九州における水稲高温耐性水稲品種の特性と普及状況 | 2012-03-13 |
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●農研機構九州沖縄農業研究センター 筑後・久留米研究拠点 坂井真 |
九州における水稲高温耐性品種の開発の背景 | 西日本の温暖地、暖地では、最近の気候温暖化傾向により、8月から9月にかけての水稲登熟期が高温になる年が多く、それが原因で起こる白未熟粒の増加や充実不足による米の品質低下が問題となっている。特に九州地域では一等米比率が50%未満となる状況が数年連続で続いており、事態は深刻である。この原因として、九州の主力品種の「ヒノヒカリ」が高温条件では、白未熟粒多発や充実不足を招きやすいことが被害を拡大させていると考えられる。この対応策として、高温気象下でも安定した産米品質を実現できる品種への要望が高まっている。ここ数年で九州の各育成地からポスト・ヒノヒカリになりうる高温耐性に優れた品種が数多く育成されているが、ここではそれらの特性や普及状況について概説する。
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九州沖縄農業研究センターで育成した品種 | ●きぬむすめ 2005年育成。組合せ:愛知92号(祭り晴)/キヌヒカリ 日本晴よりやや遅い熟期で、温暖地では早生の晩に属する。 収量性は日本晴にやや優る。育成地での玄米品質は「日本晴」並で高温耐性も「中」程度で特に高い評価ではない。九州地域で普及は進んでいないが、近畿・中国・四国地域の品種選定連絡試験で、安定して高い品質、収量を示し、食味もヒノヒカリ、コシヒカリ同等と評価された。現在、和歌山、大阪、兵庫、鳥取、島根、山口の各府県で奨励または認定品種に指定され、主として平坦部のコシヒカリ代替として導入されている。これらの普及地帯では2010年の高温気象下でも「コシヒカリ」「ヒノヒカリ」より高い一等米比率を示し、現場での品質改善効果が確認された。また岡山県、愛媛県等数県で産地品種銘柄として作付けされている。   ●にこまる 2005年育成。組合せ:は系626(きぬむすめ)/北陸174号 ヒノヒカリより出穂期は3日程度遅く、暖地では中生の中ないし晩に属する。 収量性はヒノヒカリを約8%上回る多収である。玄米品質は「ヒノヒカリ」に明らかに優り高温での未熟粒発生も少ない。2010年の高温気象下でも栽培された各府県で「ヒノヒカリ」より明らかに高い一等米比率を示し、現場での品質改善効果が確認された。食味はヒノヒカリ並以上に良好で、長崎県産の「にこまる」は穀物検定協会の「米の食味ランキング」で最高ランクの「特A」評価を4年連続で受けている。また各地の米食味コンテスト等でも多数上位入賞を果たし、食味の良さも実証されつつある。現在、長崎、大分、静岡の3県で奨励または認定品種に指定されており、これらの普及地帯および関東、北陸以南の計14県で産地品種銘柄として作付けされており、ヒノヒカリにかわる西日本の基幹品種となり得る可能性もある。   ●はるもに 2011年育成。組合せ:関東IL2号/西海249号 ヒノヒカリよりやや遅い熟期で、暖地では中生の中に属する。 本品種の最大の特長は、高温耐性のみならず病害虫の抵抗性をも両立していることである。すなわちトビイロウンカ抵抗性遺伝子bph11、縞葉枯病抵抗性遺伝子Stvb-i、穂いもち抵抗性遺伝子Pb1の3つを合わせ持っている。 収量性はヒノヒカリ並かやや優る程度で「にこまる」には及ばないが、玄米品質および高温耐性は「にこまる」と同等であり、食味は「ヒノヒカリ」と遜色がない。品種登録出願から日が浅く、普及はまだこれからの品種であるが、特別栽培米栽培地域での試作を行う予定である。  
高温・寡照耐性検定試験区の玄米 (2010年 九州沖縄農業研究センター産) 左上:関東BPH1号(「はるもに」の親品種) 左下:ヒノヒカリ(白未熟粒激発) 右上:はるもに 右下:にこまる  
にこまる(左)、ヒノヒカリ(右)の草姿 (2010年 九州沖縄農業研究センター) |
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九州各県で育成された品種 | 九州各県の県単育種計画により、以下の品種が育成され、高温条件でも品質が低下しにくい特性を前面に出して普及が進められている。これらの品種は農林水産省指定試験事業で育成された「おてんとそだち」を除き、現時点ではその普及は育成した県に限られ、他県での普及は認められていない。普及状況は表に示すとおりである。   ●元気つくし 2009年福岡県育成 組合せ:ちくし46号/つくし早生 出穂期は、「ヒノヒカリ」より6~10日程度早く、暖地では‘早生’収量は「ヒノヒカリ」と同程度である。温水潅漑による高温耐性評価試験での白未熟粒発生が「ヒノヒカリ」より明らかに優れる。また食味も良好で、育成地では「ヒノヒカリ」を上回る評価を得ており、冷飯や古米でも食味が低下しにくいとされる。   ●さがびより 2009年佐賀県育成 組合せ:佐賀27号/愛知100号 ヒノヒカリより出穂期で5日程度遅い「中生の晩」で、稈長がヒノヒカリより短い。収量性は「ヒノヒカリ」より10%多収で品質も上回り、食味も同等であるが、葉いもちに「弱」で耐病性はやや劣る。佐賀県では平成22年に4300haの作付けがあり「ヒノヒカリ」からの品種転換が進んでいる。   ●くまさんの力 2008年熊本県育成 組合せ:ヒノヒカリ/北陸174号 ヒノヒカリより出穂期で2日程度遅い「中生の中」で、稈長がヒノヒカリより短い。収量性は「ヒノヒカリ」よりやや多収で品質も上回り、食味も同等とされる。   ●おてんとそだち 2011年宮崎県育成 組合せ:南海149号/北陸190号 ヒノヒカリより出穂期で3日程度早い「中生の早」で、稈長がヒノヒカリより10cm以上短い短稈で倒伏にも強い。育成地での収量性は「ヒノヒカリ」より8%多収で、高温登熟性も「強」にランクされ品質も上回る。食味は「ヒノヒカリ」と同等とされる。平成23年度から宮崎県内で普及が始まっている。     表1 暖地の主な高温耐性品種の特性一覧
データは各育成地が公表している研究報告、研究成果情報等より引用した (クリックすると大きく表示されます)     表2 主な高温耐性品種の一等米比率と普及面積
一等米比率のデータは農林水産省発表の確定値.普及面積は九州沖縄地域試験研究推進会議資料や各県の広報資料等を参考にした推定値
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参考資料 | |
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