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温暖化による台風の脅威(あぜみち気象散歩76)  2019-10-28

●気候問題研究所 副所長 清水輝和子  

 
2つの強い台風上陸
 この秋は台風15号と19号が上陸し、未曾有の災害をもたらした。昨秋も近畿地方に非常に強い台風21号が上陸し、毎年威力の強い台風が列島を襲うようになった。これらの台風は、地球温暖化が本格化したことを警告しているように思える。
 
台風15号は風の脅威
 台風はそれぞれ特徴をもっている。そもそも台風は風雨ともに強いものだが、台風15号では伊豆諸島や千葉県を中心に、主に暴風の脅威にさらされた。最大瞬間風速は神津島で58.1m/s、千葉市中央区で57.5m/s、木更津市で49.0m/sと、いずれも観測史上1位、館山では9月として観測史上1位の48.8m/sを記録した。
 過去の台風では、日本に接近するとともに、中心気圧が下がって勢力が弱まるが、15号は違っていた(図1)。9月5日南鳥島近海に発生し、小笠原諸島近海では960hPaまで発達したが、伊豆諸島へ到達した8日15時頃には965hpaと勢力を弱めた。このまま弱まりながら接近してくるかと思いきや、21時に955hpaと急に強まったのには驚いた。9日03時に三浦半島を通過し960hPaにやや勢力を落としたものの、そのままの強さで千葉市に上陸し、ほとんど衰えずに鹿島灘へ抜けた。地上天気図では台風を囲む1000hPaの太い線の範囲は狭い(図2)。レーダーを見ると中心に向かい強い雨雲が集まっているのが分かる(図3)。中心付近にエネルギーが集中し、雨も風も強かったが、コンパクトな台風だったため一部の地域に被害が集中した。
 

9月9日台風15号は千葉市に上陸
図1 台風15号経路図(2019年9月6~10日12時)気象庁
 

台風15号は非常に強い勢力で三浦半島を通過
図2 地上天気図(2019年9月8日21時)気象庁
 

台風15号の雨雲は中心付近で強かった
図3 レーダー関東(2019年9月9日04時10分)気象庁
 
 台風の進行方向の右側は「危険半円」と呼ばれ、台風の中心に向かう南東の風と進行速度とが重なり、風が強まることが知られている。図4のアメダスの風を見ると、9日午前4時には風の集まる台風の中心が東京湾にさしかかっている。千葉県各地では、中心に向かって20~29m/sの暴風が吹き荒れた。中心の西側では強い所でも11~16m/sと進行方向とは逆向きの北よりの風が吹いて風速は弱められた。危険半円にあたった房総半島では、窓ガラスが割れ、瓦や屋根が吹き飛ぶなど多くの家屋が被害をうけた。台風15号がもう少し西よりを進んでいたら、関東全体に大きな被害が及んでいたと思われる。
 

台風15号は進行方向右側の房総半島で強風の被害
図4 アメダス風向風速(2019年9月9日04時)気象庁
 
 千葉県から茨城県南東部では収穫を目前にしたナシやキウイなどが落下し、農業用ハウスや施設の倒壊など深刻な被害が多発した。また、電柱や送電線が倒れるなどして大規模停電が発生した。林業の衰退で山林の手入れが行き届かず、倒木が大量に発生して想像以上に電気の復旧を妨げたため、停電は長期化した。とくに、南房総はでは電気や水道などのインフラの復旧が遅れたことが被害を大きくしたとされ、政府・公官庁・電力会社の対応の悪さが目立ち、温暖化時代の台風来襲への準備不足を感じた。
 
台風19号は雨の脅威
 台風19号は雨の脅威だった。川の流域の豪雨によって東日本から東北地方の広範囲に洪水や浸水被害が多発した。国土交通省によると堤防が決壊したのは、23日8時の時点で7つの県のあわせて71河川、139か所にもなった。川の水が堤防を越える越水で氾濫した河川は、18日午後3時の時点で16都県の、のべ265河川にのぼった。浸水した面積はおよそ2万3000haに及び、昨年7月の西日本豪雨のおよそ1万8500haを超えた。総務省消防庁の10月23日14時の発表では死者74人、行方不明者は9人。農林水産省の発表では10月23日8時の時点で農作物等の被害は約101億円、農地や農業施設関係の被害額は約473億円にのぼり、甚大な被害となっている。
 
 なぜ、これほどの大災害になったのだろうか。原因の1つには温暖化による海水温の上昇があげられる。台風19号は10月16日南鳥島近海で発生し、海面水温が29~30℃の高水温の海域を西進した(図5、6)。このため、6日21時に990hPaだった中心気圧は、7日21時には915hPaと24時間で65hPaも下がり、猛烈な台風に発達した。10日15時まで約3日間も猛烈な強さを維持し、その後もあまり勢力を落とさずに日本の南海上を北上した。日本近海ではやや弱まり12日9時には中心気圧は945hPaまで上がったが、27℃以上の海域を進み、19時前に955hPaと強い勢力のまま伊豆半島に上陸した(図7)
 

台風19号は伊豆半島に上陸し関東から福島県東部へ
図5 台風19号経路図(2019年10月6日~13日)気象庁
経路上の○印は傍に記した日の9時、●印は21時の位置を示している
※この経路図は速報値に基づくものであり、後日確定したものを別途公表する
 

日本の南海上の海面水温は27℃以上
図6 海面水温(2019年10月12日)気象庁
 

台風19号は19時前大型で強い台風として上陸
図7 地上天気図(2019年10月12日18時)気象庁
 
 高水温の海域を進んだ台風19号は水蒸気を周辺から集め、接近前から進行方向の前面である北側に活発な雲が広がっていた(図8)。11日夜、台風の中心はまだ陸地から500㎞以上も離れていたが、紀伊半島や東海地方に雨雲がかかり、雨が降り始めた。翌12日の朝には東海地方の沿岸から関東西部に強い雨雲がかかり、日中も1時間に20~50㎜の激しい雨が降り続き、神奈川県箱根では70㎜を超える時間帯もあった(図9)
 

台風19号北側に活発な雲が広がる
図8 衛星画像(2019年10月11日06時)気象庁
 

台風19号の強い雨雲は関東西部の山間部周辺にかかる
図9 レーダー全国(2019年10月12日11時30分)気象庁
 台風の周辺をまわる湿った東よりの風が伊豆半島から関東西部の山地にぶつかり、発達した積乱雲が連続して強い雨を降らせた(図10、11)。箱根から丹沢山地、奥多摩、秩父から軽井沢、信越国境の山々には1日で300~600㎜の大雨となった。
 

台風19号の前面に広がる強い雨雲は静岡県から関東に広がる
図10 レーダー関東(2019年10月12日17時00分)気象庁
 

東風が湿った空気を運び関東山地にぶつかり大雨を降らせた
図11 アメダス風向風速(2019年10月12日17時)気象庁
 
 台風が上陸するとともに、強い雨雲は関東北部から東北地方に移動した(図12、13)。台風は13日0時すぎには福島県沖にぬけたが、強い雨雲は南北にのびて阿武隈川流域を通過し、宮城県から岩手県沿岸に大雨をもたらした。気象庁はこれまで経験したことのないような大雨になっているとして、特別警報を過去最多の1都11県に発令し、最大級の警戒を呼びかけた。
 

台風19号伊豆半島に上陸(19時前)
図12 レーダー全国(2019年10月12日19時)気象庁
 

台風19号の前面に広がる雨雲は東北地方に移り南北に広がる
図13 レーダー東北南部(2019年10月12日22時00分)気象庁
 
 神奈川県箱根では12日の日降水量は922.5㎜と国内歴代1位を記録した。同日、静岡県湯ヶ島では689.5㎜と同13位、埼玉県浦山では635.0㎜と同18位と各地で記録的大雨となった。10~13日までの総雨量は箱根で1001.5㎜に達し、関東甲信地方と静岡県の17地点で500㎜を超えた(図14)。台風の南側には乾燥した空気が入ったため、中心の通過と共に雨は早めに上がったが、川の上流域で降った雨は中流域から下流域へと水かさを増しながら流れ、千曲川や阿武隈川、那珂川をはじめ、各地で河川の氾濫や浸水などが発生し、大水害となった。水害が発生した地域は、ハザードマップの浸水エリアとほぼ重なり、予測された“想定内”が生かされなかったのは残念なことだった。
 

東海~関東西部・北部~東北地方の太平洋側で200~1000mmの大雨
図14 期間降水量分布図(2019年10月10日0時~13日24時)気象庁
 
 台風19号は大型で暴風の範囲が広かったので、中心が離れていても風が強く、影響する時間が長かった。最大瞬間風速は東京都江戸川区臨海では43.8m/sと観測史上1位、東京都心では10月として1位を記録するなど、関東地方の7か所で40m/sを超える暴風が吹いた。また、千葉県市原市では12日午前8時10分頃に竜巻が発生し、風速は55m/sと推定された。
 
温暖化時代を迎え防災意識の改革必須
 以前は、台風シーズンは9月で大体終わりというイメージだったが、近年は毎年のように10月に入って台風の接近や上陸がある。10月に本土へ上陸または接近する台風は、統計のある1951年以降では1999年までの約50年間は1年に0.7個程度だったが、今世紀に入ってからはほぼ毎年やってきて、2010年以降は平均で1.5個に増加している。温暖化が本格化した今、10月はまだ台風シーズンなのだと意識の切り替えが必要だ。
 
 台風の影響は前線の停滞がなければ局地的であることが多い。台風19号は過去の常識を超えるような広範囲に被害をもたらした。温暖化により大気中の水蒸気量が増加しているうえ、海水温が上昇し、海から蒸発する水蒸気量も増えている。台風19号は大気と海からの水蒸気をかき集め、莫大なエネルギーの塊となって日本列島を通過した。おそらく、台風19号は日本に来襲するスーパー台風の始まりで、これからはさらに激しい災害をもたらす台風がやってくるだろう。日本に住む多くの人々は自然災害と温暖化の本当の恐ろしさについて、台風19号と15号に気づく機会を与えられた。災害のリスクと備えに対する見直しを迫られていると思われる。
 
 岩手県山田町では、大震災で整備した津波防災緑地公園の堤防が雨水や沢水をせき止めたため、一帯がダム湖のようになり、田の浜地区の70戸以上が浸水した。堤防に排水する扉を作るように住民は町に要望していたが、予算がないと受け入れてもらえなかったという。災害には様々なパターンがあり、津波だけの対策では片手落ちで、山田町の浸水は縦割り行政が招いた人災といえよう。これからは総合的な視点で災害対策をしなければならない。災害が多発すると予想される今世紀は、例えば台風来襲と火山噴火が同時に起こるということも考えられる。様々なリスクに備え、縦割り行政でない、国民の命と財産と生活を守る防災対策の組織が必要なのかもしれない。
 
太平洋高気圧強く、残暑と暖秋
 温暖化で、秋に入っても太平洋高気圧が強い傾向にあり、台風は高気圧の縁辺をまわって、日本にやってくる(図15)
 

台風は九州の西から日本海を通り太平洋高気圧強めた
図15 500hPa北半球平均天気図 高度と平年偏差(気象庁の図をもとに作成)
2019年9月(平年値は1981年~2010年の平均値)

:平年より高度が低く、気温が低い
:平年より高度が高く、気温が高い
 
 とくにこの秋の台風は、フィリピンの東海上で発生しては、太平洋高気圧の縁辺をまわって北上し、日本付近を通過した。9月から10月初めは、台風13号、17号、18号と3つの台風が東シナ海から九州の西の海上を北上し、朝鮮半島や日本海を通った(図16、17、18)
 

台風13号は朝鮮半島から沿海州へ
図16 台風13号経路図(2019年9月2~8日)気象庁
 

台風17号は日本海を北上
図17 台風17号経路図(2019年9月20~23日)気象庁
 

台風18号は朝半島から日本海へ
図18 台風18号経路図(2019年9月28日~10月3日)気象庁
 
 九州の西の海上から日本海を台風が進むと上昇した気流が東へ下降し、太平洋高気圧と強める働きをする。そのうえ、台風が日本付近を通過する間にフィリピンの東海上には熱帯低気圧が発生し、その中には台風に発達するものもあり、上昇した気流が太平洋高気圧を強め、サポートとする傾向になった(図19)
 

台風や熱帯低気圧が太平洋高気圧を強めた
図19 衛星画像(2019年9月21日12時)(気象庁の図をもとに作成)
 太平洋高気圧が強かった証拠に、今年は朝鮮半島に4個も台風が上陸した。例年1個程度は上陸するが、近年は増加傾向にあり、台風の脅威は北の国々にも広がっている。
 強い太平洋高気圧におおわれて、9月は残暑がきびしかった(図20)。気温は北・東・西日本で平年よりかなり高く、沖縄・奄美でも高かった。沖縄・奄美は台風や湿った気流の影響で雨が多く、日照時間も少なかったが、北・東・西日本は少雨で日照時間が多かった。
 

9月残暑、10月暖秋
図20 地域平均気温平偏差の5か月移動平均時系列(2019年8~10月) 気象庁
 

10月は秋雨型
図21 地上天気図(2019年10月21日9時)気象庁
 
 10月は台風や前線の影響で、近畿以北で雨が多くなっているが、気温は北海道を除いてほぼ全国的に高い状態が続いている。10月も太平洋高気圧は平年より強かったため、全国的に暖秋となっている。例年ならば東海上を離れて通る台風は日本付近を通るコースとなって接近、上陸した。通常は10月中旬に入れば大陸からの移動性高気圧が通って秋晴れが続き、行楽シーズンを迎える。ところが、今秋は太平洋高気圧が強いので、移動性高気圧は北日本を中心に通り、太平洋岸には前線がのび、南海上には台風がある。図21の地上天気図を見ると、9月の秋雨型の気圧配置となっていて、季節が1か月も遅れているようだ。
 25日には台風21号が関東の東海上を通り、関東の沿岸を進んだ低気圧に台風からの湿った風が入り、豪雨が発生した。千島付近の高気圧から吹き出す湿った北東風も入り、半日で約1か月分の雨が降った(図22)。千葉県、茨城県、福島県などで河川の氾濫や土砂災害が相次ぎ、死者行方不明者は12人にのぼった。
 

高気圧から北東風、低気圧から南風、台風21号から東風が入った
図22 地上天気図(2019年10月25日9時) 気象庁
 
 温暖化が進むと、秋になっても太平洋高気圧が強く、9月は残暑がきびしく、10月は秋雨型が多くなりそうだ。台風や豪雨による災害は10月も頻発するようになるかもしれない。
 

 
 
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