ログイン会員登録 RSS購読
こんにちは、ゲストさん
トップ対策情報
対策情報
水稲 麦・大豆 野菜 果樹 花き 畜産 その他
一覧に戻る
初夏どりネギ栽培における抽台の抑制  2010-06-02

●鳥取県農林総合研究所園芸試験場 (現 鳥取県立農業大学校) 白岩裕隆  

 
背景と概要(要約)
 ネギは2年生の作物で冬を越して早春に抽台し、花茎が外部に現れると商品価値が失われる。根深ネギの春から初夏どり栽培では、不抽台性の‘坊主不知’やトンネル被覆を利用することで周年出荷が可能となっている(図1)
 
図1
図1 春~初夏どりネギの作型(鳥取県の例)
 
 初夏どり栽培は、晩抽性品種を冬期間にトンネル被覆することで(図2)、5月下旬から収穫されている。しかし、品種選定やトンネル被覆期間中の栽培管理を誤ると抽台が多発することがある(図3)。また、地球温暖化に伴う暖冬によってネギの生育ステージが進行し、その結果として抽台が多発する可能性が考えられる。そこで本情報では、初夏どりネギ栽培における抽台を抑制した安定生産の管理技術について述べる。
 
図2 図3
左:図2 トンネルを利用した初夏どりネギ栽培
右:図3 初夏どりネギ栽培における抽台が多発した圃場(2008) 
ネギの花芽分化と抽台
 ネギは緑植物低温感応型の作物であり、ある一定の大きさに達した株が、低温および短日条件に遭遇することで花芽分化する。ネギの成長点が花芽分化を開始する過程を図4に示した。栄養成長段階では、葉原基が成長点を覆うように存在し、成長点はややくぼんだ状態である。
 
図4
図4 ネギの花芽分化の過程
 
 一方、花芽が分化する場合は、成長点が一様に肥厚隆起してくる。この段階は、花芽分化の初期にあたり、栄養成長段階の成長点とは区別ができるので、この時点をもって花芽分化を開始したとみなしている。ひとたび花芽分化が始まると、日長に反応しにくい中庸な発育段階を経た後、小花形成初期以降からは、高温と長日条件で花芽の発育と花茎の伸長が促進され抽台に至る。
 
 ネギは、花成刺激に反応しない齢(生育ステージ)、つまり、植物体の大きさが存在し、一定の大きさに達した後は、生育ステージが進むほど花芽分化しやすくなる。花芽分化が可能な植物体の大きさとしては、一般的に葉鞘径が約5mmに達したときと考えて良いが、その大きさには品種間差があり、花芽の分化葉位は品種ごとに一定になる傾向がある。中生品種の‘吉蔵’と晩生品種の‘長悦’の例でみると(図5)、葉鞘径では‘吉蔵’で5mm~6mm、‘長悦’で7mm~8mm、分化葉位では‘吉蔵’で7、‘長悦’で8前後が花芽分化する大きさの目安である。
 
図5
図5 初夏どり栽培における2月から3月の生育量の推移と花芽分化率の関係(2002)
z 花芽分化率は図7と対応している
y 分化葉位は、調査時の生長点が何枚目にあたるかを示す

 
 ネギの花芽分化において低温は主要因であり、一定の温度条件下では、タマネギと同様9℃前後が最適温度である。ネギの花芽分化に影響する温度条件について幾つかの報告があり、低温要求量には品種間差があること、昼間の高温により脱春化が誘導されることが明らかとなり、抽台制御の方法として冬期間のトンネル被覆を利用した初夏どり栽培が実用化された(図1、図2)
原因
 抽台が多発する原因として、
①極端な早播きおよび早い定植、
②暖冬による生育ステージの進行に伴う花芽分化、
③トンネル被覆期間中の栽培管理の失敗 などが考えられる。
対策
 初夏どり栽培においては、ネギの花芽分化と抽台の生理を理解し、品種選定や栽培管理を行うことが抽台抑制のために重要である。
 
(1)播種日と定植日が抽台率に及ぼす影響
 セル成型育苗における播種日および定植日が抽台に及ぼす影響について検討を行った(図6)。抽台率は、定植日が早いほど高くなり、定植11月2日区で19.4%~39.9%、定植11月13日区で6.1%~7.4%、定植11月22日区で2.8%~6.2%であり、播種日に比べて定植日の方が抽苔発生に及ぼす影響が大きいことが示唆された。この理由として、セル成型育苗においては、花芽分化が可能な生育ステージ(齢)に達するまでの生育への影響が定植日の方が大きいためと推察される。ただし、適期定植の観点から言えば、播種日にも十分に注意を払う必要がある。
 
図6
図6 セル成型苗における播種日と定植日が抽台率に及ぼす影響(2008)
 
(2)初夏どり栽培における花芽分化時期の液肥が抽台と収量に及ぼす影響
 晩生品種の‘長悦’と中生品種の‘吉蔵’を供試し、初夏どり栽培における花芽分化の開始時期について検討した結果、両品種とも2月中旬に花芽分化が開始した(図7)
 
図7
図7 初夏どりネギ栽培における花芽分化の開始時期(2002)
(注)‘吉蔵’は中生品種、‘長悦’は晩生品種である

 
 初夏どり栽培において、2月上中旬に窒素量を変えて液肥処理を行った結果、植物体の窒素レベルは、処理濃度に伴って高くなった(図8)。植物体の窒素レベルは、抽苔率および収量に影響を及ぼした(表1)。ネギの花芽分化の誘導において低窒素は、補足的要因として働くが、脱春化に対しては、窒素の影響が大きいと考えられる。
 
図8
図8 液肥処理が植物体の窒素レベルに及ぼす影響(2002)
(注)2001年10月1日に‘長悦’を播種、11月28日に定植した
液肥処理は2002年2月6日、18日の計2回行い、10日後に測定した

 
表1
 これらのことから、初夏どり栽培における花芽分化時期の肥培管理は、抽苔抑制および多収のための鍵となり、トンネル被覆期間中に窒素レベルを下げないことが重要である。
(3)トンネル被覆による脱春化の効果およびマルチングの効果
 トンネル被覆資材について検討を行った結果、昼間の平均気温および平均地温は、ポリオレフィンフィルム(PO)で最も高く、有滴ポリエチレンフィルム(農ポリ)で低かった(表2)。保温性の高い被覆資材ほど花芽分化の抑制に有効である(図9)。一方、保温性の高い被覆資材は、土壌が乾燥する傾向があり、土壌乾燥による肥料効果の低下を招かないように注意する。
 
表2
 
図9
図9 トンネル被覆資材が抽台率に及ぼす影響(2002)
(注)2001年10月3日に‘長悦’を播種、11月28日に定植、2002年5月下旬に収穫した

 
 トンネル内のマルチングの効果について検討を行った。昼間の平均気温は、無処理区に対して、緑マルチ区および透明マルチ区で高く、シルバーマルチ区で低かった(表3)。抽台率は、無処理区に対して緑マルチ区および透明マルチ区で低い傾向であり、シルバーマルチ区では明らかに高かった(図10)
 
表3
 
図10
図10 トンネル内のマルチングが抽台に及ぼす影響(2008)
(注)2007年9月20日に‘羽緑一本太’を播種、11月15日に定植、2008年5月中旬に収穫した。被覆資材はPOを用いた

 
 ネギの花芽分化における低温感応部位は、茎頂近傍もしくは根であり、保温性の高い被覆資材やマルチングによる積極的な地温確保は抽台抑制に有効である。ただし、保温によって生育ステージが進みすぎると抽台が多発することもあるので注意する。
 
(4)極晩抽性の新品種
 晩抽性のF1品種は、採種が不安定なことから開発が遅れていたが、最近になってようやく晩抽性のF1品種が育成されてきた。特に‘龍まさり’は、高い晩抽性を有している(図11)
 
図11
図11 初夏どり栽培における抽台率の品種間差(2008)
(注)2007年9月20日に播種、11月15日に定植、2008年5月中旬に収穫した
本情報の注意点
 本情報のデータの多くは、鳥取県において試験を実施したものである。ネギの花芽分化の開始および抽台の時期は、地域によって異なるので、情報の利用にあたっては注意する。
参考資料
阿部珠代・中住晴彦. 2004. ネギの花芽分化に要する低温遭遇時間と最適温度の品種間差異. 北海道立農試集報. 86: 11-17.
安藤利夫・甲田暢男・大越一雄. 2002. 初夏どりネギ栽培における晩抽性品種の花芽分化、 抽苔特性. 千葉農総研研報. 1: 13-23.
白岩裕隆・鹿島美彦・井上 浩・板井章浩・田辺賢二. 2005. 初夏どりネギ栽培における花芽分化時期の液肥が植物体の窒素レベル、抽台および収量に及ぼす影響. 園学研. 4: 411-415.
白岩裕隆・鹿島美彦・板井章浩・田辺賢二. 2007. 初夏どりネギ栽培におけるトンネル被覆資材と施肥方法が生育、抽台および収量に及ぼす影響. 園学研. 6: 53-57.
白岩裕隆. 2008. 初夏どりネギ栽培における安定多収のための抽台制御に関する生理学的研究. 鳥取園試特別報. 11: 1-92.
田畑耕作・常法和廣・相星勝美. 1992. 暖地における根深ネギの春・夏どり栽培に関する研究. 第1報. 品種と抽台性及び脱春化処理の効果. 九州農業研究. 54: 215.
山崎 篤・田中和夫. 2002. ネギの抽台に及ぼす地温の影響. 園学研. 1: 209-212.
Yamasaki, A., K. Tanaka, M. Yoshida and H. Miura. 2000. Effect of day and night temperature on flower-bud formation and bolting of Japanese bunching onion (Allium fistulosum L.). J. Japan. Soc. Hort. Sci. 69: 40-46.
Yamasaki, A., K. Tanaka, M. Yoshida and H. Miura. 2000. Induction of devernalization in mid-season flowering cultivars of Japanese bunching onion (Allium fistulosum L.). J. Japan. Soc. Hort. Sci. 69: 611-613.

対策情報を検索する
この分野の対策情報を検索できます
中分類で絞り込み
キーワード検索
期間で絞り込み
から
注目情報
  コラム:C字虫――穴の中から飛びだして(むしたちの日曜日105)
注目情報PHOTO  ことしの二十四節気の「啓蟄」は3月5日から半月ばかり。「啓」が開く、「蟄」は虫が冬ごもりのために土の中にもぐるようなことを意味する言葉だと解説される。だから、ああ、土の中で眠っていた虫たちがごそごそと動きだすころなんだなあ、いよいよ春だな...
もっと見る