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| 日射制御型拍動自動灌水装置による夏秋ピーマンの増収および高品質栽培技術 | 2012-09-14 |
| ●兵庫県立農林水産技術総合センター 福嶋 昭 | 背景と概要 | 露地の夏秋ピーマン栽培は、一般に畝間灌水が行われており、特に夏期における土壌水分の過不足により、障害果の発生が増加し、樹勢の衰えなどから収量が減少し、問題となっている。このことから、気象条件に左右されない安定した夏秋ピーマン栽培のための栽培管理技術の確立が要望されている。 施設園芸では、液肥を点滴灌水チューブにより供給する節水型の肥培管理栽培が導入されている。点滴チューブを用いた肥培管理は、作物の生育をコントロールできる点で優れた栽培法であるが、導入費用が高額になることや、商用電源や水圧と水量が確保できる灌水施設を必要とする。そのため、露地栽培の作物には積極的な灌水施設は設置されず、もっぱら畝間灌水による水分管理が行われている。 そこで、電源のない山間地でも設置可能な「日射制御型拍動自動灌水装置」を導入し、肥効調節型肥料を拍動タンク内に投入する方法により、点滴灌水同時施肥による灌水並びに、施肥の省力化と安定的な収量および品質が確保できる。
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| 症状 | 露地の夏秋ピーマンは、水田転換畑での栽培が多く、土壌水分管理が難しいため、障害果の発生や収量低下が起こっている。 障害果は主として、尻腐れ果、日焼け果、着色果及び変形果などがある。 (1)尻腐れ果:果頂部が水浸状となり、しわを生じた後に褐変化する(写真1)。 (2)日焼け果:果実の陽光面の一部で脱緑がみられ、しわが寄り時間の経過とともに乾燥白化する。 (3)着色果:果実の陽光面に黒褐色の色素が発現し品質を低下させる。 (4)変形果:果実の肥大が一方に偏りいびつに変形する(写真2)。  
 写真1 写真2 |
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| 原因 | ピーマンは、根の張りが狭く浅いため乾燥に弱い作物であり、土壌水分が不足すると、生育および収量に大きく影響する。特に露地栽培では、夏期の高温、乾燥、強日射や畝間灌水による土壌水分の急激な変化や、停滞水による根の痛みが原因で収量が激減する。 ピーマンの着果周期は1カ月おきにみられるが、株の栄養状態によってはこの周期が著しく変動する。これは、着果負担に伴う根の活力低下が大きな原因で、土壌水分管理と肥培管理に注意することが重要である。
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| 対策 | 日射制御型拍動自動灌水装置〔特許第3787628、(独)近畿中国四国農業研究センター開発〕による点滴灌水と追肥による同時施用により、安定的な収量と品質が確保できる。 本装置は、日射量に応じてソーラーパネルで発電した電力により、ろ過槽の中のポンプにより高架に設置した拍動タンクへ揚水し、タンク内の水位が一定レベルに達すると電磁弁が開き、落差を利用して、マルチ内に敷設した点滴チューブにより灌水を行う。点滴灌水によりタンク内の水位が低下すると電磁弁が閉じ、再貯水を行う装置である(図1、写真3)。 追肥は肥効調節型肥料(例:エコロング424、40日タイプなど)をネット等に入れ、拍動タンクに投入し、灌水と施肥を同時に行う方式である。  
 図1 日射制御型拍動自動灌水装置のしくみ  
 写真3 ほ場での灌水装置の設置状況  
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| 具体的データ | 拍動灌水装置の稼働は、定植後から行い、栽培時期により灌水量を増減させる。基準灌水量をもとに天候、ピーマンの生育を見ながら制御装置の入、切や、ろ過槽と拍動タンクの間のパイプに取り付けた流量調節バルブの開度により灌水量を調節する(図2、3)。  
 図2 日射量および拍動灌水量の推移  
図3 土壌水分(pF値)の推移   ピーマンは、生育に従い樹体容積が大きくなり、収穫量が次第に増加する。拍動灌水により、植物体の生育がますます促進されるので、受光態勢確保のため、適期の整枝を心がけ、過繁茂に注意する。9月中旬以降の過灌水は、葉茎が軟弱徒長気味になり、斑点病などの病害発生を助長する恐れがあるので灌水量を加減し、装置の稼働は9月末までを目安とする(表1)。   表1 夏秋ピーマンの基準灌水量(リットル/株)
   追肥のための肥効調節型肥料の拍動タンク内への投入は、栽培面積に応じて規定量を7月中旬、8月中旬、9月中旬を目安に行う(図4)。 施肥量は、慣行栽培の30%減肥が可能であり、基肥量を少なくして追肥重点で施用し、葉色や花を観察して、肥料切れさせないようにする(写真4、5)。 なお、慣行施肥量でタンク内に投入する肥料を高度化成肥料にし、生育期間中10回程度小分けして投入することも可能で、経済的には大幅な増益となる。  
 図4 夏秋ピーマンの作型と施肥例
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|  左 写真4 拍動タンク内の肥効調節型肥料 右 写真5 葉色、花型等の観察   「京波」の10a当たりの収量は、慣行栽培(畝間灌水・慣行施肥量)が10,198kgに対し、拍動灌水・肥効調節型肥料タンク内投入・慣行施肥量が11,040kgで8%の増収、同30%減肥が10,615kgとなり、4%の増収となった(表2)。一方、拍動灌水・化成肥料タンク内投入・慣行施肥量は11,769kg、同30%減肥11,530kg、同50%減肥10,798kgとなり、それぞれ15%、13%、6%の増収となった(表2)。  
   7~9月の秀品、優品および障害果発生率は、いずれの拍動灌水でも、慣行栽培に比べ秀品率が高くなり、障害果率は低くなった(表3)。   拍動灌水・肥効調節型肥料・慣行施肥量における肥料代は、10a当たり慣行栽培の肥料代73,305円より17,491円増加する。これは肥効調節型肥料を追肥として灌水同時施用するためであるが、同30%減肥では7,244円の節減となる(図7)。また、高度化成肥料をタンク内に投入し、灌水同時施肥に使用する場合は、30%減肥で24,734円、50%減肥すると41,094円の節減となる(図7)。  
図7 慣行肥料代¥73,305との差額   拍動灌水による収量と装置の導入、償却費を勘案した10a当たりの所得額の概算は試験結果から、肥効調節型肥料タンク内投入による慣行施肥量は、肥料代が慣行栽培より増加するが、最終的な所得は155,000円増益、30%減肥は63,000円の増益となる(表4)。 また、高度化成肥料タンク内投入による慣行施肥量は、ピーマンの旺盛な生育による増収効果が高く慣行栽培に比べ340,000円、同30%減肥316,000円、同50%減肥でも152,000円の増益となる(表4)。  
   拍動灌水装置は、設置が容易で誰にでも簡単に使いこなせ、特に夏秋ピーマンでは、夏期の収量増と高品質化が図られる。このことから、栽培技術の高い生産者に近い収量、品質が確保でき、その上、減肥栽培が可能であり、農家経営の安定に貢献する。本装置での栽培は、水量の少ない場所での効率的な用水の利用や畝内のチューブ低圧点滴灌水により、通路面の滞水がなく、常に乾燥状態が保たれるため、収穫作業や整枝、防除などの管理作業が容易に行うことができるのも利点の一つである。 栽培上の留意点として、夏秋ピーマンは、生育に従い樹体容積が大きくなり、収穫量が次第に増加する。このため、生育中期から後半に追肥量を増やすことも必要である。また、樹勢が旺盛になることから、栽植密度をやや広げる、受光態勢確保のためのこまめな整枝も必要となる。 |
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| 参考資料 | (1)福嶋 昭,2010,装置を上手に使いこなすための農家向けマニュアルの普及,平成22年度中国四国地域マッチングフォーラム講演要旨,農林水産技術会議事務局,10-17 (2)福嶋 昭・吉川(山西)弘恭,2011,日射制御型拍動自動灌水と減肥栽培が夏秋ピーマンの収量並びに品質に及ぼす影響,農及園86:507-513 (3)吉川(山西)弘恭・横田和志・松本由利子・吉川省子・渡邊修一・中尾誠司,2005,太陽の光で作物に水を与える ―ソーラーポンプを利用した低コスト日射制御型灌水装置の試作―,農及園80:440-445,569-571 (4)吉川弘恭・村口 浩・沖本さやか・渡邊修一・吉川省子・中尾誠司,2007,化学肥料を削減できる低コスト日射制御型拍動自動灌水装置.農業技術体系土壌肥料編,農山漁村文化協会,追録第18号第6-①巻 原理112の16-19 (5)吉川(山西)弘恭・中尾誠司,2010,ソーラーポンプを利用した拍動自動灌水装置の組み立て方法,近畿中国四国農業研究センター研究資料 第7号   ※本研究成果は、農林水産省経営局の産学官連携経営革新技術普及強化促進事業「露地栽培への日射制御型拍動自動灌水装置の導入による省力・低コスト・環境保全型生産技術の普及」(2007~2009年度)により実施したものである。 ※日射制御型拍動自動灌水装置は、「ソーラーパルサー」の商品名で有限会社プティオが販売している。 ▼有限会社プティオ HPは>>こちら   ※※「夏秋ピーマンの日射制御型拍動自動灌水」(2010年4月公開)を2012年9月に改訂 |
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