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高温耐性に優れ、寿司米に向く水稲新品種「笑みの絆(えみのきずな)」  2012-03-27

●農研機構中央農業総合研究センター 作物開発研究領域 笹原英樹 

 
背景
 近年の登熟期間の高温傾向により、白未熟粒の増加等に伴う玄米の外観品質の低下が問題になっており、登熟期の高温に強く、安定した外観品質を示す品種の要望が高まっている。また、現在、国内で作付される品種は「コシヒカリ」のように、粘りが強く軟らかい食感のものが大半であるが、あっさりした食感の米が適する用途も少なくない。なかでも、握り寿司はシャリ六分にタネ四分といわれるほど酢飯が味の重要な要素であり、寿司米には酢のなじみが良く、粘りが強すぎず、ほぐれやすい特性が求められる。このような背景から、粘りの強い一般的な良食味品種とは異なり、炊飯米がなめらかで、やや硬く、ほぐれやすく、あっさりした食感を持ち、かつ、高温耐性に優れる品種を目標として「笑みの絆」の育成を行った。
 ここにその育成経過、特性の概要を紹介する。
育成経過
 「笑みの絆」は、中央農業総合研究センター北陸研究センターにおいて、寿司米用として定評のある「ハツシモ」から育成された「岐系120号」を母とし、「収6602」を父とする人工交配を行い、育成された品種である(図1)
 
図1「笑みの絆」の系譜
図1「笑みの絆」の系譜
(クリックすると拡大します)
 
 「岐系120号」は、「ハツシモ」と「愛知61号(後の「朝の光」)の交配後代から、岐阜県で育成された系統である。父本の「収6602」は、短稈で玄米品質が優れた良食味の系統で、短稈・良食味品種「どんとこい」をその系譜に持つ。
 2002年夏に交配を行い、その後、集団育種法で育成を進め、2005年(F5世代)以降は系統栽培により選抜固定を図ってきた。2007年から「収7956」の系統番号を付して、生産力検定試験および食味官能試験等に供試し、2008年(F9世代)から「北陸225号」の系統名で奨励品種決定調査および特性検定試験に供試してきた。2009年より農業生産法人との共同研究により寿司米への適性を検討し、良好な結果を得られた。また、登熟期の高温に強く、2010年の猛暑下においても、優れた玄米品質を示すことが確認された。2011年5月に品種登録出願し、同年8月に出願公表された。
 品種名「笑みの絆」は、「消費者が食べて、おいしさに笑みがこぼれ、生産者との絆が築かれることを願って」命名されたものである。
特性概要
 「笑みの絆」の育成地における特性概要を表1に示した。
 
表1「笑みの絆」の特性概要
「笑みの絆」の特性概要
(クリックすると拡大します)
 
(1)栽培特性・収量性
 出穂期および成熟期は、「コシヒカリ」よりやや晩く、育成地では「中生の晩」に属する。
「コシヒカリ」と比較して、稈長は短く、穂長もやや短く、穂数は多く、草型は「穂数型」である(写真1)。精玄米重は「コシヒカリ」を100とした比率を見ると、「笑みの絆」は標肥区で95、多肥区で109である。やや増肥することで「コシヒカリ」より多収を得られるが、倒伏程度は増す。千粒重は「コシヒカリ」よりやや軽く、やや小粒である。
 
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写真1 「笑みの絆」の草姿
左:笑みの絆、右:コシヒカリ

 
(2)病虫害・障害抵抗性
 いもち病真性抵抗性遺伝子PiaおよびPiiと推定され、葉いもち圃場抵抗性は、「やや弱」、穂いもち圃場抵抗性は「弱」である。白葉枯病圃場抵抗性は「中」、縞葉枯病に対しては罹病性、紋枯病抵抗性は「弱」と判定される。穂発芽性は「やや易」である。
(3)玄米の外観品質および登熟期の高温耐性
 「笑みの絆」の玄米は「コシヒカリ」より、心白、乳白および背基白の発生が明らかに少なく、玄米の光沢に優れ、色沢は同等で、「上下」と判定される(写真2)
 
「笑みの絆」の籾および玄米
写真2「笑みの絆」の籾および玄米
左:笑みの絆、右:コシヒカリ

 
 登熟期に高温に遭遇した2010年の玄米外観品質を表2に、登熟期の高温耐性検定について表3に示した。「笑みの絆」は2010年の高温登熟条件下でも、また、育成地、埼玉県、鹿児島県のいずれの試験地でも強い高温耐性を示したことから、登熟期の高温耐性は「強」と判断される。
 
表2 高温登熟年(2010年)における玄米の外観品質
高温登熟年(2010年)における玄米の外観品質
 
表3「笑みの絆」の高温耐性(2010年)
「笑みの絆」の高温耐性(2010年)
(クリックすると拡大します)
 
(4)酢飯食味官能試験
 「笑みの絆」の 酢飯の外観は「ササニシキ」、「ハツシモ」に優り、「ササニシキ」よりほぐれやすく、なめらかさは「ササニシキ」、「ハツシモ」に優り、粘りは「ササニシキ」より弱い。硬さは「ササニシキ」、「コシヒカリ」の古米より硬く、総合では「ササニシキ」に優る(表4)。2011年産の「笑みの絆」の新米で試作した寿司を写真3に示した。
 
表4 酢飯食味試験成績
酢飯食味試験成績
(クリックすると拡大します)
 
「笑みの絆」の握り寿司
写真3「笑みの絆」の握り寿司(協力:上越市 大寿し)
栽培適地と栽培上の留意点
 「笑みの絆」の適地は、早晩性の特徴から判断すると、東北南部、北陸および関東以西である。
穂数型のため穂数の確保は容易な反面、施肥量が多すぎると倒伏のおそれがある。
 「笑みの絆」の栽培上の留意点は以下のとおりである。
1.耐倒伏性は「やや強」であるが、極端な多肥栽培では倒伏のおそれがあり、タンパク質含有量の増加による食味低下を招くため、適切な肥培管理を行う。
2.いもち病圃場抵抗性が弱いので、適期防除に努める。
3.穂発芽性が「やや易」であるため、適期刈り取りに努める。
4.障害型耐冷性が弱いため、冷害の危険のある地域での栽培は避ける。
5.縞葉枯病には罹病性であるため、常発地での栽培には注意する。
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