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2023年レベルの違う高温(あぜみち気象散歩101)   2023-12-26

●気候問題研究所 所長 清水輝和子  

 
2023年日本と世界の平均気温は過去最高
 11月から12月の気温は、夏日が現れるほど上昇したかと思えば、寒気が南下して急に寒くなり、大きく変動した(図1)。変動しても平均気温は高く、この秋は北・東日本で1946年の統計開始以来第1位となるなど、全国的に高温だった。
 

気温は大きく変動
図1 地域平均気温平年偏差5日移動平均時系列(2023年10月~12月)(気象庁)
 
 気象庁の速報値によると、今年1年を平均しても日本の平均気温は平年より1.34℃高く、統計を開始した1898年以降では、2020年を大きく上回り、最も高くなる見込みだ(図2)。「温暖化により気温は上昇しているが、今年はレベルが違う高温」と気象庁は解説した。
 

2023年の日本の年平均気温は記録的高温
図2 日本の平均気温偏差の経年変化(1898~2023年、速報)(気象庁)
 
 世界全体の気温も記録的で、2023年の平均気温は平年より+0.53℃高く、1891年以降で最高だった2016年を大きく上回り、第1位を更新する見込み(図3)。温暖化は、まさにレベルの違う地球沸騰の時代に入った。
 

2023年の世界の平均気温は記録的高温
図3 世界の平均気温偏差の経年変化(1891~2023年、速報)(気象庁)
 
2023年日本近海の海面水温も過去最高
 気象庁の速報値では、日本近海の海面水温も今年は2021年を大きく上回り、統計を開始した1908年以降で最も高くなる見込みだ(図4)
 

2023年の日本近海の海面水温は大幅に上昇し過去最高
図4 日本近海の全海域平均海面水温の平年差の経年変化と順位表
(上位10位)(1908~2023年、速報)(気象庁)

 
 今年は黒潮の北上や記録的猛暑などの影響で近海の海面水温が上昇した。とくに、秋の日照時間は高気圧に覆われて全国的に平年より多く、東日本の太平洋側と西日本では、1946年の統計開始以降で第1位の記録となった。長時間の日射は海水を暖め、海からの暖かな風は陸地の気温を上昇させて、海と大気とが互いに影響しあった。
 
エルニーニョ現象と温暖化が原因か
 エルニーニョ現象が発生すると、太平洋中部から東部の赤道付近の海面水温が高くなるので、大気に熱を与え、地球全体の気温が上昇する。今年は春にエルニーニョ現象が発生し、3月から急激に海水温が上昇したので地球の気温も春から急上昇した。通常はゆっくりと上昇するのだが、今年は海水温も気温も上昇するスピードが早かった。過去にエルニーニョ現象が春に発生し冬以降も続いた年で、3~11月の監視海域の海面水温を合計すると、今年は1997年に次いで2番目に高くなった。1997年は20世紀最大規模といわれたエルニーニョ現象だったので6月から大幅に上昇したが、今年は3月から急上昇したので、1991年以前よりかなり高くなった(図5、6)
 

エルニーニョ現象発生中だが、フィリピン沖も高水温
図5 海面水温平年偏差(2023年11月)(気象庁)
 

監視海域の海面水温の合計値は2番目に高い
図6 3~11月のエルニーニョ監視海域の海面水温の合計値
(春に発生し秋以降もエルニーニョ現象が継続した年)
(気象庁のデータをもとに作成)

 
 エルニーニョ現象が発生すると太平洋赤道付近の海面水温が中部から東部にかけて平年より高くなる一方で、西部のフィリピン沖は低くなるのだが、今回のエルニーニョ現象ではあまり低くなっていない(図5)。太平洋の熱帯の海面水温がほぼ東西にわたり高い状態だったので、地球大気の気温を押し上げる一因になった。
 
 なぜ、西太平洋の海面水温が高かったのかはよくわかっていないが、原因の1つに台風の発生が少なかったことがあげられる。今年の台風発生数は17個で平年より約8個少なく、とくに9月以降は平年の11.6個を大きく下回る5個と、1951年の統計開始以降では最も少なかった。台風が発生すると表層の暖かな海水をかき混ぜるので、通過後は海面水温が下がる。今年は台風の主な発生海域であるフィリピン沖で発生が少なかったため、西太平洋の海面水温が下がりにくかったようだ。
 
 また、9月以降に発生数が少なかったのは、「モンスーントラフ」と呼ばれる風の収束帯が弱かったことが原因としてあげられる。太平洋高気圧から吹き出す北東風と、インドネシア周辺から吹く南西モンスーンとがフィリピン沖でぶつかり、風の集まる海域ができる。風が収束すると対流が活発になって台風が発生するのだが、今秋は南西モンスーンが弱く、モンスーントラフが弱かったので、台風発生数が減少した(図7)。また、秋以降も太平洋高気圧が強く、上空ではフィリピン北部付近まで太平洋高気圧に覆われることが多かったことも発生数が抑えられた一因となったと考えられる。
 

フィリピン周辺で南西モンスーン弱く、モンスーントラフ弱い
図7 月平均地上気圧と高度2mの気温、及び風ベクトル(2023年9月)(気象庁の図をもとに作成)
 
 大規模なエルニーニョ現象が発生すると、世界の気温が大幅に上昇する傾向にある。20世紀最大規模といわれた1997~98年や、期間の長かった2014~2016年では上昇が顕著だった(図3)。今年のエルニーニョ現象は大規模といえるほどではないが、世界の気温は今まで以上に急上昇した。エルニーニョ現象だけでは説明がつかない。温暖化は次のステージに入ったのかもしれない。
 
東・西日本少雨の秋
 今秋は台風や秋雨前線、低気圧の影響が少なかった。高気圧に覆われて秋晴れが多かったので、東日本の太平洋側と西日本、沖縄・奄美では降水量が少なく、西日本の太平洋側では1946年の統計開始以降では、秋として第1位の少雨となった。その一方で、北日本では低気圧や寒気の影響をうけることが多かった。北・東日本の日本海側では降水量が多くなり、北日本の日本海側では、統計開始以降で最も降水量が多くなった(図8)
 

今秋は、西で少雨、北で多雨
図8 降水量の平年比%(2023年9~11月) (気象庁)
 
 西日本では雨不足により渇水が深刻化し、ダムの取水制限を行なった地域もあった。愛媛県大洲市にある鹿野川ダムでは、貯水率0%にまで低下した。県内の果樹園ではみかんの実が小さくなり、樹木の力も弱まったため、来年以降の収穫にも影響すると心配されている。「関西の水がめ」といわれる琵琶湖では、18年ぶりの渇水となった。少雨による水位低下で、普段は湖底に沈んでいる城跡の石垣が姿を現した。
 
初冬にかけても太平洋高気圧強い
 秋になると太平洋高気圧は例年ならば南東海上に後退するのだが、今年は11月になっても南海上に東西に広がり、アフリカの亜熱帯高気圧とつながっている状態が続いている(図9)。12月に入っても同様に弱まる気配がなく、日本付近は暖かな空気に覆われた。11月以降は、時折偏西風が蛇行して20日位の周期で寒気が南下し、気温が大きく変動した(図1)。エルニーニョ現象が発生した年の11~12月は気温が変動することが多いが、高温の変動幅が年々大きくなる傾向だ。12月だというのに25℃を超える夏日が現れたかと思うと、強い寒気が南下して、日本海側では大雪が降った。近年は温暖化で海水温が高いため、初雪が大雪になることがある。
 

11月も強い太平洋高気圧
図9 500hPa平均天気図 高度と平年偏差(上空約5000m付近)
(2023年11月)(気象庁の図をもとに作成)

:平年より高度が低く、気温が低い
:平年より高度が高く、気温が高い
 
 12月17日からの寒波では、13日頃から日本の東海上で暖気が北上し、東シベリアにブロッキング高気圧が発生した(図10)。高気圧は西進して西シベリアの気圧の尾根と合流して、偏西風を大きく蛇行させ、強い寒気が南下した。中国でも寒波に見舞われ、東部の山東省では大雪になったと伝えられた。この寒気が南東進して日本は師走寒波となった。北海道の留萌市では、18日20時までの24時間降雪量日最大値が78㎝となり、1999年からの統計史上最も多い大雪となった。22日には北陸地方で大雪となり、停電や孤立する集落が相次いだ(図11)
 

東シベリアにブロッキング高気圧発生し日本に寒気南下
図10 500hPa平均天気図 高度と平年偏差(上空約5000m付近)
(2023年12月16日) (気象庁の図をもとに作成)

:平年より高度が低く、気温が低い
:平年より高度が高く、気温が高い
 

太平洋高気圧の中心強まり5940m出現
図11 500hPa平均天気図 高度と平年偏差(上空約5000m付近)
(2023年12月22日) (気象庁の図をもとに作成)

:平年より高度が低く、気温が低い
:平年より高度が高く、気温が高い
 
 一方で、太平洋高気圧は日本の南東海上で強まり、12月だというのに22日には5940mと真夏並に強い高気圧の中心が現れた。この高気圧の影響で、寒気は西日本へも南下して九州でも積雪となった。関東などでは寒気があまり入らず、冷え込みは一時的だった(図11)
 年末には寒気が北上し、暖気に覆われて暖かな年末年始となる見込み。エルニーニョ現象発生時の秋から春は、温暖化が進むとますます激しく気温が変動しそうだ。
 

 
 
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