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温暖化で大きくゆらぐ秋の天候(あぜみち気象散歩64)  2017-10-24

●気候問題研究所 副所長 清水輝和子  

 
気温大変動と遅い秋雨、台風上陸
 この秋は気温の変動が大きく、とくに10月は連休の頃に30℃を超える暑さがあったかと思えば、13日からは秋雨前線が停滞して急に気温が下がり、日中は都心でも15℃前後と肌寒くなった(図1、2)。23日には超大型台風21号が静岡県に上陸し、各地に被害をもたらした。1990年11月30日の台風28号、1967年10月28日の台風34号に次いで統計史上3番目に遅い上陸台風となった。例年ならば、秋雨シーズンは10月上旬までには終わり、中旬からは秋晴れが多くなってスポーツや紅葉狩りを楽しむ季節になる。近年の秋は天候も気温も以前とは変わってきて、大きくゆらいでいる。
 

図1 地域平均気温平年偏差時系列 (2017年8~10月) 気象庁
 

秋雨と台風で多雨、日照不足
図2 気温・降水量・日照時間平年比(2017年10月9~22日) 気象庁
 
 
秋も続いた太平洋高気圧の異変
 シトシトと降る雨の中を歩いていると、最近にはない雨の降り方に、ふと懐かしさを覚えた。20世紀の頃の梅雨や秋雨は、こんな風にシトシトと降り続いたものだった。シトシト雨は、うっとおしくもあるが、日本人の情緒を育んできた大切な雨だったのではないだろうか。
 そういえば、今年も降ればザーッと強く地面をたたきつける熱帯地方のような雨ばかりだった。近年はシトシト雨が消滅したのかと思っていたら、今年は10月の秋晴れシーズンに秋雨が現れ、シトシト雨が続いた。秋の天候も変わってきている。
 懐かしさに浸っているのは3日位が限界で、1週間先まで続く雨と曇りの天気予報マークを見るにつけウンザリしては、秋晴れが待ち遠しく思った。その上、10月下旬だというのに、超大型で強い台風21号が御前崎市に上陸し関東を通過した。いったい、この秋の天候はどうなっているのだろうか。
 今秋の異常な天候は、夏から続く太平洋高気圧の異変と北極寒気の南下に原因があるようだ。図3を見ると、9月の太平洋高気圧は西に張り出し中国南部を覆っている。例年の太平洋高気圧は9月になると東海上に後退するのだが、今年は8月下旬から後退するどころか西に張り出して強まった。中国南東部の福建省フーティンでは、9月27日の最高気温が38℃を超えるなど、中国南部は厳しい残暑となった。
 

太平洋高気圧は中国南部に張り出す
図3 500hpa北半球平均天気図 高度と平年偏差(気象庁の図を基に作成)
2017年9月(平年値は1981年~2010年の平均値)

 偏西風の流れ 
:平年より高度が低く、気温が低い
:平年より高度が高く、気温が高い
 
 一方、日本付近への太平洋高気圧の張り出しは弱く、北日本中心に寒気が南下した。北欧沖のバレンツ海では高気圧が強まり、中央アジアにかけて偏西風が大きく蛇行した。また、東シベリアにも8月に続き高気圧が停滞したため、偏西風は中央アジアから中国北部を流れ、寒気は日本付近に南下した。日本の南で太平洋高気圧が強まると西日本と沖縄中心に残暑になったり、北日本に寒気が南下すると、北日本中心に涼しくなったりと気温は変動した。
 10月の連休の頃には太平洋高気圧が東シナ海で強まった(図4)。5000m付近の天気図では太平洋高気圧は5880の線に囲まれたエリアで示される。近年は地球規模で太平洋高気圧を含む亜熱帯高気圧が強く、5880mより強い5940mで囲まれた高気圧の中心が現れることがあり、出現頻度も多くなっている。今夏は7月にアフリカ北西部から大西洋に広い面積で強い亜熱帯高気圧が現れた。10月8~9日には東シナ海にも現れ、九州から四国まで覆った。8~10日は夏のような青空が広がり、与那国島では33.9℃、鹿児島では31.3℃、埼玉県鳩山では30.9℃まで気温が上がった。
 

太平洋高気圧の中心は5940mに強まり九州を覆う
図4 500hpa北半球平均天気図 高度と平年偏差(気象庁の図を基に作成)
2017年10月8日(平年値は1981年~2010年の平均値)

:平年より高度が低く、気温が低い
:平年より高度が高く、気温が高い
 
 ところが、11日には北日本から前線が南下し、13日以降は本州の太平洋岸に停滞して、曇雨天の日が続いた(図5)。太平洋高気圧は弱まり、やや南に後退したが例年より強かったため、前線は9月の秋雨シーズンと同様の位置に留まった。北からの寒気と南の暖気との間が前線帯になるので、寒気と暖気の境界がちょうど本州の太平洋岸にあたり秋雨が続いた。北日本の上空には寒気が南下したので、気温は急激に下がり、関東では1週間前と比べて15℃前後も低くなった。北海道の釧路では17日、平年より24日も早く初雪を観測した。
 

秋雨前線太平洋岸に停滞、移動性高気圧北日本を通る
図5 地上天気図(2017年10月14日12時) 気象庁
 
対流活動 インド~インドシナ半島と大西洋で活発
 この秋、太平洋高気圧が中国に張り出した原因のひとつは、熱帯の対流活動にある。世界の対流活動を観測した図6は、青系が対流活発なエリア、赤系は対流不活発で高気圧に覆われ晴天のエリアを示している。10月上旬はインドからインドシナ半島にかけて活発な雲がかかり、ここで上昇した気流は中国南部で下降したため、太平洋高気圧は西まで張り出して強まった。
 

熱帯の対流活動はインド~インドシナ半島と大西洋で活発
図6 外向き長波放射平年偏差(2017年10月上旬) 気象庁
青:対流活動活発 赤:対流活動不活発

 
 例年ならば、フィリピン沖が対流活動の活発な海域で、台風が発生するのだが、今年は9月12日の台風19号から10月12日の20号までの30日間も発生せず、対流活動は弱かった。一方、大西洋では活発だったので、強いハリケーンが次々と発生し、カリブ海諸国やメキシコ、米国に被害をもたらした。10月16日には大型ハリケーン“オフィーリア”が大西洋のアゾレス諸島南方を通りアイルランドを直撃した。アイルランドに到達するまでには弱まったものの、激しい暴風雨となった。大西洋のハリケーンとしては1939年以来の北上だったという。
 大西洋もインド洋も温暖化で海水温が上昇している(図7)。10月だというのにハリケーンが欧州沖まで北上したり、インドからインドシナ半島で大雨が続いたりと、熱帯の対流活動は大きく変化し、世界各地で異常気象の秋となっている。
 

フィリピン沖は高い、インド洋と大西洋も高い
図7 海面水温平年偏差(2017年9月) 気象庁
 
超大型で強い台風21号上陸
 台風は10月中旬になって20号、21号と2つ発生し、フィリピンの東海上で対流活動が活発になった。中国南部に張り出していた太平洋高気圧は2つに割れて、東側の高気圧の縁辺を台風21号が北上した(図8)
 

台風21号北上
図8 500hpa北半球平均天気図 高度と平年偏差(気象庁の図を基に作成)
2017年10月21日(平年値は1981年~2010年の平均値)

:平年より高度が低く、気温が低い
:平年より高度が高く、気温が高い
 
 秋雨前線が停滞していたため、台風の接近前から西・東日本の広い範囲に大雨をもたらした。海面水温が高いフィリピンの東海上を北上したので超大型で強い台風に発達し、23日静岡県御前崎に上陸した。その後東海から関東地方を直撃し、三陸沖を北上した。日本列島の広い範囲に強風が吹き荒れ、台風21号は大きな爪痕を残した。温暖化で強い台風が遅い時期まで影響を及ぼすようになった。
 
強い太平洋高気圧出現
 地球温暖化によって、熱帯の対流活動や亜熱帯高気圧の状態が年々変わり、世界の天候は20世紀とは大きく変わろうとしている。この秋、10月5日と6日には太平洋東部のアラスカ半島の南方に、太平洋高気圧の中心が5940mよりさらにワンランク上の6000mという強い中心が出現した(図9)
 

太平洋高気圧強まり、中心に6000m出現
図9 500hpa北半球平均天気図 高度と平年偏差(気象庁の図を基に作成)
2017年10月6日(平年値は1981年~2010年の平均値)

:平年より高度が低く、気温が低い
:平年より高度が高く、気温が高い
 
 5940mが10月に西日本を覆ったことには驚いたが、6000mが、しかも真夏ではなく10月に出現したことは今年1番の驚きだった。また、図9の10月6日は北半球の亜熱帯高気圧が太平洋からインド、アフリカ、大西洋、北米まで1つにつながった。太平洋高気圧は北太平洋にある亜熱帯高気圧の呼称だ。北半球の亜熱帯高気圧は通常は陸地や地形の影響でそれぞれの海域や大陸に分かれているのだが、図の期間は東西にわたる広い範囲で1つになった。
 同様の現象は2015年頃から現れている。これらの現象は温暖化で地球の気温が上昇し、地球規模で亜熱帯高気圧が強まり、面積も大きくなっていることを示している。
 IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第5次評価報告書によると「世界の気温が上昇するにつれ熱帯域が広がり、亜熱帯乾燥帯が極方向に拡大する可能性が高い」と予測されている。亜熱帯乾燥帯は亜熱帯高気圧に覆われ下降気流となって晴天が続くエリアで、亜熱帯高気圧が北に広がると予測している。温暖化が進むと亜熱帯高気圧はどれほど強くなり、どこまで広がるのだろうか。見慣れていた秋の天気図のパターンは急速に変わって行くので、不安な気持ちになる。
 

 
 
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