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共通ナンバーは「5」――棘皮動物(むしたちの日曜日77)  2019-05-21

●プチ生物研究家、ときどき児童文学者 谷本雄治  

 
 庭の草とりをしていて、バラのとげに腕をひっかかれてしまった。キイロテントウを呼び込むためにノイバラを植えていたことを、すっかり忘れていた。
 キイロテントウはうどんこ病菌を食べる虫であり、わが家のまわりではまず、ノイバラに発生する。そこで一株だけ植えていた。
 それにしても、植物のとげはたいしたものだ。ニンゲンさまであるぼくに、盾つくのだから……。
 と思ったとき、不思議なことに気がついた。
 ぼくはとげに、「ひっかかれてしまった」と表現した。バラが襲ってきたわけでもないのに。
 植物のとげには、いろいろな機能というのか、彼らなりの戦略があるようだ。外敵から身を守るためだったり、水分の蒸散を防ぐためだったりして、茎や枝、葉、樹皮などさまざまな部分がとげに変形した。そしてぼくは、バラの企てにまんまとひっかかってしまったというわけである。
 
 
 
 植物はともかく、とげのある生き物はどうだろう。
 たとえばヤマアラシ、ハリネズミ、ハリセンボンなどがそうだ。
 ハリセンボンのようなとげは見当たらないものの、中国ではシーラカンスを「空棘魚」と表す。「棘(とげ)」という文字の前に「空」がくっつくが、あのからだのどこかに特徴的なとげがあるのだろうか。
 わかりやすくいうと、シーラカンスには背骨がない。その代わりに頭から尾びれまでつながるホース状の脊柱があって、その中には油のような液体が詰まっているという。そこで「中空の脊柱」という意味を表す古代ギリシャ語の「シーラカンス」が、あの生きた化石魚の仲間を総称することばとして使われるようになったというのだ。
 とげとは直接関係がないようだが、じつに興味深い話ではないか。
 
 
 正統派の「棘」から思いつく生き物ということでは、「棘皮(きょくひ)動物」も外せない。
 図鑑や辞書の説明を読むと、ハリネズミのような皮膚を持つものを意味する「エキノデルマ」というギリシャ語が、棘皮動物の語源だとされている。
「つまり、からだの表面にとげとげがあるということだな」
 そう考えてまず頭に浮かべた棘皮動物が、ウニだった。ハリネズミみたいなとげが間違いなくある。しかも、たくさんくっついているというのか、突き出している。
 
 仙台市に住んでいたころは、カキとともに、殻つきのままの姿をよく見たものだ。しかも、リーズナブルな価格で口にした。しかし最近は、殻を割ってすぐに食べるウニがぼくの口に近づく気配はない。
 ありがたがって食べるウニのあの中身は、未成熟の生殖巣だという。オスの精巣は赤っぽく、メスの卵巣は黄色らしいが、それがごっちゃになって存在する部分をぼくたちは「ウニ」と呼んで、食用にしている。
 だが、そんなことを考えながら食べる人はまずいまい。解剖学の勉強のために殻を割るわけではないのだから、食べるときにはただ、うまいうまいと言っていればいいのである。
 それはともかく、殻から取り出された生殖巣を食べる機会はたびたびある。回転ずしでも軍艦巻きになって、レーンの上をぐるぐる回る。
 だったら殻はどうかというと、ぼくが目撃・調達するのはもっぱら砂浜だ。
 海岸を歩くと、たいていはとげとげウニの残がいとして、あちこちに転がっている。全体の形を残したものは少ないが、俗に「骨」と呼ぶもの、とげを一部残したものが日なたぼっこをするかのように転がっている。
 あの独特の外見だ。一度教えれば、子どもだってウニとわかる。だから、探すのはむずかしくない。
 
 このごろはあまり見かけないが、沖縄に行くとかつては、パイプウニで作った風鈴が土産物として店先にやたらとつるされていた。風が吹くと、からんころんと乾いた音を奏でたものである。しかし、ぼくが浜で拾うのはバフンウニやムラサキウニのなきがらで、パイプウニは沖縄とか小笠原のような、もっと暖かい海に行かないと見られない。
 
 古代ギリシャの哲学者にして「万学の祖」とも称されるアリストレテスは『動物記』の中で、ウニの持つ5枚歯のそしゃく器をギリシャ製のランタンにたとえた。地中海のレスボス島で、海産動物の研究中に発見したとされる。
 それにより、いまでもウニの〝くち〟を「アリストレスのランタン」あるいは日本風に「アリストレスの提灯」と呼ぶが、実際には彼の地の街灯をイメージしたものだったらしい。
 茨城県の海岸でその提灯を初めて見つけたときには、うれしくなった。ウニをカイボウすれば手に入るものでも、その部分だけが浜でぼくを待っていてくれたのだから、ヨロコビもひとしおだ。ひとつ間違えば、異形の宇宙生物・エイリアンを想像しかねない見てくれだが、アリストテレスにゆかりのものだと知れば、誰だってきっと、うれしくなる。
 
 ウニ類はいくつかに分類されるが、いがぐり形をしたものは半分もない。それよりも、一見しただけではウニの仲間だとわからないものが多数派となっている。そのうちのいくつかのグループは、海岸歩きをしているとお目にかかれる。
 たとえば、カシパン類とかタコノマクラ類、ブンブクチャガマ類だ。ウニ類の親せきとはいっても、あんなにとげとげしいとげはない。1mmあるかどうかの細かい毛のようなとげなので、それらもとげと呼ぶと知ったら、バラやサボテンから抗議の声が上がりそうだ。
 
 
 それでもこうしたグループはまだいい。とげがとれた殻を見れば、なんとなくウニに近いものを感じるからだ。ところがナマコやヒトデ、ウミユリなども棘皮動物なのだといわれてもピンとこない。
 
 
 
 この一族を結びつけるものについて、事典などはこう説明する。
 ――いずれも海産で、5放射相称である。石灰質の殻か骨片を有し、骨板上にはとげがある。また、管足という運動器官を持ち、体内の水管系につながる。水管系は移動、呼吸、摂食などで重要な役割を担う。
「なるほど、そういうことか」
 生殖巣を奪われたウニのようなぼくの頭に残ったのは、「5方向に放射相称」という表現だった。おそらくは、五角形の中心部から、それぞれの角に向かって広がるというような意味だろう、と解釈した。
 
 ウニを食べるために殻を割ったむかしの記憶を呼びさますと、あのうにうにした生殖巣はきれいに五つに分かれていた。ヒトデは言うまでもない。よくわかる五角形をしたものが多い。ナマコはすこし迷うが、切り口を見ればなるほどとうなずける。
 ――頭もない、心臓と呼べるようなものもない。
 ウニについて解説したものを読むとそう書いてあるが、棘皮動物はどうしてどうして、なかなかスゴいデザインではないか。
 しかし、またまた驚くのは、その奇妙な生き物をさもうまそうに口にするニンゲンたちのさまだ。
 あのいがぐりの中にある得体の知れないものをつまみだしては食べ、巨大なナメクジのようなナマコのこりこりした食感をたのしむ。
 このわたに至っては、そのへんてこナマコのはらわたなのに、それだと知っても、気色悪いと言いながらもはしでつまむ。
 ヒトデだって、産卵期をねらって卵巣を食べる地域があるのだから、五角形は珍味の象徴なのかと言いたくなる。
 ウニの殻は、縄文時代の貝塚からも見つかるとか。
 高級食材のウニを、タダで当たり前に食べていた縄文人たちがうらやましい。
 おそるべし、ジョウモニアン!
写真 上から順番に
・左:ノイバラ。花は小さいが、バラなのでとげはちゃんと付いている
・右:毎年、ノイバラで最初に見つかるキイロテントウ
・左:海岸で見つけたハリセンボン。天然の乾燥標本だ
・右:東日本大震災前に福島県の水族館で見たシーラカンスの標本。漢字では「空棘魚」と書くが、外見上のとげはない
・潮だまりにあったウニ。持ち帰るわけにはいかないが、見るだけでうれしくなる
・パイプウニの標本。とげが丸くてもやっぱりウニだ
・「アリストレテスの提灯」の正体は、ウニのくちだ。この造形美がすばらしい
・左:ブンブクチャガマのかけら。これだけでも何かに使いたくなるデザインだ
・右:カシパン類もやっぱりお仲間。その表面には、隠しようのない印が見える
・左:ぐにゃりとしたナマコ。とげはあるが、硬くはない棘皮動物である
・右:クモヒトデ。名前は「ヒトデ」だが、ヒトデとは一線を画する棘皮動物だ。移動には管足を使わない
・浜辺で拾ったウニの殻。中央部に見えるのが「アリストレスの提灯」だ


 
 
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