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暑い秋晴れ、のち冬の兆し(あぜみち気象散歩88)  2021-10-29

●気候問題研究所 副所長 清水輝和子  

 
気温変動の秋
 この秋は夏に続き気温が大きく変動した(図1)。9月前半は東日本中心に気温が下がり涼しくなったが、後半から暑さが戻った。「暑さ寒さも彼岸まで」というのに、秋分の日の頃から30℃を超える真夏日が増えはじめ、10月上旬は東・西日本で真夏日が連続する地点もあった。大阪や京都では10月としての真夏日の日数が過去最多を記録した。また、大分県日田市では3日に35.7℃と猛暑日となり、10月として記録的な暑さとなった。ところが、10月半ばを過ぎると北日本から寒気が入り、17日には稚内で初雪が降り、23日には近畿地方で木枯し1号が吹いた。秋を感じる間もなく、季節が急に進んだ。
 新型コロナの感染者数は減少したものの、長引く自粛生活で体力が落ちているところに気温の変動が加わり、体調管理に悩まされる秋になった。
 

9月涼しくなる、後半暑さ戻る、10月気温上昇、後半冷える
図1 地域平均気温平年偏差5日移動平均時系列(2021年8月~10月)(気象庁)
 
秋の太平洋高気圧強い
 近年、温暖化の影響で太平洋高気圧は秋になっても南東海上に後退せず、強い状態が続いている。今年の太平洋高気圧は日本の南で東西に広がる傾向で、日本付近に張り出すと暑さが戻り、張り出しが弱まると寒気が南下するので、気温の変動が大きくなっている。9月の前半は図2のように、太平洋高気圧は南海上で東西にのびて強かったが日本への張り出しは弱く、偏西風が蛇行して寒気が南下したため涼しくなった。東・西日本では前線や台風14号の影響で曇雨天が多く、日照不足となった。
 

寒気南下、低温・多雨・日照不足
図2 500hPa北半球平均天気図 高度と平年偏差(上空約5000m付近)
2021年9月1~10日(平年値は1991年~2020年の平均値)
(気象庁の図をもとに作成)

:平年より高度が低く、気温が低い
:平年より高度が高く、気温が高い
 
 17日に九州に上陸した台風14号は、13~16日東シナ海で停滞した。当初は弱まって温帯低気圧に変わる予想だったが、海水温が高かったため息を吹き返したように再発達し、16日に東へ動き始めて17日18時福岡に上陸した(図3)。福岡への上陸は1951年の統計開始以来、初めてのことだった。上陸後は東進して四国、紀伊半島を通過し、東海沖で温帯低気圧に変わった。72時間降水量は宮崎県赤江で537.0mm、高知県窪川で405.5mmなど9月として記録的な雨をもたらした。
 

台風14号は17日福岡に上陸
図3 台風経路図(2021年9月7日~18日) 気象庁
 
 台風が本州の南を通るコースを進むと通常は太平洋高気圧が弱まることが多いが、台風14号の通過後は弱まらず、太平洋高気圧は再び強まって気温が上昇した(図1)。10月に入ると太平洋高気圧はさらに強まって東北南部まで張り出し、西日本の上空には5940mの強い中心が現れた(図4)。100地点以上で連日のように真夏日が観測され、3日には大分県日田で猛暑日となった。真夏でも日本上空にはめったに現れない強い太平洋高気圧が、10月だというのに西日本を覆った。上空は真夏でも、地上付近の天気図は秋の移動性高気圧型で、大陸からの乾いた空気に覆われたが、気温は高く夏のように暑かった(図5)。この不思議な天気を「暑い秋晴れ」とでも呼べばよいのか、今までにない陽気に困惑した。地球温暖化は毎年形を変えて新しいタイプの症状が現れる。今後は「暑い秋晴れ」は普通の秋の天候になるのかもしれない。
 

太平洋高気圧が真夏のように強まり、強い中心5940m九州・四国を覆う
図4 500hPa北半球平均天気図 高度と平年偏差(上空約5000m付近)
2021年10月4日(平年値は1991年~2020年の平均値)
(気象庁の図をもとに作成)

:平年より高度が低く、気温が低い
:平年より高度が高く、気温が高い
 

地上付近は移動性高気圧型、暑い秋晴れ
図5 地上天気図(2021年10月4日6時) 気象庁
 
秋の寒波
 新型コロナの影響で行楽もままならないが、秋らしい行楽日和の来る日を待ち焦がれていると、10月半ばには突然のように冬の先陣が北から南下してきた。17日には北海道の中山峠など各地で雪が降り、平地では稚内で今年最も早い初雪となった。本州の北アルプスや志賀高原など高い山では積雪になった。朝晩は冷え込むようになり、甲府や宇都宮で初霜や初氷が観測された。甲府の初氷は平年より20日も早かった。
 上空5000m付近の天気図(図6)を見ると、太平洋高気圧の張り出しは弱まって、ユーラシア大陸を流れる偏西風が大きく蛇行した。大陸のバイカル湖の西と東海上のアリューシャンの南で高気圧が強まり、その間の日本付近には寒気が南下した。冬にこの流れのパターンになると強い寒波となる。
 

偏西風蛇行し、10月後半寒気南下し木枯し
図6 500hPa北半球平均天気図 高度と平年偏差(上空約5000m付近)
021年10月15~21日(平年値は1991年~2020年の平均値)
気象庁の図をもとに作成)

:平年より高度が低く、気温が低い
:平年より高度が高く、気温が高い
 
秋も世界規模で異常気象
 偏西風の蛇行は北米大陸まで続き、北米西海岸では寒気が南下し、湿った南西風が入った(図6)。25日には急速に発達した低気圧により強風を伴った記録的大雨に見舞われ、道路の冠水や土砂災害が発生した。シエラ・ネバダ山脈を横断する高速道路は、降雪のため通行止めとなったと報じられた。夏季には高温と史上最悪の干ばつで森林火災が続発したカリフォルニアでは、温暖化も加わり変動の激しい天候になっている。
 また、インドとネパールでは、18日から豪雨に見舞われ、洪水や地滑りが発生し、死亡者は200人余りに達したという。図6を見ると、インド西部には偏西風が蛇行して南下し湿った南西風が入った。そのうえ、太平洋高気圧がインド半島付近まで張り出したため、高気圧の縁辺に沿ってベンガル湾の暖かい湿った気流が入り、水蒸気量が増加して豪雨をもたらしたと考えられる。AP通信によると、北部ヒマラヤ地方では地球温暖化の影響で大雨が降る頻度が高くなっている。氷河の溶解もあって、年々洪水や土砂災害の危険度が増している可能性があると専門家が指摘している。
 10月3日には、乾燥した気候で知られるアラビア半島のオマーンにサイクロン「シャヒーン」が上陸した。オマーン気象庁によると近郊のスワイクでは平年の1年分の降水量に匹敵する116mmの雨がわずか6時間で降った。夏から秋は乾季でほとんど雨の降らない地域で、洪水や家屋の倒壊などの被害が発生したと報じられた。
 イタリア北西部でも10月3~4日に暴風雨が続き、記録的豪雨が発生した。ジェノバ地方のロッシリオーネでは925mmを超す雨が降り、4日には12時間降水量が742mmと、欧州の観測史上最高を記録した。
 
温暖化研究で真鍋氏にノーベル物理学賞
 世界の異常気象はこの秋も多発し、枚挙にいとまがない。目立つのは大雨の被害で、洪水や土砂崩れなどにより人命だけではなく家屋などの財産が失われ、インフラも寸断されて経済的損失が大きい。今年は地球温暖化の影響とみられる被害が急増し、世界規模で人々の危機感が増したように思える。
 
 激化する異常気象が背景にあったのか、今年のノーベル物理学賞は、地球温暖化の予測を世界でいち早くシミュレーションした真鍋淑郎博士が受賞をした。真鍋博士は1958年米国気象局に招かれ、最先端のスーパーコンピューターを使って様々な温室効果ガスが大気の温度をどうのように保つか、その役割を定量的に解明した。この研究を基に大気大循環モデルを開発して、気候シミュレーションを成功させた。気候変動は海洋による影響が大きいため、1960年代半ばから海洋物理学者のカーク・ブライアン氏と開発を始め、1969年に「大気-海洋結合モデル」が誕生した。その間温暖化の研究も進められ、1989年に真鍋博士らの研究グループは温暖化をコンピューター予測する本格的な論文を世界で初めて発表した。そして、1990年に発表されたIPCC(国連の気候変動に関する政府間パネル)第1次評価報告では、真鍋博士は第1作業部会報告書の執筆責任者として参加した。
 
 1992年、地球環境問題解決のために優れた研究をした人や、活動を続けてきた人たちを讃えて贈られる旭硝子財団の「ブループラネット賞」が創設され、その第1回受賞者に真鍋博士が選ばれた。9月に受賞者記念講演が行われ、気候問題研究所の朝倉所長とともに筆者も講演会に参加した。朝倉所長は真鍋博士より7歳年上で、真鍋博士の東京大学大学院生時代からの知り合いとのこと。博士は偉ぶることはなくフランクに2人で会話をしていたことが印象に残っている。
 講演では、最先端の研究を分かりやすく力強く語っていた。当時は、企業や個人にはまだパソコンが普及していなかった時代で、大気-海洋結合モデルによって二酸化炭素を増加し計算された世界の気温分布の図は貴重な資料だった。その後も真鍋博士は26世紀頃までの温暖化の予測を行うなど、温暖化研究の先端を走り、次はどのような研究結果を発表されるのだろうかとワクワクする気持ちにさせられた。朝倉所長は、「気象や天候の研究にはノーベル賞を受賞することはないものと思っていたが、真鍋博士の受賞は世界中の気象・気候学者が喜んでいるだろう」と語っていた。
 真鍋博士のノーベル物理学賞受賞によって、世界の温暖化対策が加速されることを誰もが願ったのではないだろうか。
 

 
 
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