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強い亜熱帯高気圧(あぜみち気象散歩80)  2020-06-25

●気候問題研究所 副所長 清水輝和子  

 
変動した春
 今春は北日本中心に気温が高かったが、4月は寒気が南下したため全国的に気温が低くなり、月毎の気温の変動が大きかった(図1)
 

寒暖変動した春と高温の梅雨
図1 地域平均気温平年偏差5日移動平均時系列(2020年4月~6月)(気象庁)
 
 5月は月半ば過ぎにオホーツク海高気圧が現れて、北日本中心に気温が下がったが一時的で、太平洋高気圧が例年より強く北・東・西日本の気温は高かった。6月も太平洋高気圧は例年より強く、梅雨入り前から夏のような陽気の日が多かった。
 
4月は北極寒気南下
 今冬の北極上空は寒気の蓄積型が続いたが、4月には北極寒気団が分裂し日本に南下した(図2)バイカル湖の西とアラスカ~カナダ沖で高気圧が強まったので、北極寒気が2つに分かれた。上空の寒気がちぎれては寒気の塊となって、日本付近を度々通過した。寒気の塊は“寒冷渦”と呼ばれ、通過時には激しい天候をもたらす。4月13日には鹿児島県上空5000m付近で氷点下27.1℃の真冬並の寒気が南下し、全国的に風雨が強まり大荒れの天気となった(図3)。山間部では雪が降り広島県北広島町八幡で16㎝、河口湖で9㎝の積雪、長野県菅平では13~14日の降雪で21㎝の積雪を観測した。
 

北極寒気は分裂して日本に南下
図2 500hPa北半球平均天気図 高度と平年偏差(上空約5000m付近)
2020年4月(平年値は1981年~2010年の平均値)(気象庁の図を基に作成)

:平年より高度が低く、気温が低い
:平年より高度が高く、気温が高い
 

寒冷渦通過で山間部降雪
図3 500hPa平均天気図 高度と平年偏差(上空約5000m付近)
2020年4月13日(平年値は1981年~2010年の平均値)(気象庁の図を基に作成)

:平年より高度が低く、気温が低い
:平年より高度が高く、気温が高い
 
 4月の気温は全国的に低く、西日本と沖縄・奄美では4月としては2011年以来9年ぶりにかなり低くなった。一方、南海上では、まだ4月だというのに太平洋高気圧が例年より強く、日本付近で寒気と暖気がぶつかりその気温差が大きくなったため、大雨や降雪、雷雨、降ヒョウなど大荒れの天候が多かった。新型コロナウイルス感染拡大の影響で、通勤やレジャーなど外出する人出が減少したのは幸いだったかもしれない。
 
 寒冷渦や気圧の谷の通過で、4月の降水量は九州と沖縄・奄美で少なかったほかは平年より多くなり、東京や山形県新庄、兵庫県豊岡などでは月降水量第1位の記録を更新した(図4)。暖冬で記録的な少雪による水不足が心配されていたが、農業用水も確保されて、代かきや田植えには間にあった。
 

本州で多雨、九州・沖縄・奄美で少雨
図4 降水量平年比%(2020年4月) 気象庁
 
北半球規模で亜熱帯高気圧強い
 5月は寒気の南下は弱まり、太平洋高気圧が例年より強かったので、気温の高い日が多かった。温暖化で5月の亜熱帯高気圧は北半球規模で強まっている。図5の上空の天気図を見ると、5月初めの1~5日には、低緯度の熱帯地方は気温が高く、5880mの線で示された亜熱帯高気圧は1つに繋がっている。亜熱帯高気圧は、通常は太平洋やアフリカ大陸、大西洋などに定位置があって、それぞれがセル状に分かれている。
 

亜熱帯高気圧(5880m)が1つに繋がる
図5 500hPa北半球平均天気図 高度と平年偏差(上空約5000m付近)
2020年5月1~5日(平年値は1981年~2010年の平均値)(気象庁の図を基に作成)

:平年より高度が低く、気温が低い
:平年より高度が高く、気温が高い
 
 過去にもエルニーニョ現象が発生した後に亜熱帯高気圧が強まる傾向があったが、近年は温暖化も加わり、夏を迎える前から亜熱帯高気圧の面積が広がっている。エルニーニョ現象が発生すると太平洋の熱帯海域が広範囲で高水温になるため、大気を温める働きをする。今年の例年より強い亜熱帯高気圧の原因は、一昨年秋から昨年春にかけて発生したエルニーニョ現象に加え、今冬の中部太平洋熱帯海域の高水温が影響しているかもしれない(図6)。背景には温暖化があり、世界の平均気温も今年5月は強いエルニーニョ現象が発生した2015年と2016年を上回り、1891年の統計開始以降で最も高くなった(図7)
 

赤道付近の中部太平洋で高水温
図6 海面水温平年差(2019年12月) 気象庁
 

5月の世界の平均気温は第1位の高温
図7 世界の5月の平均気温偏差の経年変化
1891年~2020年:速報値(基準値は1981年~2010年の平均値)

細線(黒):各年の平均気温の基準値からの偏差
太線():偏差の5年移動平均値)
直線():長期変化傾向
 
猛暑の入梅
 6月は北日本中心に気温が高く、8~10日は3日連続で35℃以上の猛暑日も現れた。太平洋高気圧は9日に一時的に張り出し、5880mの線が東日本を覆った(図8)。例年5880mの太平洋高気圧の線が本州に張り出すのは、早くても6月下旬なのだが今年は異例の早さだ。9日に大宰府で35.6℃、出雲で35.4℃、10日は福島県の若松で36.4℃、喜多方で35.5℃を観測。9~10日は2日連続で全国の300を超える地点で30℃以上の夏日となった。
 猛暑の中、10日には西から梅雨前線が北上し中国・近畿・東海地方で、11日には関東・北陸・東北南部で梅雨に入った。
 

太平洋高気圧が本州に張り出す
図8 500hPa北半球平均天気図 高度と平年偏差(上空5000m付近)
2020年6月9日(平年値は1981年~2010年の平均値)(気象庁の図を基に作成)

:平年より高度が低く、気温が低い
:平年より高度が高く、気温が高い 
 
今夏はラニーニャ・ライクか
 太平洋高気圧が5月から6月に強くても、エルニーニョ現象発生中や終息直後は夏季に太平洋高気圧の張り出しが弱まり、天候不順になることがある。
 6月10日発表の気象庁エルニーニョ監視速報によると「秋にかけてエルニーニョ現象もラニーニャ現象も発生しない平常の状態が続く可能性が高い」と予測しているが、「夏に一時的に監視海域が低くなる」との見解を示している(図9)。6月の監視海域の海面水温は低下傾向で、今夏はラニーニャ・ライクが予想される(図10)。ラニーニャ現象は、太平洋赤道海域の東部で海水温が平年より低く、西部で高くなり、日本は暑い夏になる傾向がある。
 

図9 海面水温の経過と予測 (2020年6月10日発表)気象庁
上の図は、エルニーニョ監視海域の海面水温の基準値との差の5か月移動平均値(指数)の推移を示す。9月までの経過(観測値)を折れ線グラフで、エルニーニョ予測モデルによる予測結果(70%の確率で入ると予想される範囲)をボックスで示している。指数が赤/青の範囲に入っている期間がエルニーニョ/ラニーニャ現象の発生期間。基準値はその年の前年までの30年間の各月の平均値。

 

ペルー沖で低くなる
図10 海面水温平年差(2020年6月上旬) 気象庁
 
 西太平洋熱帯域の海水温も今後は次第に高くなる傾向で、太平洋高気圧を強める働きをするフィリピン沖の対流活動も、夏には活発になりそうだ。太平洋高気圧は本州付近に張り出し、暑い夏になると予想されている。亜熱帯高気圧は北半球規模で強い傾向が続きそうなので、今夏はきびしい暑さに注意が必要だ。
 
 

 
 
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