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水田からの温室効果ガス(メタン)の発生量を削減する水管理技術  2011-02-03

●新潟県農業総合研究所 基盤研究部 白鳥 豊  

 
背景と概要(要約)
 水田から発生する温室効果ガスであるメタンは、湛水土壌中において、稲わらなどの未熟な有機物が酸素のない状態で分解する際に発生することから、中干しや間断潅水によって発生量を削減することが可能とされている。
 
 そこで、中干しの期間を慣行より1週間延長して強い中干しを行ったところ、水稲の生育、収量、品質を低下させることなく、慣行に比べてメタン発生量を約60%に低減できることがわかった。逆に中干しを行わなかったり、弱い中干しにとどまると、メタン発生量は慣行の2倍以上に増加することを明らかにした。
水田からのメタン発生について
 メタンは同じ量の二酸化炭素に比較し、約21倍の赤外吸収を示すことが知られており、主要な温室効果ガスの一つである。温室効果に対するメタンの寄与率は15%にも達するとされており、このまま大気中の濃度上昇が続けば、近い将来、地球的規模での気候変動を引き起こすことが危惧されている。
 
 水田土壌では、湛水後の活発な微生物活動によって土壌中の酸化物質が徐々に還元され、酸化還元電位(Eh)が-200mV近くに低下すると、メタン生成菌と呼ばれる一群の絶対嫌気性古細菌によりメタンが生成される。土壌中で生成されたメタンのほとんどは、水稲の通気組織を通って大気中に放出される。したがって、水田からのメタン発生は、湛水期間中の土壌が還元的な状態で多くなる。逆に、落水期間中は土壌中に酸素が供給されて酸化的な状態となるためにメタン生成菌の活動が低下し、メタン発生量は少なくなる(図1)
 
水田からのメタン発生のしくみ
図1 水田からのメタン発生のしくみ (出典)つくばリサーチギャラリー
対策および具体的データ
ア.中干しによるメタン発生量の低減
 
・メタンは水稲移植後1カ月位から発生を始め、中干しを行わないと、大量のメタンが発生する。中干しを行うと、土壌に酸素が供給されるため発生量は減少し、中干し期間を延長して中干しを強くするほど、メタン発生は緩やかになる(図2)
 
中干し期間が水田からのメタン発生に及ぼす影響
図2 中干し期間が水田からのメタン発生に及ぼす影響
*,太線は各処理区の中干し実施期間を示す.(平成20年)

 
 
・新潟県における慣行の中干し期間は、平均17日間である(新潟県農林水産部)。
 中干し期間を慣行より1週間短縮して弱い中干し(10日間)にすると、メタン発生量は慣行の約2.5倍に増加してしまう。中干し期間を1週間延長して強い中干し(24日間)にすると、メタン発生量は慣行の約60%に低減する。重粘土水田(細粒質表層灰色グライ低地土、強粘質)の場合、中干し終了時の土壌水分含有率は中干しなし、弱い中干しでは60%前後であるのに対し、慣行、強い中干しでは50%以下まで低下する。また、土壌の還元状態を示す2価鉄含量は、中干し無し>弱い中干し>慣行>強い中干しの順に少なくなる(表1)
 
中干し期間がメタン発生量に及ぼす影響と中干し終了時における土壌の状態(平成20年)
(クリックすると大きく表示されます)
 
・中干しは、収量の低下を招かないように、目標茎数の80%に達したことを確認してから開始する。中干しは、踏んで足跡が付く程度まで行い、それ以上は乾かさないようにする(表1、図3)。中干し期間中に溝切りを行い、中干し終了後は間断潅水を実施する。
 
強い中干し終了時の田面の様子(平成20年)
図3 強い中干し終了時の田面の様子(平成20年)
イ.強い中干しが水稲の生育、収量、品質に及ぼす影響
 
・中干し期間を慣行より1週間延長すると茎数、穂数がやや少なくなる傾向となるが、収穫期の稈長は慣行よりも短くなり倒伏程度が低下する。中干しなし、弱い中干しでは大柄な稲姿となって倒伏が助長される(表2)
 
中干し期間が水稲生育に及ぼす影響(平成20年)
(クリックすると大きく表示されます)
 
 
・中干し期間を慣行より1週間延長しても収量、登熟歩合、精玄米千粒重、玄米タンパク質含有率、整粒歩合は慣行と同程度となる。中干しを行わなかったり、弱い中干しで済ませてしまったりすると総籾数が多くなり、精玄米千粒重が低下して玄米タンパク質含有率が増加する傾向となる(表3)
 
中干し期間が終了及び収量構成要素、品質に及ぼす影響(平成20年)
(クリックすると大きく表示されます)
 
参考資料
八木一行(1994):メタン,「土壌圏と大気圏 土壌生態系のガス代謝と地球環境」,陽 捷行編著,朝倉書店,p. 55-84
 

犬伏和之(1995):水田土壌からのメタン放出過程とその制御,「微生物の生態20 微生物のガス代謝と地球環境」,松本 聰編,学会出版センター,p. 85-100


八木一行(2009):農耕地からの温室効果ガス発生削減の可能性,「シリーズ21世紀の農学 地球温暖化問題への農学の挑戦」,日本農学会編,養賢堂,p. 127-148


Itoh M., Sudo S., Mori S., Saito H., Yoshida T., Shiratori Y., Suga S., Yoshikawa N., Suzue Y., Mizukami H., Mochida T., Yagi K. 2011. Mitigation of methane emissions from paddy fields by prolonging midseason drainage. Agric.
Ecosys. Environ., 141, 359-372.

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