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大寒波と記録的高温(あぜみち気象散歩96)   2023-02-20

●気候問題研究所 所長 清水輝和子  

 
10年に1度の大寒波
 1月は大寒過ぎに強い寒気が南下し、日本海側では大雪になった。10年に1度といわれた強い寒気は主に西日本中心に南下し、四国や九州の太平洋側にも雪が降った。寒さで水道管が破裂し、各地で断水が発生した。道路では車の立ち往生が発生し物流が停滞。JR京都線も立ち往生し通勤客が最長10時間も缶詰状態になるなど、日常生活に様々な影響をもたらした。
 
 今冬はクリスマスの頃にも寒波がやってきて、寒い冬という印象が強いが、実はそうでもない。1月中旬には全国的に気温が上昇し、東日本の中旬の平均気温は統計史上最も高かった。その後、大寒過ぎに全国的に寒くなったが、立春すぎには急に暖かくなり、春めいた陽気になった。そうかと思えば、太平洋岸で大雪もあった。今冬は、気温と天候の変動が大きい(図1)
 

寒暖変動の冬
図1 地域平均気温平年偏差5日移動平均時系列
(2023年12月~2023年2月) 気象庁

 
 
北日本に正月寒波、1月中旬全国気温上昇
 クリスマスの頃の寒波の原因は、東シベリアで発生した強いブロッキング高気圧で、北極の寒気はこの高気圧にブロックされ西日本中心に南下した。北日本では高気圧の影響で気温が上がり、東・西日本、南西諸島では寒波となった(図1、2)
 

東シベリアにブロッキング高気圧し発生クリスマス寒波
図2 500hPa平均天気図 高度と平年偏差(上空約5000m付近)
(2022年12月22~26日)(気象庁の図をもとに作成)

:平年より高度が低く、気温が低い
:平年より高度が高く、気温が高い
 
 ブロッキング高気圧は年末には次第に弱まり、正月は寒気が北上した。一方、北日本では寒気が残ったので寒くなった(図3)。冬の寒さはその後も続きそうに思われたが、中旬に入ると気温は全国的に急上昇した(図1)。ユーラシア大陸の上空を流れる偏西風の蛇行が大きくなり、寒気が南下する地域は年末年始とは逆になった(図4)。暖冬だった欧州に寒気が南下し、寒かったロシア西部は高気圧になり気圧の尾根が強まった。北上した偏西風は中国西部に南下し、日本付近で北上したので日本は暖かな空気に覆われ、気温が上昇した。15日の最高気温は三重県の津や愛西で17℃、静岡県浜松では17.2℃まで上がり、春を思わせる陽気となった。
 
 

北日本で正月寒波、東シベリアに寒気停滞
図3 500hPa平均天気図 高度と平年偏差(上空約5000m付近)
(2023年1月1~5日)(気象庁の図をもとに作成)

:平年より高度が低く、気温が低い
:平年より高度が高く、気温が高い
 

日本付近は暖かな空気に覆われる、東シベリアで寒気強まる
図4 500hPa平均天気図 高度と平年偏差(上空約5000m付近)
(2023年1月中旬)(気象庁の図をもとに作成)

:平年より高度が低く、気温が低い
:平年より高度が高く、気温が高い
 
大寒すぎに寒波
 春のような陽気は長くは続かず、大寒頃には北日本から寒くなり、西日本を中心に大寒波となった(図1)。26日の最低気温は岡山県奈義で-16.8℃、栃木県大田原で-16.4℃、群馬県沼田市と長野県上田市で-14.4℃、京都府園部で-13.0℃など各地で観測史上最も低くなった。25日の24時間降雪量の日最大値は、岡山県の上長田で93㎝、津山で47㎝など観測史上最多を記録した。
 
 大雪のため、公共交通機関の欠航や運休が相次ぎ、鉄道や高速道路など交通網は大混乱となった。24日はJR西日本の京都線と琵琶湖線でポイント凍結により15本の電車が立往生し、乗客は長時間社内に閉じ込められた。25日には新名神高速道の上下線で積雪による立往生が発生するなど、高速道路や国道で渋滞が発生した。北陸や西日本では停電や水道管の凍結破損による断水が相次ぎ、市民生活も混乱した。農業関係では、大雪と暴風によりハウスの倒壊を初め農産物に凍害が発生。長崎県では寒さに弱いビワが、愛媛県ではかんきつ類が、鹿児島県はスナップエンドウや豆類が凍害に見舞われた。鳥取県では特産の白ネギが雪に埋れて折れるなど、雪や寒さの被害が相次いだ。
 
下層に寒気流入
 世界で最も寒い都市といわれる極東ロシア、サハ共和国のヤクーツクでは、1月19日に-62.7という酷寒に見舞われた。マフラーで顔を隠さないと10分で凍傷になるという想像を超えるきびしい寒さだ。東シベリアでは今年に入り北極寒気が停滞したため寒気が強まった(図3、4)。冷たい空気は重たいので地表付近に溜まり冷え込む。この酷寒の空気は下旬になると日本へ南下してきた。
 
 上空5000mの天気図を見ると、北米西沖で暖気が北上し、気圧の尾根が発達して東シベリア沖に再びブロッキング高気圧が発生した(図5)。また、日本の東海上でも高気圧が強まった。東シベリアの北極海沿岸にはブロッキング高気圧、ロシア西部にも高気圧、中国南部も高気圧になり、大きな寒気団は周りを高気圧に囲まれて身動きがとれず、日本の上空に強い寒気が停滞した。
 

東シベリアから南下した寒気、高気圧に囲まれる
図5 500hPa平均天気図 高度と平年偏差(上空約5000m付近)
(2023年1月24~28日)(気象庁の図をもとに作成)

:平年より高度が低く、気温が低い
:平年より高度が高く、気温が高い
 
 今年1月下旬の寒波の特徴は、上空よりも比較的下層に近い3000m以下で寒気が強かった。福岡では28日9時の上空5000m付近の気温は-29.1℃に下がり、今冬では最低となった。これは平年より7℃ほど低いが、1958年以降の統計によると1月として最も低かった記録は-38.6℃で、今年はこれより約10℃も高い。ところが、上空3000m付近では1月24日21時に-26.4℃と観測され、1958年以降の統計開始以降で最も低くなり、800m付近も同日-9.6℃と1992年の統計開始以来最も低かった。同じく、鹿児島では1500m付近で-13.6℃と1957年の統計開始以来第2位の低温が観測された。これは、東シベリアで冷え込んだ空気が地上付近に滞留し、西日本中心に南下したからだと思われる。今年は10年に1度の寒波といわれたが、冬全体では昨年も寒かった。5年前の2018年はラニーニャ現象の冬で、全国的に気温が低く、西日本では32年ぶりの寒冬だった。1月の下層の寒気の強さという点では、今年1月下旬の寒波は2018年よりも強く、九州ではここ65年程で最も強かったといえそうだ。
 日本海の冬の海面水温は、例年は季節が進むとともに季節風に冷やされ下がるのだが、今冬は1月も下がらず平年より高かった(図6)。1月中旬の気温が高かったことと、温暖化で日本付近の海面水温が上昇していることが影響していると思われる。高水温の日本海の上を大陸の冷え切った風が吹きつけて、雪雲が発達した。雪雲は日本海側に次々と流れ込み、西日本中心に大雪となった(図7)。鹿児島で4㎝、長崎で5㎝など九州でも雪が積もった。
 

日本海は1月も高水温
図6 日本近海海面水温平年偏差(2023年1月25日)気象庁
 
 

九州や四国も積雪
図7 期間最深積雪(2023年1月24日~26日) 気象庁
 
 偏西風の流れを見ると、北半球北部を流れる寒帯前線ジェット気流がユーラシア大陸西部で北に蛇行してバイカル湖方面から日本に向かって冷たい風を吹き下ろした。北半球の南部を流れる亜熱帯ジェット気流は大西洋からの蛇行が伝播して日本の南で南下し、寒帯前線ジェット気流と合流したため寒気の南下を強め、持続させた(図8)
 

2つのジェット気流が日本付近で合流
図8 500hPa平均天気図 高度と平年偏差(上空約5000m付近)
(2023年1月24~28日) (気象庁の図をもとに作成)

:平年より高度が低く、気温が低い
:平年より高度が高く、気温が高い
 
 また、今冬も続いたラニーニャ現象の影響もある。ラニーニャ現象により太平洋赤道付近の海面水温が東部で平年より低く、西部のフィリピン付近で高かった(図9)。熱帯の対流活動は高水温が続いている西部で活発な傾向だったが、とくに1月下旬にはフィリピンからインドネシア、インド洋東部で活発になった(図10)。この付近で対流が活発になると、その北側の中国南部は下降気流となって高気圧が強まる。中国南部で高気圧が強まったことによって、亜熱帯ジェット気流を北に押し上げ、日本付近では南に下がり、蛇行を強めて大寒波の一因となった(図8)。ラニーニャ現象が発生すると低緯度地方から気温が低下し、低緯度では低気圧が発生しやすくなり、亜熱帯ジェット気流が蛇行しやすくなる。亜熱帯ジェット気流と寒帯前線ジェット気流の合流も起きやすくなり、大寒波の原因になる。
 

ラニーニャ現象でフィリピン周辺の海面水温高い
図9 海面水温平年偏差(2023年1月)(気象庁の図をもとに作成)
 

1月下旬は熱帯の対流活動はインド洋東部からフィリピン付近で活発
図10 外向き長波放射量平年偏差(2023年1月下旬) 気象庁
寒色エリア:積雲対流活動が平年より活発
暖色エリア:積雲対流活動が平年より不活発
 
 温暖化の影響もある。北極海の海氷面積は年々減少し、今冬も小さい傾向だ。近年の冬は北極に寒気が蓄積されにくく、寒気は放出傾向で中緯度に南下しやすいことも寒波の一因と思われる。異常気象の原因はいつも1つということはない。けれど、今年1月下旬の大寒波の原因はいつも以上に様々な現象があげられ、それらが複合されて発生したと考えられる。
 
立春すぎには気温上昇
 4日の立春を過ぎると移動性高気圧に覆われる日が多くなり、西日本や沖縄・奄美から気温が急上昇した(図1)。上空の天気図を見ると、寒気は東シベリアに後退し、日本付近から太平洋の中緯度にかけて東西に高圧帯が広がり、暖かな空気に覆われた(図11)
 

立春すぎには中緯度高圧帯に覆われ気温上昇
図11 500hPa平均天気図 高度と平年偏差(上空約5000m付近)
(2023年2月4~13日)(気象庁の図をもとに作成)

:平年より高度が低く、気温が低い
:平年より高度が高く、気温が高い
 
 天気変化も春の周期変化型に変わり、低気圧が周期的に通った。2月10~11日には本州の南岸を低気圧が発達しながら通り、太平洋側や内陸で雪が降り、関東甲信越や東北の太平洋岸で雪が積った(図12)。埼玉県熊谷で8㎝、栃木県の那須高原では32㎝、松本は28㎝、福島県白河で29㎝、仙台で21㎝など東北の平野部でも雪が積もり、物流などに影響が出た。東京都心では雪やミゾレが降ったが、幸い午後から雨に変わり積雪には至らなかった。低気圧の中心は太平洋岸に接近して通ったため、暖気が入り関東の沿岸は午後から雨の所が多くなった。
 

低気圧は南岸を接近して通り、暖気入り沿岸は雨
図12 地上天気図(2023年2月10日15時) 気象庁
 
 13日には南岸低気圧が通り、19日には日本海から前線が南下したが、両日とも暖気が入り雪ではなく雨が降った。低気圧の通過後は冬型が強まり、季節風が吹いて再び寒くなったが、次第に日差しが強まって春の気配が感じられる。2月いっぱいは寒暖変動が続きそうだが、3月は暖かな日が多くなり、春の訪れは早まりそうだ。
 

 
 
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