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寒暖変動しながら暖冬(あぜみち気象散歩102)  2024-02-27

●気候問題研究所 所長 清水輝和子  

 
寒暖変動した冬
 秋に続き、この冬も寒暖変動が激しかった。11月頃から約2週間の周期で気温が変動した(図1)
 

暖冬だが約2週間ごとに寒気入り大きく変動
図1 地域平均気温平年偏差5日移動平均時系列(2023年12月~2024年2月)(気象庁)
 
 年末年始は暖かかった。大寒過ぎに西日本中心に寒気が南下して大雪となったが、冬型気圧配置は続かず日本海側は少雪で、スキー場は雪不足の冬だった。東・西日本の太平洋側は少雨が続いていたが、1月下旬から太平洋岸を低気圧が通るようになって、雨や雪の日が多くなった。2月15日には関東や北陸で春一番が吹き、真夏日も現れるなど各地で季節外れの陽気となり、「冬が終わったのではないか」という声が聞かれた。だが、翌日は冬型になり真冬の寒さが戻った。報道の街頭インタビューでは「今は冬なのか、春なのか、分からなくなる」と気温の大きな変動に戸惑う人が多かった。
 
 
寒冷渦の南下で大雪に
 今冬1番の強い寒波は、大寒過ぎに南下した寒冷渦がもたらした。アリューシャン方面から西進してきたブロッキング高気圧がカムチャツカ付近で停滞し、大陸ではバイカル湖の西で高気圧が強まった(図2)
 

寒冷渦南下で寒波
図2 500hPa平均天気図 高度と平年偏差(上空約5000m付近)(2024年1月23日)(気象庁の図をもとに作成)
:平年より高度が低く、気温が低い
:平年より高度が高く、気温が高い
 
 2つの高気圧に阻まれて、寒気がちぎれて寒冷渦となって日本付近に南下した。各地で大雪となり、岐阜県関ケ原では1月24日の6時までの6時間降雪量が観測史上最も多い43㎝になり、短時間にタイヤが見えなくなるほど雪が積もるなど、交通機期間に影響をもたらした。
 
南岸低気圧による大雪で首都圏混乱
 2月に入ると、太平洋岸には前線が停滞するようになり、東・西日本の太平洋側では晴天は続かず、曇雨天が多くなった。立春すぎの5~6日は、太平洋岸を通る低気圧「南岸低気圧」により関東甲信地方は大雪となった(図3、図4)
 

南岸低気圧で首都圏降雪(気象庁)
図3 地上天気図(2024年2月5日12時)
 

首都圏で降雪(気象庁)
図4 日最深積雪(2024年2月6日01時までの24時間降雪量)
 
 都心では23区に大雪警報が出され、2年ぶりに積雪1㎝以上を観測。5日23時には8㎝の積雪となった。東京の大動脈である首都高が通行止めとなり、除雪が終るまで3日間を要した。水分の多い湿った雪だったので、路面凍結などによるけが人が相次ぎ、関東では6日の時点で300人、東京は137人が重軽傷を負った。首都高を迂回する車は下道に集中したため渋滞が発生し、物流にも影響した。市場では野菜の入荷がストップし、東京都中央卸売市場の各市場では、入荷量が前年同期日の3割減となった。
 
 
季節外れの高温
 2月中旬は移動性高気圧に覆われて、春のような陽気になった。13日には南から大きな高気圧に覆われ、北海道の北には低気圧が並び、「南高北低型」の気圧配置になった(図5)
 

初夏の天気図:南高北低型
図5 地上天気図(2024年2月13日12時)(気象庁)
 
 今冬は南海上で太平洋高気圧が強いので、移動性高気圧も大きく勢力を広げ、まるで初夏のような天気図型だった。そこへ低気圧が日本海を進んだ15日、低気圧に向かって強い南風が入り、東京、北陸、四国地方で春一番が吹いた(図6)。東京都心では21.1℃まで気温が上がり、4月下旬頃の陽気となった。
 

関東、北陸、四国で春一番
図6 地上天気図(2024年2月15日09時)(気象庁)
 
 20日には日本海から前線が南下して南西風が入り、群馬県上里見で気温が25.7℃に上がり初夏の陽気となった。大陸高気圧が強まり、南海上には東から太平洋高気圧が張り出し、日本列島は寒気と暖気の境になったので、前線は南海上に東西にのびて23日にかけて停滞した(図7)。気象衛星画像では、中国南部から日本付近、日本の東海上にかけて長く幅の広い前線の雲がかかった(図8)。下層から上空3000m付近まで、大気の川のように湿った風が流れた。まだ2月だというのに、梅雨時のような幅広い前線帯の雲がかかるのは珍しい。温暖化で水蒸気量が増えていることが影響し、2月でも大雨や大雪が降りやすくなっている。
 

太平洋岸に前線停滞
図7 地上天気図(2024年2月21日21時)(気象庁)
 

前線の雲が中国南部から日本付近、東海上にのびて停滞
図8 衛星画像(2024年2月21日12時)(気象庁)
 
 25~27日にも太平洋岸を低気圧が通り、雨や雪が降った(図9)。河口湖では最大で9㎝、奥日光では20㎝の雪が積もり、連休の行楽地周辺の道路ではスリップする車が相次いだ。27日は上空の寒気がちぎれて北日本を通ったので、東北から北海道の東海上で地上の低気圧が発達し、暴風が吹き荒れた。27日17時までの降雪量の日最大値は岩手県の宮古島で76㎝、岩泉で75㎝など2月として最大となった。
 

南岸低気圧通り、内陸や北日本の太平洋側大雪
図9 地上天気図(2024年2月25日21時)(気象庁)
 
冬でも亜熱帯高気圧強い
 昨年の2月は東・西日本、沖縄・奄美では気温が高かったが、今年2月は全国的に気温が高く、暖かい(図1)。昨年は冬までラニーニャ現象だったので、熱帯太平洋の海面水温が平年より低く、大気を冷やす働きをした。ラニーニャ現象が発生すると地球の気温は低緯度から下がり、エルニーニョ現象が発生すると低緯度から気温が上昇する。昨年2月はラニーニャ現象が終息した頃だったので、低緯度の気温は低かった。図10の上空の天気図を見ると、低緯度の熱帯地方では平年より気温が低いことを示す青色のエリアが多い。亜熱帯高気圧は5880mの線に囲まれたエリアで、昨年はカリブ海付近とアラビア海に小さな亜熱帯高気圧がある。ところが、今年2月は、亜熱帯高気圧が太平洋中部から日本の南、インドシナ半島、アフリカ大陸までつながり、面積も大きい(図11)
 

昨年は低緯度地方が低温で亜熱帯高気圧は弱かった
図10 500hPa平均天気図 高度と平年偏差(上空約5000m付近)(2023年1月26日~2月24日)(気象庁の図をもとに作成)
:平年より高度が低く、気温が低い
:平年より高度が高く、気温が高い
 

日本の上空は暖かな高気圧に覆われた
低緯度地方は高温で亜熱帯高気圧は強い

図11 500hPa平均天気図 高度と平年偏差(上空約5000m付近)(2024年1月26日~2月24日)(気象庁の図をもとに作成)
:平年より高度が低く、気温が低い
:平年より高度が高く、気温が高い
 
 大西洋側でも大西洋から中米、太平洋東部に広がっている。20世紀最大規模といわれた1997年春~1998年夏に発生したエルニーニョ現象と、21世紀に入り期間が長く、強かった2014年春~2016年春のエルニーニョ現象が発生した年の2月の亜熱帯高気圧よりも、今年2月の亜熱帯高気圧は強まっている。温暖化が進めば、次に発生するエルニーニョ現象では、冬の亜熱帯高気圧はさらに強くなっているのかもしれない。
 
 偏西風の流れをみると、北半球の北部を流れる寒帯前線ジェット気流は欧州で北上し、中央アジア付近で南下し、日本付近では北上している(図11)。北半球南部を流れる亜熱帯ジェット気流はアフリカ大陸北西部で北上し、中東で南下し、アフガニスタン付近で北上し、バングラデシュ付近で南下し、日本付近で北上している。2つの偏西風が蛇行して日本付近で北上したので暖気に覆われた。そのうえ亜熱帯高気圧も強く、南海上から暖かな空気が入りやすかったので、2月は高温の記録が多かった。また、中国南部から南西風が入り、湿った空気が運ばれて低気圧が頻繁に通った。太平洋岸では雨や雪が降り、低気圧が発達して春の嵐をもたらした。
 
 1月の世界の月平均気温は、エルニーニョ現象に温暖化の影響も加わり、1891年の統計開始以降で最も高くなった。昨年5月から最高記録の更新を続けている(図12)
 

1月の世界の月平均気温は過去最高(気象庁)
図12 世界の月平均気温偏差の経年変化(1891~2024年)
 
 気象庁の予測ではエルニーニョ現象は春には終息する見通しだ。2月中旬の海面水温は赤道太平洋の中部から東部で次第に下がっているが、まだ高いので3月も世界の平均気温は過去最高を更新する可能性がある(図13)
 

)エルニーニョ現象やや弱まり、春には終息か
図13 海面水温平年差(2024年2月中旬)(気象庁)
 
 

 
 
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