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インド洋ダイポールモード現象発生(あぜみち気象散歩77)   2019-12-24

●気候問題研究所 副所長 清水輝和子  

 
インド洋ダイポールモード現象発生
 インド洋熱帯には、太平洋のエルニーニョ現象やラニーニャ現象と同じように海面水温の分布が東西に変動する現象がある。「インド洋のダイポールモード現象」と呼ばれ、数年に一度発生し、各地に異常気象をもたらすことが知られている。今年は、過去最大級に匹敵する強いダイポールモード現象が発生した。
 
強い正のダイポールモード
 インド洋の赤道付近では、通常は東部のインドネシア付近で海面水温が高い。ところが、インドネシア側で平年より低く、西部のケニア沖で高くなることがある(図1、2)。インド洋東部で南東貿易風が例年より強まると、表層の暖かな海水が西へ運ばれ、東部では深海から冷たい海水が湧き上がり、海面水温は東部で低く、西部で高くなる。これが「正のダイポールモード」で、反対に東部で高く、西部で低くなると「負のダイポールモード」と呼ばれる(図3)。通常は5月から6月に発生し、10月頃に最盛期を迎え、12月には弱まる。
 

インド洋は西部で高く、東部で低い、フィリピン沖は高い
図1 海面水温平年差(2019年11月) 気象庁
 

図2 正のダイポールモード現象と熱帯循環(JAMSTECより)
 

図3 負のダイポールモード現象と熱帯循環(JAMSTECより)
 
 インド洋では平年でもインドネシア付近で対流活動が活発で、積乱雲が発達して雨が多く降るが、正のダイポールモードが発生すると暖水域がインド洋西部へ移るため、対流活動は西側に移る。すると、アフリカ沖からアフリカ東部で大雨が降り、インドネシア側では雨が少なくなる。負のダイポールモードでは逆に、東部のインドネシア側で対流活動がさらに活発になるため大雨が降り、西部では対流活動が不活発になる。
 
 インド洋では、今年は6月頃から東部で海面水温が低く、西部で高くなり、正のダイポールモードが発生した(図1、2)。海洋研究開発機構(JAMSTEC)によると、10~11月に最盛期を迎え、過去に強かった1994年、1997年、2006年に匹敵する規模になった。12月には次第に弱まり、1月までには消失すると予測されている。
 
世界各地で異常気象
 正のダイポールモード現象が最盛期を迎えた10~11月は、西部のアフリカ沖で対流活動が非常に活発になり、アフリカ東部の各地で大雨となった。ケニアやタンザニア、ソマリア、南スーダン、エチオピアなどで大雨による洪水被害が相次いだ。ケニアでは11月23日に大雨で大規模な土砂崩れが発生し、29人が死亡した。南スーダンでは100万人近くが被災し、飢えや病気の広がりが懸念されている。
 
 一方、インド洋東部では対流活動が不活発で、インドネシアではスマトラ島やバリ島などで少雨が続き、ジャワ島西部のスワンでは11月の降水量が7mmしか降らず平年の5%だった。
 豪州でも少雨が続いている。9~11月の平均降水量が豪州全土で27.4mmと、記録が残る1900年以降で最低となり、豪気象局は「最も乾燥した春だった」と発表した。12月18日には最高気温の全国平均が41.9℃になり、史上最も暑い日の記録を更新した。同国では干ばつにより広い範囲で前例のない規模の森林火災が続き、熱波によって事態はさらに悪化している。ユーカリの森に生息するコアラは森林火災に巻き込まれ数百頭もが犠牲になり、危機に陥っているという。昨秋から今春にかけて発生したエルニーニョ現象の影響で干ばつが続いていたところへ、エルニーニョ終息後に正のダイポールモードが発生したため、干ばつが長引いている。
 
連動する世界の異常気象
 太平洋では、夏以降はエルニーニョ現象もラニーニャ現象も発生していないが、西部の海面水温は平年より高く、11月は対流活動が活発だった(図1、4)。フィリピン付近では台風が6個も発生し、1991年と1964年に並び、1951年の統計開始以来最多記録となった。
 

寒色領域は積雲対流活動が平年より活発
暖色領域は積雲対流活動が平年より不活発
アフリカ東岸からインド洋西部で多雨、
インド洋東部からインドネシア・豪州で少雨、
フィリピンからフィリピンの東海上で多雨

図4 月平均外向き長波放射量の平年差(2019年11月) 気象庁
 
 
 このフィリピン付近の活発な対流活動が、遠く離れたフランスやロシアの天候に影響を与えたといったら驚くかもしれないが、11月は地球規模で天気の繋がりを感じさせた。図5を見ると、熱帯の対流活動が偏西風の流れに影響を与えたことが分かる。
 

寒色領域は積雲対流活動が平年より活発
暖色領域は積雲対流活動が平年より不活発
インド洋西部とフィリピン沖の上昇気流が近隣海域で下降気流を強める
図5 月平均外向き長波放射量の平年差と熱帯循環(2019年11月)
(気象庁の図を基に作成)

 
 フィリピンで上昇した気流は北東側のミッドウェー近海で下降して高気圧を強め、その北東では上昇気流が生まれて低気圧が発達し、その北東の北米西岸では下降気流となって高気圧を強めた。米西海岸では乾燥した風が吹き、カリフォルニア州では森林火災が発生した。北米西岸で強まった高気圧は偏西風を北に蛇行させて、北米東部に寒気を南下させた(図6)。米中西部から東部は寒波に見舞われ、シカゴでは、この時期の気温としては最低の氷点下6℃まで下がり、16㎝の雪が積もった。ニューヨーク市内では積雪で道路が混乱。ニューヨーク州北部やミシガン州デトロイトの積雪は、この時期としては史上最多の25㎝になったと報じられた。
 

偏西風が大きく蛇行し、連動する異常気象
図6 500hPa北半球平均天気図 高度と平年偏
2019年11月(平年値は1981年~2010年の平均値)
(気象庁の図を基に作成)

:平年より高度が低く、気温が低い
:平年より高度が高く、気温が高い
 
 偏西風の蛇行は東に伝播して大西洋で北上し、その東側の欧州では寒気が南下した。11月はフランスやイタリアでたびたび暴風雨が猛威を振るった。フランス南東部は、14日には大雪にも見舞われた。フランスでは12月に入っても南西部を暴風雨が襲い洪水が発生した。偏西風はロシアで北上し、ロシア西部に高気圧が居座った。モスクワでは11月の平均気温が1.8℃と平年より3℃も高かった。12月に入っても雪が降らず、18日にはモスクワ北部で最高気温5.4℃と1886年の5.3℃を上回り、12月18日の最高気温を更新し、133年ぶりの暖冬と伝えられた。
 
 ユーラシア大陸を流れる偏西風は、シベリア中央部から中央アジアに南下し、日本付近ではやや北上して暖気が入った。ところが、北米西海岸で高気圧が発達したため、アラスカで発生した高気圧がシベリア東部に西進し、偏西風の流れをブロックした。寒気は日本付近に南下したが、日本の南海上ではフィリピン沖の対流活動が活発で太平洋高気圧が例年より強かったこともあり、寒気の影響は北日本だけだった。11月は北日本で冷え込んだが、東・西日本では暖かな初冬となった(図6、7)
 

暖かな初冬、北日本には寒気入る
図7 地域平均気温平年偏差時系列(2019年10~12月)(気象庁)
 
テレコネクションはインド洋から
 フィリピン沖の活発な対流活動は、正のダイポールモードが強まったことが影響した。インド洋での熱帯循環が強まり、インドネシア側で下降気流が強まったことによって、インドネシア付近からフィリピン沖の熱帯循環が強まり、フィリピン沖で上昇気流が強まり対流活動は例年以上に活発になったと考えられる(図5)
 
 インド洋や太平洋の海面水温の分布の変化で対流活動の海域や強さが変わり、その対流活動が太平洋に上昇気流と下降気流の循環をつくり、中緯度を流れる偏西風に作用して大きく蛇行させ、その蛇行が北半球を1周する。このように、ある地域の天候が何千㎞も遠く離れた地域の天候に影響を与えることを「テレコネクション(遠隔連結)」と呼んでいる。この秋、インド洋の正のダイポールモードが強まったことに端を発し、11月の世界の天候はテレコネクションが明瞭に現れた。海洋と大気が相互に作用しあい、連結して世界各地に異常気象をもたらした。テレコネクションは以前から知られていたことだが、豪州、ロシアの高温やフランス、イタリアの暴風雨などは、温暖化の影響で、より激しくなっていると思われる。
 
 この秋に強まったインド洋のダイポールモード現象は終息にむかっているので、12月半ば以降は北半球の偏西風の蛇行も変わってきた。過去に正のダイポールモードが発生して11月も続いた年の12~3月の日本の気温は高い傾向がある。気象庁の長期予報でも、今冬の気温は平年並か高い予想だ。

 
 
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