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記録的暖春からエルニーニョ現象発生へ(あぜみち気象散歩97)  2023-04-21

●気候問題研究所 所長 清水輝和子  

 
サクラ前線猛スピードで北上
 4月15日、札幌ではサクラが開花した。5月1日が平年の開花日なのだが、平年より16日も早く、記録が残る1953年以降で最も早い開花となった。記録的な暖春により各地で開花最早記録を塗り替え、サクラ前線は猛スピードで北上している(図1)
 

3月記録的高温、4月も北日本中心に高温
図1 地域平均気温平年偏差5日移動平均時系列
(2023年2月~4月) 気象庁

 
3月の日本の平均気温は急上昇中
 今年3月の日本の平均気温は平年より2.75℃高く、1998年の統計開始以降で2021年を上回り過去最高となった(図2)。3月の平均気温は100年あたり1.84℃の割合で上昇している。上昇する割合を月別にグラフにしてみると、3月が最も高く温暖化のスピードが速い(図3)。次いで高いのは5月の1.69℃。4番目が2月で1.5℃となっている。冬の終わりから春の気温上昇が他の季節に比べて顕著で、春の訪れは早まっている。また、11月は3番目に高く、冬の訪れは遅くなる傾向だ。
 

3月の日本の気温は記録的高温
図2 日本の3月平均気温偏差の経年変化(1898~2023年) (気象庁)
 
 

3月は他の月より上昇する割合が最も高い
図3 日本の月別平均気温の100年あたり上昇する割合℃(1898~2023年)(気候問題研究所作成)
 
 とくに3月は、ここ6年ほどで4回も記録を更新している。その原因は温暖化だけではなく、ラニーニャ現象にあるようだ。図4の上空5000m付近の天気図を見ると、太平洋から日本、ユーラシア大陸にかけての中緯度は、帯状に高気圧に覆われている。
 

中緯度高圧帯強く、中心は北日本の東
図4 500hPa平均天気図 高度と平年偏差(上空約5000m付近)
(2023年3月)  (気象庁の図をもとに作成)

:平年より高度が低く、気温が低い
:平年より高度が高く、気温が高い
 
 今年3月は日本付近から東海上で高気圧が強く、中心が北海道の東にあって日本付近は暖かな空気に覆われた。
 
 ラニーニャ現象が発生すると、春・秋を中心に北半球では中緯度高圧帯が発達することが多い。ラニーニャ現象発生時の海面水温は、太平洋の赤道付近の中部から東部にかけて低くなるので、地球全体の気温はやや遅れて下がる。低緯度は赤道に近いため中緯度より先に下がる傾向がある(図5、6)
 

ラニーニャ現象:太平洋赤道付近は中部~東部で低水温
図5 月平均海面水温平年偏差 (2022年10月)(気象庁)
 

ラニーニャ現象が発生すると低緯度から気温低下
図6 帯状層厚換算温度(2013~2023年)(気象庁の図をもとに作成)
 
 今回のラニーニャ現象は2020年夏から続けて2回発生しているので、低緯度は2022年以降平年並程度に下がり、今冬は平年より低くなっている。一方、2014年夏~2016年春に発生したエルニーニョ現象では規模が大きく、高水温の期間が長かったので大気への影響が大きく、温暖化を加速させた。その後ラニーニャ現象が発生しても中緯度の気温は下がりにくくなっている。今冬は1月に一時下がったが再び上昇している。図4の上空の天気図を見ると、中緯度の気温は高く、ユーラシア大陸~太平洋にかけて高気圧が連なっている。低緯度は帯状に平年より気温が低く、低圧帯になっている。中緯度高圧帯が強いと北極寒気の南下が弱く、寒気は北欧からシベリアに停滞している。
 
 地上の天気図も上空に対応し北が低気圧で本州付近は高気圧に覆われた。図7のように、日本付近は南から移動性高気圧に覆われ、日本の北では低気圧が通り、低気圧に向かって南風が吹いて気温が上昇した。南が高く北が低い気圧配置なので「南高北低型」といわれる。初夏によく現れるタイプだが、今年3月は南高北低の気圧配置がたびたび現れて暖かな日が多くなり、記録的高温の一因となった。
 

南高北低型の気圧配置
図7 地上天気図 (2023年3月7日)(気象庁)
 
中緯度高圧帯続き、黄砂多発
 中緯度高圧帯の影響は日本だけではない。高気圧に覆われているスペインでは3月以降雨が少なく、フランスとの国境付近で山火事が相次いでいるという。
 中国では黄砂が多発している。ここ10年では最も回数が多く、内陸部では大規模な砂嵐が発生していると報じられた。砂嵐で上空に巻き上げられた細かい粒子は偏西風にのって日本にもやってくる。黄砂といえば、以前は春の風物詩というのどかな雰囲気をもっていたが、近年は視界不良になるだけではなく、大気汚染物質が付着しアレルギー症状の悪化など健康被害が指摘されている。外出するのも困難な気象災害の1つになってきたように思われる。4月12~13日にかけて北海道から九州の広い範囲に黄砂が飛来し、東京では2021年以来2年ぶりに観測された(図8)
 

前線の南下と共に各地で黄砂観測、東京は2年ぶり
図8 衛星画像2023年04月12日 寒冷前線通過後日本海側に黄砂飛来 (気象庁)
 
 黄砂の発生する中国奥地のタクラマカン砂漠やゴビ砂漠、黄土高原では春先、雪がとけて草が生える前に低気圧や前線が通ると、砂嵐が発生する。今年は降水量が少なく砂漠地帯は例年より乾燥しているうえ、気温が高く雪解けが早まったため、大規模な砂嵐が発生しやすくなったという。中国の3月の降水量は、北部では中緯度高気圧に覆われて平年の30%以下の所が多かった(図4、9)。中国奥地の甘粛省敦煌では2月から3月の降水量は0mmだった(図10)
 

中国奥地~北部の砂漠地帯・黄土高原は少雨
図9 2023年3月降水量平年比% (気象庁)
 

2~3月降水量0mm
図10 甘粛省敦煌の月気温・降水量 2022年4月~2023年3月 (気象庁)
 
 4月に入り、日本付近は中緯度高圧帯に覆われ暖春が続いたが、中国西部には寒気が南下して寒気と暖気がぶつかり、前線や低気圧が活発化し、大規模な砂嵐が発生しやすい気圧配置になった(図11)。気象庁の予報資料では、4月下旬から中緯度高圧帯は弱まり日本にも寒気が南下して寒の戻りとなり、季節外れの高温は終わる見込みだ。寒暖差や高い山と北海道の降雪、内陸では凍霜害などに注意が必要だ。中国の砂漠地帯では4月いっぱいは砂嵐が発生しやすい気圧配置が続きそうだ。
 

4月上旬 日本は中緯度高圧帯強く、暖春続く。中国奥地には寒気南下
図11 500hPa平均天気図 高度と平年偏差(上空約5000m付近)
(2023年4月上旬)(気象庁の図をもとに作成)

:平年より高度が低く、気温が低い
:平年より高度が高く、気温が高い
 
エルニーニョ現象発生か
 太平洋の赤道付近では、東部の海面水温が平年より低くなるラニーニャ現象が2021年秋から続いていたが、今年2月から上昇し3月の監視海域は平年より高くなった(図12)
 

ペルー沖の海面水温急上昇
図12 2023年3月 海面水温平年偏差 (気象庁の図をもとに作成)
 
 太平洋赤道付近の海面水温は貿易風の強弱によって変動している。昨年7月は北太平洋高気圧と南太平洋高気圧が強く、高気圧から吹き出す北東貿易風と南東貿易風が強かった。今年3月は高気圧が弱まり、吹き出す北東貿易風と南東貿易風は弱まっている(図13、14)。今冬までは貿易風が強く熱帯表層の暖水は西に運ばれ、フィリピン沖の海水温が高くなり、ペルー沖が低くなるラニーニャ現象だったが、2月頃から貿易風が弱まりラニーニャ現象は終息した。
 

昨夏は、北太平洋高気圧と南太平洋の高気圧強く、北東・南東貿易風強い
図13 2022年7月 全球の月平均海面気圧と地上風ベクトル (気象庁の図をもとに作成)
 

3月 南北の太平洋高気圧弱まり、北東・南東貿易風弱まる
⇒ ラニーニャ現象終わり、ペルー沖から南米沖の海面水温急上昇

図14 2023年3月 全球の月平均海面気圧と地上風ベクトル (気象庁の図をもとに作成)
 
 4月10日気象庁のエルニーニョ監視速報によると、「夏にかけてエルニーニョ現象が発生する可能性は60%で、平常の状態が続く可能性(40%)より高い。」との予測だ(図15)。ペルー沖の海水温は4月も急上昇しているので、早ければ春にもエルニーニョ現象が発生する可能性がある。気象庁の夏の季節予報では、夏の前半はラニーニャ現象の影響が残り、フィリピン沖の海面水温が高いため、太平洋高気圧が張り出して気温は平年並か高いと予想されている。
 

上の図は、エルニーニョ監視海域の海面水温の基準値との差の5か月移動平均値(指数)の推移を示す。1月までの経過(観測値)を折れ線グラフで、大気海洋結合モデルによる予測結果(70%の確率で入ると予想される範囲)をボックスで示している。指数が赤/青の範囲に入っている期間がエルニーニョ/ラニーニャ現象の発生期間。基準値はその年の前年までの30年間の各月の平均値。
図15 エルニーニョ現象の予測(2023年4月10日気象庁発表)
 
 過去にラニーニャ現象が冬に終わり、春にエルニーニョ現象が発生した年は1965年と1972年の2回しかない。これらは50年以上も前の温暖化が顕著になる以前の年なので、夏の気温は両年ともに低く、1965年には冷害が発生している。近年は冷害より高温障害が心配される時代だが、この2年は梅雨の後半は活発な梅雨で、盛夏期は短く、夏空が安定しない天候だったことが共通している。今夏も梅雨の前半は晴れ間も多い陽性型の梅雨の可能性があるが、エルニーニョ現象が発生すると夏の後半は夏空が安定せず、豪雨や天候不順が懸念される。
 

 
 
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