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水稲の高温障害対策における用水管理の課題と対応の方向  2012-04-04

●農研機構 農村工学研究所 友正達美  

 
背景
 近年、高温障害による米の品質低下が問題となっている。その対策として、品種や栽培技術の観点から様々な方法が、農業改良普及センターなどの農業普及側から農家へ指導されているが、その中には、遅植えや掛け流し灌漑など、灌漑期間や用水量を変化させるものがある。しかしながら、土地改良区等の用水供給側が行う農業用水の供給には、水利権や水利施設による制約があり、高温障害対策による用水需要の変化に充分に対応できないことが多い。
 農水省の調査によれば、2007年に高温障害が発生した土地改良区107地区のうち、69地区では、水利権や水利施設の制約等から充分な用水を供給することが困難であった。
 そこで、農業普及側と用水供給側が連携して、用水の供給可能量を考慮した適切な営農指導をするための、水稲の高温障害対策と両立できる用水管理の調整手法について概説する。
高温障害対策と用水需要
 これまで提案されている高温障害対策の中から、用水需要に影響を及ぼす可能性のあるものを取り出し、技術の内容と用水需要への影響を整理した(表1)。特に、掛け流し灌漑は、気温より温度の低い用水を充分に供給できる場合に高温障害対策として効果が高いとされているが、大きな用水需要を発生させる。一例として、ある県の稲の栽培に関する指針では、高温障害対策としての掛け流し灌漑には10a当たり毎分200~300リットルの用水が必要とされているが、これは日換算で288~432mm/dayであり、普通期の標準的な減水深とされる20mm/dayはもちろん、代かき用水量150~250mm/dayをも越える膨大な水量になる。
 
表1 用水管理に関係する高温障害対策とその用水需要への影響
用水管理に関係する高温障害対策とその用水需要への影響
(クリックすると拡大します)
従来の用水管理による高温障害対策の問題点
(1)用水供給の制約が考慮されていない
 通常、水田の用水計画では、計画時点で想定した用水需要に基づいて必要水量を積み上げて算定されており、水利権上、高温障害対策を行うための水資源の「余裕分」はもともと持っていない。ある灌漑地区での試算では、地区全体での掛け流し灌漑に必要な用水量は、水利権水量の約9倍であった。
 他方、水利施設の送水能力は、用水計画上のピーク用水量、通常は代かき用水量に基づいて設計されるが、この代かき用水量は漏水田でも150~250 mmとされている。また、代かき日数として通常7~10日の期間が想定されており、代かき用水量であっても全ての圃場で一斉に入水することは想定されていない。
 従って、前述の掛け流し灌漑のような300mmを超える用水供給を、地区全体で行うような用水管理は、一般に、水利権上不可能であるだけでなく、水利施設の送水能力の面でも現実的ではない。
 
(2)夏期の用水温が考慮されていない
 また、高温障害対策としての掛け流し灌漑を行う場合、用水温が気温より低いことが前提となるが、2010年に宮城県南部の阿武隈川下流で行った調査では、出穂以降20日間の取水地点での平均水温は灌漑地区の平均気温を上回っていた(坂田ら2012)。河川から用水路、更に水田へと流下するにつれて水温はむしろ放熱により低下していたのである。
 用水供給側が水温を常時観測していることは少なく、「水温が気温より低い」という前提を確認することなく掛け流し灌漑等の水管理が行われているのが実態であろう。
対応の方向
 農業普及側と用水供給側が連携した、水稲の高温障害対策と両立できる用水管理の調整手法を図1に示す。まず、農業普及側が表1の高温障害対策のうち当該地域に適したものを提案し、用水供給側がそれに対する用水供給の可否を検討する。用水供給が不可能な場合、農業普及側は次善の対策を提案する。これにより、用水の供給可能量を考慮した、適切な用水管理を選択することができる。
 用水管理の検討は、表1の予防的技術については作付け前に行い、農業普及側の指導、用水供給側の配水計画に組み込む。対症療法的技術についてはその時の気象条件から高温時に検討を行い、実施の時期など具体的な対応についても協議する。
 この手法を実施した事例では、農業普及側は従来、高温時には掛け流し灌漑を指導していたが、用水供給側との協議により次善の対策として、飽水・保水管理を指導することとなった。
 なお、この手法では農業普及側と用水供給側が情報や意見の交換を密に行う協議・連絡体制が重要となるが、高温障害対策だけでなく、低温障害対策等、用水需要に大きく影響を及ぼす水管理に関する栽培管理に対しても応用することができる。
 
水稲の高温障害対策と両立できる用水管理の調整手法
図1 水稲の高温障害対策と両立できる用水管理の調整手法
(クリックすると拡大します)
参考文献
友正達美・山下正(2009)水稲の高温障害対策における用水管理の課題と対応の方向 農村工学研究所技報209:131-138
坂田賢・友正達美・内村求(2012)宮城県南東部における高気温下の出穂期以降の水温環境 応用水文24:21-29
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