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ナメクジ――なにはともあれ注目株(むしたちの日曜日118)  2026-03-24

●プチ生物研究家、ときどき児童文学者 谷本雄治  

 
 まさかと思うようなことが、生物界ではときどき起きる。
 といっても素人レベルの驚きだから、学会が騒然とするかどうかは知らない。
 そんな無責任な立場だが、札幌で新たな外来ナメクジが見つかったというニュースには驚いた。アイヌ語にはナメクジに相当する言葉が少ないということをどこかで耳にしたが、2月半ば、これまで国内で見つかっていなかった黄色や褐色のナメクジが確認されたというのだ。
 体長は5~6cm。アリオン・サブファスカスというヨーロッパ原産のナメクジらしい。和名はまだない。
 
 温暖化の影響だと言い切っていいのかどうかわからないが、なにしろ北国・北海道だ。並大抵の耐寒力では冬を乗り切れないイメージがある北の大地なのに、よそ者生物がすめるのか?
 そう思って調べたら、彼の地にはマダラコウラナメクジが十数年も前に侵入し、その後も生息範囲を広げていた。
 興味深いことに、ミミズしか食べないといわれていたカワカツクガビルがマダラコウラナメクジを捕食する場面も観察されている。そのクガビルを見たことはないのだが、見た目はわが家にも出没するコウガイビルに似ている生き物だ。
 両者のちがいのひとつは、体節の有無だろう。クガビルはヒルの仲間だから、同じ環形動物としてミミズやゴカイにも共通する特徴だ。
 
 クガビルのくちは、前方にある。対するコウガイビルは陸生のプラナリアといっていい生き物で、体の真ん中あたりにくちがあるけったいな生き物だ。クガビルは動きも速いらしく、ミミズをつかまえて丸飲みにする。主食もミミズだと聞いている。
 コウガイビルはナメクジやカタツムリを食べることが多いが、ミミズもたまには食べるらしい。だからコウガイビルがミミズを捕食する場面に出くわしても「へえ、けっこうなもんを食べてまんなあ」といったくらいの驚きだ。ところがミミズ専門だと思われていたクガビルの一種であるカワカツクガビルがマダラコウラナメクジを食べていたのだから、「な、なんと!!」などと、びっくりマークをいくつも付けたくなるような衝撃を受けたにちがいない。
 
 ナメクジのファンではないからナメクジについて語れることは少ないが、研究室で飼育されているマダラコウラナメクジを初めて見たときには、不謹慎かもしれないが、なかなかカッコいいと思った。マダラコウラナメクジの故郷はヨーロッパやアフリカの一部とされ、旅先で出くわした人も少なくない。一般には「デカい!」「ヒョウ柄が美しい」という感想を持つようで、まれに「飼ってみたい」と言う人も混じる。好き・嫌いはともかく、注目度・驚嘆度がかなりのレベルにあることはまちがいない。
 日本でよく見かけるチャコウラナメクジも外来種なのだが、いまや国内に生息する代表種に成りあがった感がある。だからほかのナメクジを目にしたときの〝ものさしナメクジ〟になる。スズメやハト、カラスがほかの鳥のものさしになるのと同じだ。
 マダラコウラナメクジは、そのチャコウラナメクジの2倍も3倍もある。端的にいえば巨大ナメクジだ。しかも、派手なヒョウ柄のナメクジだから、目立って当然だろう。
 
 
 
 でも、研究者はともかく、ふつうの人が飼うのはよくない。キャベツやハクサイ、花き類などに被害を及ぼす害虫の一種とされるからだ。ほかのナメクジが好まないようなレタスも、体が大きいからか、苦みもものともせずに食べると報告されている。そんな外来種だから、飼育しているものが逃げ出したら、被害をさらに広げる。もっとも、ナメクジを飼いたいと思う人はそれほど多くないのが救いではある。
 
 ナメクジは何度見ても、あやしげだ。それでもなぜか気になる存在だし、ネコかネズミの額にたとえるほどの狭いわが家の菜園やハウスもどきと称するミニ施設の中にも当たり前のように現れ、小松菜の葉を食べていた。しかし最近は、以前に比べるとめっきり減った。
 その理由のひとつは、土が乾燥してきたことだろう。野菜を育てている間は適度というかテキトーに水やりをするのだが、それでも乾燥気味のことが多くなったように感じる。糸を引いたようなあの独特の徘徊の跡を見る機会も減っている。
 土いじりをしているときにはよく卵も見かけたものだが、それも最近は見ていない。その代わりと言っていいのかどうか、同類のカタツムリはよく見るようになった。
 ナメクジは殻を持つカタツムリの進化系だといわれる。その証拠に、チャコウラナメクジの背中には殻の名残のようなものがあり、名前にも「甲羅」と付いている。それでもナメクジは嫌われるから、気の毒といえば気の毒ではあるが、積極的に仲良くしたいとは思わない。
 卵だけは別だ。初めて見たときには感動すらおぼえた。そして卵の中から小さな幼体が出始めたときには思わず、「がんばれ!」と声援を送りたくなったほどである。
 
 
 
 ナメクジとの付き合いはその程度だったのだが、沖縄に出かけるとヤンバルヤマナメクジだけは毎回見たくなる。つるんとした感じで、端的にいえばかわいい。だからあまり毛嫌いされない。
 ヤマナメクジが見たくてわざわざ探しに出かけたこともあるが、見つかるのは寸胴型というのか、幻のツチノコもかくやと思われるようなものばかりだった。それにひきかえ、ヤンバルヤマナメクジは愛らしさを備えている。触角がかわいらしく、まるで表情があるようなのだ。
 だれもがそんな感想を持つかどうかはわからないが、親しい友人の間ではまずまずの評判だ。だがそのヤンバルヤマナメクジは、出かけるたびに減っている。そうなるとナメクジであることも忘れて、残念に思えてくる。
 
 ヤンバルヤマナメクジは名前からして日本の固有種だが、よく見るナメクジの多くはもはや外来種になっている。だからたまに、ナメクジという名前の在来種を見ると、うれしくてつい人を呼んでしまう。
 だったら、ノハラナメクジはどうかというと、小柄で名前に「野原」とあるから在来種っぽいのに、じつは明治以降に日本に入ったナメクジらしい。そんなことからやっぱり、ナメクジに注目しないわけにいかないのである。
写真 上から順番に
・北海道は日本を代表する雪国。この風景が温暖化でどう変わるのだろう
・郊外にいるからではなく、笄を思わせることから付いた名前がコウガイビル。クガビルと異なり、陸生のプラナリアといった生物だ
・研究用に飼育されていたマダラコウラナメクジ。ヨーロッパ原産とされるヒョウ柄のナメクジだ
・左:すわ、マダラコウラナメクジか!? と慌てたのだが、これは模様のよく似たチャコウラナメクジだった。もっともこれも外来種ではある
・右:スズメはほかの鳥を見る際のものさしになる鳥だとされる。だが最近は見る機会が減っている
・農家のトンネル栽培のレタス。わが家ではナメクジが目をつけるほど立派に育たないが、こんなにおいしそうなものがねらわれたら困るだろうなあ
・左:以前はよく見たナメクジの卵。真珠みたいだが、できれば見られない方がいいのだろう
・右:カタツムリはいまもよく見る。菜園では害虫となるのが玉にきずである
・ひょいと頭を起こしたヤンバルヤマナメクジ。このあと体を大きくそらせた


 
 
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