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長かった夏(あぜみち気象散歩100)  2023-10-30

●気候問題研究所 所長 清水輝和子  

 
きびしい残暑と気温変動の10月
 9月も夏のような暑さが続き、残暑がきびしかった。9月の日本の平均気温は1898年の統計開始以来2012年を1.15℃も上回り、第1位の記録的高温となった(図1、2)
 

9月記録的残暑、10月気温変動
図1 地域平均気温平年偏差5日移動平均時系列(2023年8月~10月)(気象庁)
 

9月の日本の平均気温は記録的高温
図2 9月日本の平均気温偏差の経年変化(1898~2023年)(気象庁)
 
 東京都心の最高気温は、10月27日までに25℃を超える夏日は140日になり、1875年の統計開始以来、昨年と肩を並べてタイ記録。30℃以上の真夏日は90日にもなり、2010年の71日を19日も上回って最多記録を更新した。35℃を超える猛暑日は22日で、第1位だった昨年より6日多くなり過去最多。最低気温も25℃以上の熱帯夜が57日で、最多記録を塗り替えた。
 10月30日の気象庁週間予報では、東京の最高気温は11月6日までに4日間も25℃が予想されている。夏日の年間最多日数は140日の記録をさらに更新しそうだ。
 
 今夏は全国の歴代最高気温を超える記録的高温はなかったが、夏が長くなり、東京都心では1年の4分の1が真夏日で、4割近くが夏日という温暖化を実感する年になった。昨年も猛暑できびしい夏だった。それでも7月中旬は梅雨で、8月中旬は秋雨で、涼しくなり猛暑が中断する時期があった。ところが今年は、台風や前線の影響で局地的な大雨はあったものの、梅雨の時期はむし暑く、涼しい秋雨もなく、一息つけるような“暑さの夏休み”がなかった。
 10月に入り、寒気が南下してやっと涼しくなったが、日中は晴れると暑くなり、朝晩の寒暖差が大きく、長い夏で疲れた身体にはきびしい天候だった。
 猛暑と残暑、少雨は農作物にも影響した。コメの品質が低下し、トマト、ねぎ、にんじん、白菜、大根などの野菜が高値となった。
 
9月も北半球規模で亜熱帯高気圧強い
 上空の太平洋高気圧は例年ならば9月になると次第に弱まり、南東海上に後退するのだが、今年は弱まらず、日本の南海上で東西に広がった。そのうえ、アリューシャンの南に中心をもつ高圧帯が日本から中国大陸北東岸まで張り出したので、北日本中心にきびしい残暑をもたらした(図3)
 

強い亜熱帯高気圧と日本周辺からアリューシャンの南に高圧帯
図3 500hPa平均天気図 高度と平年偏差(上空約5000m付近)(2023年9月)(気象庁の図をもとに作成)
:平年より高度が低く、気温が低い
:平年より高度が高く、気温が高い
 
 亜熱帯高気圧は9月も北半球全体で強く、上空5000m付近の天気図では、亜熱帯高気圧を示す5880mの線がインド北部で一部途切れている他は、1つにつながった。          
 世界の平均気温は、9月も1891年の統計開始以降で最も高くなり、2番目に高い2015年を大きく上回った。日本と世界の月平均気温は、ともにこの夏以降第2位の年を大きく引き離し、急上昇している(図2、4)
 

9月の世界の平均気温は記録的高温
図4 9月世界の平均気温偏差の経年変化(1891~2023年)(気象庁)
 
台風13号により関東東岸から福島県に大雨
 今年は台風の発生数が例年より少なく、9月は2個で1951年、1973年、1983年と並び最も少なかった。9月の上陸数はゼロで、本土への接近数は1個と少なかったが、台風から離れた地域で大雨による災害が発生した。
 台風13号は、9月5日に日本の南海上で発生し、ゆっくり北上した(図5)。当初の進路予報は、関東南部に上陸して福島県東部へ北上する見込みだったが、8日21時に東海沖で熱帯低気圧に変わってほぼ停滞し、9日9時には消滅した(図6)
 熱帯低気圧の本体は停滞したが、台風の北東側で雨雲が強まり、まとまった雨雲が房総半島から茨城県沿岸、東北の太平洋岸を北上した(図7)
 

図5 台風13号経路図(速報値)(9月5日~8日)(気象庁)
 

台風13号は関東に上陸し、東北南部に向かう予想だった
図6 台風13号経路図と進路予想図 (2023年9月8日09時)(気象庁)
 

房総半島で線状降水帯発生
図7 レーダー(2023年9月8日11時25分)気象庁
 
 伊豆諸島と千葉県、茨城県、福島県で線状降水帯が発生し、千葉県の茂原市では総雨量が405mm、茨城県鹿嶋市で281mm、福島県いわき市で194mmなど、伊豆諸島と千葉県から福島県にかけての太平洋岸に大雨をもたらした(図8)。地上天気図(図9)を見ると、台風から変わった熱帯低気圧は東海沖で停滞しているが、高気圧が北日本から関東の東海上にあり、高気圧の西側の縁辺に沿って台風の北東側にあった雨雲が北上した。暖かな海から湿った風が運ばれ雨雲が発達して大雨を降らせた。国土交通省の発表によると、26水系40河川で氾濫が発生した。福島県小高川水系前川では堤防が決壊し、農地が浸水した。土砂災害は279件、床上浸水2,333棟、床下浸水1,496棟、死者3名となる甚大な被害となった。
 

図8 降水量の期間合計値分布図(9月7日0時~9日24時) (気象庁)
 

高気圧の西縁辺に沿って強い雨雲が北上
図9 地上天気図 (2023年9月9日03時)(気象庁)
 
 昨年9月には、強くもなく大きくもなく、上陸もしなかった台風15号が静岡県に大きな災害をもたらした。近年は日本付近の海面水温が高くなっているので、大量の水蒸気が運ばれて、台風や熱帯低気圧の周辺で災害をもたらすほどの大雨になることがある。台風の進路予想地域でなくても接近時には注意が必要だ。気象庁のホームページで防災情報を確認し、雨雲レーダーを活用すると便利だ。雨雲がどこから来て、どの方向へ向かっているのか。雨雲が発達しているのか、弱まっているのかを確認する。危険を感じたら、発達した雨雲の進路から離れる、避難をするなど、身を守るための大事なツールになる。雷雨の時にも役立つので活用していただきたい。
 
東北沖は海洋熱波
 世界の海面水温も上昇している。JAXAの2002年以降の衛星観測データによると、全球の月平均海面水温は、今年の3月頃から毎月最も高い値で推移している(図10)
 日本近海の9月の海面水温も1982年の統計開始以降で最も高くなり、9月は特に平年差が大きかった(図11、12)
 

全球の月平均海面水温は今年3月以降最高で推移
図10 全球の月平均海面水温の季節変化の推移
観測衛星:Aqua/AMSR-E(2002年6月~2011年9月)
「しずく」GCOM-W/AMSR2(2012年7月~)
(2011年10月~2012年6月は観測なし)

 

日本付近の9月の月平均海面水温は記録的高温
図11 9月の日本近海月平均海面水温偏差の経年変化(1891~2023年)(気象庁)
 

日本付近の9月の月平均海面水温は記録的高水温
図12 9月の日本近海月平均海面水温偏差(1891~2023年)(気象庁)
 
 気象庁の分析によると、9月は日本付近が暖かい空気に覆われやすく、風の弱い日が多かった。加えて日本周辺海域を通過した台風が例年より少なかったため、海面水温が下がらなかった。さらには、通常は常磐沖から東へ向かう黒潮続流が三陸沖まで北上した状態が9月も続いたこと、海洋内部でも高い水温が続いていることが原因としてあげられた。日本近海の高水温は、9月の残暑や局地的大雨の一因にもなっている。また、北日本の周辺海域では秋サケが不漁でブリが豊漁、牡蠣の生育が遅れるなど、水産業に影響が出ている。
 
 海水温が極端に高い状態が数日以上持続する現象は「海洋熱波」と呼ばれ、地球温暖化の進行に伴って発生頻度が増大することが予測されている。米海洋大気局(NOAA)によると、「今年8月は世界の約5割が異常な高温状態になった。特に東日本の太平洋沖が高温になっている。」と、世界の中でも日本の海洋熱波は注目された。
 
 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第6次評価報告書によると、海洋熱波は1980年代以降頻度が約2倍になり、より強く、より長くなっている。この変化傾向は継続し、地球規模で頻度が増加すると予測されている。海洋熱波は海洋生態系に深刻な影響をもたらし、大雨や大雪、高温の原因にもなる。
 今冬はエルニーニョ現象が続き、暖冬が予想されているが、日本近海の海面水温が高いので、冬型気圧配置や南岸低気圧で局地的大雪の可能性がある。
 

 
 
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