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2022年夏、日本と世界を襲った異常気象(あぜみち気象散歩93)  2022-09-06

●気候問題研究所 所長 清水輝和子  

 
長くきびしい夏
 この夏は長い。6月25日から関東を中心に夏空が広がり、7月初めまで全国的に記録的猛暑が続いた。7月中旬には暑さが和らいだが、7月末から再び猛暑となり、今年2度目の夏が到来した。8月の気温は変動しながらも高く、下旬になってもむし暑い日が多く、西日本では残暑が続き長い夏になっている(図1)
 猛暑だけではなく、太平洋気圧が弱まり暑さが和らぐと、前線や上空寒気、台風などの影響により各地で局地的豪雨に見舞われた。今夏の日本列島は猛暑か豪雨かのきびしい天候だった。
 

6月梅雨寒、のち猛暑、7月猛暑のち戻り梅雨、8月猛暑のち大雨
図1 地域平均気温平年偏差5日移動平均時系列(2022年6月~8月)(気象庁)
 
7月は猛暑のち豪雨
 この夏一番暑さがきびしかった期間は、6月末から7月初めだった。最高気温は6月25日群馬県伊勢崎の40.2℃を皮切りに、7月1日群馬県桐生で40.4℃、山梨県勝沼で40.2℃、埼玉県鳩山で40.1℃など40℃を超える酷暑が観測された。都心では35℃を超える猛暑日が6月25日~7月3日まで9日間続き、連続記録を更新した。観測史上最も高い記録を更新した地点は6月下旬から7月初めにかけて、全国914地点のうち24地点もあった。山形県では猛暑でサクランボの過熟が進んで出荷できなくなり、福島県ではりんごや桃に日焼けが見られるなど、農作物に被害が出た。中国地方では5月から続く少雨で田植えができないまま7月を迎えた地域もあった。
 
 この期間の上空の天気図(図2)を見ると、太平洋高気圧が強まり、早くも東・西日本を覆っている。それに加えて偏西風が北に蛇行し、北日本も暖かな空気に覆われた。風の流れの上流をたどると、大西洋北部で高気圧が強まっている。ここで、偏西風は北に蛇行し、その後ユーラシア大陸で大きく蛇行を繰り返して、日本付近では北上した。同時に、太平洋高気圧が強まり日本付近に張り出したので、偏西風の流れと相まって全国的にきびしい暑さに見舞われた。さらに、上空16000m付近のチベット高気圧も日本に張り出して上層から下層まで強い高気圧に覆われたことが猛暑に拍車をかけた。
 

6月末から7月初めは記録的猛暑
図2 500hPa北半球平均天気図 高度と平年偏差(上空約5000m付近)
2022年6月28~7月2日 (気象庁の図をもとに作成)

:平年より高度が低く、気温が低い
:平年より高度が高く、気温が高い
 
 しかし、3日頃には太平洋高気圧が急に弱まったため暑さは和らいだ。そこへ台風4号が沖縄付近から九州の西海上を北上し、5日には長崎県佐世保に上陸した。台風はすぐに温帯低気圧に変わったが、その後低気圧はゆっくりと本州を横断して、四国沖から6日ほどかけて太平洋岸を青森沖まで北上した。猛暑と夏空は一転し、シベリアから寒気も南下したため曇雨天が続き、各地で大雨が降った。12日には埼玉県鳩山町鳩山で1時間に111.0mm、6時間で360.0mmの猛烈な雨が降り、18日には長崎県対馬市美津島で3時間に191.5mmなど、これまでの記録を更新する雨が降った。宮城県では、大崎市古川で13~17日の5日間の降水量が400mmを超えるなどの大雨に見舞われた。また、名蓋川が決壊するなど、県管理の32河川で56カ所が被災した。同県の発表によると水稲や大豆、エゴマなどの農地の計4614haが浸水・冠水した。18日と19日は長崎県、山口県、福岡県、佐賀県、大分県で線状降水帯が発生し、山口県美弥市東厚保では19日の24時間降水量の日最大値が243.5mmと、観測開始以来最も多くなった。
 
 上空の天気図(図3)を見ると、7月中旬はオホーツク海にブロッキング高気圧が現れ、偏西風の流れを止めたので寒気が中国北部から日本に南下し、ちぎれては“寒冷渦”となって通過した。ユーラシア大陸では引き続き偏西風が蛇行し、中旬はカスピ海からカザフスタンに向かってアフリカからの亜熱帯高気圧が張り出し、偏西風をさらに大きく蛇行させた。この原因は、アラビア半島南東部からパキスタンにかけて対流活動が活発になり、上昇した気流がカスピ海付近で下降気流となって、亜熱帯高気圧を強めたからと考えられる。亜熱帯高気圧が偏西風をロシア西部で北に押し上げ、バイカル湖の西で南に下がり、寒気を中国北部から日本へ運ぶ流れが続いた。
 

・オホーツク海にブロッキング高気圧、日本は寒気の通り道に
・アフリカの亜熱帯高気圧が英国方面にも張り出し、欧州熱波

図3 500hPa北半球平均天気図 高度と平年偏差(上空約5000m付近)
(2022年7月11~20日)(気象庁の図をもとに作成)

:平年より高度が低く、気温が低い
:平年より高度が高く、気温が高い
 
8月の豪雨
 7月下旬後半になると、ブロッキング高気圧は次第に弱まり、太平洋高気圧が強まって日本付近に張り出した(図4)。夏空と猛暑が戻り、2回目の夏が訪れた。涼しさに慣れた体には連日の猛暑はこたえた。
 

ブロッキング高気圧弱まり、太平洋高気圧に覆われ猛暑
図4 500hPa北半球平均天気図 高度と平年偏差(上空約5000m付近)
(2022年7月28日~8月1日)(気象庁の図をもとに作成)

:平年より高度が低く、気温が低い
:平年より高度が高く、気温が高い
 
 7月末には台風5号と6号が相次いで東シナ海を北上し、黄海と朝鮮半島付近で熱帯低気圧となって消滅したが、湿った空気が残った(図5)
 

熱帯低気圧は消滅したが、湿った空気が東北地方に運ばれた
図5 地上天気図(2022年8月1日12時)
 
 8月に入り、北海道から前線が南下して東北北部にのびたところへ、湿った空気が運ばれて青森県、秋田県、山形県、福島県では豪雨が発生した。前線はゆっくり南下して、新潟から北陸でも大雨となった。青森県、秋田県、山形県、新潟県、福井県では3日から4日にかけて線状降水帯が発生し、猛烈な雨が断続的に降り続いた(図6)。8月1~6日の総雨量は、新潟県岩船郡関川村下関で569.0mm、福井県南条郡南越前町今庄で426.5mm、新潟県村上市高値で414.0mm、山形県西置賜郡小国町小国で362.0mm、青森県平川市温川で230.5mmになり、新潟県下関では平年の8月1か月分の3倍近くも降った(図7)。この大雨により河川の増水や氾濫、低地の浸水、土砂災害による被害が発生した。
 

山形県で線状降水帯発生
図6 レーダー(2022年8月3日18時25分)気象庁
 

図7 降水量の期間合計値の分布図(2022年8月1日0時~6日24時)

 
 8~11日は猛暑が戻ったが、北日本には再び前線がのびて中旬にかけて曇雨天が続き、日本海側を中心に大雨が降った。9日の24時間降水量日最大値は北海道天塩郡遠別町遠別で219.0mm、青森県西津軽郡深浦町深浦で312.0mm、青森県弘前市岳で252.5mmなど観測史上1位を更新し、深浦では1日で平年の1か月分の約2倍の雨が降った。8月29日農水省発表によると、8月3日以降の農林水産関係の被害額は604.9億円にのぼった。
 
 図8の上空の天気図を見ると、東・西日本は太平洋高気圧に覆われたが、中国大陸から“寒冷渦”が南下した。一方、千島の東では暖気が北上し北日本では暖気と寒気がぶつかり、地上付近の天気図では前線に向かって湿った風が入り大雨が降った(図9)。南海上では停滞した熱帯低気圧が前線に水蒸気を送り込んだ。この熱帯低気圧は台風8号になり、13日伊豆半島に上陸して関東地方を直撃した。伊豆諸島北部では線状降水帯が発生し、大島町大島では24時間に317.5mmの大雨が降った。
 

・寒冷渦が北日本を通り、北日本で再び豪雨
・太平洋高気圧は中国中部に張り出し、熱波

図8 500hPa平均天気図 高度と平年偏差(上空約5000m付近)
(2022年8月9~13日)(気象庁の図をもとに作成)

:平年より高度が低く、気温が低い
:平年より高度が高く、気温が高い

停滞する前線に向かって暖湿流入り豪雨
図9 地上天気図(2022年8月10日12時)(気象庁の図をもとに作成)
 
強まる亜熱帯高気圧
 この夏、最も驚いたのは、8月28日の上空の天気図だった(図10)。偏西風の流れや寒気の動向を調べるのには上空5000m付近にあたる500hPaの天気図が適している。気圧の高さを等しい線で結んだ等高度線を60mごとに描いた天気図で、太平洋高気圧は5880mの線で囲まれる。近年は高気圧の中心に5880mより60m高い5940mに囲まれたエリアが日本の上空に現れて猛暑をもたらすことがある。今年8月27~28日は日本の東海上で5940mよりさらに60m高い“6000m”の線が現れた。2014~2016年に強いエルニーニョ現象が発生してから地球全体の気温が急上昇し、亜熱帯高気圧の中心にごく稀に出現していたが、日本の近くで現れたのは初めてだった。6000mに囲まれた面積は現れる度に少しずつ大きくなっている。
 温暖化の影響で亜熱帯高気圧が年々強まり、面積を広げて世界各地に熱波をひきおこしている。
 

東海上に高度6000mの強い太平洋高気圧の中心出現
図10 500hPa平均天気図 高度と平年偏差(上空約5000m付近)
(2022年8月28日)(気象庁の図をもとに作成)

:平年より高度が低く、気温が低い
:平年より高度が高く、気温が高い
 
世界を襲った異常気象
 この夏、欧州では6月に早くも40℃を超える熱波に見舞われ、7月以降も熱波が波状的に欧州を襲った。英国では7月19日ロンドンヒースロー空港で気温が40.2℃に上昇し、観測史上初めて40℃を超えた。欧米の気候学者らの研究チームは1000年に1度の異常気象と発表した。ポルトガルでは7月半ばから最高気温が40℃前後の地域が続出し、14日はピニヨンで47℃を記録。熱中症による死者は1000人を超えたと報じられた。
 熱波による山火事も多発した。ポルトガル、スペイン、フランス、ギリシアなど地中海沿岸では大規模な山火事が発生し、猛威をふるった。アフリカ大陸ではモロッコ北部でも山火事が広がった。図3を見ると、アフリカから亜熱帯高気圧が張り出し、欧州を覆っている。亜熱帯高気圧は英国方面にも張り出し、英国上空では偏西風が北に蛇行し熱い空気に覆われた。
 
 熱波により少雨が続き、水不足が深刻化した。ドイツを流れるライン川では水位が下がり続け、内陸輸送を担う船は荷物を運べない状況に陥っている。ウクライナ情勢でエネルギー問題に直面するなか、輸送が滞り電力不足や工場の稼働停止などが懸念されている。北イタリアではここ数か月の間、少雨が続いたためアルプスの降雪量は例年より70%も減少した。河川の流域の貯水量が減少し、飲料水や農産物が干ばつの危機に見舞われた。
 
 欧州委員会は8月28日、欧州のほぼすべての河川の水位が下がり、過去500年で最悪の渇水状況が続いていると発表。水力発電量は20%も減少し、危機的状況のエネルギー業界に一層の打撃を与えているという。欧州干ばつ観測所の8月の報告では、欧州大陸の47%で土壌が乾燥して干し上がった状態を指す“干ばつ「警告」”の対象状態にある。今年のトウモロコシの収穫量は過去5年間の平均値と比較すると、16%減、大豆は15%減、ヒマワリは12%減になるとの見通しを示した。
 
 中国の中部と南西部でも2か月にわたって熱波が続き、「60年ぶり」といわれる記録的な猛暑となった。6月下旬以降の干ばつによる水不足は、水力発電量を低下させ、猛暑も加わって電力不足となった。長江は水位が低下し、中国中央部では農作物に深刻な被害が発生した。国家気象局は8月20日、人口が集中する東部から中部の農業地帯、さらに、チベット東部まで干ばつが進んでいると発表。図8を見ると、太平洋高気圧は西に張り出し、中国南部を覆っている。近年は夏の亜熱帯高気圧は中国南部まで勢力を広げているが、今夏のように中国の奥地まで覆い持続するようになったのは、温暖化が進行していることを物語っている。また、上空16000m付近のチベット高気圧が7~8月にかけて中国中部・南部で強かったので、層の厚い高気圧に覆われてきびしい暑さが続いた。中部で記録的熱波になっている一方で、四川省や北西部の青海省では北からの寒気の影響で8月17日、大雨により土石流が発生するなど局地的な大雨も観測された。
 
 北米でも亜熱帯高気圧が西部を中心に強まった(図3、8)。米国では西部や南部で猛暑となり、ダムが枯渇して電力や水資源がひっ迫し、カリフォルニア州では今年も山火事が多発した。ところが、8月下旬には低気圧や前線の影響で、米西部では洪水が多発。中西部も29日暴風雨に見舞われた。テキサス州ダラスでは22日午後2時までの2時間に観測史上2番目に多い230mmの大雨となり、降り始めからの雨量は380mmに達した。
 
 今夏の世界の異常気象は熱波が目立ったが、パキスタンでは6月中旬から8回も豪雨に見舞われた。パキスタンの雨期は例年7月から始まるが、今年は6月から始まり、記録的豪雨に北部山岳地帯の氷河の融解も加わり、大洪水となっている。8月29日、アッサン・イクバル計画開発相は「経済損失は初期の試算でも100億ドルを上回り、これまで1000人の人命が失われ、家屋約100万戸が被害を受けている」と述べた。シェリー・レーマン気候変動相は、「国土の3分の1が水没しており、人口の7分の1に当たる3300万人以上が被災している」と発表。2000人が死亡する過去最悪の被害が出た2010年に匹敵する規模となっているという。豪雨は8月に入りアフガニスタンの中部や東部にも広がり、広い範囲で洪水が発生した。図11の8月の上空の天気図では、パキスタン周辺には寒気が南下して気圧の谷となっている。パキスタン周辺で上昇した気流はカスピ海の北のロシア西部に下降して高気圧を強め、偏西風を北に蛇行させた。高気圧の東側の中国北部から北日本では偏西風が南に下がり、朝鮮半島から北日本付近には前線が停滞した。パキスタンの豪雨は中国や朝鮮半島、日本の大雨の一因になった。
 

・8月中国南部は太平洋高気圧に覆われ熱波
・パキスタンでは気圧の谷になり豪雨多発

図11 500hPa平均天気図 高度と平年偏差(上空約5000m付近)
(2022年8月)(気象庁の図をもとに作成)

:平年より高度が低く、気温が低い
:平年より高度が高く、気温が高い
 
 昨年の秋から続いているラニーニャ現象によって、パキスタン周辺では夏季に大雨が降る傾向がある。過去最悪の被害といわれた2010年も比較的規模の大きなラニーニャ現象が発生した。ラニーニャ現象は太平洋赤道付近の海面水温が中部から東部で平年より低く、西部で高くなる現象で、気象庁の予測では冬の初めまで続くと予想されている(図12)。ラニーニャ現象発生時には北半球の中緯度が高気圧に覆われやすくなるので、今夏の熱波や猛暑の一因にもなっている(図2、8、11)。南半球では豪州の北の海面水温が高く、豪州東部で大雨が降りやすい。7月には最大都市シドニーで今年3度目の洪水が発生し、ニューサウスウェールズ州の一部の地域では4日間に800mmの雨が降った。
 

ラニーニャ現象の影響で、異常気象が多発
図12 海面水温平年偏差(2022年7月)気象庁
 
 温暖化によって地球大気の水蒸気量が増加している。ラニーニャ現象発生時に大雨の降りやすい地域では、過去の発生時より多量の水蒸気が集まるので雨量が増加する。一方で、その周辺など下降気流になる地域では、乾燥して干ばつが深刻化する。今後も温暖化の進行とともに夏季の豪雨、干ばつ、熱波はより激しくなると予想される。
 
進行する温暖化
 8月22日、気象庁では異常気象分析検討会が開催された。地球温暖化の影響を評価する気候モデルを用いたイベント・アトリビューションといわれる分析によると、「今夏の高温の発生確率は、地球温暖化がなかったと仮定した場合の計算結果と比べて、かなり高かったと見積もられる」と発表された。
 
 熱波、干ばつ、豪雨、洪水・・この夏ほど世界の人々が異常気象に苦しめられた年はないだろう。そして、地球温暖化の実態を、身をもって感じた人が多かったのではないだろうか。残念なことに、人間は被害が発生しなければ本気になって取り組むことができない性質なのかもしれない。新型コロナウィルス流行や戦争といった困難に直面している時期に、人類は激化する異常気象と向き合わなければならない。この夏を期に、世界の温暖化対策が加速されることを祈りたい。

 
 
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