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| ゴキブリ―ピカレスクロマンが似合う大先輩 (むしたちの日曜日22) | 2011-09-07 |
| ●プチ生物研究家、ときどき児童文学者 谷本雄治 | 友人が、わが故郷・名古屋市に転勤することになった。聞けば昭和区の御器所だという。「御器」というのは食器のことだ。御器所では、地元で「熱田さん」と親しまれる熱田神宮の祭礼に使う土器を作っていたらしい。   この地名は、子どものころから知っていた。しかし強い興味を抱くようになったのは、中学校に上がったころだ。その当時から動植物に関心があり、昆虫採集や魚とりはもちろん、飼育したり関連する本を熱心に読んだりしたものである。 そんなある日、手にした本で、お椀をかぶる(かじる)ことに由来する昆虫の呼び名に「御器かぶり」というものがあることを知った。ぎらぎらしていて平ぺったいイメージの褐色の虫――。そう、「御器かぶり」とは、ゴキブリの古名だったのだ。それ以来、御器所はお気に入りの町名となっている。   ゴキブリは主に台所に隠れ、家主が寝静まるころになると現れては、目につく食べ物を手当たり次第、口にする。それだけでも十分に嫌われる存在だが、場合によっては、病気のもとになるバイキンを領収書代わりにくれる。 そんなものをありがたく思う人はいない。それなのに、「おいらの知ったこっちゃ、あーりゃせん」とでもいうように、用が済めばサササッと引き上げていく。食べ物を汚されるのは頭にくるが、ほんの少しのすきまがあれば、何の苦労もなく通り抜ける逃げ技のすごさにはつい、感心してしまう。     1匹だけ、年に1度だけというなら、憎めない悪漢で済ますこともできよう。だが、そうした所業をなす輩は、時として徒党を組む。あるいは「この子たち、アタシのかわいい坊やなのよ」といわんばかりに、おしりに卵のカプセルをくっつけて徘徊するレディもいる。「御器かぶり」の名は評価するが、できれば文字だけにとどまっていてほしい虫ではある。 悔しいことに、彼らは人間よりもうんと早い3億年も前に、地上に現れた大先輩でもある。れっきとした、「生きている化石」である。だったら保護の手を差し延べてもよさそうなものだが、そのいまわしい習性が災いしてか、支持する意見は聞いたことがない。   実を言うと、屋内よりも野外で暮らすゴキブリの方が圧倒的に多い。現代の地球に比べればずっと温暖な環境で過ごしていたせいか、いまも熱帯雨林で栄える生き物である。 世界には4000種ものゴキブリが生息し、日本だけでおよそ50種が確認されている。だがその大半はニンジンやジャガイモに手を出すこともなく、森林で朽ち木や動物の死がいなどを食べてひっそりと暮らしている。莫大な資金と時間を投入した撲滅作戦の対象になるのは、ごくごくわずかの屋内性ゴキブリだけなのだ。それなのに、一般に知られるのはその少数派でしかない。気の毒な虫である。   野外観察をしていると時々、モリチャバネゴキブリに出くわす。家で見かけるチャバネゴキブリによく似るが、「森」という言葉が付くように、森林をすみかにしている別種である。 このゴキブリがいるようなところは、種の多様性が保たれているという。いってみれば、森林の健全さを表すバロメーター昆虫でもあるのだ。   何年か前の話だが、虫とりついでにモリチャバネゴキブリを数匹、連れ帰ったことがある。しばらく飼ってみるかという軽い気持ちで、落ち葉と一緒に、プラスチック製の密閉容器に入れて運んだ。 ところが、その翌朝。様子をみようとふたを開けたところ、いないのである。本で得た知識では家屋に侵入することはないはずだが、いったいどうやって逃げ出したのか、1匹残らず忽然と消えていた。密閉容器のすきまさえすり抜ける技を持つのか、それとも別の理由なのか。その答えも逃げたゴキブリも、いまもって見つからない。せめてもの救いは、家族に知られていないことだ。たぶん……。   モリチャバネゴキブリはチャバネゴキブリと混同されやすいが、オオゴキブリを子どもに見せようものなら、たいへんだ。あしをもぎとりそうなくらい、われもわれもと触れたがる。 外見はまるで、古武士である。子どもたちの目にはおそらく、カブトムシやクワガタムシと同類の虫に映っているにちがいない。昆虫園や昆虫教室などで展示すると、まちがいなく人気者となる。   外国では、ゴキブリをペットにする人も多い。世界最大級のマダガスカルゴキブリを、うじゃうじゃ飼うところを見せてもらったことがあるが、なるほどペットになるかもしれないと思わせる素質を感じた。手でつかむと哀しげにシーシー鳴くところなども、魅力のひとつのようである。 そうかと思うと、ゴキブリをえさにする人たちもいる。ヘビやトカゲに与えると、喜んで食べるそうだ。そのためにはゴキブリを増殖させる必要があるが、コオロギも同じように殖やしてえさにするわけだから、それほど違和感はないのかもしれない。   日本人はまず食用にしないゴキブリだが、世界的には、それほどのゲテモノでもない。清潔な環境で飼うと臭みもないという。だからといって、いまのところ食べる気にはなれない。 サツマゴキブリのように、民間薬として出回る種もある。人々は「この、いまわしい虫め!」と怒号を浴びせる一方で牛馬の骨折を治し、人間の血行を促す薬として利用してきたのである。こういうのをひとは「虫がいい」とたとえるが、相手が正真正銘の虫であるときには何と言えばいいのか、わたしは知らない。(了)     写真 上から順番に ・林の中で見るゴキブリはどことなくかわいい ・ゴキブリの化石。誰に尋ねても、ゴキブリ以外の答えは返らない ・森林でよく見かけるモリチャバネゴキブリ ・ヤエヤマオオゴキブリ。これくらいインパクトがあれば、子どもたちの人気者になれる ・まるで原始時代からタイムスリップしてきたようなマダガスカルゴキブリ
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長く農業記者をつとめ、いまはプチ生物研究科として活躍する著者が、自らの小さな家庭菜園で次々と伸びてくる雑草対策として、代表的な13の方法を順次検討する、思索と苦悩の日々を綴っている。13の方... |
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