤマセ」と呼ばれる冷たい北東風が吹いた(図9)。東日本は7月として12年ぶりの低温となり、太平洋側の日照は少なかった。西日本も曇雨天が続き、7月の気温は低く、太平洋側の日照時間はかなり少なかった。
 

北・東日本の太平洋側は、梅雨寒と日照不足
図8 気温・降水量・日照時間の平年差・比(2019年7月6~12日)気象庁
 

オホーツク海高気圧現れ梅雨寒
図9 地上付近の天気図(2019年7月6日21時)気象庁
 
 7月上・中旬と続いた梅雨寒と日照不足の影響を受け、キュウリやナスなど野菜の市場価格は値上がりし、スイカ、モモなどの夏果実は梅雨寒で消費が低迷して値が下がった。
 7月下旬に入ると、太平洋高気圧は徐々に強まって、西日本と北陸では24~25日に梅雨が明けた。関東甲信や東海、東北では台風6号が南海上から北上したため、梅雨明けは28~31日と遅れた(図10)。台風6号は27日三重県南部に上陸し、勢力を弱めて岐阜市で熱帯低気圧に変わると、28日関東北部を通り、福島県沖へ進んだ。
 

台風6号上陸
図10 台風6号経路図(2019年7月26~27日)気象庁
 
 台風の通過後は太平洋高気圧が強まり、日本付近をおおったので、きびしい暑さが続いた(図11)。札幌市では7月29日から10日間も30℃を超える真夏日が続き、1951年以来の猛暑となった。総務省消防庁の調べによると、熱中症で救急搬送された人は8月1~18日までに全国で31,713人(速報値)に上り、2008年の統計開始以来8月として最高記録となった。記録的猛暑だった昨年より多くなったのは、梅雨寒から猛暑へと急激な気温の変化に対応できないことが大きかったのかもしれない。
 

太平洋高気圧におおわれ猛暑
図11 500hPa北半球平均天気図 高度と平年偏差(気象庁の図を基に作成)
2019年7月30日~8月3日(平年値は1981年~2010年の平均値)

:平年より高度が低く、気温が低い
:平年より高度が高く、気温が高い
 
台風10号お盆を直撃
 8月は2つの台風が上陸した。1つは台風8号で6日宮崎県宮崎市付近に上陸し、九州を縦断して対馬海峡に抜けた(図12)。九州や四国で大雨となり、宮崎空港では最大瞬間風速39.6m/sを観測した。
 

台風8号宮崎県上陸
図12 台風8号経路図(2019年8月2~7日)気象庁
 
 台風10号は8月6日マリアナ諸島で発生し、日本の南海上をゆっくり北上した(図13)。一時超大型になったがその後やや弱まり、大型の台風となって接近し、15日に豊後水道を北上した。愛媛県佐多岬を通過し、同日15時頃広島県呉市付近に上陸。中国地方を縦断して夜には山陰沖へ抜けた。その後日本海を北上し、16日に日本海北部で温帯低気圧に変わった。西日本と東日本では非常に強い風と大雨に見舞われた。12~17日の総雨量は高知県魚梁瀬で872.5mmを観測するなど、西日本の太平洋側を中心に500mmを超える大雨となった。JR西日本は接近前の14日に翌15日の山陽新幹線などの運休を事前に発表し、混乱を避けられた面もあったが、お盆休みと帰省ラッシュを直撃した台風に、海山のレジャーや交通機関は大きな影響を受けた。また、暴風雨により四国や近畿地方では水稲の倒伏や梨の落下、ハウスの破損などの農業被害があった。
 

台風10号中国地方縦断
図13 台風10号経路図(2019年8月7~16日)気象庁
 
 台風10号の上陸で南よりの風が山を越え、フェーン現象により日本海側では気温が上昇した。15日は新潟県胎内市中条で40.7℃、山形県や石川県でも40℃を超えるきびしい暑さとなった。きびしかったのは日中の気温ばかりではなかった。夜の気温も下がらず、15日の最低気温は新潟県糸魚川で31.3℃と猛烈に寝苦しい夜となった。国内で31℃を上回ったのは初めてで、最低気温として歴代第1位の高温記録となった。
 
エルニーニョ現象終息し、ラニーニャライクへ
 今夏、梅雨寒から一転して猛暑になり、気温が大きく変動したのは、熱帯の海水温に原因があるようだ。
 太平洋赤道付近のペルー沖の海水温は6月下旬に急に下がり、平年より低くなった(図14)。昨年秋にエルニーニョ現象が発生し、ペルー沖は平年より高い状態が続いていた。気象庁の6月の予測では「夏までエルニーニョ現象が続く」との見方だった。ところが、7月10日には「エルニーニョ現象は終息したとみられる」と発表した。
 

エルニーニョ現象終息
図14 海面水温平年差(2019年6月) 気象庁
 
 熱帯の対流活動は春までエルニーニョ現象が発生していたので、6月のフィリピン沖ではまだ弱く、7月に入っても弱かった。強まったのは8月に入ってからで、フィリピン沖で上昇した気流は日本の南で下降気流となって太平洋高気圧を強め、日本に張り出して猛暑となった。エルニーニョ現象が終わり、ペルー沖の監視海域の海面水温がエルニーニョライクからラニーニャライクになり、熱帯の対流活動もエルニーニョのタイプからラニーニャのタイプに変わったことが、梅雨寒から猛暑へと天候が大きく変化した原因のひとつになった(図15)
 
 気象庁は8月9日、「エルニーニョ現象もラニーニャ現象も発生していない平常の状態となっている。今後冬にかけて平常の状態が続く可能性が高い(60%)。」と発表した(図16)
 

ラニーニャライク
図15 海面水温平年差(2019年8月上旬) 気象庁
 

図16 海面水温の経過とエルニーニョ現象の予測 (2019年8月9日発表)気象庁
上の図は、エルニーニョ監視海域の海面水温の基準値との差の5か月移動平均値(指数)の推移を示す。9月までの経過(観測値)を折れ線グラフで、エルニーニョ予測モデルによる予測結果(70%の確率で入ると予想される範囲)をボックスで示している。指数が赤/青の範囲に入っている期間がエルニーニョ/ラニーニャ現象の発生期間。基準値はその年の前年までの30年間の各月の平均値

 
アフリカの亜熱帯高気圧強まり、欧州熱波
 今夏は日本だけでなく、世界各地で熱波の異常気象が目立った。地球温暖化で亜熱帯高気圧が年々勢力を強めているうえ、強まる時期も早まっている。インドでは5月から亜熱帯高気圧におおわれて、北部と中部を中心に30日以上連続の酷暑に見舞われた。首都ニューデリーでは6月10日に6月の観測史上最高となる48℃を記録。西部のラジャスタン州チュルでは6月1日50.6℃を観測し、記録的猛暑が続いた。インドでは例年、モンスーンが始まる前の時期にきびしい暑さとなるが、今夏はモンスーンが遅れたので酷暑が長引いた。
 
 欧州ではアフリカの亜熱帯高気圧が強まり、6月下旬と7月下旬の2回にわたって熱波に見舞われた。6月26日から約1週間続いた欧州の熱波は、アフリカの亜熱帯高気圧が強まり欧州に張り出したことが原因だ。図17の5880mの太線で囲まれた亜熱帯高気圧の中にワンランク上の5940mの高気圧の中心が欧州をおおっている。近年はこの5940mの強い高気圧の中心が面積を広げてきている。欧州をおおうほどに強まったのは今夏の異常気象の中でも取り分け驚いたことのひとつだ。アフリカ大陸が暖まり、サハラ砂漠から熱風が吹き込んで、欧州全域が異例の猛暑に見舞われた。
 

図17 500hPa北半球平均天気図 高度と平年偏差(気象庁の図を基に作成)
2019年6月26日(平年値は1981年~2010年の平均値)

:平年より高度が低く、気温が低い
:平年より高度が高く、気温が高い
 
 ドイツやポーランド、チェコでは26日に最高気温が38℃を超えるなど6月の最高気温を更新。イタリア、スペイン、中欧諸国の一部でも最高気温の記録が更新された。フランスでは南部ガール県のガラルグルモンテュで45.9℃を観測し、同国観測史上最高記録だった2003年8月の44.1℃を塗り替えた。フランスやスイスの高山のアルプスでさえ30℃を観測したという。
 
 2回目の記録的熱波は7月25日だった。5940mの強い高気圧の中心は現れなかったが、亜熱帯高気圧の張り出しと偏西風が北に蛇行したことによって、再び熱波が欧州を襲った。オランダでは7月25日に40.4℃を観測。1944年の観測開始以来初めて40℃を超えて最高気温を更新した。英気象庁はケンブリッジ大学植物園で25日に38.7℃を観測し、同国の観測史上最高気温となったと発表した。フランスの首都パリは25日観測史上最高となる42.6℃が記録された。ドイツでも西部のリンゲンで同日41.5℃を観測し、最高記録を更新した。ベルギーでは北東部のクライネブローゲル基地で40.6℃を観測。2回目の熱波は短期間だったがきびしかったという。
 
北極圏も熱波
 この夏、北極圏も暑かった。夏でも涼しいはずの米国のアラスカ州アンカレッジでは7月4日、同市の観測史上最高気温となる32℃を記録。1969年6月に観測された29℃がこれまでの最高気温だった。同州では6月も気温が高く、月平均気温は6月として観測史上最高の15.8℃となった。6月は記録的な乾燥にも見舞われ、降水量は平年のわずか6%だった。極端な乾燥のため、各地で山火事が相次いだ。
 
 ロシアのシベリアでは6月の平均気温が平年より約10℃も高かった。シベリアの大規模な森林火災は例年のことだが、今年は異例の規模になり、プーチン大統領も国防省に消火活動に加わるように指示したと報じられた。森林火災は膨大な量の二酸化炭素が排出されるうえ、森林が持つ二酸化炭素の吸収能力が低下するなど環境に与える影響が大きく、温暖化を加速する要因になる。
 
 グリーンランドでは氷河の溶解が激しく、8月1日には24時間の間で125億tの氷が溶けだしたという。この量は1950年の観測開始以来最大の融解と報じられた。冬に降雪が少なかった上、夏季は暖気と晴天で氷がいつもより早く溶けた。米雪氷データセンターの分析によると、7月の北極圏の海氷面積は平年の19.8%を下回り、観測史上最小を更新。南極圏の海氷面積も平年を4.3%下回り、41年ぶりの小さい面積となった。
 
 北極付近は5月から寒気の放出期が続き、北極付近に寒気は蓄積されず、高気圧におおわれる状態が続いている(図18)。北極海も暖かな高気圧に覆われたので氷が溶け、海氷面積が小さくなった。とくにグリーンランド付近には強い高気圧が居座り、気温が上昇したことが氷河の融解が進む原因になったと考えられる。北極寒気は放出されて中緯度に南下しやすかったので、日本付近では太平洋高気圧が弱まると寒気が入り、梅雨寒の一因にもなった。
 

グリーンランドに高気圧居座る
図18 500hPa北半球平均天気図 高度と平年偏差(気象庁の図を基に作成)
2019年5~7月(平年値は1981年~2010年の平均値)
:平年より高度が低く、気温が低い
:平年より高度が高く、気温が高い
 
 世界の平均気温も上昇し始めた。6月は2016年を上回り1891年の統計開始以降で過去最高となった(図19)。7月も2016年とタイ記録で最高となった。春まで続いたエルニーニョ現象では熱帯の海面水温が高くなるため、大気全体の気温を上昇させた。年平均気温が最も高かった2016年は、エルニーニョの規模が大きく、期間も長かったのでエルニーニョ現象の影響が大きかった。この春に終わったエルニーニョ現象は規模も小さく期間は短かったにもかかわらず、6月の世界の気温は2016年を超えてしまった。それだけ地球温暖化が進行しているということになる。
 

世界の平均気温は過去最高
図19 世界の6月平均気温偏差(気象庁)
 
 それにしても、今夏は「エルニーニョ現象もラニーニャ現象も発生しない平常の状態」だったのに、7月末からの猛暑はきびしかった。本格的な温暖化時代を迎えて、これが平年の夏の暑さになり、猛暑はさらにきびしくなっていくと思われる。
 

 
 
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