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簡易設置型パッドアンドファン冷房で夏季のトマトを安定生産  2014-02-26

●兵庫県立農林水産技術総合センター 農業技術センター 農産園芸部 研究員 渡邉圭太

 
背景と概要
 近年の気象温暖化に加え、害虫侵入防止目的の細密防虫ネット被覆の増加等により、施設内の高温化が顕在化している。このため、トマトでは生育不良や着果不良、生理障害果発生等による減収が大きな問題になっている。
 この対策として、小規模施設に導入できる簡易設置型パッドアンドファン装置を夏場に稼働することで、施設内気温がトマトの生育適温に近づき、飽差(※)が縮小することで気孔開度が大きくなり、ガス交換が促進され光合成速度が上昇する。これにより生育、着果が改善するとともに障害果の発生が抑制され、増収効果を得ることができる。
 
飽差とは、その空気に入る水蒸気の余地で、数値が大きい程空気が乾燥していることを示す。
症状
・草勢の低下や花飛びなどの生育不良
・正常に受粉・結実しない、落花(果)するなどの着果不良
・小果(結実後正常に肥大せず商品価値を失う)、裂果(果実の肥大に伴い果皮表面にひび割れを生じる)をはじめとする生理障害果の発生
以上による正常果収量の減少。
原因
生育不良:高温乾燥による光合成能力の低下。小果の発生を助長する。
着果不良:高温による受粉不良および結実不良、並びに落花。
裂果:根域からの水分供給過剰および高温・強日射による果皮の老化。
対策
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図1 簡易設置型パッドアンドファン装置概略図
 
 簡易設置型パッドアンドファン装置とは、水を滴下し湿らせた網目状の専用パッドに通風し、気化冷却による冷房効果を得る構造である(図1)
 本装置を栽培施設100㎡当たり4台設置し、夏季高温時の日中に稼働させることで、施設内の昇温抑制効果および加湿効果が得られ、トマトの生育・着果が改善されるため増収につながる。
 導入時の初期コストは約20万円/100㎡(装置本体約5万円/台×4台)で、300㎡以下の中小規模施設では、細霧冷房と比較して安価に導入できる。
 また、天窓や天井扇等を追加して換気を促進することで、加湿冷却効果はさらに向上する。
具体的データ
①簡易設置型パッドアンドファン装置による加湿冷却効果
 南北単棟パイプハウス(70㎡)2棟を供試し、簡易設置型パッドアンドファン装置を設置した区(以下、簡易P&F区とする)と対照区を設けて、施設内気温、地温および飽差を測定した(写真、図2)
 
 
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写真 簡易設置型パッドアンドファン装置外観および設置状況(2012年)
 
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図2 簡易P&F区における筐体配置図
 
 施設内気温は対照区に比べ平均値で2.6℃、最高値で3.5℃低下し、日中最高地温(10cm深さ)は1.5℃低下した。また、飽差は平均値で7.9hPa縮小し、顕著な加湿冷却効果が得られた(表1)
 
表1 簡易設置型パッドアンドファンが施設内の日中気温・飽差に及ぼす影響
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※2012年7月16日から8月29日の期間において、10:00~15:00まで測定した。
※両区とも施設開口部を0.4mm目合い防虫ネットで被覆した。
※簡易P&F区には簡易設置型パッドアンドファン筐体を4台設置し、日中のみ稼動させた。
※地温は地下10cmの地点で測定した。

 
②加湿冷却効果によるトマトの生育・収量向上
 南北単棟パイプハウス(70㎡)2棟を供試し、それぞれ簡易P&F区と対照区とした。両区で実際にトマトを栽培し、生育・収量に及ぼす影響について調査した。
 草丈・茎径ともに簡易P&F区が対照区を上回り、トマトの生育が旺盛となった。着果率は対照区に比べ約5%増加し、着果が改善された。また、全果重、果重、および正常果率が増加したため、株当たり正常果重が38%増加し、増収効果がみられた(表2)
 果実の糖度は簡易P&F区と対照区でほぼ同等であった(データ略)。
 
表2 簡易設置型パッドアンドファンがトマトの生育・収量に及ぼす影響
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※両区とも施設開口部を0.4mm目合い防虫ネットで被覆
※簡易P&F区には簡易設置型パッドアンドファン筐体を6台設置し、日中のみ稼動させた。
※品種「桃太郎グランデ」を用いた抑制作型(2011年6月30日定植)で、土耕栽培、畝幅220cm、株間50cmの2条植えとし、8段目まで調査した。
※草丈は8段花房までの長さとした。茎径は4段と5段花房の中間付近で計測した。
※着果率はP&F稼働以降に開花した花房について調査、4-8段花房の平均値とした。

 
※なお、本技術は、新たな農林水産施策を推進する実用技術開発事業に係る「簡易設置型パッドアンドファン冷房を利用した実証試験」(2010-2012年)により実施した成果である。
 
(図表はクリックで拡大します)
参考資料
中西幸太郎.簡易設置型パッドアンドファン冷房が高温期のハウス内温度・飽差並びにトマトの生育・収量に及ぼす影響.園学研.12(別1).94(2013)
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