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小春日和のち師走寒波(あぜみち気象散歩83)   2020-12-24

●気候問題研究所 副所長 清水輝和子  

 
暖かな晩秋から突然の寒波
 11月の気温は中旬から全国的に急上昇し、12月も暖かな師走となっていたが、月半ば頃から寒気が南下し、一転して猛烈な寒波に見舞われた(図1)。日本海側では大雪となり、群馬県藤原では17日19時までの72時間降雪量が219㎝に達し、観測史上1位を更新。17日の積雪は208㎝と例年の約7倍にもなった。
 

11月中旬から気温上昇、12月半ば以降師走寒波
図1 地域平均気温平年偏差5日移動平均時系列(2020年10月~12月)(気象庁)
 
 
 太平洋側では11月から少雨が続き、多雨と日照不足だった9月、10月とは正反対の天候となっている(図2)。今年は極端な天候から極端な天候へと変化することが多かった。地球大気が温暖化という病におかされていると考えれば、これも1つの症状なのかもしれない。
 

11月本州は少雨で日照時間が多かった
図2 気温平年差℃、降水量・日照時間平年比%(2020年11月) 気象庁
 
大春日和の11月
 旧暦の10月は“小春”と呼ばれ、太陽暦の11月から12月上旬頃にあたる。晩秋から初冬の小春の時期に現れる穏やかに晴れた暖かな天気を“小春日和”と呼んでいる。今年の11月は中旬から気温が上昇し、移動性高気圧に覆われて小春日和が多かった(図2、3)。 18~20日には低気圧が日本海北部を通り、中心からのびる寒冷前線が南下した。前線や低気圧に向かって暖かな空気が入ったため25℃以上の夏日が続出し、松江や島根、福井や富山では最も遅い夏日を記録。大阪市八尾では19日に28.1℃まで上がるなど、各地で11月としての記録を更新した。11月は冬を通り越して春のような陽気が多く、小春日和というより“大春日和”とでもいいたくなるような季節外れの暖かさだった。
 

移動性高気圧に覆われ小春日和
図3 地上天気図(2020年11月15日06時) 気象庁
 
 12月に入っても冬型気圧配置は弱く、冷え込みも弱かった。暖かな師走に植物の季節の歩みは遅れ、街路樹のイチョウや庭のモミジは色あせた葉を落とせずにいた。気象庁の生物季節観測では、東京のイチョウの落葉は12月14日、仙台は16日に観測され、平年より共に15日も遅く、最晩記録を更新した。
 
 “大春日和”の原因はいろいろあるが、今年は北半球規模で亜熱帯高気圧が強く、太平洋高気圧は11月も強かったことがあげられる。太平洋高気圧は秋になると南海上へ後退していくのだが、大規模なエルニーニョ現象が発生した2015年頃から温暖化が加速しているので、太平洋高気圧の後退は遅れる傾向だ。上空の北半球の天気図では、太平洋高気圧は日本の南で東西に伸びて、東海上を中心に強い(図4)。また、北極寒気はグリーンランド周辺で低気圧が強まり、蓄積型となった。一方、中緯度では高気圧に覆われ、日本付近も暖かな高気圧に覆われたため暖秋となった。
 

北極寒気は蓄積型、太平洋高気圧は例年より強い
図4 500hPa北半球平均天気図 高度と平年偏差(上空約5000m付近)
2020年11月(平年値は1981年~2010年の平均値)(気象庁の図をもとに作成)

:平年より高度が低く、気温が低い
:平年より高度が高く、気温が高い
 
 ちなみに、10年前の11月の太平洋高気圧と比べてみると、今年と同様に夏からラニーニャ現象が発生した2010年は、図5の様に南東海上に退いて面積も小さかった。2010年以前の11月の太平洋高気圧はこの程度がほぼスタンダードで、強さも大きさも今年とは違っている。この5年位で11月の天気図が大きく変化している。並べて比較してみるとその変容ぶりに驚かされ、温暖化という地球大気の病に危機を感じる。
 

10年前の太平洋高気圧は南東海上に後退
図5 500hPa北半球平均天気図 高度と平年偏差(上空約5000m付近)
2010年11月(平年値は1981年~2010年の平均値)(気象庁の図をもとに作成)
:平年より高度が低く、気温が低い
:平年より高度が高く、気温が高い
 
突然の寒波で大雪に
11月末から12月初めには北日本中心に寒気が入ったが一時的で、12月は師走とは思えない暖かな日が続いていた。ところが、14日から突然のように強い寒波が日本列島を襲った(図1、6)
 

全国低温、山陰以北の日本海側降水量多く日照時間少ない
図6 気温平年差℃、降水量・日照時間平年比%(2020年12月14~20日) 気象庁
 
 上空5000m付近には-40℃の寒気が北海道に南下を始め、16日21時には輪島上空で-36.7℃、米子で-30.1℃と厳寒の頃と同等の第1級の寒気が入った。全国的に気温が下がり、山陰以北の日本海側では雪が降り、各地で大雪となった。群馬県のみなかみ町藤原では14日に雪が降り始め、15日午前1時は0㎝だった積雪が24時には117㎝と、1日にして大雪になった。17日までの72時間降雪量の日最大値は、新潟県津南で175㎝、岩手県の湯田で143㎝、兵庫県兎和野高原で95㎝など12月として記録的な大雪となった(図7)
 

山間部を中心に記録的な大雪
図7 72時間降雪量の日最大値(2020年12月17日) 気象庁
 
 突然の大雪に、各地の道路では車の立ち往生が相次いだ。岩手県と秋田県を結ぶ国道107号線では数台の大型車が積雪で動けなくなり、岩手県の一部の区間で16日朝から8時間にわたり通行止めが続いた。関越道では16日夜、湯沢IC付近から立往生が発生し、上下線あわせて最大2100台の身動きがとれなくなった。政府は17日、災害派遣要請に基づき新潟県への自衛隊の派遣を行った。関越道の立往生は上り線で18日朝、下り線は18日夜10時になってやっと解消した。
 
 農地では農業用ハウスに湿った重い雪が積もり、北海道、東北から北陸、中国地方の各地で倒壊や損壊の被害が発生した。また、兵庫県や鳥取県では17日、大雪による倒木などの影響で大規模な停電や集落の孤立がおきた。初雪が大雪になった地域も多く、降雪に慣れていないところへ真冬並の寒波が襲ったので、被害が大きくなった。まさに災害級の大雪だった。
 
 突然の寒波はなぜやってきたのだろうか。図8の上空の天気図を見ると、グリーンランドの低気圧は南下し、北極付近は寒気の放出型に変わった。東シベリアの北極海沿岸にはブロッキング高気圧が発生したため、偏西風はユーラシア大陸で蛇行して、寒気は日本付近に南下した。
 

東シベリアの北極海沖にブロッキング高気圧発生し西進中
図8 500hPa平均天気図 高度と平年偏差(上空5000m付近)
2020年12月15~19日(平年値は1981年~2010年の平均値)(気象庁の図をもとに作成)

:平年より高度が低く、気温が低い
:平年より高度が高く、気温が高い
 
 地上付近では強い冬型気圧配置となり、等圧線が縦縞模様の“山雪型”になった(図9)。日本列島には北西の季節風が吹き付け、雪雲は山にぶつかり、山間部で積雪が増えた。また、日本海の海面水温は11月下旬頃から平年より高い状態が続き、大雪が始まった12月半ば頃は平年より1~3℃も高く、蒸発する水蒸気量が多くなった(図10)。そこへ、上空5000m付近に-30℃~-36℃の強い寒気が南下してきたので海面との温度差が大きくなり、雪雲が発達して日本海沿岸に次々と入り、山にぶつかり大雪を降らせた。日本海では風の集まる収束帯ができ、雪雲が発達しては陸地に押し寄せてくる地域では局地的に大雪となった。日本海の海面水温は冬も終盤になると冷されて低くなるが、冬の始まりは高いことが多く、強い寒気が南下すると積乱雲が発達して大雪になりやすい。
 

強い冬型気圧配置、等圧線は縦縞模様の山雪型
図9 地上天気図(2020年12月17日09時) 気象庁
 

日本海の海水温高く、雪雲が発達しやすい
図10 海面水温(2020年12月16日) 気象庁
 
 日本海中部と南部の海面水温は、温暖化により上昇している。その上昇率は世界全体のおよそ2~3倍で、とくに日本海中部は日本近海の中で最も大きい。季節別では、冬季は100年あたり2.30℃と最も大きくなっている。日本近海の海水温の季節変化は大気からやや遅れるので、気象庁では冬季は1~3月としている。温暖化で冬季の海面水温が高くなると、強い寒波がやってくれば今まで以上に大雪や局地的豪雪になりやすいと考えられる。
 
ラニーニャ現象で寒冬か
 太平洋の赤道海域では海面水温が平年より西部で高く、東部~中部で低くなり、夏からラニーニャ現象が発生している(図11)。ラニーニャ現象は11月~12月頃に最盛期になり、現在はピークを迎えていると思われる。今回のラニーニャ現象は、気象庁の予測によると春まで続く可能性が60%となっている。ラニーニャ現象の冬は寒いことが多い。今冬はラニーニャが続く予想なので今後も寒波がやってきそうだ。
 

ラニーニャ現象ピークか
図11 海面水温平年差(2020年12月上旬) 気象庁
 
 師走寒波の原因になったブロッキング高気圧は北極海を西進中で(図8)、年末にはロシア西部で西から進んでくる気圧の尾根と合流し、気圧の尾根が強まる予想となっている。偏西風は大きく蛇行し、日本付近には再び強い寒気が南下する見込みで、年末年始は寒波の第2波となりそうだ。局地的に災害クラスの大雪も予想される。新型コロナウィルス感染拡大中の年末年始は、帰省やレジャーは控えて、自宅でゆっくり過ごすのがよさそうだ。
 

 
 
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