ログイン会員登録 RSS購読
こんにちは、ゲストさん
トップ > コラム
コラム
コラム筆者プロフィール
前を見る 次を見る
大暖冬とエルニーニョもどき現象(あぜみち気象散歩78)  2020-02-21

●気候問題研究所 副所長 清水輝和子  

 
記録的暖冬
 今冬は全国的に気温が高く、とくに1月は東・西日本で1946年の統計開始以来第1位の高温となった。日本海側の降雪量も少なく、12月は北・東・西日本で、1月は北日本で、月降雪量が1946年以降で最も少なかった。2月は寒気の南下があったものの一時的で、高温傾向が続いており、冬を通して記録的な大暖冬となりそうだ(図1)
 

全国的に暖冬、寒さは一時的
図1 地域平均気温平年偏差5日移動平均時系列(2019年12月~20202月)(気象庁)
 
大暖冬の影響
 岐阜と名古屋では2月10日朝、平年より約2か月遅れて初雪が観測され、九州では17日に福岡でようやく初雪となり、各地で観測史上最も遅い記録となった。新潟では2月2日に早くも梅が開花した。新潟地方気象台は平年より41日も早く、1981年の観測開始以来最も早い開花と発表した。
 暖冬の影響で、冬物コートをはじめとする冬衣料や暖房器具などは販売不振が続いた。少雪でスキー場の営業開始は遅れ、雪不足でシーズン終了を早めた地域もあった。その一方で富山県など日本海側のゴルフ場では積雪がなくクローズ回数が減ったため、12月の利用者数は例年の3倍近くに増えたゴルフ場もあったという。凍りついた滝で有名な茨城県の袋田の滝は凍結が遅れて観光客が減少するなど、冬の観光にも影響した。
 
 暖冬はヒトばかりではなく野生動物にも影響を与え、1月だというのに東北や北陸など雪国の住宅街にクマの出没が相次いだ。例年なら冬眠しているはずのクマは気温が上がったため眠れなくなり、穴の外に出てエサを探し回った。
 
 冬野菜も暖冬で生育が進み、東京市場の1月の卸値はキャベツやダイコン、ハクサイ、ブロッコリーなどが平年より1~4割安くなった。山間部の稲作地帯では天然の“雪ダム”に依存している産地もあり、今後の降雪や気温次第では、田植えや代かきができないのではないかと心配されている。
 
正の北極振動で暖冬
 大暖冬をもたらしている原因の1つは、北極の寒気団にある。12月末から北極寒気は蓄積が続いている。図2は北半球を上から見た上空の天気図で、1月はグリーンランド付近を中心に極ウズと呼ばれる低気圧が発達し、寒気が強まった。
 

正の北極振動:北極寒気は蓄積型、中緯度に暖気
図2 500hPa北半球平均天気図 高度と平年偏差
2020年1月(平年値は1981年~2010年の平均値)(気象庁の図を基に作成)

:平年より高度が低く、気温が低い
:平年より高度が高く、気温が高い
 
 その一方で、北半球の中緯度では暖気が北上し、北米東部、欧州、日本を含む東アジアから太平洋東部にかけて暖かな空気に覆われている。上空の寒気と暖気の間には強いジェット気流が流れ、寒気は南下しにくくなる。これとは逆に、ジェット気流が弱まり寒気の放出が強まると極付近が高気圧になり、図3のように北半球の中緯度を囲むように寒気が南下することがある。すると北極地方は暖かくなり、北米や欧州、中国大陸から日本にかけては寒い冬になる。
 

負の北極振動:北極寒気は放出型、寒気は中緯度に南下
図3 500hPa北半球平均天気図 高度と平年偏差
2009年12月(平年値は1981年~2010年の平均値)(気象庁の図を基に作成)

:平年より高度が低く、気温が低い
:平年より高度が高く、気温が高い
 
 このように、ジェット気流が強弱をくりかえすことによって環状に寒気が南下したり、北極付近に寒気が蓄積して極ウズが発達したりする現象が「北極振動」で、蓄積型は「正の北極振動」、放出型は「負の北極振動」と呼ばれる。今冬は12月末から極ウズが強まり、「正の北極振動」が続いている。北上する暖気も強まって、北米や欧州、日本では暖冬になっている。
 
エルニーニョもどき現象
 この冬、太平洋ではエルニーニョ現象もラニーニャ現象も発生していない。とはいっても、特徴的なことがある。熱帯の日付変更線付近で海面水温が高い。太平洋の赤道付近では昨年7月頃から海面水温が西部と東部で平年より低く、中部で高くなっている(図4)
 

エルニーニョもどき現象:赤道付近の太平洋は中部で高く、西部と東部で低い
図4 海面水温平年差(2019年9月) 気象庁
 
 このような海面水温の分布は「エルニーニョもどき現象」と呼ばれ、近年注目されている。赤道太平洋の中部では対流活動が活発になり、インド洋の風の流れや対流活動など互いに関連し、各地に異常気象をもたらす。赤道太平洋東部のペルー沖が高く、西部のフィリピン沖が低くなる「エルニーニョ現象」(図5)とは区別されている。冬に入ってからは中部と西・東部との温度差が小さくなってきたが、依然として中部太平洋は高く、エルニーニョもどきの傾向が続いている(図6)
 

エルニーニョ現象
図5 海面水温平年差(1997年12月) 気象庁
 

今冬:赤道太平洋は中部で高く、エルニーニョもどきの傾向
図6 海面水温平年差(2020年1月) 気象庁
 熱帯の対流活動は海面水温に対応してインド洋から南米にかけて例年とは異なり、異常気象をもたらしている。エルニーニョもどき現象で対流活動は中部太平洋で活発になっており、上昇した気流は東西方向に下降して、インドネシア周辺と南米北西部では晴天が多く少雨となっている(図7、8)。さらに、その西側と東側では上昇気流が強まり、インド洋西部のマダガスカルは熱帯低気圧の影響で大雨が降った。南米ではブラジル南東部のミナスジェライス州で1月下旬に豪雨が続き、約1万3000人が洪水の被害に見舞われたと伝えられた。
 

寒色領域は積雲対流活動が平年より活発
暖色領域は積雲対流活動が平年より不活発
アフリカ東岸からインド洋西部で多雨、
インド洋東部からインドネシア・フィリピンの東で少雨、
熱帯中部太平洋(東経180度付近)で多雨
南米北部で少雨、ブラジル南東部多雨

図7 月平均外向き長波放射量の平年差(2020年1月) 気象庁
 

太平洋中部で上昇した気流はその東西で下降気流となる
図8 エルニーニョもどき現象の熱帯循環(2020年1月)(気候問題研究所作成)
 
 インド洋では昨年の夏から秋に正のダイポールモード現象が発生し、秋に過去最大級の規模となった。(あぜみち気象散歩77参照)インド洋東部で海面水温が平年より低く、西部では高くなり(図4)、西部で上昇気流が強まったためアフリカ東部では大雨が続いた。今年に入りインド洋東部の海面水温は上昇し、正のダイポールモード現象は終息したが、大気の熱帯東西循環はまだ正のダイポールモードの状態が続き、インド洋の対流活動は西部で活発、東部で不活発となっている(図7、8)
 
エルニーニョもどき現象で蓄積型に
 エルニーニョもどき現象は北極振動にも影響を与えるようだ。エルニーニョもどき現象の上空5000m付近の天気図を1990年以降で合成すると、冬季の北極寒気はグリーンランドを中心に蓄積し、正の北極振動になることが多く、日本は暖冬になる(図9)。今冬は1月~2月に正の北極振動が顕著に現れている。
 

エルニーニョもどき現象の1~2月は「正の北極振動」
図9  エルニーニョもどき現象の1~2月の上空の天気図(気候問題研究所作成)
500hPa北半球天気図合成図(1990~2019年)NOAA合成図ツールにより作成 (平年値は1981年~2010年の平均値)

:平年より高度が低く、気温が低い
:平年より高度が高く、気温が高い
 
 では、エルニーニョ現象ではどうだろうか。1~2月の合成図では北極付近が高気圧になり放出型で「負の北極振動」の傾向になる。図10を見ると負の北極振動はあまり強くはなく、エルニーニョ現象が発生すると日本は暖冬になる。このようにエルニーニョもどき現象では「正の北極振動」が強まり、エルニーニョ現象発生時より暖冬になりやすいことが確認された。北極振動がなぜ起こるのかなど詳しいことは分かっていないが、今シーズンの大暖冬はエルニーニョもどき現象に主な原因がありそうだ。
 

エルニーニョ現象の1~2月は「負の北極振動」
図10 エルニーニョ現象の1~2月の上空の天気図(気候問題研究所作成)
500hPa北半球天気図合成図(1990~2019年)NOAA合成図ツールにより作成(平年値は1981年~2010年の平均値)

:平年より高度が低く、気温が低い
:平年より高度が高く、気温が高い
 
 熱帯海域では、中部太平洋で上昇した気流はインドネシア周辺で下降気流となり、高気圧が強まると、その北側のインドシナ半島の北は低気圧になる。すると、北半球の南部を流れる上空の亜熱帯ジェット気流が蛇行し、日本付近には暖かな南西の風が入り暖冬になる(図11)。このように、熱帯の海水温の変動は北半球全体の大気の流れに影響を及ぼしている。また、図11の低緯度全体では例年より亜熱帯高気圧が強く、暖冬に拍車をかけている。これは温暖化が影響していると思われる。
 

亜熱帯ジェット気流は日本付近で北に蛇行
図11 500hPa北半球平均天気図 高度と平年偏差
2020年1月(平年値は1981年~2010年の平均値)(気象庁の図を基に作成)

:平年より高度が低く、気温が低い
:平年より高度が高く、気温が高い
 
 エルニーニョもどきの3月は暖春になりやすい。熱帯太平洋ではエルニーニョもどきの傾向は3月も続く見込みで、春の訪れは早まりそうだ。
 

 
 
コラム記事リスト
2024/03/21
C字虫――穴の中から飛びだして(むしたちの日曜日105)
2024/02/27
寒暖変動しながら暖冬(あぜみち気象散歩102)
2024/01/19
コブナナフシ――草むらにひそむ龍(むしたちの日曜日105) 
2023/12/26
2023年レベルの違う高温(あぜみち気象散歩101) 
2023/11/20
シロヘリクチブトカメムシ――ふたつ星から星のしずくへ(むしたちの日曜日104) 
2023/10/30
長かった夏(あぜみち気象散歩100)
2023/09/20
ミナミトゲヘリカメムシ――ひげ長の黄色いイケメン(むしたちの日曜日103)
2023/08/30
地球沸騰の夏(あぜみち気象散歩99)
2023/07/20
芋虫――いつのまにか大株主(むしたちの日曜日102)
2023/06/29
冷害より水害(あぜみち気象散歩98)
次の10件 >
注目情報
  コラム:寒暖変動しながら暖冬(あぜみち気象散歩102)
注目情報PHOTO  秋に続き、この冬も寒暖変動が激しかった。11月頃から約2週間の周期で気温が変動した(図1)。 暖冬だが約2週間ごとに寒気入り大きく変動 図1 地域平均気温平年偏差5日移動平均時系列(2023年12月~2024年2月)(気象庁)...
もっと見る