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記録的高温の春(あぜみち気象散歩85)  2021-04-30

●気候問題研究所 副所長 清水輝和子  

 
記録的高温、のち霜害
 3月は全国的に気温が高く、北・東・西日本では記録的な高温となった(図1)。サクラも各地で記録的に早く開花した。果樹などの農作物も生育が早まったところへ、4月は寒の戻りがあり凍霜害が発生した。4月下旬には気温が急上昇し真夏日のところが現れたかと思えば、朝晩冷えて北海道では雪が降るなど、気温の変動が大きい。季節の移ろいが今までとは変わってきているようだ。
 


3月は記録的高温、4月寒暖変動

図1 地域平均気温平年偏差5日移動平均時系列(2021年2月~4月)(気象庁)
 
サクラの開花記録的に早まる
 この春、全国で初めてサクラが開花したのは広島で、3月11日だった。過去に最も早かったのは高知の2010年3月10日で、それに次ぐ2番目の早さだった。14日には長崎、松江、東京で開花し、広島、長崎、松江は観測開始以来の最早で、東京も昨年と同日のタイ記録だった。その後も福岡、京都、名古屋、など各地で最早記録が更新された。サクラ前線の北上も早く、例年は4月24日に到達する青森県で、平年より11日も早く13日に開花した。
 
 3月の記録的高温で満開も早く、東・西日本では徳島と長野を除いて3月末までに満開を迎えた。京都は3月26日で、これは過去1200年で最も早い満開と報じられた。大阪府立大学の生態気象学研究グループの調査によると、過去の宮廷の資料や日記の記述から京都の満開日は812年にさかのぼることができ、1236年、1409年、1612年の3月27日の記録を上回り、過去約1200年で最も早かった。この調査は海外からも都市気候や温暖化、気候変動の貴重な資料として注目された。1200年もの長期にわたる植物の記録は驚きであり、花を愛でる日本の文化の歴史は私たちの誇りでもある。
 
 早い春に植物たちは咲き急ぎ、例年ならばサクラが散ってから木々の新芽が吹き出すのに、この春は花が散らないうちに芽生えが始まった。サクラに新録の景色は美しく、それはそれで楽しめたが、今までにない光景に違和感も持った。
 4月に入ると、東京ではツツジやフジの花が咲いたという。フジの花は5月に楽しむものと思っていたので驚きだった。
 ノダフジの開花は気象庁の生物季節観測の項目に入っているので、過去のデータを調べてみると、2018年に最も早く4月6日に開花した。2018年はラニーニャ現象が春に終わり、3月も高温で今年と気候の様子がよく似ている。今年のノダフジの開花日はどうだったのか気になるところだが、残念なことに今年1月から観測が中止になった。気象庁ではサクラの他にスミレやノダフジなど、41項目の植物の観測を行ってきたが、今年からサクラの開花・満開やイチョウの黄葉・落葉など9項目に減らされることになった。また、ウグイスやセミなどの動物の初見や初鳴は観測が中止された。しかし、多くの反対の声が届き、3月30日、気象庁と環境省、国立環境研究所と連携して調査を継続する方向で試行的な調査を開始することになった。
 気候の変化は、気温や降水量などの数値データだけでは把握できないこともある。人間が感じる以上に動植物は天候の変化に敏感だ。今起こっている気候変化は、自然の変動だけでなく温暖化も含まれている。動植物の影響を継続的に調べることは地球温暖化の原因を生み出した人間の責任であると同時に、危機を知らせてくれるサインにもなる。日本には1200年も続く生物季節観測の歴史があるので、今後も途絶えることなく生物季節観測が続いてほしいと願う。
 
帯状高圧帯が強まる
 生物にも大きな影響を与えた3月の記録的な高温の原因は、上空の天気図を見るとわかる(図2)。3月は北極寒気が蓄積期に入り、寒気はロシア西部に南下した他は、シベリアを中心に北極低気圧が強まった。寒気の南下は弱まったので、中緯度は暖かな空気に覆われた。とくに、太平洋から日本、中国大陸にかけては帯状に高圧帯が東西に広がり、日付変更線付近のアリューシャンの南を中心に高気圧が強まった。一方、太平洋からインド洋にかけての低緯度では低気圧の範囲が広がったので、中緯度帯では北と南が低気圧になり、相対的に高圧帯が強まった。このような天気図型になると高温に拍車がかかる。
 

北極寒気は蓄積型、中緯度高圧帯強い
図2 500hPa北半球平均天気図 高度と平年偏差(上空約5000m付近)
2021年3月(平年値は1981年~2010年の平均値)(気象庁の図をもとに作成)

:平年より高度が低く、気温が低い
:平年より高度が高く、気温が高い
 
 昨夏から発生しているラニーニャ現象の影響もある。
 ラニーニャ現象発生時の2月から4月は、太平洋でアリューシャンの南を中心に高気圧が強まる傾向がある。ラニーニャ現象では北極寒気は放出型になることが多いが、今年3月は蓄積型になったので寒気の南下は弱く、太平洋の中緯度高圧帯は日本から大陸方面まで広がった。高温は中国大陸でも観測され、降雪が少なったため今春は黄砂が度々観測された(図3、4)
 

中国から日本にかけて高温
図3 世界の月平均気温平年差(2021年3月) 気象庁
 

中国内陸部の砂漠地帯や黄土高原で積雪日数少ない
図4 衛星写真による北半球の積雪日数平年偏差(2021年3月) 気象庁
   
 例年は雪に覆われている砂漠地帯や黄土高原では少雪だと土が露出し、発達した低気圧や顕著な寒冷前線が通ると砂が舞い上げられる。3月15日にはここ10年で最大規模の砂嵐に見舞われ、中国北部では深刻な大気汚染が発生した。3月末にも発達しながら東進した低気圧により大規模な黄砂が発生し、日本では沖縄・奄美を除く全国で観測された(図5)。30日の北海道は空が白くかすむほどになり、函館市の視界は10㎞ほどに低下した。
 

中国内陸で低気圧が発達しながら東進し、黄砂発生
図5 地上天気図(22021年3月27日) 気象庁
 
 前回のラニーニャ現象は2018年の春に終わったが、2018年の3月の天気図は同じように中緯度高圧帯が強まる気圧配置になり、3月は東日本で記録的高温になった。今年はその記録が更新された。帯状高圧帯は2018年より面積が広がり、中心は日本に接近して強まった。このような帯状高圧帯は毎年現れるわけではないが、3月に帯状高圧帯が現れれば、温暖化の進行とともに、今後はさらに強まっていくのかもしれない。
 
4月は放出型
 4月に入ると上旬前半はまだ高温が続いたが、上旬後半には気温が下がり、4月は変動した(図1)。北極寒気は放出型になり、中緯度の高圧帯も次第に弱まり、日本付近にたびたび寒気が南下した。東海上で高気圧が強かったため、寒気がちぎれては塊となり、寒冷渦になって通過した。4月7~8日にかけて通った寒冷渦は、北海道の平地や北陸以北の山間部に雪を降らせた(図6)
 

4月の北極寒気は放出型になり、日本にも一時寒気南下
図6 500hPa平均天気図 高度と平年偏差(上空5000m付近)
2021年4月6~10日(平年値は1981年~2010年の平均値)
(気象庁の図をもとに作成)

:平年より高度が低く、気温が低い
:平年より高度が高く、気温が高い
 
 寒冷渦の通過後の10~11日には移動性高気圧が通ったため、放射冷却が強まって夜間は冷え込み、関東~東北の広い範囲で凍霜害が発生した(図7)。このような移動性高気圧は大陸北部から南下して冷たい空気を運んでくるので、「霜害高気圧」と呼ばれる。3月の高温で果樹の生育や開花が早まっていたところに氷点下の冷え込みとなり、山形県のサクランボや長野県のリンゴ、福島県・栃木県の梨などの果樹に加えてアスパラガスなどの農作物にも被害が広がった。
 

霜害高気圧
図7 地上天気図(2021年4月10日6時) 気象庁
 
 同様の被害はフランスでも発生し、季節外れの寒波がワイン産地を直撃した。3月下旬から4月初旬まで記録的な暖かさが続いたためブドウの生育が早まったところへ、寒波が襲ったという。6日から3日連続して0℃以下の気温が観測され、霜害はフランスワインの生産地の80%にも及び、30年ぶりの被害と報じられた。図6を見ると、北欧に中心を持つ強い寒気が欧州に南下している。フランスでは北西から乾いた冷たい風が入り、晴天が続いたため夜間に放射冷却が強まって気温が下がり、霜害が発生した。
 
 3月は北半球の中緯度帯は高気圧が強かった。4月は北極寒気の放出期になり、寒気が中緯度に南下したため偏西風の蛇行が大きくなっている。偏西風の蛇行が大きい状態は北半球全体でまだ続きそうなので、凍霜害や寒冷渦の通過による雷雨や降ヒョウ、気温の急上昇など天気と気温の変動に注意が必要だ。温暖化で春の訪れが早まると、凍霜害は地球規模で発生しやすくなるのかもしれない。
台風2号記録的に発達
 4月14日03時にカロリン諸島で台風2号が発生した。フィリピンの南東海上を北西に向かってゆっくり進み、17日から急速に発達して猛烈な台風となり、18日午前3時には中心気圧が895hPaまで下がった(図8)。台風は夏から秋にかけて海面表層が暖まって水温が上昇し、水蒸気をエネルギーにして発達する。800hPa代まで下がるのはほとんど8月から11月の間で、1~4月にここまで発達することはなかった。最近では2015年の台風4号が、3月31日から4月2日にかけて910hPaまで下がった。
 

台風2号中心気圧は895hPaまで下がる
図8 地上天気図(2021年4月18日12時) 気象庁
 
 台風2号が急速に発達した4月17日の海面水温を見ると、フィリピン周辺で28℃以上の高水温の海域が広がっている(図9)。春のフィリピン沖の海面水温は上昇傾向にある。気象庁がエルニーニョ現象などの海面水温の変動を監視している海域の1つであるNINO.WEST(図10)は、台風発生海域でもある。そこで、NINO.WESTの3月と4月の海面水温のデータをグラフにしてみた(図11)。NINO.WESTの海面水温はエルニーニョ現象で下がり、ラニーニャ現象で上昇するので年々の変動はあるが、長期的にみると上昇傾向にあり、とくに20世紀末から急激に上昇している。
 

フィリピンの南東海上は28℃以上の高水温
図9 海面水温(2021年4月17日) 気象庁
 

フィリピンの東海上の監視海域はNINO.WEST
図10 エルニーニョ現象などの監視海域  気象庁
 

フィリピン東海上の春の海面水温は今世紀に入り急激に上昇
図11 3月と4月のNINO.WESTの月平均海面水温(1949年~2021年) 
(気象庁のデータをもとに作成)

 
 過去に台風が最も早く4月に上陸したのは1956年の台風3号の1回だけだが、全国に接近した数は11個、本土への接近は2個ある。4月の台風の上陸や接近は増加する傾向はないが、台風発生海域の水温上昇を考えると、温暖化によって4月に猛烈に発達する台風は珍しくなくなるかもしれない。
 

 
 
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