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大石和三郎とジェット気流の観測 【4】  2016-09-12

●NPO法人シティ・ウォッチ・スクエア理事長 林 陽生  

 
強風帯の発見
 1921年4月に館野で高層気象観測が始まった。
 「長峰回顧録」(1950,大石)によると、当初、高層観測には一連の技術的な問題があり、それが観測体制の運用を遅らせる原因になっていた。1921年の終わり頃までに定時観測の記録が整理されたが、代表性のある気候として示すことができたのは1923年の始め頃である。この経緯は、最初の高層気象台の年報に投稿された記事(大石,1926)に説明がある。
 
 1924年12月2日のことである。大石は晴天の館野で目を覚ました。前日には寒冷前線が通過していた。1日と2日の地上の総観天気図をそれぞれFig.5Fig.6に示す。これらの天気図は彼が行った高層観測の後に中央気象台が発表したもので、当日の気象を知ることができる。
 
 

 

 
 
 天気図の特徴は次の通りである。
1)大きな低気圧がオホーツク海上に位置し、この中心は24時間後には緯度7度分(約800km)北方へ移動した。
2)高圧部の中心(770mmHg、1025mb)が中国大陸にあり、24時間後には黄海方面へ移動した。
3)12月1日に、北海道から本州の中央部にかけて、強い偏西風が出現。北海道の北西部、羽幌では、29~35m/sの強風となった。さらに、緯度方向の気圧の高まりに沿って30℃に及ぶ気温差が現れ、中国北東部から台湾にかけた明白な気温の南北傾度が形成された。
 
 大石はこの気象状況下で、12月2日10時(地方時)に、120gの気球(約半径1m)を放球し、シングルセオドライト(※)で追跡した。シングルセオドライトで軌跡を求める(気球の移動距離から風速を算出する)ためには、気球の上昇速度が一定と仮定する必要がある。設計した上昇速度は300m/分で、30分後に上空9kmに達する計算だった。この観測で、ちょうど高度10km(33000フィート)より少し下に、風速72m/s(約140ノット)の明瞭な西風がとらえられた。大石が描いた鉛直風速分布をFig.7に示す。
 

 
 セオドライトに関する光学的な知識がないと、風速の測定誤差の検討は困難である。大石が行った観測を、現在のイギリス気象局が定めた高層観測指針に照らし合わせると、高度10kmで約±15m/sの誤差が考えられる。この計算は、気球の位置(方位角)に0.1°の誤差を考慮したもので、そうすると大石が観測した最大風速に関する風速誤差は±10m/s以下と考えることができた。いずれにせよ、ほぼ風速72m/sという信じがたい強風帯の存在を大石は観測した。
 
セオドライトとは、角度を計測する測量機器。経緯儀、トランシット
 
参考文献
大石和三郎,1950:長峰回顧録.高層気象台彙報,特別号 付録,2-73.
大石和三郎,1926:館野上空に於ける平均風.高層気象台彙報,2,1-22.


 
 
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