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エルニーニョ現象でも少雨(あぜみち気象散歩72)   2019-02-21

●気候問題研究所 副所長 清水輝和子  

 
太平洋側少雨の冬
 今冬は、昨年末から太平洋側を中心に全国的に雨や雪の日が少なく、1月は東北の太平洋側で記録的少雨となった(図1)
 

太平洋側を中心に少雨、日照時間多い傾向
図1 降水量・日照時間平年比%(2019年1月) 気象庁
 
 福島県小名浜の月降水量は0.0mmで1957年の1.4mmを下回り最少記録を更新した。
 北日本の太平洋側の月降水量は平年の41%しかなく、1946年の統計開始以来1位タイの記録となった。日本海側の降雪量も1月は北・東・西日本ともにかなり少なく、西日本では平年のわずか4%だった。
 東海地方では昨年10月からの少雨で、大井川、安倍川、天竜川、豊川などの流量が減少し、河川の水が見えない状態の「瀬切れ」が発生した。大井川水系と天竜川水系では年末から取水制限が実施され、2月15日現在継続中だ。
 野菜や果樹栽培地域では、農地の水まきなどの乾燥対策に追われた。空気もカラカラに乾いたためインフルエンザが大流行し、厚生労働省の2月1日の発表では1月21日~27日の1週間の患者数は、1999年の調査開始以降、最多となった。
 
上空は乾いた北西風の流れ
 昨秋、太平洋赤道付近の海面水温がペルー沖で平年より高くなり、エルニーニョ現象が発生した。エルニーニョ現象の冬は、太平洋側では前線や低気圧の影響をうけやすくなり、晴天は続かず曇雨天が多くなる傾向がある。今年1月はエルニーニョ現象発生中だというのに降水量がかなり少なく、例年より日照時間も多かった(図1)
 
 天候はエルニーニョ現象などの海水温の変化だけで決まる訳ではなく、上空の風の流れに左右される。図2の上空5000m付近の北半球天気図を見ると、1月は日本の東海上に寒気が南下した。偏西風は東海上で南に下がり、日本列島にはシベリアから乾いた北西風が流れた。地上付近の低気圧は東シナ海から進んできても上空の北西風に流され、南海上を離れて通った(図3)。また、日本海に吹き出す寒気も弱かったので、日本海側の降雪量は少なかった。
 

乾いた北西風が入り太平洋側少雨
図2 500hpa北半球平均天気図 高度と平年偏差(気象庁の図を基に作成)
2019年1月(平年値は1981年~2010年の平均値)

:平年より高度が低く、気温が低い
:平年より高度が高く、気温が高い
 

東シナ海からの低気圧は南海上を離れて通った
図3 地上天気図2019年1月 左図(5日12時)右図(6日12時) 気象庁
 
欧米に寒波
 1月下旬になると、北極に蓄積した寒気は放出期に入り、中緯度に南下した。とくに偏西風が北米から欧州にかけて大きく蛇行し、北米東部と欧州に異例の寒波をもたらした(図4)
 

欧米に寒波、「寒冬の3波数型」
図4 500hpa北半球平均天気図 高度と平年偏差(気象庁の図を基に作成)
2019年1月下旬(平年値は1981年~2010年の平均値)

:平年より高度が低く、気温が低い
:平年より高度が高く、気温が高い
 
 日本付近では寒気の中心がやや東側にずれてはいるが、この流れは「寒冬の3波数型」と呼ばれ、欧米と日本が寒波になる典型的なタイプだ。
 米気象局によると、米国中西部や東部では20年来の寒さに見舞われ、中西部では最低気温が-30℃を下回った。30日にはミネソタ州パークラピッズで-41℃を記録するなど、アラスカや南極より寒いと報じられた。中西部を中心に大雪となって空の便の欠航が相次ぎ、高速道路で複数の車が立ち往生するなど広い範囲に影響が出た。
 地球温暖化に懐疑的なトランプ大統領はツイッターに「温暖化はどうなったんだ?・・早く戻ってくれ、君が必要だ!」と書き込んだため、米メディアは一斉にトランプ氏を批判したという。今、世界で最も気象学の勉強が必要な人物はトランプ大統領なのかもしれない。
 
 「寒冬の3波数型」のような偏西風の流れのパターンは大気自身の変動で起こるものなので、地球温暖化がなくてもこのような寒波は発生する。気になるのは北極付近の寒気だ。通常は「極ウズ」と呼ばれる寒気が蓄積された低気圧があるのだが、図4では極ウズが崩壊して中緯度に南下し、北極付近には高気圧が居座っている。この北極付近に高気圧が居座る「極ウズの崩壊」も大気自身がもつ変動で起こる現象で、寒波の原因として知られている。
 ところが、最近は以前より頻繁に発生し、異常気象の原因になっている。これは地球温暖化により北極海で海氷が減少、また氷が薄くなっている影響が現れ、北極付近に寒気が溜りにくくなっていると考えられている。世界気象機関も「1月の異常気象は北極地方で大量の氷や雪が融解していることが北半球の気象パターンに影響している」と温暖化との関連を指摘している。米国を襲った近年にない大寒波は地球温暖化が原因ともいえる。真夏を迎えた豪州では熱波に見舞われ、1月の平均気温が観測史上初めて30℃を超え、最高記録を更新した。強い高気圧の停滞に加え、地球温暖化が拍車をかけたと報道された。
 
 北半球では欧州も寒波に見舞われた。ドイツ南部やオーストリアでは、1月は平年の3倍の雪が降り、オーストリアの専門家は「30年から100年に1度の大雪」と分析した。ギリシャは8日北部で-23℃を記録し、南部のアテネでも雪が積もった。
 欧米に寒気が南下すると、通常は日本も寒波に見舞われるのだが、日本ではバイカル湖の西に寒気が残ってすぐには南下できず、やや遅れて2月に入ってから北日本中心に寒気が南下し、寒くなった(図5、6)
 

12月寒暖変動、1月北並西暖、2月北冷西暖
図5 地域平均気温平年偏差時系列(2018年12月~2019年2月)(気象庁)
 

図6 500hpa北半球平均天気図 高度と平年偏差(気象庁の図を基に作成)
2019年2月6~12日(平年値は1981年~2010年の平均値)

:平年より高度が低く、気温が低い
:平年より高度が高く、気温が高い
 
 2月の寒波は、上空5000m付近より下層の1500m付近に強い寒気が流れ込んだのが特徴で(図7)、8日09時には札幌の上空1500m付近の気温は-24.4℃まで下がり、1958年の統計開始以来の最低記録となった。9日朝の地上気温は北海道陸別で-31.8℃と今シーズン最も低くなり、千歳市など10地点で観測史上最低気温を記録した。北海道では低温や吹雪の影響で、水道管の凍結や多重衝突などの交通事故が相次いだ。
 

上空1500m付近に強い寒気が流入
図7 850hpaの平均気温と平年偏差(気象庁の図を基に作成)
2019年2月6~12日(平年値は1981年~2010年の平均値)

:平年より高度が低く、気温が低い
:平年より高度が高く、気温が高い
 
 少雨だった関東地方では1月末から低気圧が接近するようになり、たびたび雪やみぞれが降った。2月上旬の後半には東・西日本にも寒気が南下し、8~10日にかけては千葉県や茨城県を中心に積雪となった。
 
エルニーニョ現象は夏にかけて続く
 2月に入り太平洋側では、低気圧や前線が通過して雨や雪が降るようになり、やっとエルニーニョ現象の冬らしい天候になってきた。気象庁の1か月予報では、3月半ばにかけて東日本の太平洋側から西日本は平年より降水量が多く、曇雨天が多くなる予想だ。少雨は解消するが、晴天は続かず日照不足の可能性が出てきた。また、日本海側は少雪の予想で、春から夏にかけての水不足が懸念される。
 気象庁は2月12日「エルニーニョ現象は今後夏にかけて続く可能性が高く、確率は70%」と発表した(図8)
 

図8 海面水温の経過とエルニーニョ現象の予測 (2019年2月12日発表)気象庁
上の図は、エルニーニョ監視海域の海面水温の基準値との差の5か月移動平均値(指数)の推移を示す。11月までの経過(観測値)を折れ線グラフで、エルニーニョ予測モデルによる予測結果(70%の確率で入ると予想される範囲)をボックスで示している。指数が赤/青の範囲に入っている期間がエルニーニョ/ラニーニャ現象の発生期間。基準値はその年の前年までの30年間の各月の平均値。

 
 エルニーニョは、赤道付近の太平洋中部から東部で海面水温が平年より高く、西部で低くなる現象で、東部の監視海域では12月にピークを迎えた。1月には下がり始め、エルニーニョ現象は終息に向かっているように見える(図9)。
 

赤道付近の太平洋中部~東部で高い
図9 海面水温平年差(2019年1月下旬) 気象庁
 
 だが、太平洋赤道付近では、北東貿易風を弱める西風が2月半ば頃から強まっているようだ。今後も東風は弱まる傾向にあり、中部から東部では高水温が維持されて、エルニーニョ現象は夏まで続くとの予測だ。夏もエルニーニョ現象が続くとすれば、今夏は低温や日照不足、局地的大雨など不順な天候の可能性がある。
 

 
 
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