梅雨がおかしい(あぜみち気象散歩86) | 2021-06-30 |
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●気候問題研究所 副所長 清水輝和子 |
記録的に早い入梅 | 今年の入梅は西日本で早く、5月15~16日に東海地方より西で梅雨入りとなった。四国は15日、近畿は16日で、ともに1951年の統計開始以来最も早かった。 梅雨に入った途端に梅雨末期のような大雨が降り、鹿児島県のさつま柏原では15日の24時間降水量の日最大値が200.5mm、熊本県球磨郡の五木では20日の日降水量が257.5mmに達するなど、各地で5月としては記録的大雨が観測された。 反対に、関東甲信・北陸・東北は平年より4~7日遅く、6月14~19日だった。入梅したかと思えば梅雨前線は南海上に離れ、連日の雷雨で熱帯のスコールのような雨の日が続いた。梅雨前線が太平洋岸に停滞したのは6月下旬後半からだった。にわか雨が多かったので降水量は平年並程度に降っているかと思いきや、6月の降水量は北・東・西日本では平年より少なく、日照時間は沖縄、九州南部、四国を除いて北日本を中心に多かった(図1)。  
6月は、平年より気温高く、降水量少なく、日照時間多い 図1 気温・降水量・日照時間の平年差・比(2021年6月1~28日)気象庁 (平年値は1991年~2020年の平均値)  
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早い入梅の原因はインド洋の雨から | 早い入梅の原因はどこにあるのか、上空の風の流れをたどってみるとインド洋にあった。入梅する少し前の5月上旬後半頃からインド洋西部では対流活動が活発で、アフリカ東部のソマリアでは大雨の被害が発生したという(図2)。アラビア海では大型サイクロンも発生し、17日夜には猛烈な強さでインド西岸に上陸し、グジャラートなど西岸の5州で豪雨や暴風による被害が相次いだ。米軍合同台風警報センターによると、サイクロン上陸時の風速は約56㎧とインド西岸では過去最強の勢力を記録した。  
インド洋西部で対流活動活発 図2 半旬平均外向き長波放射量の平年偏差(2021年5月11~15日) (平年値は1991年~2020年の平均値) 気象庁の図をもとに作成 寒色領域は積雲対流活動が平年より活発 暖色領域は積雲対流活動が平年より不活発   インド洋西部での活発な対流活動によって上昇した気流は、ロシア西部で下降して高気圧を強め、ユーラシア大陸を流れる偏西風を大きく蛇行させた(図2、3)。ロシア西部で北上した気流は中国西部に南下し、日本の東で北上した。日本付近では南の太平洋高気圧が例年より強く、南西風が入った西日本では梅雨前線が停滞して活発になり、局地的に大雨が降った。東・北日本でも5月15~16日頃から曇雨天が続き、梅雨のような天気になり、北陸や長野県では局地的に大雨に見舞われた。  
ロシア西部で高気圧が強まり、偏西風が蛇行 図3 500hPa北半球平均天気図 高度と平年偏差(上空約5000m付近) 2021年5月16~20日(平年値は1991年~2020年の平均値) (気象庁の図をもとに作成) 青:平年より高度が低く、気温が低い 赤:平年より高度が高く、気温が高い  
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梅雨の変質 | 6月に入ると太平洋高気圧は南に後退し、梅雨前線は南下した。6月だというのに梅雨らしくない天候になり、低気圧が通って天気の崩れる日もあれば、移動性高気圧に覆われ晴天が続いた日もあり(図4)、5月のような周期変化型になった。月半ば頃からは上空に寒気が南下したので積乱雲が発達し、連日のように各地で雷雨や降ヒョウ、局地的な大雨に見舞われた。関東甲信や北陸、東北ではシトシト降る梅雨の雨ではなく、雷雨やにわか雨での入梅だった。  
梅雨前線は南下し、移動性高気圧に覆われ初夏の天気図型 図4 地上天気図(2021年6月9日6時) 気象庁   梅雨の天気がいつもと違って、何かおかしいと感じている人が多いと思う。それは、6月のユーラシア大陸の南部を流れる亜熱帯ジェット気流が本来の梅雨とは違い、6月初めからヒマラヤの北を流れているからだ。例年ならば冬から春はヒマラヤの南を流れ、夏に向かって北上し、梅雨期はヒマラヤ山脈をはさんで2つに別れ、日本の東で合流する(図5)。梅雨の最盛期には、南を流れる亜熱帯ジェット気流に沿って、インドモンスーンの雲とインドシナ半島のアジアモンスーンの雲、そして、中国南部から日本にのびる梅雨前線の雲とが1つになり、連なるのだが(図6)、今年はこのような、梅雨本来のスケールの大きな現象は少しも見られない。ここ数年、アフリカの亜熱帯高気圧は、6月初めから中東へ張り出し、チベット高原西のアフガニスタンまで勢力を広げる傾向で、年々強まっている(図7)。亜熱帯ジェット気流は、6月初めからチベット高原の北を流れるので、ヒマラヤ山脈にぶつかることはなく、分流することもない。アフリカの亜熱帯高気圧が6月初めから強まり、ヒマラヤ山脈の西へ張り出すのはここ数年続いている。温暖化で梅雨期の大気の構造は変わったようだ。  
亜熱帯ジェット気流はヒマラヤ山脈にぶつかり分流し、日本の東で合流。亜熱帯ジェット気流に沿って梅雨前線の雲がのびる 図5 梅雨のジェット気流の流れとヒマラヤ山脈 (気象庁の図をもとに作成)  
インド洋西部で対流活動活発 図6 半旬平均外向き長波放射量の平年偏差(2010年6月20~24日) (平年値は1991年~2020年の平均値)気象庁の図をもとに作成 寒色領域は積雲対流活動が平年より活発 暖色領域は積雲対流活動が平年より不活発  
アフリカの亜熱帯高気圧はロシア西部で北上 図7 500hPa平均天気図 高度と平年偏差(上空5000m付近) 2021年6月1~5日(平年値は1991年~2020年の平均値) (気象庁の図をもとに作成) 青:平年より高度が低く、気温が低い 赤:平年より高度が高く、気温が高い   実際、今年も日本の梅雨の天候は、大陸を流れる偏西風の蛇行と太平洋高気圧の強弱で変化している。アジアモンスーンもインドモンスーンも別々に活動している。アジアの梅雨は変質してしまった。 温暖化によって、梅雨入りを特定するのは今後もますます困難になりそうだ。もともと、梅雨入り・梅雨明けは、気象庁が夏に入ってから前後の天気図や観測データを分析して統計資料の1つとしていたもので、入梅と梅雨明けの頃に報道発表はしていなかった。マスコミに要求されて、仕方なく発表してきたという経緯がある。温暖化で、かつての梅雨とは性質が変化した今、入梅・梅雨明けの報道発表の意味は薄れてきたようだ。  
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亜熱帯高気圧が強く、早くも世界各地で熱波 | アフリカの高気圧は、6月下旬前半にはさらに強まった(図8)。亜熱帯高気圧を示す5880mの線がカスピ海を覆い、ロシア北西部のモスクワ付近まで張り出した。モスクワの気温は21日に34.7℃まで上昇し、6月として観測史上最高と並び、120年ぶりの記録的猛暑となった。  
アフリカの亜熱帯高気圧はロシア西部で北上 図8 500hPa平均天気図 高度と平年偏差(上空5000m付近) 2021年6月20~24日(平年値は1991年~2020年の平均値) (気象庁の図をもとに作成) 青:平年より高度が低く、気温が低い 赤:平年より高度が高く、気温が高い   亜熱帯高気圧の異常な強さは北米大陸でも同様で、西部を中心に熱波と干ばつに見舞われている。6月15日、米ユタ州ソルトレークシティーでは気温が42℃に達し、1894年の観測開始以来の最高記録に並んだ。米南西部のデスバレーでは、6月17日に53℃と猛烈な暑さを観測した。カリフォルニア州では河川や貯水池が干上がり、その水位は記録的な低さになっているという。昨夏も西海岸は記録的な暑さが続き、大規模な山林火災が長く続いた。本格的な夏はこれからなので、過去1200年で最悪の干ばつに見舞われるかもしれないと米専門家が警鐘を鳴らしている。   米国ばかりではない。北米西海岸では米オレゴン州からカナダの北極圏にかけて熱波に見舞われている。亜熱帯高気圧はカナダ西岸に張り出し、6月26~27日には5940mの強い中心が現れた(図9)。ブリティッシュコロンビア州のリットン気象観測所では、29日の気温が49.6℃まで上昇し、3日連続で同国の観測史上最高記録を更新した。地元警察によるとブリティッシュコロンビア州では、29日までに猛暑で約130人が死亡したと伝えられた。米北西部もこの強い高気圧に覆われ、オレゴン州ポートランドでは26日には42.2℃と同地の最高気温記録となり、ワシントン州とオレゴン州を中心に各地で記録的高温が続いている。  
カナダ西岸に強い亜熱帯高気圧5940m出現 図9 500hPa天気図 高度と平年偏差(上空5000m付近) 2021年6月27日(平年値は1991年~2020年の平均値) (気象庁の図をもとに作成) 青:平年より高度が低く、気温が低い 赤:平年より高度が高く、気温が高い   図9を見ると、北米の亜熱帯高気圧はカナダ北西部まで勢力を広げたうえ、偏西風が大きく蛇行してギリシア文字のオメガ「Ω」のような流れになっている。西と東に低気圧があり、高気圧が停滞して偏西風の流れをブロックするので「オメガ型ブロッキング高気圧」と呼ばれ、高気圧付近では熱波や干ばつが発生する(図10)。オメガ型は季節を問わず、温帯地方ならどこにでも発生するが、カナダ北西岸まで亜熱帯高気圧が張り出し、オメガ型高気圧の中心に5940mという背の高い最強の高気圧が現れたことは驚くばかりだ。熱波の脅威はカナダの北極圏まで広がっている。  
熱波をもたらす「オメガ(Ω)型ブロッキング高気圧」 図10 オメガ型ブロッキン高気圧の模式図(気候問題研究所作成)   温暖化で、亜熱帯高気圧は地球規模で強まり、熱波や猛暑、干ばつや森林火災など、高温に関係する異常気象は頻発し、規模が大きくなり、期間も長くなっている。 日本付近では太平洋高気圧の張り出しはまだそれほど強くはないが、南東海上に中心があり、5940mの面積が広く、勢力が強まっている。地球規模で亜熱帯高気圧が強まっているので、盛夏期には太平洋高気圧は例年以上に強まるかもしれない。今年も猛暑への備えが必要だ。  
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