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ニワネズミ――危ういぬくもり(むしたちの日曜日92)   2021-11-18

●プチ生物研究家、ときどき児童文学者 谷本雄治  

 
 「庭で、ネズミが死んでいたよ」
 「ネズミ?」
 「カヤネズミじゃないと思うけど」
 家人が、前の日までなかったはずのネズミの死がいがあると言ってきた。
 「たぶん、ネコの仕業よ」
 若いころ、実家でネコを飼っていたので、その習性はいくらか知っている。
 ぼくはネコにまったく興味がないのだが、「カヤネズミ」という一言で心が動いた。今年になって初めて、近くの田んぼでカヤネズミの巣をいくつか見つけたからだ。
 だからといって一般家庭に、しかも狭い庭にカヤネズミがいるとも思えない。
 とすると、ドブネズミか? クマネズミ、ハツカネズミということもあるのだろうか?
 カボチャのつるが伸び放題になり、シソやエゴマの葉が生い茂る庭に出て、いると言われた場所を見るとネズミが確かに死んでいた。
 頭胴長は10センチぐらい。小柄のネズミだ。体の大きさから判断するとハツカネズミの線が浮かぶが、ほかのネズミの幼獣ということも考えられる。否定しながらも、カヤネズミという言葉が口をついたのもうなずける。
 すみかを考えるとどうだろう。クマネズミは屋内の天井だとか高い場所にいることが多い。ドブネズミは低いところや水があるような場にいるはずだ。ハツカネズミは物置や狭いすき間などにいる。
 そうしてみると、からだの大きさと見つけた場所から考えてハツカネズミが濃厚だ。でも、その判定にはまったく自信がない。庭で見つけたから、戒名は「ニワネズミ」としておこう。ニワハンミョウなら現に何匹も見ているし、庭で毎年、繁殖もしている。
 何はともあれネズミの写真を撮り、その後で埋葬することにした。庭の踏み石にしている方形ブロックを持ち上げ、 スコップを持ってきて、その下に穴を掘った。
 被害を受けたものがあるのかどうかわからないが、とにかくは成仏してもらいたい。土をかぶせ、ブロックを元に戻し、そこにネズミがいたとは思えないようにした。
 
 野外でハツカネズミを見たのは、もう何年も前になる。買い物に出かけた先の道端に、ちぢこまっていた。手を近づけても逃げようとしない。小柄で愛らしかったので、そのまま連れて帰りたくなったものだ。
 白いハツカネズミなら、少年時代によく見た。縁起が良いとされる白蛇と同じアルビノ(白化個体)だからか、飼育する友達も多かった。あのサイズ感もいい。
 
 
 
 最近のペット用ハツカネズミは、白いとは限らない。ベージュや黒、灰色といったカラフルなハツカネズミが流通している。褐色のハツカネズミなら野生のものと変わらないようにも思えるが、色とりどりのハツカネズミに混じると違った色に見えるから、なんとも不思議だ。
 実験動物としてのネズミには、また別の呼び名がある。ドブネズミの白化個体はラット、ハツカネズミはマウスだ。
 ドブネズミだと知ると、ラットを飼いたいという気持ちにはならない。それなのにペット用のドブネズミには「ファンシーラット」という名前が与えられ、見事に変身する。オレンジやベージュ、クリームなどがあり、単色よりも部分的に毛の色がついたものが多いようである。
 性格も穏やかで、ハムスターやハツカネズミよりも飼いやすい。それがドブネズミの改良種なのだから、ネズミたちも驚いているのではないだろうか。カケスやルリカケス、カササギがカラスの仲間ということと同じかもしれないが、にわかには信じがたい。
 近所の田んぼで見つけたカヤネズミの巣といい、少し前に出かけた地元の海岸でうろついていたドブネズミとおぼしきネズミといい、このところなぜか、ネズミに縁がある。
 海岸でネズミを見るのはたぶん、十数年ぶりのことだ。 岩と岩の間に、海から流れ着いたものがたくさんたまっている。
 浜辺を歩いているとよく目にするのだが、クルミやドングリなど、食べられそうなものもある。それ以外にも食べ物となるものはいろいろあるだろうから、それらをえさにして、すみついているのかもしれない。
 
 そんなネズミたちを見て気になるのは、地球温暖化との関係だ。数年前にはアメリカ合衆国の研究者が、世界の平均気温が2度上昇すると暖かい冬と猛暑の割合が高まり、ネズミが異常繁殖すると警告している。
 人間が都市部に集中して暮らすようになると、ネズミのえさも増える。その結果、いわゆるネズミ算式にどんどん増えていく。その兆候といえるのか、世界各地でネズミの加害や業者への駆除依頼が増加しているというから見過ごせない。
 ニュージーランドでは、ネズミが増えすぎて貴重な鳥が絶滅した例がある。そのために研究者らはなおさら、警戒感を強めているという。
 
 そうかと思えばネズミ駆除が功を奏し、いったんは激減したネズミの好物とされるミツギリシギゾウムシがまた増えだしたという報告もある。キリストが生き返らせたというラザロにちなんだ「ラザロ効果」の例として紹介されることも多いエピソードだ。
 温暖化は、寒がり生物に都合がいい。たとえばクマネズミは熱帯が原産とされ、寒さに弱い。
 ところがビルの中は、真冬でも寒さ知らず。そんなすみかを手に入れたことで、クマネズミが近年、勢いを増している。
 都市部に人口が集中すれば、人々は快適な住環境を求める。夏涼しく冬暖かい住居であり、職場だ。それはそのままクマネズミの住環境の改善につながり、憂いをなくしたことで繁殖に拍車がかかる。
 
 だが、温暖化とネズミの関係はそう簡単でもない。増えすぎて困ることがあれば、その逆も起こりうる。
 やはりニュージーランドの話だが、世界最大のサンゴ礁として知られるグレートバリアリーフの島に住んでいたネズミの一種が、地球温暖化の影響で絶滅したというのである。
 ブランブルケイ・メロミスというネズミだそうで、地球温暖化によって絶滅したほ乳類第1号として、大きく報じられた。海面上昇によって島が浸水し、もともと数十匹だったこのネズミがついに消えたというのである。それにより2019年2月、絶滅種と認定された。なんとも悲しい話である。
 
 生き物好きの端くれであり、カヤネズミのにわかファンになったとはいうものの、温暖化でネズミが増えすぎるのは望まない。かといって、種が滅びるようなことにはなってほしくない。特定の種だけが増えるのではなく、消えるのでもなく、多種多様な動植物が存在できる環境が地球にとって好ましいはずだからである。
 ゾウがいればアリがいる。チョウも蛾も、ミミズ、ダニだって。それらを支える植物も無数にあるような環境は、想像するだけでわくわくする。
 ゾウといえば、ゾウがネズミを怖がるという話をたびたび耳にする。だが、それはどうやら真実ではないようだ。
 ゾウは視力があまり良くない。それなのに目の前に突然、なんだか得体の知れないものが現れたら、どぎまぎするのは致し方ない。たまたまそんな様子を見た人がいて、ネズミを怖がるという都市伝説に近いものになっていったのではないか。ネズミについて、まだ知らないことがあるはずだ。
 
 地元の千葉市動物公園でゾウでも見られればいいのだが、ゾウガメはいてもゾウはいない。ありがたいことに、巨大ネズミといっていいカピバラがいる。
 久しぶりに見ようと出かけると、カヤネズミの展示もしていた。巨体ネズミと小さなネズミ。うれしくなる組み合わせだ。
 かの清少納言は『枕草子』で、「きたなげなるもの」の筆頭にネズミのすみかを挙げている。東京都文京区の根津権現の「根津」という名前の由来には諸説あるが、そのひとつに大黒天の使者がネズミであることに由来するという説がある。
 ネズミの話もあっちへ行ったり、こちらへ来たり。ちょろちょろと動き回るネズミらしい話がたくさんあるだけで楽しくなる。
 
写真 上から順番に
・どこからかよくやってくるネコ。ネズミを加害したのは、このネコかも。居眠りをきめこんでいるけれど
・ハツカネズミだろうか? 庭で死んでいた戒名「ニワネズミ」。ネコのしわざ説がわが家では有力だが、さて、どうだろう
・左:野生のハツカネズミ。人間を見ておびえていたのか、しばらくじっとして動かなかった
・右:ハツカネズミ。昭和30年代当時のわが家周辺では、よく飼われていた
・ドブネズミ。最近はペット用の「ファンシーラット」が人気を呼んでいるそうだ。その気で見れば、つぶらな瞳が愛らしい?
・海岸で見たネズミ。たぶん、ドブネズミだろう。たくましく生きてくれたまえ
・農作物を荒らすので嫌われるハタネズミ。農家には申し訳ないが、こうして見ると意外にかわいいし、美しい
・動物園で飼育されていたカヤネズミ。見ていると、癒されるかわいい系のネズミだ
・地球上で最大のネズミと紹介されることもあるカピバラ。かつては宇宙で飼育する話もあったが、近ごろはまったく耳にしない

 
 
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