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穀物高と世界の異常天候 (あぜみち気象散歩31)  2012-08-28

●気候問題研究所 副所長 清水輝和子  

 
米中西部を熱波が直撃・・・半世紀ぶりの大干ばつ 
 この夏、米中西部は、56年ぶりという歴史的な大干ばつに見舞われた。中西部はトウモロコシと大豆の生産地で、米国の輸出量はそれぞれ世界の約4割を占める。その大穀倉地帯で6月から少雨と高温が続き、7月も熱波は衰えず干ばつが深刻化した(図1、2)。7月はトウモロコシの受粉期にあたり、少雨と高温に見舞われると結実できず、作柄が悪化する。中西部の農家から、「1本当たりの重量が例年より少ない」との報告が相次ぎ、作柄は20世紀で最悪といわれた1988年以来、24年ぶりの低水準だという。トウモロコシの市場価格は史上最高値の水準で推移している。
 
 大豆の開花期にあたる8月は、中西部の東部や南部でやや降雨があったため、大豆への影響はトウモロコシほどではないが、市場価格は6月に比べ3割上昇した。
 
米中西部少雨(7月降水量平年比%、2012年)
図1 米中西部少雨(7月降水量平年比%、2012年) 気象庁
 
北米熱波(7月気温平年偏差、2012年)
図2 北米熱波(7月気温平年偏差、2012年) 気象庁
 
世界各地で相次ぐ天候異変
 米国だけではなく、今夏はウクライナ・ロシアも干ばつで小麦が減産の見通しだ。インドでも干ばつが、コメやサトウキビなどの農業生産を直撃した。ブラジルは多雨でサトウキビやコーヒーの収穫が遅れている。中国北東部のトウモロコシ産地では、多雨と害虫生育の適温が続いたため、植物の葉を食い荒らすヨトウムシが大量発生し、被害が心配されている。世界第2位の小麦輸出国である豪州は、西部の小麦生産地帯で7月に記録的な少雨となり、小麦生産高は前シーズン比18%減になると見通されている。
 
異常気象の原因
 世界の穀倉地帯を襲った異常気象は、なぜ発生したのだろうか。
 図3は北極を中心に、北半球を上から見た上空5500m付近の天気図で、赤系は平年より気圧が高く、青系は気圧が低いことを示している。この夏の特徴として、北半球の中緯度が帯状に高気圧になっていることが上げられる。米国とカナダ、太平洋から日本付近、ユーラシア大陸にかけての中緯度が高気圧におおわれている。濃い赤色の高気圧の中心は、高緯度側に偏り、高気圧が例年より北上したので、トウモロコシや大豆、小麦といった穀物の生育に適した地域が強い高気圧におおわれて、干ばつと猛暑に見舞われた。
 
7月北半球平均天気図500hpa(上空5500m付近、2012年)
図3 7月北半球平均天気図500hpa(上空5500m付近、2012年)
  気象庁の図から作成

 
 北米を拡大してみると、図4のように高気圧の中心はカナダから米国北部にあって北米大陸を広くおおっている。米西海岸とカナダ東岸は低気圧になり、偏西風は低気圧で南に下がり、北米中央部の高気圧で北上し、大きく蛇行した。そのうえ、亜熱帯高気圧も北へ張り出し、米中西部をおおったので熱波が続いた。
 ウクライナからロシアも図3のように高気圧におおわれ、6月から同じような気圧配置が続いて、雨が降らず干ばつとなった。
 中国北東部は高温傾向のうえ、前線や湿った気流の影響をうけて降水量が増え、害虫の大発生の原因になった。
 豪州では、この夏発生したエルニーニョ現象の影響が出始めている。7月は西部で、8月は東部で少雨になった。今後もエルニーニョの影響で少雨が続きそうだ。
 
7月平均天気図500hpa(上空5500m付近、2012年)
図4 7月平均天気図500hpa(上空5500m付近、2012年)
  気象庁の図から作成

 
温暖化も原因に
 7月の地球全体の平均気温は1891年の統計開始以来第3位と、記録的高温だった。米海洋大気局(NOAA)の調査では、北半球の陸地で7月の平均気温が統計のある1880年以降では7月として最も高くなったことが分かった。今夏の熱波や干ばつは、地球温暖化も原因としてあげられる。
 
 この夏、最も地球温暖化の影響をうけたのは北極海のようだ。海氷面積の減少は歯止めがかからず、今夏の面積は観測史上最低だった2007年を下回り、8月24日に過去最小となったことが、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の観測で分かった。2010年夏も海氷面積が小さく、ユーラシア大陸の高温の原因になった。今夏のウクライナとロシアの猛暑や干ばつは北極海の海氷減少が影響している可能性がある。
 
 国内での穀物高の影響は円高や海上運賃安で見えにくくなっているが、じわじわ波及を始めている。飼料高で生乳の値段が上昇したため、すでにバターは9月からの値上げが決まっている。穀物価格の上昇が続けば、卵や肉、しょうゆや味噌、豆腐、納豆、食用油、マヨネーズなどの価格が上昇して食卓を直撃する。パンや麺類の材料である小麦は、政府売渡価格が10月から3%の値上げすることが22日に決まった。エルニーニョ発生で豪州の小麦の生産量も減少する可能性があり、秋以降も穀物価格の上昇が懸念される。
 
 温暖化が進むと、干ばつや大雨など極端な天候異変が多くなると予測されている。異常気象の原因は年によってさまざまだが、温暖化がより激しい現象を招いている。今世紀に入って天候異変による災害は深刻化し、その影響は年々広がっている。日本の食卓も毎年のように外国の天候異変に翻弄されている。この状況は、温暖化時代に入り日本の食材を外国に頼ることの恐さを警告している。

 
 
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