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評価二分のエイリアン――寄生バチ(むしたちの日曜日73)  2018-09-14

●プチ生物研究家、ときどき児童文学者 谷本雄治  

 
 世に言う昆虫少年の多くがチョウにひかれるのとちがい、若いころのぼくの関心は鳴く虫、簡単に言えばコオロギの仲間にあった。
 だがこのごろは、庭にやってくるアゲハチョウやモンシロチョウ、ルリタテハ、ツマグロヒョウモン、野山で見つけたクワコ、ヤママユ、ウスタビガといったチョウ目の虫にも心ひかれることがあり、試しに飼うこともする。
 そこで出くわすのが、寄生昆虫だ。いってみれば招かれざる客なのだが、チョウや蛾の幼虫などが寄生バチや寄生バエの犠牲になるのは、自然界のおきてのひとつだから、しかたがない。
 飼育時には当然、その虫に情が移る。寄生の研究や寄生昆虫の標本を手に入れるためにイモムシ・ケムシを飼う人もいるが、それはまあ、例外だろう。多くの場合は、チョウや蛾の成虫の姿が見たいばかりにせっせと草を与え、「このえさはとってもうまいんだぞー」「早くさなぎになってくれよ」「繭をつくれ」「立派な成虫になーれ」などと祈りつつ、こまめに糞を取り除く。
 
 
 
 そうやって訪れたさなぎになる日、羽化する日――。期待を裏切って幼虫の体やさなぎからはいだしてくるのは、ウジムシ状の気色悪い生命体だ。
 それこそが寄生バチであり、寄生バエである。
 予期せぬエイリアンの姿を見ることは、がっかりした気持ちと、それを数倍上回る悔しさが同時にこみ上げてくる瞬間でもある。
 「せっかく楽しみにしていたのに……」
 そういう思いが、ぼくもすこし前までは、強かった。しかし、農業分野で広がりつつある天敵生物の利用を見るにつけ、立場を変えれば、寄生昆虫に感謝したくなるから、まあ、いい加減なものである。
 
 寄生昆虫のうち、実際の生産現場で目にするのは寄生バチがほとんどだ。それも体長数mmという、ちっぽけなものであることが多い。相手にする「害虫」も同じくらい小さなアブラムシ類であったり、コラジラミ類、アザミウマ類だったりするからである。ニンゲン世界でいう、郷に入っては郷に従え、といったところか(ちと違うかも……)。
 
 農家からすれば、圃場の寄生バチは自分たちの味方だ。しかし、趣味のチョウを愛する昆虫ファンにとっては、憎らしい存在である。
 立場によって見方が異なるのは仕方がない。いまは農家と同じ目線で、寄生バチの側に立つとしよう。
 「どうです、かわいいでしょ。こんなに小さな体なのに、けなげなモンです」
 ハウスの中で、寄生バチの利用農家が、愛情たっぷりにわが子を語る。
 そうなったら、異論など口にするものではない。
 「ホント、そうですねえ。ああ、この触角、カッコいい。このスリムな体、うらやましいですなあ」
 「でしょー。何も教えなくてもちゃーんと、自分が倒すべき相手を知っているんですよ」
 それはそうだろう。寄生バチが寄生する虫を間違えたら、生きていけない。
 「だけどね、よっぽど目を凝らさないと、どこにいるのかわからんのですよ。アッハッハ」
 虫好きからすれば、どこにいるのかわからんような飼い方ではつまらんではないの、と反論のひとつもしたくなるが、彼らにすれば飼っているわけではなく、ハウスに「放している」くらいの感覚なのだ。天敵バチがいることで害虫の被害が抑えられ、農薬に頼らずに収穫できるという「結果」がより重要だからである。
 
 わが家の家庭菜園でよく目にするのは、銀タマだ。見ようによっては金とも映るが、金属的なイメージすら抱かせる銀色・金色の玉のようなものがコマツナの葉に出現する。
 菜園初心者にもわかりやすい、アブラムシに寄生したハチのマミーである。マミーはミイラを意味する用語で、コマツナに群がるアブラムシの体の中で育った寄生バチがつくる、張りぼてみたいなものである。
 そんな銀タマが、いくつも目につく。その一方で、アブラムシも負けてなるかとどんどんどんどこ子を産み殖やし、仲間の数を増やしていく。この両者のバランスが大切で、どちらか一方だけ繁栄するのはよろしくない。
 寄生バチからすれば、子孫繁栄のためには、適度に相手を利用するのが一番だ。アブラムシを根絶やしにしたら、寄生バチも生きていけない。
 種名を特定する能力は持ち合わせないが、わが家の常連バチは、アブラバチの一種であるという予測ぐらいはつく。
 そんなアブラバチの仲間に、コレマンアブラバチやナケルクロアブラバチ、ギフアブラバチがいる。
 ――といいながら、種を区別しながら撮った写真を見ても、素人目には違いがはっきりしない。確かめようと専門家に尋ねたこともあるが、彼らとて、しっかり見ないと間違えるという。「だから間違っても、よほどでなければわかりませんよ」というお墨付きももらった。
 それゆえ、素人のぼくが間違えてもなんら問題はないと開き直る。
 いずれにせよ、体長数mmという小さな寄生バチでも、観察しているとなかなかに面白い。
 
 
 
 マミーから抜け出して、そわそわと歩き回るものがあれば、やみくもに飛び回るものがいる。そうかと思えば、毛づくろいならぬ触角づくろい、あしづくろいをおっぱじめるものがいる。いやはや、意外に個性的な行動をとるものだ。
 わが菜園のアブラバチさんも、葉の上にとまって、同じようなことをする。生きているアブラムシに卵を産みつけないことには繁殖できないのだが、その大事をなすためには身づくろいも欠かせまい。
 
 コマツナといえば、モンシロチョウの幼虫である青虫も困った存在だ。
 わが家のように、「虫がついたらまあ、観察用のコマツナにすればよいのじゃ」というところはともかく、多くの場合は収穫するために栽培する。そんな大切なコマツナちゃんに襲いかかる青虫は、にっくき敵以外の何ものでもない。
 などと憤っていると、それまで人間をあざ笑うかのように傍若無人のふるまいをしていた青虫の体の中からなにやらウジムシが出てきて、クリーム色の繭をこしらえる。愚かな菜園主はそのときになってようやく異変に気がつき、声を荒げるのだ。
 「なんちゅうことをしてくれるねん。せっかくの青虫観察が台なしじゃないの!」
 それでもすぐに気を取り直し、こんどはそのアオムシコマユバチの観察に切り替える。
 いやいや、気持ちはいつもそうなのだが、そのうち、観察することも忘れてしまう。
 気がつくとその繭は空っぽになり、お蚕さんのつくる繭とちがって糸を繰ることもできそうにない小さな繭玉だけが残っている。
 アブラバチの造形物である「銀タマ」マミーとどちらがいいかというと、フォルム的には断然、銀タマだ。どーんとデカい銀タマがあれば、青森県のねぶた祭りにだって出すことができる(といいなあ)。
 青虫つながりのイモムシでいえば、野山でとってきたウスタビガの幼虫も、たびたび飼った。そのときにも寄生バチが現れ、ぼくを驚かせたものである。
 初めて見たのは、そろそろ繭をつくるというころだった。
 幼虫の体に、それまでなかった斑点がいくつも現れたのだ。
 「もしや……」
 ウスタビガでは見たことがなかったものの、寄生昆虫だということはなんとなくわかった。
 
 とっさに、クワコを飼ったときのことを思い出した。あのときは寄生バエの幼虫であるウジムシがはい出してきて黒っぽいさなぎとなり、水槽の底にころんと転がった。
 ウスタビガの場合には、ハエよりは良かった。ハエにはどうしても「ウジムシ」という侮蔑的・差別的な表現が頭に浮かぶが、ハチだとかろうじて「幼虫」と思える。
 
 
 
 いやいや、これではいかん、場所や種類がちがえば授粉や人間の病気の治療に活躍しているハエさんに申し訳ないと思うのだが、まわりで聞いても「オヌシは、何を言っておるのだ。ウジムシごときで……」とうなずく人が多いから、まずはお許し願おう。
 
 そんなこんなでウスタビガの幼虫の体を突き破って現れたのは、なんとも不思議な物体だった。
 「これはデスモスチルスの臼歯ではないの!」
 そんなものが突然出てくるはずもないのだが、デスモスチルスの名前の由来にもなったギリシャ語にはぴったりだ。「束ねる」を意味する「デスモス」と、「円柱」である「ステュロス」の合体語が「デスモスチルス」であるからだ。
 知り合いの虫好きに尋ねたが、「はて、何でしょう?」としか答えてもらえない。「でもまあ、そのうちに羽化するさ」と鷹揚に構えていたのだが、ついに羽化することはなく、デスモスチルスの臼歯の化石のように沈黙を保つだけだ。
 ウスタビガで見たもう1回の出来事は、あの美しいみどり色の繭から出てきた寄生バチである。
 全部で6匹。ヒメバチの一種に似ているが、間違いなくそれだと言い切る自信はない。
 寄生バチにもいろいろあって、ぼくが好きなのはカメムシの卵に寄生するものたちだ。カメムシというと臭いイメージがつきまとうが、卵はどれも魅力的で、なかなかのデザインセンスだと思っている。
 そういうハチがカメムシの卵に寄生するシーンを、何度か目にした。
 カメムシタマゴトビコバチだろうか。カメムシの卵の塊があると数匹の卵寄生バチが群れていることが多い。
 ずんぐりむっくりした、実に愛らしい姿である。幼虫の体に産卵しないところと、この見た目のかわいらしさが気に入っている。
 温暖化に伴い、南方系のカメムシが北上しているという話はよく耳にする。
 だとしたら将来、この愛すべき卵寄生バチが人間のために活躍してくれるかもしれない。
 オオスズメバチは「殺人バチ」と恐れられるが、同じハチでも、そうでもないのがいるのだということをアピールするためにも、なんとか頑張ってほしいものだね。
写真 上から順番に
・左:ナケルクロアブラバチの成虫。「泣ける」「鳴ける」という言葉を想像してしまうが、特に関係はない
・右:生きているケムシの体から出てきて繭をつくった寄生バチ。ケムシはまだ生きている。エイリアンもびっくりのおぞましさだ
・在来天敵としての利用が期待されるギフアブラバチ。相手にするのはアブラムシだ
・ギフアブラバチのマミー。銀色や金色の玉のようで、ミニサイズながらカッコいい
・左:ギフアブラバチとそのマミー、アブラムシの3者がそろった。ちょっといい3ショットでしょ
・右:「アリジゴク」の名で知られるクサカゲロウの繭から出てきた寄生バチ。これには、えんま大王も真っ青?
・こんなところに綿の花? 近づいてみたら、寄生蜂にやられたイモムシだった
・これが蚕の繭だったらうれしいが、あまりにも小さくて使い道がない。でも色は純白で、実に美しい
・ウスタビガの幼虫に現れた謎の斑点。繭をつくるころになってこつ然と現れた寄生バチの「これから出るぞー」というサインのようである
・左:クワコを飼っていたら、幼虫の体から出てきたウジムシが繭をつくった。これも寄生バチの一種だ
・右:同じ寄生昆虫でも、ハエはこんなさなぎをこしらえる。かつてはよく見かけたおなじみの形をしている
・ウスタビガの幼虫の体から出てきた謎の物体。デスモスチルスの臼歯に似ていると思うのだが……寄生バチの繭だろう
・ウスタビガの繭のひとつから、これだけの寄生バチが出てきた
・カメムシの卵をねらう、卵寄生バチの一種と思われるハチ。何匹も集まっていた

 
 
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