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乾燥風による乳白粒の発生メカニズム  2012-04-03

●農研機構 九州沖縄農業研究センター 水田作・園芸研究領域 和田博史

 
背景と概要
 平成19年産の南九州の早期コシヒカリは、登熟前半の日照不足に続いて、台風襲来に伴って発生した一日のフェーン(高温乾燥風)により、乳白粒の発生率が45%に達する記録的な品質低下被害に見舞われた(図1)。このような、登熟期のフェーンが関与する品質低下被害が全国的に散見されていることから、その発生メカニズムと対策技術の構築が急がれる。
 
 乳白粒(図1)は、登熟期に低日照や乾燥風などの不良環境条件が起因して発生する白未熟粒である。低日照条件下での乳白粒の発生要因については、穂への同化産物供給が不足するためと考えられているが、フェーンにより、なぜ乳白粒多発に至ったのかについては明らかになっていなかった。ここでは、低日照後の乾燥風が玄米外観品質に与える影響について解説するとともに、細胞レベルの生理解析により明らかになった、水ストレスを介する乳白粒の発生メカニズムについて紹介する。
 
 
被害にあった平成19年宮崎県産米の精米写真 乳白粒の横断面写真
図1 左は被害にあった平成19年宮崎県産米の精米写真、右は乳白粒の横断面写真。玄米中央部を切除すると横断面の胚乳組織上にリング状の白濁が観察される
乾燥風による玄米外観品質への影響
 圃場で生育した稲に、出穂後5日目から16日間に渡って遮光処理した後、24時間に渡って乾燥風処理を行った(図2参照)
 
 
宮崎県総合農業試験場(宮崎県佐土原市)で行った乾燥風処理 九州沖縄農業研究センター(福岡県筑後市)の閉鎖型人工気象室にて行った乾燥風処理の様子
図2 宮崎県総合農業試験場(宮崎県佐土原市)で行った乾燥風処理(左)、九州沖縄農業研究センター(福岡県筑後市)の閉鎖型人工気象室にて行った乾燥風処理(右)の様子
 
 遮光処理のみの区では、乳白粒(リング状を通り越して全体が白く濁った白死米を含む)の品質別粒数歩合は28%であった(図3)。遮光処理の後に、比較のために設けた風処理(高湿度の風処理)を24時間行うと、乳白粒発生率は32%に増大したが、遮光処理後に乾燥風を処理すると、さらに増えて46%に達した(図3)ことから、平成19年の被害年に認めた乳白粒発生率(45%)を再現できた(図1)
 以上の試験結果から、日照不足により乳白粒は発生するものの、日照不足の後、フェーンに遭遇すると乳白粒の発生が助長されることが確認できた。人工気象室実験において行ったポット稲による再現実験からも、乾燥風による乳白粒発生率の増加が確認されたが、玄米一粒重は低下していなかった。
 


図3 遮光後の風および乾燥風処理が玄米の外観品質、特に乳白粒に与える影響。平成19年(被害年)との比較
乾燥風による乳白粒発生メカニズム
 人工気象室における再現実験では、セルプレッシャープローブ法(※)による細胞レベルの水分状態計測など詳細な生理解析を行い、そのメカニズム解明を行った(Wada et al., 2011)
 稲体が乾燥風にさらされると(図2)、湛水条件にあっても稲体は一時的な水ストレスを引き起こし、そのとき玄米の胚乳では「浸透調節(浸透圧調節機能)」と呼ばれる代謝変化が起きていることが分かった(図4)。一般に、植物が水ストレス状態となり、細胞内で浸透調節が働くと、糖やアミノ酸などの低分子が特異的に蓄積する。この浸透調節の発現によって、細胞の浸透圧が高まり、細胞の膨圧が維持されることで、水ストレス下にあっても細胞拡大・成長が促され(図4)、脱水・萎凋いちょうを回避することができる。浸透調節は水ストレスに対する植物細胞の順化現象であり、水切り栽培による高糖度トマト生産、露地では高品質みかん生産のためのマルチ栽培技術などに広く応用されている(野並、2001)
 
 
乾燥風による乳白粒の発生プロセス
図4 乾燥風による乳白粒の発生プロセス
 
 浸透調節が働いた胚乳細胞では糖が集積し、浸透圧が上昇し膨圧が維持されたことで胚乳の成長が維持されたと考えられる。胚乳組織におけるデンプンの集積は胚乳の中心から始まり、外側に向かって進んでいくと考えられている(Juliano, 1985;星川, 1975)。この知見を踏まえると、浸透調節によって玄米発達は正常に進んだものの、一時的に胚乳のデンプン集積が阻害され、そこでデンプンの詰まりが悪くなった結果、一部分だけ白濁が残り、リング状の乳白粒(図1参照)が形成されたと考えられた(図4)
 登熟中期の気象条件の類似性、品質低下被害程度から、平成19年当時の乾燥風発生時にも、水ストレスを介した乳白粒発生メカニズムが働いていたと考えられた。
 
セルプレッシャープローブ法:
細胞の膨圧を圧力センサにより直接計測する手法。方法としては細いガラス管内にシリコンオイルを充填し、このガラス管を標的細胞に刺す。その直後にガラス管内に細胞溶液とシリコンオイルの境界(メニスカス)が形成されるが、メニスカスの位置を顕微鏡下で操作することで、シリコンオイルを通して細胞膨圧を測定する。
対策
 今回紹介した乳白粒発生メカニズムを考慮すると、籾数制御のための適切な施肥管理を行ったうえで、深耕や湛水管理を行って、フェーン発生時の水ストレスの影響を軽減させる必要がある。
 また、2007年の品質被害は、収穫前に予測できなかったために農業共済制度の被害申請が行われず、多くの農家が共済金を受け取ることができなかったという問題も発生した。本成果を反映させた乳白粒発生予測モデルや、収穫前玄米の断面解析による白未熟発生予測装置を用いて、適確な被害申請や被害米の共乾施設への仕分け入荷などへの活用も期待される。
参考資料
Juliano B.O.(1985)Rice: Chemistry and technology. American, Association of Cereal Chemists, Inc., St. Paul, MN.
野並浩(2001)植物水分生理学 養賢堂 p263.
星川清親(1975)イネの生長 農山漁村文化協会(農文協)p317.
森田敏 (2011)イネの高温障害と対策:登熟不良の仕組みと防ぎ方. 農文協 p143.
Wada H., Nonami H., Yabuoshi Y., Maruyama A., Tanaka A., Wakamatsu K., Sumi T., Wakiyama Y., Ohuchida M., and Morita S. (2011) Increased ring-shaped chalkiness and osmotic adjustment when growing rice grains under foehn-induced dry wind condition. Crop Science 51, 1703-1715.
和田博史,野並浩,薮押睦幸,田中福代,丸山篤志,田中明男,若松謙一,角朋彦,渡辺一男,脇山恭行,森田敏(2012)台風・高温乾燥風による乳白粒発生の機構解明とその対策技術の考察. 日本作物学会記事. 81巻(別1)p190-191.

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