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異常気象が続いた夏(あぜみち気象散歩87)  2021-09-01

●気候問題研究所 副所長 清水輝和子  

 
猛暑と豪雨と台風、そして残暑
 この夏の天候は大きく変動した。梅雨末期の豪雨に梅雨明け後の猛暑、北日本の高温少雨、台風8号と9号の上陸、雷雨、お盆の豪雨、日照不足、きびしい残暑と、一口では表現できないほど異常気象が続いた夏だった(図1)
 

7月北日本猛暑、8月気温変動
図1 地域平均気温平年偏差5日移動平均時系列(2021年6月~8月)(気象庁)
 
7月の豪雨
 6月末から梅雨前線は本州の南に停滞して活発になり、沖縄では湿った風が入り、線状降水帯による大雨が発生した。気象庁は、発達した積乱雲が帯状に連なる「線状降水帯」が確認された場合に、土砂災害や洪水などの危険性が急激に高まったことを知らせる「顕著な大雨に関する情報」の運用を6月17日から開始した。初の「顕著な大雨に関する情報」は6月29日に沖縄本島地方に発表され、沖縄市や那覇市などでは避難指示が出された。
 
 線状降水帯による大雨はたびたび発生した。梅雨前線は7月に入るとやや北上し、南岸沿いに停滞した(図2)。1日は伊豆諸島北部で線状降水帯による非常に激しい雨が降り続き、気象庁は「顕著な大雨に関する情報」を発表した。東海地方から関東南部にかけては1~3日に湿った風が入り、豪雨となった。4日以降は西日本中心に大雨が降り、7日は鳥取県と島根県で、10日は鹿児島県で線状降水帯が発生した。
 

梅雨前線停滞し、東海地方に暖湿流
図2 地上天気図(2021年7月2日12時) 気象庁
 
 東海から関東南部の豪雨では線状降水帯の発生はなかったが、30日からの総雨量は神奈川県箱根で830.5mm、静岡県熱海市網代で432.5mmなど静岡県を中心に記録的な大雨となり、熱海市伊豆山地区では土石流が発生した。大量の土砂が住宅地を襲い、死者行方不明者は27人に上った。この土石流の起点周辺にあった盛土について、「違法な盛土が災害の原因」と難波静岡県副知事は7月13日に見解を発表した。急な斜面に盛土があったとは、ニュースの映像から信じられない原因に驚いた。記録的な豪雨だったとはいえ、盛土がなければ災害は起こらなかった可能性がある。全国には同様の違法な盛土が多く存在するという。今後も温暖化で豪雨は激しくなると予想される。行政は違法性のある盛土の監視と過去の盛土の点検を急ぐとともに、豪雨に弱い日本列島に住む私たちも、周囲の土地の危険性について、今一度点検する必要がありそうだ。
 
早い梅雨明けと北日本の高温少雨
 7月中旬に入ると太平洋高気圧は次第に強まり、11日に九州南部から梅雨が明け、16日は関東甲信と東北、17日は東海、近畿など、平年より早く梅雨が明けた。
 北日本では、中旬以降は強い高気圧に覆われた(図3)。とくに、北海道では晴天が多く、雨が少なかった。7月の気温は平年より2.8℃高く、降水量は平年の23%と、記録的な高温少雨となった。札幌では10日の気温が35℃まで上がり21年ぶりの猛暑日となるなど、道内各地で猛暑日が続出した。農地では、6月から高温少雨傾向だったこともあって、農作物へのダメージは大きかった。タマネギやビート、ジャガイモ、豆類、スイカなど多くの作物が生育不良となった。猛暑と干ばつは8月上旬まで続き、被害は深刻化した。
 

梅雨明け、北日本猛暑
図3 500hPa北半球平均天気図 高度と平年偏差(上空約5000m付近)
2021年7月13~22日(平年値は1991年~2020年の平均値)
(気象庁の図をもとに作成)

:平年より高度が低く、気温が低い
:平年より高度が高く、気温が高い
 
東京オリンピック開催中に台風上陸
 東・西日本では梅雨明け以降は猛暑が続いたが、7月下旬後半から太平洋高気圧は弱まり、南海上には台風や熱帯低気圧が次々と発生した(図4)。東京オリンピックが開幕した23日に南鳥島近海で発生した台風8号は、関東への上陸が心配されたが、東の沖合を北上した。そして、28日午前6時に宮城県に上陸した(図5)。台風が宮城県に上陸したのは初めてのことだった。台風8号は東北地方を横断した後、秋田沖で温帯低気圧に変わった。幸いオリンピックへの台風の影響はほとんどなく、ボートやアーチェリーなど風の影響を受ける競技では日程が変更された。サーフィンは28日に予定されていた決勝戦と3位決定戦を27日に前倒しし、台風の高波を利用して行われた。
 

日本近海に熱帯低気圧や台風が多発
図4 地上天気図(2021年8月5日12時) 気象庁
 

関東沖を北上し、宮城県に上陸
図5 台風8号経路図(2021年7月23~28日) 気象庁
 
 8月初めは太平洋高気圧が日本付近を覆い、猛暑が再来したが、一時的で、高気圧は東海上へ後退した。台風10号が南海上を北東進し、8日には関東の東沖に接近した。また、東シナ海を北東進していた台風9号も8日鹿児島県に接近し、東京オリンピックの閉会式が開始された午後8時に、枕崎市に上陸した(図6)。台風9号は九州から中国地方へ進み、9日には温帯低気圧に変わったが、その後日本海を北上しながら発達し、東北北部を通った(図7)。台風による暴風雨は比較的局地的だが、温帯低気圧に変わり発達すると、広範囲に大雨が降り強風が吹き荒れる。10日にかけて九州から北海道まで暴風と大雨に見舞われ、各地で被害が発生した。
 

枕崎市に上陸し中国地方へ
図6 台風9号経路図(2021年8月4~9日) 気象庁
 

台風9号から変わった温帯低気圧で強風と大雨
図7 地上天気図(2021年8月9日12時) 気象庁
 
お盆を襲った豪雨
 台風から変わった低気圧が去ったあと、太平洋高気圧は日本へ張り出さず、西へ張り出した(図8)。太平洋高気圧の北側には前線が東西にのび、日本列島に停滞した。オホーツク海高気圧も現れ、真夏だというのに梅雨型の気圧配置になった(図9)。前線に向かって湿った風が入り、11日からは東・西日本で曇雨天が続き、各地で大雨となった。12日は福岡県と熊本県に線状降水帯が発生し、13日には広島県に線状降水帯が発生して「顕著な大雨に関する気象情報」が発表された。広島県には大雨特別警報も出された。翌14日には西日本から東日本の広範囲で大雨となり、長崎県、佐賀県、福岡県、広島県に大雨特別警報が発表された。九州北部でも線状降水帯が発生し、佐賀県嬉野市では24時間降水量が555.5㎜に達し、観測史上1位の記録を更新した。大雨の降りやすい状態は18日頃まで続き、西日本では太平洋側を中心に22日頃まで断続的に大雨が続いた。11日からの総降水量は、多いところで1400㎜を超えた。
 

太平洋高気圧南に後退し西へ張り出す、高気圧の北に寒気東西にのびる
図8 500hPa北半球平均天気図 高度と平年偏差(上空約5000m付近)
2021年8月11~15日(平年値は1991年~2020年の平均値)
(気象庁の図をもとに作成)
:平年より高度が低く、気温が低い
:平年より高度が高く、気温が高い
 

前線停滞し、オホーツク海高気圧現れる
図9 地上天気図(2021年8月14日12時) 気象庁
 
 佐賀県武雄市や福岡県久留米市などでは、河川の水位上昇によって支流や用水路の水が宅地に溢れる「内水氾濫」が発生し、広範囲に浸水した。国土交通省の8月27日発表によると、全国89河川で氾濫や浸食、浸水が確認され、土砂災害の発生は332件に上った。また、内閣府による27日発表では死者は12人、家屋の全半壊や床下床上浸水など、住宅被害は7852棟にもなった。農地は冠水し、水田には土砂が流入し、茶畑は土砂に埋没し、ため池は崩れて水が河川に流入して氾濫するなど、各地で甚大な被害が発生した。農林水産省が30日に発表した農作物の被害額は、42億4000万円に上った。
 
 8月の天候不順は数年に1回はあるが、今年のように梅雨末期のような豪雨が続くことは、今までになかった。上空の天気図も例年とは違っている。上空5000m付近の寒気は中央アジアから日本付近、東海上へと帯状に広がり停滞した(図8)。とくに注目したいのは水蒸気の流れで、通常の豪雨は下層の1500m付近に強い風と共に流入してくる。14日の上空1500m付近には、湿った空気を点描で表したエリアが前線に沿って帯状にのびている(図10)。この湿った風は東シナ海から吹き込み、その風の上流はアジアのモンスーン地帯のインドシナ半島につながっている。雨季のモンスーン地帯の下層は湿った空気に覆われている。日本付近は例年ならば太平洋高気圧に覆われるので、このような長い水蒸気の帯が停滞することはない。そのうえ、今夏は上空3000m付近にも湿った空気の帯が日本付近からインドシナ半島北部のヒマラヤの南側からのびている(図11)。近年の豪雨では水蒸気の帯が上空3000mにも広がり、層が厚くなっている。まるで大河の流れのようになって水蒸気が集まり、日本付近に流れてきた。図12を見ると、対流活発な雲が日本にかかり、インドシナ半島北部へ雲が連なっている。近年の豪雨では3000mの高さまで水蒸気の広がりが目立つようになったが、途切れて斑模様になっていることが多かった。今夏のように、1500m付近と3000m付近に重なるように帯状にはっきりと現れているのは、温暖化で大気中の水蒸気が増加して集まってきていることを示している。
 

湿った空気の帯が東南アジアから日本付近にのびる
図10 上空1500m付近の天気図(850hPaの高度と気温)
(2021年8月14日)  気象庁の図をもとに作成
点描のメッシュ:湿った空気のエリア

 

湿った空気の帯は上空3000m付近でも東西にのびる
図11 上空3000m付近の天気図(700hPaの高度と気温)
(2021年8月14日) 気象庁の図をもとに作成
点描のメッシュ:湿った空気のエリア

 

寒色領域は積雲対流活動が平年より活発
暖色領域は積雲対流活動が平年より不活発
梅雨前線のような雲の帯がのびる、フィリピン沖は高気圧に覆われる
図12 旬平均外向き長波放射量の平年偏差(2021年8月中旬) 
(平年値は1991年~2020年の平均値) 気象庁の図をもとに作成

 
 筑波大学の釜江陽一助教の人工衛星データの解析では、13日午前8時には大量の水蒸気が南シナ海付近から長さ2000㎞を超える帯状になり、西日本付近に流れ込んでいたことが分かった。これは上空に大量の水蒸気が帯状に流れ込む「大気の川」と呼ばれる現象で、水蒸気は上空3000mまで集中し、九州北部や広島市周辺でとくに多かったという。
 豪雨がおさまると太平洋高気圧は強まり、再び気温が上昇してきびしい残暑となった。太平洋高気圧の強い中心を示す5940mの線が現れて西日本から東日本の南岸を覆った(図13)。じりじりとした暑さは、涼しさに慣れた体には応えた。
 

太平洋高気圧強まり、残暑
図13 500hPa北半球平均天気図 高度と平年偏差(上空約5000m付近)
2021年8月26日(平年値は1991年~2020年の平均値)
(気象庁の図をもとに作成)

:平年より高度が低く、気温が低い
:平年より高度が高く、気温が高い
 
 豪雨や日照不足の影響でお盆明けから野菜が品薄となり、スーパーなど小売価格は高騰した。9月は秋雨も予想され、価格が回復するにはまだ時間がかかりそうだ。
 
世界各地で異常気象
 異常気象の多発は日本ばかりではなく、今夏は世界各地で豪雨や熱波、森林火災が発生した。アフリカの亜熱帯高気圧は今夏も強まり、5940mの高さの中心が現れ、地中海周辺を覆った(図8、14)。7月下旬から 8月上旬にかけて、北アフリカのアルジェリアやチェニジア、ギリシャ、イタリア、トルコ、南フランスなどが熱波に見舞われ、各地で山火事が発生した。イタリアのシチリア島シラクサでは、11日の最高気温が48.8℃と観測された。今後、世界気象機関(WMO)で精査が行われる予定で、承認されれば欧州史上最高となる。
 

7月 高緯度で高気圧強まる
地中海は亜熱帯高気圧に覆われる

図14 500hPa北半球平均天気図 高度と平年偏差(上空約5000m付近)
2021年7月(平年値は1991年~2020年の平均値)
(気象庁の図をもとに作成)

:平年より高度が低く、気温が低い
:平年より高度が高く、気温が高い
 
 ロシア西部やシベリア、北米の高緯度地方も高気圧が強まり気温が上昇した(図14)。シベリア地方では山火事が広がり、過去最大規模となる可能性があると伝えられた。米国西部は少雨が続き、かつてないほどの大干ばつとなっている。干ばつに熱波が重なり、水不足が深刻化している。カリフォルニア州北部では、8月中旬から山火事が発生し過去最悪ともいわれる規模に広がり、2万人以上に避難指示が出されたと報じられた。
 
 高緯度地方に高気圧が停滞したため、寒気が中緯度地方に南下し、日本では前線停滞の一因になった。中国でも寒気の南下で7月に河南省で1時間に200㎜を超える雨が降って地下鉄が浸水し、1000年に1度の大雨と中国メディアは伝えた。8月にも四川省、湖北省、湖南省、江西省などが豪雨に見舞われ、8月末には重慶市で断続的な大雨のため洪水警報が出された。欧州では7月14~15日にかけて上空に「寒冷渦」と呼ばれる寒気の塊が停滞し、ドイツやベルギー、オランダで豪雨が発生した(図14)。最も被害が大きかったドイツ西部では、一晩で2か月分に相当する100~150㎜の雨が降った。洪水の備えが弱かった小さな河川沿いの村を急激な増水が襲い、大きな被害になったという。80歳になる高齢者さえ経験したことのない豪雨に、自治体は避難指示が遅かったと批判された。
 
 この夏、グリーンランドも熱波に見舞われ、雪しか降ったことがない氷床の頂点近くのサミットキャンプ(研究ステーション)では、観測史上初めて雨が確認された。降雨によって氷床の大規模な融解も発生した。雨で凍った氷の表面は積雪が固まった雪面より色が暗いため太陽光線を吸収しやすくなり、さらなる融解を促すという。
 
 8月9日、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書第1作業部会の報告書が公表された。今回の報告書では「地球温暖化は人間の影響で起きていることは疑う余地が無い」と前回よりはっきりと述べられた。報告書によると、地球の氷床の減少率は1992~1999年に比べて2010~2019年には4倍に増加したと確認され、氷床の融解のスピードは加速している。グリーンランドの氷床の損失は、今世紀の間は続くと予測されている。
 異常気象が頻発し、過去に経験したことがない天候に遭遇する機会が世界中の人々の間で増えている。温暖化を疑う声は、強さを増す豪雨の雨音にかき消されていくに相違ない。
 

 
 
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