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ウマ虫――長く速く親しみやすく(むしたちの日曜日117)  2026-01-20

●プチ生物研究家、ときどき児童文学者 谷本雄治  

 
 この冬初めて、ウマノスズクサの熟した実が見られた。もう何年も栽培しているのに、実を見たことがなかった。だから、うれしくてたまらない。
 ウマノスズクサはジャコウアゲハの食草なので、大量発生する幼虫に食べられるのはしかたがない。だが、まわりの環境が大きく変わったせいか、急に飛んでこなくなった。
 
 
 
 ウマノスズクサの側に立てば、花を咲かせ、実をつけるチャンスだ。その証拠に、花はいつになく大量に咲いた。ラッパ状の独特の花はがく片が伸びて筒になったものだそうで、がく筒と呼ばれる。
 その花がいっぱい咲いた。
 
 
 
「よしよし、今度こそ実ができるぞ」
 早くからその気になって待ったのだが、花は咲けど実にはならず、時間だけがどんどん過ぎていく。つるは伸び、フェンスを覆い尽くし、庭木にからみつき、時には竪樋(たてどい)を伝って2階にまで進出しようとした。
 有体にいえば、勢いがある。それなのに、結実したのはたったのひとつ。それからは毎日、ハラハラしながら観察し、雨にも風にも負けずにつるにぶら下がっているのを見ては、「よしよし、きょうも良い子であったな」と心の中で声をかけた。
 だるま型の実は未熟の青い期間が長く、なかなか茶色にならない。そして北風が吹くようになってようやく、茶色になってきた。
 ウマノスズクサの名前の由来は諸説あるが、よく知られるのは馬の首にかける鈴に似た実がなるからという説だ。しかし、簡単には結実しないものらしい。それなのに、そんな実からウマノスズクサの名を思いついたのはどんな人だろうと思ってしまう。
 ウマノスズクサの実は「馬兜鈴(ばとうれい)」と呼ばれ、去痰・解熱効果が期待できるという。だが、せっかく手にした実なのだから、ながめるだけの目のくすりにしようと思う。
 
 気がつけば年が改まり、2026年は午の年。馬つながりでウマノスズクサの話題ができたのは、幸運がもたらされる兆しだろうか。せっかくだから、馬にちなんだ名を持つ虫にスポットを当てよう。もしかしたら嫌悪されるかもしれないが、少年時代には競馬場のすぐ近くに住んでいたので、馬糞は比較的みぢかな存在だった。
 馬糞を踏むと背が伸びるといわれ、子どもたちはいたずら半分でたびたび、馬糞を踏んづけた。その結果、驚くほど高身長になった子がいれば、そうでない子もいた。もしかしたら、踏み方に秘密が隠されているのかもしれない。
 馬糞はもちろん、虫ではない。登場願いたいのはマグソコガネだ。名前のとおり食糞性のコガネムシで、よく知られた言い方をすれば、ふん虫の一種である。
 マグソコガネの成虫は馬糞などの獣ふんの表面を食べ、幼虫は内部を食する。そうやって有機質を分解して大地にかえす働きをするのだから、地球人類は感謝しなければならない。
 マグソコガネはすんなりと馬に結びつかなかったかもしれない。片仮名表記では「マ」だけが馬につながる。マだけでは午年に礼を失するかもしれない。
 
 
 
 カマドウマはどうだろう。ちゃんと、「ウマ」が入る。
「カマドウマって、かまどの周辺で見ることが多かったのだろうね」
 令和の米騒動に発して羽釜で炊くご飯の話になり、その流れでカマドウマにたどり着いた。虫好きとしてはまあ、当然の展開だ。
 ところが、意外な質問が返された。
「カマドーマ? それ、なんですか?」
 50代の男性だ。かまどを使ったことはなくても、どんなものか知っているだろう。それなのに、釜や鎌、童磨というワードが頭に浮かんで、なんの話なのかわからないと言われた。
「エビにコオロギのあしが生えたような虫だけど、ご存じない?」
「知りません」
 
 カマドウマはかまどまわりだけでなく、風呂場や物置、倉庫といった暗くて湿った場所を好む。野外では朽ち木とか洞くつ、樹木のうろなどがすみかになる。
 かなりの悪食というのか選り好みしないというのか、ヒトが口にするものならなんでも食べる。自然下では虫や落ち葉、腐った果実、樹液なども食べているらしい。
 たくましいのは太いあしだけでなく、生活力も抜群の虫である。湿った場所を好むからか、シケムシ、ベンジョムシというあだ名もある。
 なぜ馬にたとえられたかというと、太いあしにものをいわせる跳躍力のゆえだろう。見た感じはエビを思わせるが、虫のなかでは大柄だから、「エビよりも馬にたとえた方がよかんべ」ということで馬にしてもらったのかもしれない。
 芭蕉の句「海士の屋は小海老にまじるいとゞ哉」の「いとゞ」がカマドウマだ。
 秋の季語とされ、コオロギと解釈するひともいるようだが、誤用だとされる。「いとど鳴く」といわれても、はねを持たないカマドウマは鳴くことができない。
 なんだか嫌われそうなものばかり連想するが、ついでだからウマビルにも登場してもらおう。頭に「ウマ」とあるから、堂々の午年生物だ。
 しかし、どうしてウマなのか?
 大型のヒルだからとか、馬のように速く泳ぐからだとかいわれるが、どこまで正しいのだろう。田んぼにかつて多かったとされるチスイビルを見ることはなく、かといってほかのヒルを目にする機会も少ない。田んぼに限れば、ウマビルがもっとも一般的な種だろう。
 と信じて疑わなかったのだが、ウマビルを見るのはきわめて難しいのだとか。多くはセスジビルと混同したものだといわれれば、なるほどとうなずくしかない。それでも、午年にちなんだウマビルがいるということだけは確かである。
 
 長い顔の動物として知られる馬だが、尾の長い虫といえばウマノオバチだ。名前はそれほど長くないが、尾は長い。
 その特徴的な長い尾は産卵管だ。ということは、雌を見てウマノオバチという名前思いついたにちがいない。体長の7倍も8倍もある長いものがおしりにあって、よくまあ邪魔にならないものだと感心する。
 ウマノオバチは木の中にいる虫に卵を産みつけるというが、それを確かめた人がいるのにも驚く。長く飼ってきたスズムシが土の中に産卵する様子を見るだけもたいへんなのに、世の中にはなんともスゴい人たちがいるものだ。
 
 俗称ではあるが、ウマヅラヒゲナガゾウムシも午年には外せない。エゴノキの実に産卵するエゴヒゲナガゾウムシの雌なのだが、この呼び名もけっこう知られている。
 多くを語るよりも、ひと目見れば納得しよう。
 というわけで、いつか捕えた標本モドキを見せたことがある。モドキというのは、ちゃんとした標本ではなく、言ってみれば死がいだからだ。
 それはさておき、その感想。
「えーと、これのどこが馬づらなの?」
「えっ。馬そのものじゃん」
 かみ合わない会話の理由は、雌だけを見せたからだと後で知った。
 雄と並べて見せるか、雄を先に見せてからだとわかってもらえる。ウシヅラヒゲナガゾウムシと俗称される雄に比べると、地味であることは確かだろう。
 
 海外には、いつか見たいと思っているウマヅラコウモリがいる。写真を見る限り、まさに馬だ。あまりにもユニークなご面相なので、悪魔と呼ばれることもあるとか。空飛ぶ馬だと天馬になるが、馬づらのコウモリが実在するなんて、考えるだけで面白い。
 ウマオイとかアザミウマ、ウマヅラハギ、「水馬」と書くアメンボ、「馬大頭」のオニヤンマなどなど、馬つながりの生き物は多い。馬とヒトは、それだけ長い付き合いがあるからだろうね。
写真 上から順番に
・左:初めて見たウマノスズクサの実。熟すところまでなんとか持ちこたえた
・右:ジャコウアゲハの幼虫がいると、すぐに食べ尽くされるウマノスズクサ
・左:ウマノスズクサの花。ラッパのような異様な形をしている
・右:竪樋を伝って天を目指すかのようなウマノスズクサ
・木曽馬。在来馬として大切に飼育されている
・左:馬ふん。ポニーのものらしく、小ぶりだ
・右:オオフタホシマグソコガネ。馬ではなく、牛のふんから出てきた
・落ち葉そっくりの色をしたカマドウマ。なるほど、馬に似てなくもない
・ウマビルだと思っていたが、違うかもしれない。もしかしてセスジビル?
・雌のウマノオバチの尾は確かに長い。産卵も難しそうだが、うまく撮るのも難しい
・エゴヒゲナガゾウムシの雌の俗称は「ウマヅラヒゲナガゾウムシ」
・アザミウマ。カボチャの花の中に群れていたうちの1匹だ

 
 
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