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野生イネO. officinalisの早朝開花性をコシヒカリに導入して開花時の高温不稔を回避する  2012-03-09

 
背景と概要(要約)
 イネ穎花(えいか)は開花期に高温に対して感受性が高く、不稔が発生する。現在のところ、日本では実質的に大きな被害が出ていないものの、気候変動の中で、もし短期的であっても、開花期に異常な高温に遭遇した場合、不稔による減収が起こる可能性も想定される。また海外に目を向けると、すでに高温による著しい不稔の発生被害がいくつか報告されている(Matsushima et al., 1982 Osada et al., 1973 Tian et al., 2010)
 このような高温による不稔発生を軽減する育種的対策として、1)高温不稔耐性を持つ品種を開発する、2)高温条件に遭遇しない回避性を持つ品種を開発する、の2点が挙げられる。本報では2)の回避性品種開発に関して、野生イネO. officinalisの早朝開花性をコシヒカリに導入して、開花時の高温不稔を回避する方策を紹介する。
症状
 穎花は正常な受精が行われると、子房が発達し、コメとなる。その過程で、籾は黄化していくが(図1の黒矢印部分)、開花期の高温により不受精となった籾に関しては空籾であるため、登熟期のしばらくの間、黄化が進まず緑のままである(図1の赤矢印部分)。ただし、収穫時には不稔になった籾も黄化が進んでいるため、稔実籾と不稔籾の間で、見た目の明らかな違いはなくなってくる。
 
図1
図1 高温処理によって不稔になった籾(赤矢印)と稔実し黄化している籾(黒矢印).同じ日に開花した籾に青の目印を付けている.開花後20日頃に撮影.
原因
 図1は、同じ日に開花した籾でも稔実籾と不稔籾の両方が発生することを示している。それではこのような違いが、なぜ発生するのか?
 イネの開花は、通常9~13時ころに行われる。開花時、葯(やく)が籾から抽出すると同時に、葯の裂開が起こり、花粉が柱頭へ放出される。この過程が正常に行われた場合、葯は白色化する。しかしながら、高温条件下では、葯の裂開が起きにくくなるため、葯が黄色のままであり、十分な花粉が柱頭に放出されないことが、不受精の大きな要因である(Mastui et al., 2001)図2は高温条件下における開花時刻別の葯の外観を示したものであるが、1時間の開花の違いでも、葯の裂開に大きな差が生じることを示唆している。
 
図2
図2 高温条件下において開花した葯の外観の違い.赤印の籾は青印の籾に比べて、1時間早く開花した。赤印の籾では葯が白色化しているのに対し、青印の籾では葯が黄色のままであることがわかる.赤の籾は稔実し、青の籾は不稔になる可能性が高い.
対策
 これまでのポット実験の報告によると、開花時の数時間の高温処理であっても、不稔が引き起こされる一方で(Jagadish et al., 2007)、開花後1時間以降の高温処理は、不稔にほとんど影響を及ぼさない(Ishimaru et al., 2010 Satake and Yoshida 1978)。そこで、日中における高温条件下での開花を避け、気温の低い早朝に行わせる「早朝開花性」が、開花時の高温不稔回避に有効な形質ではないかと提唱されてきた(Satake and Yoshida 1978)
 イネ属には開花時刻に大きな自然変異があり、野生種の中には早朝に開花するものが多数存在する(Sheehy et al., 2005)。そこで、早朝開花性を有する野生種O. officinalisの形質をコシヒカリに導入し、開花時の高温不稔を回避する育種が(独)農研機構 作物研究所で行われている。まだポット試験の段階ではあるが、コシヒカリの早朝開花系統では、6時頃に開花が始まり、10時までに開花が終了する(図3;Ishimaru et al., 2010)
 
図3
図3.コシヒカリとO.officinalisの早朝開花性を導入した早朝開花系統の時刻別の開花率.その日の天候によって開花パターンは大きく変化するが、早朝開花系統では安定して、コシヒカリよりも数時間開花の開始および終了が早い.
 
 コシヒカリでは開花が10~13時に行われるため、O. officinalisの早朝開花性により、開花が数時間ほど早められたことになる。さらにこの早朝開花系統を用いて、ガラス温室(日の出とともに気温が毎時2~4℃上昇し、正午には40℃の高温に達するように設定)での実験を行ったところ、同じコシヒカリでも、開花時刻が気温の高い正午になるにつれて不稔率が高くなり、早朝開花系統では、コシヒカリに比べて、著しく不稔籾の発生が軽減される(表1;Ishimaru et al., 2010)。この結果は、イネの早朝開花性が、開花時の高温不稔回避に有効な形質であることを端的に示している。
 
表1 ガラス温室内における気温上昇と不稔率との関係(主な開花時間帯のみ調査)
表1
 
 今までのポット実験から判断すると、イネの早朝開花性は、開花時の高温不稔の回避に有効な形質であると考えられるが、今後は圃場レベルでの検証実験が不可欠である。また、開花期に比べて高温感受性は低いものの、開花10日ほど前の花粉形成期も高温不稔が発生しやすい時期である(Satake and Yoshida 1978)。回避性の機作(メカニズム)から考えて、早朝開花性は開花期の高温に対してのみ有効であり、花粉形成期の高温に対しては有効でないと考えられるため、実際の圃場で、花粉形成期と開花期のどちらの高温が不稔発生に大きな影響を及ぼしているのかを見極めながら、今後、高温不稔を軽減できるイネの育種を進める必要がある。
参考資料
Ishimaru, T. et al. 2010. Ann. Bot. 106: 515-520.
Jagadish, SVK. et al. 2007. J. Exp. Bot. 58: 1627-1635.
Matsui, T. et al. 2001. Plant Prod. Sci. 4: 90-93.
Matsushima, S. et al. 1982. Jpn. J. Trop. Agri. 26: 19-25.
Osada, A. et al. 1973. Proc. Crop Sci. Soc. Jpn. 42: 103-109.
Satake, T. and Yoshida, S. 1978. Jpn. J. Crop Sci.47: 6-17.
Sheehy, J. et al. 2005. J. Agri. Meteorol. 60: 463-468.
Tian, X. et al. 2010. Plant Prod. Sci. 13: 243-251.
作成者
(独)国際農林水産業研究センター(前所属 農研機構 作物研究所)石丸努
(独)農研機構 作物研究所 平林秀介
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