ログイン会員登録 RSS購読
こんにちは、ゲストさん
トップ対策情報
対策情報
水稲 麦・大豆 野菜 果樹 花き 畜産 その他
一覧に戻る
高温障害  2010-03-23

●岡山大学大学院自然科学研究科農学系 齊藤邦行  

 
背景と概要
温度勾配チェンバー
 IPCC (気候変動に関する政府間パネル)の第四次評価報告書では、最も排出量の多い社会シナリオで推移した場合、100年後の気温は平均4.0℃上昇すると予測している。適温を超える気温上昇は、水稲では不稔籾発生・千粒重低下による減収、玄米外観品質の低下がみられ、トウモロコシ、コムギなどで収量生産が低下することが報告されている。
 
 ダイズにおいても、大江ら(2007)は通気したトンネル型のビニールハウス(右写真 温度勾配チェンバー)で3年間ダイズの栽培を行い、開花始から45日間の平均気温が高いほど子実収量が減少する傾向が認められ、これには花蕾数、結莢率の低下による莢数の減少と百粒重の低下が関係することを明らかにした(図1)
 

  図1 登熟期平均気温と百粒重、子実収量との関係
 
 内川ら(2003)も、北部九州のダイズ収量は25℃以上では百粒重、整粒数の低下によって減収となることを報告している。望月ら(2005)も、登熟期の高温処理で百粒重、子実収量が低下することを認めており、西日本地域では登熟期の高温はダイズの百粒重の低下を通じて収量を低下させると考えられる。
 
 しかし、Zhengら(2009)は中国東北部のダイズ収量の過去20年間の増収過程には温暖化の影響が6-10%関与することを報告しており、東日本、特に東北地域から北海道の高緯度地域においては、播種期の早期化と生育可能期間の延長により収量の増加がみられるかもしれない。イネにおいては、収量予測モデルの開発により、平均気温の3℃の上昇は東日本では増収、西日本では不稔発生、登熟歩合、千粒重の低下により著しく減収することが認められている(中川・堀江 2001)。
 
 Kitanoら(2006)は高温(40℃)が花粉稔性におよぼす影響は小さいことを認め、開花は気温の低い8~9時にピークがあること、またダイズでは閉花受精もみられることから、高温により受精障害が起こる可能性は小さいことを明らかにしている。
 
 すなわち、高温によるダイズ収量の減収には、花蕾数、結莢率の低下による莢数の減少と百粒重の低下が関係し、受精障害による結莢率の低下の影響は小さく、平均気温3℃の上昇は28%の減収をもたらすと予測された。しかし、この試験は収量レベルが500g m-2以上と著しく高く、全国平均178g m-2レベルで同様な減収率になるかは明らかではない。
 
 農林水産省が道府県を対象として実施した温暖化に関するアンケートで、温暖化により高温不稔が増加しているという回答は1県のみで、この他落花・落莢等の干ばつ害、青立ち・莢先熟、子実の腐敗、しわ粒等が12県、病害虫の影響は15県であった。前述したように、ダイズは高温でも高い花粉稔性を有し、結莢したことから、高温不稔は干ばつとの複合的な条件で発生したものと推測される。
温暖化による生産性阻害への対策
 登熟期平均気温が31℃を超えるような年には、気温上昇は花蕾数ひいては莢数の減少を通じて子実収量を低下させることがわかった。現在、西日本では、タマホマレ、サチユタカ、丹波黒、フクユタカ等のいわゆる秋ダイズが栽培されており、本実験で供試したエンレイに比べると成熟期が遅い品種である。これらの品種の登熟期平均気温の平年値は、26.5~27.5℃の範囲にあり、2~3℃の気温上昇は、概ね増収要因として働くと考えられる。しかし、さらなる気温上昇 (+5℃) は、莢数の減少を通じて子実収量を制限する要因となると推察された。
 
 今後、温暖化の進行により、平均気温が平年を5℃以上回る様な場合には、大幅な作期の変更(晩播)や夏ダイズ品種から秋ダイズ品種への移行、または耐性品種の育成が必要である。晩播は密播しないと減収したり、降雨等により障害粒を多発する場合があるので注意が必要である。また、秋ダイズ品種を現在の夏ダイズ品種の栽培地域で採用する場合は、播種適期と初霜時期を考慮して、充分な生育期間が確保できるか検討する必要がある。
高温による莢先熟防止対策
 近年、成熟期に莢が成熟している(莢先熟)のに対し、茎は青く水分を多く含み、いわゆる青立ち、成熟不整合個体が近年多発することが認められ、機械収穫に際して汚損粒の発生が問題となっている。
 
 この発生要因として、品種の遺伝的特性以外に環境要因として高温が指摘されているが(井上 2003)、望月ら(2005)は高温が直接的な原因ではないと指摘している。高温は土壌水分と密接に関連して、莢先熟に影響しているのかも知れない。今後、莢先熟の品種間差の要因と同一品種で環境変異(気温・水分・土壌)による莢先熟発生要因とは分けて検討する必要がある。莢先熟に対する対策としては、基本技術の励行が重要で、明暗渠排水による湿害の回避、灌漑による適切な土壌水分管理、中耕培土による除草・耐倒伏性強化することにより、花蕾分化数の増加と結莢率の向上、ひいては莢数を確保し、シンク/ソース比を高めることが重要である。
高温による病害虫多発の防除対策
 高温によるダイズの障害発生では、害虫の多発化、特にカメムシ類による吸汁やハスモンヨトウによる食害が高温で多発生することにより、結莢不良、被害粒の増加が危惧される。これらの対策としては発生予察と適期防除、耐性品種の育成がなされている。
症状と対策
・[生育不良・着莢不良]
→灌水(日中避ける)・狭畦密植栽培による花蕾数の確保と着莢率の向上により、充分な莢数を確保する
・[高温(特に夜温25度以上)による花芽分化数抑制]
→適品種の選定(早晩性、夏大豆/秋大豆)・栽植様式の選定
・[高温登熟により登熟期間が短縮して小粒となる]
→適品種の選定(早晩性、夏大豆/秋大豆)・生育量の確保・灌水
・[青立ち株の発生]
→畦間灌水・着莢数の確保
・[病害虫の発生期間の拡大]
→有効な農薬による適期防除
・[夏場の高温によるカメムシの多発による青立ち発生]
→有効な殺虫剤による適期防除
・[秋の高温・天候不良による腐敗粒等の発生による品質低下]
→登熟中期以降に台風等で傷ついた莢に病原菌が侵入して多発生する。腐敗粒発生は、害虫の食害痕や台風による莢の傷から腐敗菌が侵入し、成熟期前約5日間の降雨と高温によって激増する。腐敗粒対策としては、速やかな収穫が最も重要で、虫害回避と菌増殖抑制のため、殺虫剤と殺菌剤(イミノクタジンアルベシル酸塩剤等)の混和剤散布が有効である。
・[7-8月の高温によるハスモンヨトウの多発生]
→発生初期の有効な殺虫剤による適期防除
・[早生品種の高温登熟による斑点細菌病・紫斑病の発生]
→適品種の選定・健全種子・殺菌剤の散布
参考文献
井上健一 2003. 福井県における大豆青立ち症状(仮称)の発生要因,3. 開花期間の気温と土壌水分が生育と着莢に及ぼす影響.日作紀 72(別1),72-73.
Kitano, M. et. al. 2006. Effects of high temperature on flowering and pod set in soybean. Sci. Rep. Fac. Agric. Okayama Univ. 95, 49-55.
望月篤ら 2005. 生殖成長期間の温度条件がダイズの生殖器官の発達と莢先熟の発生に及ぼす影響.日作紀 74,339-343.
中川博視・堀江武 2001. 水稲栽培への影響. 地球温暖化の日本への影響2001(環境省地球温暖化問題検討委員会温暖化影響評価ワーキンググループ編).p.150-157.
大江和泉ら 2007. 気温上昇がダイズの開花結莢,乾物生産と子実収量に及ぼす影響. 日作紀 76,433-444.
澤田富雄・岩井正志 2008. 2007年産黒大豆「丹波黒」に発生した裂皮について.日作紀 77(別1),68-69.
内川修・福島裕助・松江勇次.2003.北部九州におけるダイズの収量と気象条件との関係.日作紀 72, 203-209.
Zheng, H.F. et. al. 2009. Response of soybean yield to daytime temperature change during seed filling: A long-term fertilization experiment in northeast China. Plant Prod. Sci. 12, 526-532.
対策情報を検索する
この分野の対策情報を検索できます
中分類で絞り込み
キーワード検索
期間で絞り込み
から
注目情報
  コラム:寒暖変動しながら暖冬(あぜみち気象散歩102)
注目情報PHOTO  秋に続き、この冬も寒暖変動が激しかった。11月頃から約2週間の周期で気温が変動した(図1)。 暖冬だが約2週間ごとに寒気入り大きく変動 図1 地域平均気温平年偏差5日移動平均時系列(2023年12月~2024年2月)(気象庁)...
もっと見る