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新型コロナウィルスと今冬の寒波(あぜみち気象散歩84)  2021-02-22

●気候問題研究所 副所長 清水輝和子  

 
寒冬型のち暖冬型
 今冬は気温の変動が大きかった。11月は暖秋で冬の訪れは遅かったが、12月半ばから寒波に見舞われ、年末からはさらに強い寒気が南下して日本海側は記録的豪雪となった(図1)
 

12月後半から1月前半は寒波、1月後半から暖冬
図1 地域平均気温平年偏差5日移動平均時系列(2020年12月~2021年2月)(気象庁)
 
 太平洋側では乾燥した晴天が続いたため、新型コロナウィルスが感染しやすい低温と乾燥の天候続き、新規感染者数は東京や大阪などの大都市で急増した。
 寒波は約1か月間続いたが、1月半ばからは一転して気温が上昇した。太平洋側で雨や雪が降ったので、カラカラに乾いていた空気は和らいだ。2月に入ると東京では4日に春一番が吹き、東・西日本では春めく陽気となった。
 
東京の新型コロナウィルス新規感染者数と天候
 1月は新型コロナウィルス感染者が急増し、8日には1都3県に、14日には7つの府県に緊急事態宣言が出された。新規感染者数は2月に入り減少傾向となったが、宣言発出後の1月半ば以降は、気温も急激に上昇し感染リスクはやや低下した(図1)
 天候と感染者数との関係についてはメディアではあまり取り上げられていないので調べてみた。まずは感染者数の最も多い東京で11月以降の日別陽性者数と日平均気温と最小湿度をグラフにしてみると(図2)、12月半ばの気温低下と共に日別陽性者数(新規感染者数)は急増している。冬型の気圧配置が強まったため、東京など太平洋側では乾いた季節風が吹き、乾燥した晴天が続いて湿度も下がった。クリスマスの頃には一時寒さは和らいだが、年末から1月12日頃にかけては断続的に強い寒気が南下して、10日朝には-2.4℃の冷え込みとなった。季節風はさらに強まり、9日には最小湿度が15%まで下がった。
 

日別陽性者数は12月半ばからの寒波で急増、1月半ばから気温上昇し減少
図2 東京の日別陽性者数と日平均気温・最小湿度(2020年11月~2021年2月)
(気象庁と東京都のデータをもとに作成) 

 
 日別陽性者数は1月に入ると急増し、7日にはピークに達した。その後は1月19日頃に冬型が一時強まったが寒さは続かず、14日頃に寒気は弱まり暖冬型の気圧配置に変わった。1月8日に緊急事態宣言が出されたこともあり、日別陽性者数は中旬から減少に転じた。そして、1月下旬は太平洋岸を周期的に低気圧が通り、雨や雪が降って湿度が上昇したため、日別陽性者数は1000人以下に減少した。2月は寒暖変動しながらも4月並の陽気も現れて春めく日が多くなり、日別陽性者数は500人を下回るようになった。日別陽性者数は10日~2週間前の感染をカウントしているといわれているので、天気との関係はタイムラグがあるが、大よその傾向としては一致している。
 
 冬季は寒気が南下すると、東京では気温と湿度が低下して新型コロナウィルスが感染しやすい気象状況となる。また、春から秋の乾燥した天候は、晴天が続いて行楽日和になるので旅行や外出など人の動きが活発になり、感染拡大の一因となる。反対に曇りや雨、台風などの悪天が続くと人出は減少し、湿度も上昇するため感染は抑えられるようだ。
 
 次に、昨年の春からの経過をグラフにしてみると(図3)、4月は寒の戻りで陽性者数は増加したが、緊急事態宣言が出されて5月は減少。5月後半の曇雨天から6月の入梅で横ばい傾向。7月は例年ならば夏休みで人出が増加する時期だが、昨年は梅雨が長引いたうえ、気温が低かったためゆっくりと増加。8月1日にようやく梅雨が明けると晴天が続き、レジャーや旅行などで人出が増えて、感染者数は第2次のピークを迎えたと思われる。9月から10月は秋雨が続いて湿度は高く、また、台風の接近もあって人出が少なかったため、日別陽性者数は横ばいとなった。11月から12月半ばは暖かな秋晴れが続き、紅葉狩りなど行楽に出かける人が多くなり、空気も乾燥したので日別陽性者数は次第に増加した。そして、12月半ば以降は寒波に見舞われ急増した。
 

春から秋は行楽日和で感染拡大、冬季は寒波で感染拡大
図3 東京の日別陽性者数と日平均気温・最小湿度(2020年2月~2021年2月)
(気象庁と東京都のデータをもとに作成)

 
気象庁の長期予報の活用
 惜しまれるのは、気象庁から長期予報と2週間予報で寒波の予報が出されていたにもかかわらず、政府や関係機関には関心を持たれなかったことだった。しかも、例年ならば大寒の頃にやって来る強い寒波が12月半ばから始まり、1か月間は続く大規模なものと予想されていた。暖秋が続いていたので、天候への関心が薄かったのかもしれないが、今冬のように急激に天候が変化する時にこそ、長期予報を活用してほしいものだ。感染者数の増減は政治や年中行事、人々の行動など社会的な影響もある。とはいっても、緊急事態宣言が12月半ばの寒波の来襲と同時に出されていたなら、感染者数はこれほど増えることはなく、亡くなる方も少なかったのではないだろうか。
 
 強烈な寒波が、忘年会やクリスマス、年末年始の行事の時期と重なったことは、日本に住む人々にとって不幸なことだった。もしも、12月半ばから感染を抑えていれば、冷え込んだ経済の復旧も早めることができたと思われる。緊急事態宣言も1か月間に短縮できたかもしれない。気象庁の予報が活用されなかったことは残念でならない。今後のパンデミックの発生に備える必要もあるので、このことが国内で話題になっていないのは重要な問題点と思われる。
 
師走寒波と新春寒波の原因
 師走半ばから1月半ばまでの寒波は3つのピークがあった。1つ目は12月14~21日で、北・東・西日本に寒気が南下した。2つ目は12月30日~1月3日で、北日本中心だった。3つ目は1月7~11日で西日本と沖縄・奄美を中心にきびしい冷え込みとなった(図1)
 12月14~21日は東シベリア沖にブロッキング高気圧が発生したため偏西風が大きく蛇行し、寒気は日本付近に南下した(あぜみち気象散歩83参照)。北極海のブロッキング高気圧はシベリア沿岸を西進した(図4)
 

東シベリアの北極海沖にブロッキング高気圧が発生し西進した
図4 500hPa平均天気図 高度と平年偏差(上空5000m付近)
2020年12月15~19日(平年値は1981年~2010年の平均値)
(気象庁の図をもとに作成)

:平年より高度が低く、気温が低い
:平年より高度が高く、気温が高い
 
 そこへ、欧州にあった気圧の尾根が東進したのでロシア西部でブロッキング高気圧と合流し、年末には気圧の尾根が強まった(図5)。偏西風は大陸で大きく蛇行して、北日本中心に寒気が南下した。7~11日頃には日本の東海上で太平洋高気圧が強まったため、寒気は東進できず西日本から南西諸島、台湾方面へと氾濫した(図6)。9日には長崎市で観測史上2番目に多い15㎝の積雪を記録するなど、九州でも大雪が降った。
 

西シベリアにブロッキング高気圧し気圧の尾根発達
図5 500hPa平均天気図 高度と平年偏差(上空5000m付近)
2020年12月30~2021年1月3日(平年値は1981年~2010年の平均値)
(気象庁の図をもとに作成)

:平年より高度が低く、気温が低い
:平年より高度が高く、気温が高い
 

日本の東海上の太平洋高気圧が強まり寒気は西日本から南西諸島へ
図6 500hPa平均天気図 高度と平年偏差(上空5000m付近)
2021年1月7~12日(平年値は1981年~2010年の平均値)
(気象庁の図をもとに作成)

:平年より高度が低く、気温が低い
:平年より高度が高く、気温が高い
 
 1月上旬は全国的に冷え込みがきびしく、平均気温は西日本で35年ぶり、北日本では36年ぶりの低温となった。寒波により電力需給がひっ迫し、8日には九州や北陸等全国7地域で電力の最大需要が「10年に1度」と想定する規模を上回った。大手電力で構成する電気事業連合会は、家庭や企業などに節電への協力を呼びかけた。
 
 寒波に見舞われた約30日間の上空5000m付近の北半球の天気図(図7)を見ると、北極付近は高気圧に覆われ、北極寒気は放出型になった。極ウズと呼ばれる低気圧は崩壊し、寒気は中緯度に南下を続けた。北極寒気は主に中国大陸から日本、アリューシャン周辺からアラスカまでの広範囲にわたり南下した。通常は分裂した寒気は欧州や大西洋、北米大陸へも南下するが、今冬の寒波はアリューシャンを中心とした太平洋側に偏っているのが特徴だ。しかも、平年より強い寒気が広範囲に広がり、居座った。また、偏西風は大西洋から欧州でも蛇行し、ユーラシア大陸での流れを強めた。これは冬季に日本や欧州に寒波をもたらす典型的な流れで、「EUパターン」と呼ばれている。
 

北極寒気は放出型、中国大陸北部~日本~アリューシャンに寒気南下
図7 500hPa北半球平均天気図 高度と平年偏差(上空約5000m付近)
2020年12月15日~2021年1月13日(平年値は1981年~2010年の平均値)

:平年より高度が低く、気温が低い
:平年より高度が高く、気温が高い
 この大規模な大気の流れに影響を与えたのは太平洋の海水温の変動だ。赤道付近の東部で海面水温が平年より低く、西部で高くなるラニーニャ現象で、昨年夏からに始まり12月にピークを迎えた(図8、9)
 

ラニーニャ現象ピーク
図8 海面水温平年差(2020年12月) 気象庁
 

今冬の寒波をもたらした原因:大気と海洋の模式図
図9 500hPa高度の平年偏差(上空約5000m付近)と海面水温平年差
2020年12月15日~2021年1月13日(平年値は1981年~2010年の平均値)
(気象庁の図をもとに作成)

:平年より高度が低く、気温が低い
:平年より高度が高く、気温が高い
 
 ラニーニャ現象が発生すると、高水温となるフィリピン付近からインドネシア周辺で対流活動が活発になる。すると、そこで上昇した気流が冬季は中国南部に下降して高気圧を強める。上空の強い偏西風の流れは2本あり、南側を流れる亜熱帯ジェット気流がこの高気圧によって北側に蛇行するため日本付近では南に下がる。今冬は高緯度帯を流れる寒帯前線ジェット気流と亜熱帯ジェット気流が日本付近で合流して強まり、強い寒気を南下させて持続させた。
 
 また、ラニーニャ現象が発生すると北極寒気は放出型になる傾向がある。ラニーニャ現象の他に、北極付近で寒気が蓄積しにくかった原因の1つとしては、北極海の海氷面積が関係していると考えられる。昨秋は温暖化の影響で過去2番目に少なかった。また、真冬だというのに東海上で太平洋の高気圧が強まったことで寒気が西日本へ南下したことも、地球温暖化の影響がある。このように大気と海洋、海氷、温暖化などが関係しあって、今冬の強い寒波をもたらした。
 
寒波の影響
 気象庁の調査によると、12月14日から約1か月の平均では北日本の上空約3000mの気温は1958年以降で2番目に低くなり、強烈な北極寒気団が北日本中心に居座ったことがわかった。この期間に日本海側では断続的に大雪が降り、山沿いを中心に最深積雪が300㎝を超えたところがあった(図10)。また、短期間で積雪が増える集中的な豪雪が目立った。72時間降雪量は、新潟県上越市安塚で184㎝を観測したほか、東日本の日本海側を中心に15地点で記録的大雪となった。北日本ではその後も一時寒気が入り、秋田県横手市横手では最深積雪が203㎝となり、1979年の統計開始から最も多い記録を更新した。
 

最深積雪は山沿いを中心に300㎝を超えたところもあった
図10 期間最深積雪(2020年12月14日~2021年1月11日) 気象庁
 
 2月10日発表の総務省消防庁のまとめによると、今冬の雪による死者は86人で、そのうち屋根の雪下ろしや除雪作業中での事故は72人に上った。豪雪地帯では過疎化と高齢化が進む中、今年は新型コロナウィルス感染拡大によりボランティアや帰省する家族も減少し、除雪を手伝う人出が例年より不足したことも影響した。
 また、大雪で北陸など各地の道路で立ち往生が相次いだ。道路や鉄道などの交通機関の乱れで物流が停滞したため、ジャガイモの卸値が東京では過去5年平均の6割高、名古屋で7割高、福岡では9割も高くなった。
 
 農林水産省の2月12日までのまとめによると、大雪による農作物等の被害額は21都府県で3億5000万円、農業用ハウスは26道府県で86億2000万円に上った。今冬の降雪は例年より早く、しかも短期間に大量の雪が降ったため除雪が追いつかなかったことも被害が広がる一因となったようだ。
 
暖冬型に変わり、春の訪れ早まる
 日本周辺に大規模に南下していた寒気は、1月半ばには弱まり、大寒過ぎには西日本中心に気温が上昇した。冬型気圧配置は弱まり、低気圧が周期的に通り太平洋側で雨や雪が降った。2月4日には東京で早くも春一番が吹き、1951年の統計開始以来最早となった。1月半ばから2月前半の北半球の天気図(図11)を見ると、日本付近は暖かな空気に覆われた。北極付近はまだ放出型が続いたので、時折寒気が南下し、暖気とぶつかり低気圧が発達して通った。2月は冬の嵐と春の嵐が例年より多くなっている。気象庁の1か月予報によると、3月の北極寒気は蓄積型に変わり、北・東・西日本の気温は高く、沖縄・奄美では平年並か高い予想となっている。サクラの開花も記録的に早まる可能性があり、人出の増加が懸念される。
 


日本付近は暖気に覆われ、暖冬型に変わる

図11 500hPa北半球平均天気図 高度と平年偏差(上空約5000m付近)
2021年1月16日~2月14日(平年値は1981年~2010年の平均値)
(気象庁の図をもとに作成)

:平年より高度が低く、気温が低い
:平年より高度が高く、気温が高い
 
 暖かな早春で、新型コロナウィルス感染のリスクは低下すると思われるが、今年のような早すぎる春には寒の戻りがあるので安心はできない。感染力の強い変異ウィルスも確認されている。今後の感染対策は関係機関が連携し、気象庁の長期予報を活用して、感染拡大を早めに抑えることを願っている。
 

 
 
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